小説
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キスの日だってよ


キスの日にちなんで恋人の二人がいちゃくらする話。
恰好いい我愛羅くんはログアウトしたかわりにセクハラしてる我愛羅くんがいます







「我愛羅、今日ってキスの日らしいじゃん」

朝、いつもの如く三人で食卓を囲み、兄と二人並んで歯を磨いていると何の脈絡もなくそんなことを言われた。
思わずだから何だ。と答えれば、何ってお前彼女いるんだからなんかねえの?と言われ、現在砂隠れに医療忍術を教えに来ているサクラのことを思い浮かべる。

「…余計な詮索はするな」

思わず強い口調で言い返せば、はいはい。我愛羅は照れ屋だもんな。と鼻で笑うように返され思わず反射的にカンクロウの足を踏んづける。
痛ぇ!と喚くカンクロウに自業自得だ。と言い捨て洗面所を出るが『キスの日』という物珍しい単語に思わず足が止まる。

…キスの日か。
ぼうっと廊下に立ち尽くす俺に気づいたテマリが、何してんだ?我愛羅。と居間から顔を出す。
すぐさまテマリには何でもない。と返答し、着替えを済ませ風影邸に足を運んで職務をこなす。
今日も随分と書類が運ばれてくる。
少し休憩するかと、区切りがついた書類を脇にやり瞼を閉じれば、じんとした痺れが体に走る。
こう体を動かさずずっと椅子に座り書類を捌いていると目が疲れてくるな。久々に演習場に顔を出してみるのもいいかもしれない。
とそんなことを考えていると

「へー、今日ってキスの日なんだ」

廊下から聞こえてきた会話に思わずぎくりと体が硬直する。
それもそのはずだ。何故なら聞こえてきた声がサクラのものだったからだ。

「そうなんです。聞くところによるとキスをする箇所によって意味が違うとかなんとか…」
「へぇー。でも一体誰が考えたのかしらね、そんなこと」

くすくすと笑うように聞こえてくる会話の相手はどうやらマツリのようだ。
女はこの手の話が好きじゃん。と言っていたカンクロウの言葉を思わず思い出す。

「風影様、サクラです」

扉をノックされ聞こえた声に、入れ。と反射的に返す。
失礼します、と入室してきた二人はどうやら報告書を持ってきたらしい。

「あ、もしかして休憩中だった?」

背もたれに背を預けている俺を見て少しばかり顔を曇らせるサクラに気にするな。と答えれば
我愛羅くんは働き者だから心配するわよ。と苦笑いされる。
その言葉そっくりそのまま返す。と言えば彼女はあなたほどじゃないわよ。とからりと笑い飛ばしてきた。
まったく豪快な女だ。
と存外心地のいい彼女の声と言葉に俺も笑みを返せば、マツリは風影様のほほえみ…!!などと呟き目を輝かせている。
…俺とて笑う時は笑う。
失礼な。と思っていればサクラははいはい。とマツリの頭をなでるとすぐさまキリリとした仕事用の顔になり

「報告します」

と凛とした瞳を向けてくる。
それに応えるよう俺も頷き彼女の言葉に耳を傾ける。
この薬草を育てるにはこの土地は適していないだとか、新しく作ったこの薬はどういう効能、副作用があるだとか、この毒草は温室で育てた方がいいとか、そういう類のことを話し合う。
時にはマツリも意見を俺に告げながら話に補足を入れていく。

「…なるほど、検討しよう」

そうして暫く話し合ったのち俺が報告書を手に取り頷けば、二人はお願いします。と表情を和らげる。
彼女のおかげで砂隠れの医療忍者の技術は随分と向上した。
一体どこに収納されているのかと思わず聞きたくなるほどの膨大な知識量と、それに伴った数々の経験はこの里にはありがたいもので、本当に重宝されるものばかりだ。

心からありがたい。と彼女を見つめていれば、マツリは居心地悪そうにじゃあ私は先に戻ってますね。と俺とサクラに頭を下げると足早に執務室を出ていく。

…そんなに俺の無表情は恐ろしいのだろうか。
と少し傷ついていると、俺の考えが分かったのか彼女はくすりと笑う。

「マツリちゃん、気を利かせてくれただけよ」

だから大丈夫。
と俺の髪に触れ、頬を撫でてくる彼女の白く柔らかい手が心地い。
そうか。ならいい。
そう返して彼女の手を引けば、彼女はちょっとと笑う。

「仕事中でしょ?」
「今は休憩中だ」

立ったままの彼女の腹に額を押し付け目を閉じれば、今日のあなたは甘えん坊ね。と彼女は小さく笑う。
彼女が笑うことで俺の体に振動が伝わり、それがひどく心地いい。
ああ、そういえば今日はキスの日だったか。
そんなことをふと思い出し、俺はサクラの名を呼び彼女を見上げる。

