小説
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 主の考えを初めて聞いたとき、正直――ゾッとした。

 水野殿の肩を掴み、時折激しく揺さぶりながら主は自身のお考えを口にする。今まで我慢していた何かが堰を切ったように溢れ出す。その言葉たちは呪詛と同じだった。
 憎しみ、嘆き、苦しみ、怒り。様々な『負』の感情が主の心を蝕み、犯していた。

 主は狂っていた。あの日から更に、より苛烈に、より深く。主の願いは唯一つだったはずなのに。俺が、主を『否定した』からか。それとも――。


 初めて主が『ソレ』を口にしたのは、ある日の夕方だった。


『山姥切様。あなた様は、この戦を……政府や私たち審神者のことを、どのようにお考えですか?』

 主は俺たちの主君であったにも関わらず、常に自分が“下位の存在である”と言わんばかりに腰が低かった。
 確かに俺たちは『付喪神』と呼ばれる神の末席に位置する存在ではある。だが所詮人の手がなければ朽ちるだけの鉄の塊だ。人の手から生まれ、人の手に磨かれ、初めて俺たちは『存在意義』を満たすことが出来る。それなのに主はいつも『自分たち人間』の醜さや、矮小さを恥じ、憎んでいた。

『……戦は、いつの時代でも起きるものだ』

 主が過ごした平成の世は、俺たちからしてみればあまりにも『平和』であった。確かに何もなかったわけではない。大なり小なり事件はあった。事故も、災害も。どうしようもない理不尽に揉まれ、潰えていく人もいただろう。それでも刀や銃を握ることはなかった。『戦争』と呼ばれる大きな争いもなかった。
 それでいいと思った。

『この戦も結局のところ一時的なものとなるだろう。政府が俺たちに目を付けたのは意外だったが、考えてみれば矛盾点は一つもない。主たち日本人にとって最も身近で、且つ分かりやすい武器であること。その用途がはっきりしていること。名のある武将に仕えたことがあるとすれば尚のこと、俺たちは力を持つだろう』

 俺たち刀は例え『神』と呼ばれる席に位置付こうとも本質は変わらない。ただの『刀』だ。初めから神として生まれた存在でもなければ、死して召し上げられた偉人たちとも違う。共通していることといえば、我々は『人』がいなければ生きていないということだ。『信仰心』が必要な神と、人の手を借りなければ錆びていくだけの我ら。とはいえ、『神』であれば人に代わる存在も自らの手で作り上げることが出来るだろう。あるいは不完全な『人間』など作らず、天使などの御使いだけを作ることだって可能だろう。だが俺たちは別だ。人の手がなければ生きられない。人の手により失った同胞も多いが、人がいなければ現存出来ないのだ。
 だから『人』はいなくてはならない。消えられるのは困る。歴史が変われば今生きている人間の多くが失われ、また生まれることはなかった人が生まれるのだろう。だが正しき歴史は“そう”ならなかった。そうならなかったからこそ、主たちが生きる『今』があるのだ。それを主自身の手で否定してほしくはなかった。

『俺は主たちが生きる“今”を守りたい。だから過去に遡り、自らを振るって戦に身を置くことに疑問も嘆きもない。早く戦が終わればいい、とは思うがな』

 とりわけ戦が好きなわけではなかった。それでも『守る理由』があったから戦場に立つことを厭うことはなかった。
 だが主は違ったらしい。主は嘆いた。悔いた。懺悔した。自らが関与することのなかった過去の出来事であっても、主は恥じた。

『山姥切様、人は醜い生き物です。他者を貶め、嘲り、時には自らを過信し驕り、欲に溺れて消えていく……そんな人間を、貴方様達が守る理由がどこにあるというのです』

 主と俺の会話は殆ど平行線を辿るようなものだった。

 『人の世を守りたい』と口にする俺と、『人が憎い』と口にする主。溝というよりも海ほどにも心の距離が離れている。そう思わずにはいられないほど主は頑なに自分たち『人間』を嫌い、否定し続けた。

『山姥切様、無茶はおやめください! もし貴方様の身に何か起きたら、私は……!』

 日が経つごとに主は悩み、憔悴していった。刀が増えれば増えるほど、彼女が崇める『神』が増えれば増えるほど、彼女は自らの立ち位置に首を絞められ、殺されていった。

『主……俺よりも休息が必要なのは君の方だ』

 痩せ細った腕。弱々しく掠れた声。信仰心の強い彼女は『神』に姿を晒すことを恐れ、自分が廊下を歩く時は皆に部屋に戻るよう告げていた。曰く、

『私は、貴方様たちに自らの醜い姿をお見せしたくないのです。こんなにも罪深い、業の深い人間たちの末裔の姿など……――』

 そのうち主は自らの姿だけでなく、声も聞かせることを嫌がり始めた。曰く『神に聞かせられるような声ではない』と。
 俺には分からない。何故主がそこまで自らを厭い、罰するのか。
 一度だけ目にしたことがある。主の腕に刻まれた複数の切り傷たち。咄嗟にその腕を取れば主は恥じ、見ないでくれ。と涙交じりの声で懇願し、土下座までした。

 何が主を狂わせたのだろう。

 彼女が信じる『神』が一体誰なのか、聞けばよかったのだろうか。それとも彼女は自らの心の中に作り上げた『神』を信じていたのだろうか。神とて所詮は『生き物』だ。動植物と生まれ方が違うとはいえ、神とて欲求はある。時には人を愛し、人を守り、知恵を授けることもあったというのに。それに自らのためだけに戦をした自己中心的な神だって山ほどいるというのに。何故彼女はああまでも頑なに『神は美しく、気高く穢れのないもの』と認識していたのか。
 結局、所詮は鉄の塊である俺には理解出来なかった。

『山姥切!!』

 戦場で『ああ、これは死んだな』と思ったのは、敵の大太刀の渾身の一撃を喰らった時だった。あの時俺は誰を庇ったのか。どの戦場にいたのか。もう思い出すことは出来ない。忘れてしまったのか、それともただ思い出せないだけなのか。それすらも分からないが、それでも。一つだけ明確に覚えていることがある。

『主……俺は、君のことを……――』

 主は自らを『醜い存在だ』と語った。見ないでくれ、と顔を隠した。聞かないでくれ。と声を出さず、筆談をするようになった。自分はあなたたちに相応しくないのだ、と言って部屋に籠った。
 俺はそんな主の幸せを、ただ願った。

 どうか、どうか彼女が心安らかに暮らせるように……――と。そう、願ったのだ。

 彼女が信仰する『神』の末席にいるはずなのに、顔も知らない、名前も知らない誰かに願ったのだ。そんな男が『神』だなんだと崇められるのも妙な話だ。そう思って、最後は笑った気がする。

『主……』

 主はただ嘆いている。怒りに、憎しみに、狂っている。彼女が今立っているのは、熱せられた鉄の上のようだ。地獄の業火に焼かれ、それでも死ぬことを許されぬ罪人のようだ。もしかしたら、彼女にとっては事実そうなのかもしれないが。
 結局主を理解することも、主の意識を変えることも出来なかった。そんな自身を顧みて更に思考が沈みそうになっていると、憑代となっている“水野”と名乗る彼女が口を開いた。

「言いたいことは分かりますけど、共感は出来ません」

 ぽん、と放たれた言葉に思わず思考が止まる。いつものあっけらかんとした口調ではない。ふざけた様子もないその一言は、あまりにも『否定』の色が強かった。

「いや、まぁ、その、言いたいことは分かるんですよ。人間が醜い、人間は汚い。時には力付くで争うし、時には陰湿なマウント合戦もする。そういうのも、まぁ言っちゃえば『あるある〜!』『分かる分かる〜!』って感じなんですよ。でもそんなこと言ってたらキリがないというか。陽中の陰、陰中の陽って言葉があるように『綺麗なだけが人間じゃない』ってやつでしょ? そりゃあ皆誰しも潔癖で潔白なら無駄な争いとか、血とか呪詛とか流れんで済むんでしょうけど……うーん。結局人間って、賢い奴が出てきてもこうなると思うんですよね」

 彼女の中にいるから分かる。彼女は主を揶揄しているわけではない。ただ『美しく』あろうとした、ありたかった主にはない考えが彼女の中には満ちていた。

「正直言うと私も“神様”である彼らの『主』っていう部分には引っかかりがあります。でもそうしなきゃ“組織”としては回らないわけだし、少なくともその本丸の“顔”となる“責任者”は作らないといけない。ってなると、それって自動的に審神者がなるしかないと思うんですよね。だから別に審神者が偉いとか、そういうのじゃないと思うんですよ」
「……ほぉ?」

 主は呪詛の声を抑え、彼女の言葉に耳を傾け始める。

「要は職務の違い、ってやつでしょう? いざとなった時に責任を負うのが審神者なんじゃないんですか? そりゃあ正確な最高責任者は政府の偉い人かもしれませんけど、結局のところ多くのいざこざは自分たちの本丸で、当人同士で片づけるわけですし? 持ちつ持たれつ、ってやつです。戦には刀が出て、何か起きたら審神者が片づける。戦うフィールドが違うから考えづらいですけど。第一それを言うなら『偉い』はずの『神様』が、何で私たちのことを『主』って呼ぶんですか。やろうと思えば『神様』なんだから契約で生じる枷だって破壊出来るでしょうに。それをしないってことは結局のところ『神様』がそれを許容しているからだと思うんですよね。だからそれを否定するのはどうかなぁ〜。と思わなくはないんですけど、まