小説
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「みかづきさま、なにしてるの?」
「!!」

 幼い声。幼い姿。毬を両手で持った赤い着物を着た少女――水無さんが呆然としたように私たちを部屋の奥から見ていた。

「来てはならん!!」
「主!!」

 三日月の声と山姥切の声が被る。だけど小さな水無さんには山姥切が“誰か分からない”らしい。戸惑ったようにも、怖がっているようにも見える顔で肩を揺らし、おろおろと視線を彷徨わせている。
 でも彼女は“本当の水無さん”じゃない。本人もそう言っていた。そして私自身の能力ではっきりと断言出来る。あの少女は三日月が作り出した幻だ。幻影だ。単なる影だ。顔があり、声が付き、肉体をもっただけの紛い物だ。だから、私がすることは一つだけだ。

「山姥切さん! 行こう! 水無さんはまだここにいる!」
「!!」
「チッ!」

 驚く山姥切の片手を取り、舌を打つ三日月が振るう刃を私の三日月が押し留める。

「自分のそっくりさんと戦うのは演練で慣れたつもりではいたが、いやはや。悪堕ちした俺と戦うのはいつぶりか」
「な、にをブツブツと……!」

 キィン、と甲高い音と共に刃が弾け合い、それぞれが距離を取る。三日月が再度足元を叩くと、今度は穢れた血ではなく虚ろな姿をした刀剣男士もどきが地面から湧いて出てきた。

「紛い物であろうと多少は足止めになろう」
「あなや。姑息な」
「勝負など勝てばそれでよし。誇りや矜持が欲しいのなら他所に行け」
「まぁそれも一興か。ならばよし。我が主の道は我らが開く。貴様はここで終いよ」

 改めて刀を構える三日月たちの背後でそれぞれ合戦が始まる。だから私が言うことはこれだけだ。

「皆! 何があっても絶対に“負けるな”!」

 そして、信じて走り抜けることのみ、だ。
 私の言葉に皆の顔に笑みが浮かぶ。好戦的な刀ばかりではないが、戦場となれば刀としての本分が疼くのだろう。「応!」と答える声が返ってくる。

「水野殿!」
「うん! こっち!」

 走り出す私たちの後ろ。ようやく愛する主と刀と出会えた二人も、それぞれが向き合っていた。

「今剣くん。行って。お姉さんを助けてあげて」
「ですが、」
「今更渋ってんじゃないよ。主は俺たちが守るから、お前は責任もって最後まであの人の役に立つこと! いい?」

 今剣は驚いたように加州を見上げるが、すぐに意を決したように頷き、百花さんと向き合う。

「あるじさま。どうか、おげんきで」
「うん……。また会えてうれしかったよ。ばいばい。今剣くん」

 別れの言葉を合図に、今剣は走り出す。きっと沢山、もっと時間をかけて話をしたかっただろうに。彼は私たちに並ぶと、一振りの“刀”として最後の仕事を全うしようと見上げてくる。

「さいごまでともにまいります。それが、ぼくたちの“せきにん”ですから」
「ああ。そうだな。水野殿を巻き込んだ、俺たちの責任だ」
「今更水臭いですねぇ。水野だけにてか?」
「……いや、そういうわけではないが」

 どこかあっけにとられたような顔をする山姥切だけど、今剣だけはくすくすと笑ってくれる。

「みずのさま」
「うん?」
「いつか、ぼくが――“今剣”がけんげんしたときは、おそばにおいてくださいね」
「うん。“今剣”が会いに来てくれたらね」

 私の霊力と三条の刀たちは相性が悪いと聞いている。三日月は、まぁ、ちょっと特殊だから外すけど。だから“君の方から会いに来てくれ”と暗に滲ませれば今剣は困ったように笑うだけだった。


***


 三日月様が作り上げた“理想郷”を、屋根から座って見下ろす。表では本来なら起こるべきではない合戦が起きている。分かり切っていたことだろう。こうなることは。
 ……ああ。だから嫌だったのだ。邪魔されたくなかった。ああいう奴がいるから、あんな奴に見つかったから、私の計画はダメになった。

「……水無さん」

 私とは正反対の女。何もかも、神に対する考え方も生き方も、何もかもが違う女。それでも――どこかしら、似たものを感じたのも、嘘ではない。

「主……」

 彼が彼女の手引きをしていたことは、実のところうっすらとだが認知していた。きっと彼ならそうするだろうと……過去の私が訴えていたから。

「今更何しに来た。私はもう何もできないし、するつもりもない。この世界がどうなろうと知ったことではない。こんな紛い物の“理想郷”、むしろ壊れるべきだとすら思っている」

 この“理想郷”は私が目指した“理想郷”じゃない。私が目指したものは、本当に欲しかったものは――。

「分かっています。水無さんが本当に望んでいたのは、刀たちが自身の尊厳を踏みにじられることのない、そんな世界だったんですよね?」

 私が政府の役員となり、初めて本丸に足を踏み入れた時。その本丸は酷く損傷し、腐敗していた。当時“ブラック本丸”と呼ばれた、現代に蘇った本物の“地獄絵図”だった。

「……主」

 山姥切様。私の初期刀であった一振りの神様。私が一体どれほどあなた様の幸せを願ったことか。きっとあなたは、知る由もない。

「私はもう死んでいる。お前が望むような“救い”も求めていない。即刻立ち去れ。私はこのふざけた“理想郷”と共に滅びる」

 この世界が崩壊すれば、きっと“母”の“実子”とみなされている私も同様に死ぬだろう。それでいい。むしろ多くの神を苦しめた代償としては安すぎるぐらいだ。

「一つ、聞かせてください。百花さんの本丸をあんな風にしたのは、水無さん、ですよね?」
「……そうだ」
「詳しく話を聞かせてくださいませんか。どうしてそんなことをしたのかを」

 水野と名乗る女はこちらをまっすぐ見ているのだろう。そういう強い視線を感じる。御簾で顔を隠していようとも、そういう輩の目というのは嫌でもわかるというものだ。

「俺からも頼む。主。俺は、あなたの“心”が知りたい。あれ程までに俺たち付喪神を崇め、心を傾けてきたあなたが、何故――」

 ……ああ、山姥切様。どうか罪深き私をお許しくださいますな。その慈悲深き心を私なんかのために傾けてはなりません。私は、あなた様に顔向けできるような、そんな人間ではないのです。

「水無さん。本当に、ただ“理想郷”を作り上げるためだけに他の審神者の力が必要だったなら、あれ程まで刀を痛めつける必要はなかったはずです。ですが、あなたは敢えて刀たちを酷使した。それは、何故です?」

 百花さんの本丸の刀だけではない。私は、他の四人の審神者の刀たちも同様に戦へと送り出し、手当てすることなく放置した。本当は、私だってそんなことはしたくなかった。けれど――。

「……リセットすべきだと思ったんだ」
「リセット、ですか?」
「人を愛した神など、いざ“理想郷”に招いたところで人の元に戻りたくなるだけだ。ならばいっそ人など怨んでしまえばいい。醜い生き物だと。自分たちが目をかけてやる必要もないほどに矮小で醜い、蛆虫のような生き物だと……。そう思えば、人の世界に戻りたいとは思うまい?」

 神を支援するために神を傷つける。まったくもって矛盾した話だ。私自身反吐が出る。だけど幾ら説得してもダメだった。彼らは――どれほど人の醜さを言い募っても、それらすべてを許容したうえで人を愛していた。

「主……俺は以前、あなたに言ったつもりだ。あなたが醜いと言う過去も全て今に繋がっている大事な要素の一つなのだと。そして、俺達はそれを“守りたい”のだと……。どうして聡明なあなたがそれを理解出来ても許容出来なかったのか。俺には、未だに理解できない」

 優しい山姥切様。こんな私なんかのためにお心割いてくださっている。慈悲を、情けを、掛けてくださっている。でも、それではダメなのです。私は、そんな慈悲など与えられるべき存在ではない。

「山姥切様。私は、そこの女とは違います。何もかもを気楽に考えることが出来ない」
「突然のdiss」
「過去の過ちを、人の醜さを、そして自分自身の罪深さを、決して許すことが出来ないのです」

 家宝を盗まれ笑っていられる人間がどこにいる。多額の借金を背負った人間がどうして笑っていられる。人を殺め、罪を犯し、それでも『時代のためだ』と大義名分を翳せば許される。そう、傲慢にも勘違いしている人間をどうして誇りに思うことが出来る。私は、そんな人間たちが連綿と繋いできた遺伝子を持った醜く汚い生き物なのだ。この心を、体を、浄化するためには一度地獄に落ちねばならない。

「私は神を、本当の“理想郷”に連れていくために穢れを一身に背負い、地獄に落ちる。それこそが――それこそが、本来人が神に対してやらねばならぬ行いなのです」

 美しい神様。私の神様。穢れを知らない無垢な心のままでいて欲しかった。けれど、あの女共は……!!

「だがあの女共は、自らの欲望のはけ口にあなた方を選ばれたのです! 許しがたい、許しがたい許しがたい許しがたい!! どうしてあいつらはあなた方の美しさを穢すことが出来るのか!! 崇高なる御身に触れるばかりか、恋慕の情だけでなく肉欲の対象としても選ぶなど……! 万死をもって償うべきではありませんか!!」

 いつから神はそんな欲望のはけ口にされるようになったのだろう。釈迦如来に精液をかける僧侶がどこにいる。弥勒菩薩の前で裸になる尼がどこにいる。考えればわかることではないか。なのに、どうしてあいつらはそれが分からない?

「山姥切様、私の考えが間違いだとおっしゃるのならば、それはそれで構いません。ならば私は地獄へと堕ちるだけ。神の心を、存在を貶めた罰として地獄の業火で焼かれるだけです」

 私の神様。私だけの神様であったら、どれほどよかっただろう。あなた方を穢すことも、恋慕の対象に選ぶこともなく、あなた方が望むままにお過ごし頂いたのに。我々人間は時折気まぐれに下さる慈悲を賜るだけでも幸せだったのに。いつから『それ以上』を強請れるほど偉くなったのか。

「“お許しください”とは言いません。我々人間の罪深さは己が一番、よく知っております。ですからどうか人を愛してくださいますな。人は単なる道具の一つでしかないと、愛でるものではないと、」

 そう、思っていただかないと、私は――。

「……すまない。主」
「……山姥切様……」
「あなたの願いを聞き入れることが出来ればどれほどよかっただろう。あなたを苦しめるこの身がいっそ怨めしい」
「いいえ、いいえ! そのような、山姥切様は決して――」
「違う。違うんだ。主。俺たちは所詮『刀』。人の手がなければ朽ちるだけの、単なる鉄の塊だ」
「いいえ、いいえ、そのようなことは決して……!」
「聞いてくれ、主。俺は――」

 いつの間にか立ち上がっていた私に山姥切様が近づいてくる。ああ、いけない。これ以上近づかれては――!

「動くな!」
「ッ!」

 後ずさろうとした私を山姥切様が鋭い瞳で射貫く。かつて、私の傍にいた時には決して向けることのなかった目だ。身が竦む。石のように固まった私に山姥切様はゆっくり近づくと、胸の前で組んでいた手にそっと触れてくる。

「主、俺は、彼女たちのように誰かを“愛する”というものがどういうものなのか、実際のところよく分からない」
「…………」
「主を大事にしたい。そう思う心はあっても、それが恋慕なのか何なのか、見当がつかないんだ」

 山姥切様は一度目を伏せると、戸惑うようにして視線を左右に走らせてから再度顔を上げる。

「だが、一つだけ、言えることがある」
「…………」
「それはあなたにとっては酷く心を痛める言葉なのだと、理解もしている」
「山姥切様……」
「だがそれでも、あえて俺は口にしよう。主。俺は人が好きだ。醜く、際限のない欲望を生み出す生物であろうと、時に浅ましさや恥ずべき行為に走る者がいようとも、きっと、俺は心の底から人を嫌いになることは出来ない」
「……もう、おやめください……どうか……どうか……――」

 本当なら、聞きたくないのに。それでも山姥切様が私の手を握っていらっしゃるから、耳をふさぐことも出来やしない。

「すまない。主。君を理解してやることも、救ってやることも出来ない、こんな愚かな男が君の傍にいたことを、今心の底から悔やんでいる」
「いいえ! いいえ、いいえ! いいえ!! 山姥切様は何も悪くありません! 悪いのは、悪いのは全て――」
「“人間”ですか?」

 山姥切様の背後から、忘れていた存在が口を挟む。ハッとして顔をあげれば、水野が両腕を組み、こちらを見ていた。

「水無さん。私、今からあなたのこと、盛大に傷つけます」
「な、に……?」
「いいですか? 傷つけますよ? ショック受けて逆切れしてきても全然いいですけど! そこから飛び降りるとか、山姥切さんが失望するようなことはしないでくださいよ!」

 水野はそう釘をさしてくると、私に向かって思い切り、一寸の迷いも躊躇すらなく、私の心を真っ二つに切り裂いてきた。

「正直に言います! 水無さん、あなたのそれも完全に“エゴ”だから!! やってること、あなたが嫌ってきた過去の人間と全ッ然、ひとっつも! 変わってないから!!」
「ッ! なに、を、」
「私もね、神様を大事にする気持ちは持ってますよ。大事だな、って思いますよ。だって神様ですよ? 私たち人間と同列に語っていいわけないじゃないですか」

 水野は山姥切様とは違い、躊躇なく私の心を傷つけてきた時と変わらぬ力強さでまっすぐ歩いてくる。淀みない、確かな足取りで。破滅の音を鳴らしながら、近づいてくる。

「でも神様だって“心”はある。誰かを大切にしたい、守りたい、慈しみたい。そんな気持ちを持っています。時には誰かを憎く思ったり、怨んだりすることもあるかもしれない。嫌いな食べ物とかやりたくないこととかあるかもしれない。いや、実際あるんだけども。馬小屋の掃除とか、畑当番とか。ピーマンとかセロリとか嫌いな神様めっちゃくちゃ多いんだけどさ、それは一旦置いといて」

 水野は山姥切様の傍まで来ると、呆然とする私の前で御簾を取り、そのまっすぐとした黒い瞳を向けてきた。

「神様の心を人間が否定するのは間違ってる。そうは思いませんか」
「――――」

 神にお考えがあるように、いや。お考えがあるということは、すなわち“そういうこと”なのだ。東洋であっても西洋であっても変わらない。神にも、人とは違う、けれど人のように何かを愛する心はある。
 水野は堂々たる姿でそう告げると、改めて腕を組む。

「私もね、今まで逃げてきました。逃げ続けてきました。陸奥守に告白されて、“どうしよう”“どうしたらいいんだろう”って。でも、私は陸奥守が神様だからとか、人の器を持っているからだとか、そんな理由で好きになったわけじゃない。私は“陸奥守吉行”という刀そのものを大事に思っています。あの血が流れる体じゃない。私たちに触れることが出来る体を通してじゃなくて、あの鋼の体そのものを、私は大事に思っています」

 例え分霊なのだとしても。例え、世界にたった一振りしか存在しない本科から枝分かれしたものなのだとしても。審神者にとって“陸奥守吉行”という刀はたった一振りしかいない。

「誰かを大切だと思う心に上も下もありませんよ。そして推し量ることも本来なら出来ない。だって、相手の心なんて目には見えないんですから」

 そんなこと、そんなこと言われなくても分かっている。わかって、いるのに……。

「水無さん。あなたの苦悩はあなたのものだ。だけど、過去の人間の罪まであなたが背負う必要なんてどこにもない。過去は過去だし、今は今で、未来はこれから作るものです。幸せなことだけじゃない。辛いことも苦しいことも、誰かに八つ当たりしたくなる時もあると思います。意見がぶつかって喧嘩したり、そのまま疎遠になることもあるかもしれない。でも、人との“縁”ってそんなものじゃないですか? 切れたり新しく繋がったり、そうして未来に繋がっていくんじゃないですか? その繋がった未来を、過去生きた人が繋げてきた今を、あなたが大切にする神様――刀剣男士たちが守っているんじゃないですか。それを、あなたが自分の手で切ってどうするんですか」

 ――腹立たしい。正論ばかり振りかざした偽善者が。そう、言えたらよかったのに。言葉がのどに詰まって、音になって出て行かない。

「死ぬことはね、生きることよりもある意味では簡単ですよ。でも、もうあなたの心臓は三日月宗近によって貫かれてしまった。あなたは戻って来られない。生きて罪を償うことも、これからの時間を楽しむことも出来ない。地獄に落ちずともあなたは既に罰を受けている。そうは思いませんか? だって、あなた以外の四人はまだ生きているんですから」

 地表では合戦が終わりに近づいている。数多の刀剣男士たちが血を流しながらも、それでも戦い、勝利を掴み取っている。死者にはない、力強い輝きをもって。

「…………わたし、は……」
「この“理想郷”は壊します。“母”も一緒に。……本当は、出来ることなら、あなたも助けたかった」

 水野はそう話すとどこか寂しそうな顔で笑い、外した御簾を改めて取り付ける。

「私は行きます。他の四人を助けに。あなたも、最期はどうか、本当に自分の心が望むままに過ごしてください。神様がどうとか、人がどうとかじゃなく。だってどうせ死ぬだけなんですから、最期に一発ド派手に好きなことやっちゃいましょうよ! そのくらいしたって閻魔様は気にしませんって」
「……無責任なことを……」
「はい。だって私、無責任が売りみたいなものなんで。じゃ! そういうことで!」

 言いたいことだけ言って、こちらの話を聞くこともなく待っていた今剣と共に屋根を降りていく。この場に取り残されたのは結局のところ、喪ったはずの山姥切様だけだった。

「……主。もうここには俺とあなたの二人だけしかいない。だから、教えてほしい」
「……はい。何でしょうか」

 どんなお叱りでも何でも受け入れよう。そんな気持ちで山姥切様のお言葉を待っていると、彼は青白い頬をほんの少しだけ染めたかのようにして俯き、小さな声で呟いた。

「……あなたの一番大切な刀は、“燭台切光忠”なのだろうか……」

 燭台切光忠様。私のためにその身を、魂を堕としてしまった尊き神様。あらゆることを手助けしてくれた。壊れる私を最後まで支え、傍にいてくれた。忘れがたい、幾ら礼を尽くしても尽くし足りないほど立派な神様だ。けれど、あのふざけた女の言葉を借りるなら。神様も、人も、関係なく――私だけ、本当の“私の心”が叫ぶ言葉を告げるとすれば――。

「……いいえ。私にとって、一番大切な刀は――……」

 答えるには、あまりにも遅すぎたけれど。どうせ地獄に落ちるなら、せめて最期に悪足掻きをしても悪くはないのではないかと。あのバカ女に毒されてしまった私は、ずっと秘めていた思いを初めて唇に乗せた。彼へと届けてしまった。

 結局のところ、あの審神者たちと自分は同じ穴の狢だったのだと、単なる同族嫌悪だったのだと、彼に嗤われる覚悟をしながら。

 それでも彼は私の言葉を聞くとどこか満足そうに、嬉しそうに微笑んでくれた。それは、春の日差しのように優しい笑みだった。





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