「今日はキスの日らしいな」
「あら、我愛羅くん知ってたの?」

朝カンクロウに言われた。と答えれば彼はミーハーね。と彼女は笑う。
だが致す場所によってキスの意味合いが違うとは聞かなかったうえ、どこにすればどういう意味があるというのも知らない。
まぁやりたいところにやってなんぼだろう。
と自己解決し、俺は立ち上がると俺が今しがた座っていた椅子にサクラを座らせる。

何?
と少し楽しげに聞いてくる彼女の頬に手をやり、少し撫でれば彼女はくすぐったそうに目を細め笑う。
その愛らしい顔を固定し、俺は額に触れるようにまず一度唇を落とし、次に頬、首筋、喉の順番に口づける。

くすぐったい。
と笑う彼女に俺はそうか。と返しながらもその可憐な唇を己のそれで塞ぐ。

「ダメよ、ここじゃ」

苦笑いする彼女の足元に跪き、彼女の靴に隠れていない膝頭から太ももにかけてゆっくり口づけながら唇をすべらせる。
すると彼女の口から僅かに切なく甘い吐息が零され、高揚する。

「我愛羅くんの助平」

照れたように紡がれる悪態にだろうな。と返答し、彼女のスパッツに指を通し一気に捲し上げる。

「あ、コラ!」

慌てる彼女の声は聞き流し、柔らかな皮膚に噛みつけば彼女の体がびくりと震える。
ちゅぅ、と音を立てて唇を離せば、そこには白い肌を飾る赤い花弁。
うん。うまくついた。
と思っていれば頭に軽い衝撃。どうやら彼女が小突いてきたらしい。


「もう!誰か来たらどうするのよ!」

怒る彼女の頬は僅かに上気しており、彼女の股の間から見上げるその景色はなかなかに絶景だと思いながら
居留守を使う。と告げればおバカと返される。
なんか段々ナルトに似てきたわね。と呆れる彼女に、友だからな。と返せば友達の定義が間違ってる。と頭を抱える。

「もう本当…しょうがない人ね」

溜息と共にこぼされた言葉に視線をそらし、けれどそんな俺を見捨てないでくれているあたりサクラはいい女だな。と彼女の太ももに頬を乗せてそう思う。

「惚れた女がお前でよかった」

気づけば俺の口から漏れ出た本音に、彼女はしばし硬直した後
その言葉そっくりそのままお返しするわ。
とどこかふんぞり返るような体で言い返されるが、彼女の嬉しそうに緩んでいる顔を見ればみかけだけだとよく分かる。
可愛い女だ。
そう思いつつ目を閉じれば、彼女が我愛羅くん。と俺を呼ぶ。何だ。と顔を上げれば、彼女の手が俺の手を取りそっと指先に口づけてくる。
そしてそのまま唇は手の甲にうつり、手首、腕、それから顔を上げた俺の首に手を回し鎖骨、首筋、喉を通り頬へと口づけられる。
なるほど、確かにこれはくすぐったい。思わず緩む頬に彼女も笑い、どちらともなく額をくっつける。

「好きよ、我愛羅くん」
「ああ…」

俺もだ。
という言葉は彼女の唇の中に押し込めて、何度も角度を変えては彼女の唇を堪能する。
己の乾いたものとは違いしっとり重なる感触が気持ちいい。
口づけとはこんなに心地いものだと、彼女と触れあうまで知らなかった。
もしくは彼女とするからいいのかもしれない。
そんなことを考えながら唇を離せば彼女は照れたように視線を逸らし、続きは夜にね。と頬を染めるのだからもうたまらない。

果たして俺はこれからの時間仕事に打ち込めるのだろうか。
とにわかに不安に思いながらもすでに夜のことが楽しみで仕方がない。
ああ、確かに俺は助平かもしれないな。サクラの前では。

「楽しみにしておこう」

笑う俺に彼女も覚悟してなさい。と笑い抱き合っていた体を離す。

「それでは風影様。失礼します」

きっちり仕事モードに切り替えた彼女に俺も頷き、ご苦労。と言葉を返せば彼女は踵を返し執務室を出ていく。
その凛とした後姿を眺めた後、閉じた扉に視線を外す。

ああ…

「早く帰りたい」

思わず口から出た言葉に自分で驚き、すっかり彼女の虜になっている自分に思わず笑った。
まったく俺は本当にどうしようもないくらい彼女が好きらしい。
まぁなんにせよ、彼女と触れ合う口実ができるのはいいものだとキスの日を作った誰かに感謝した。


end


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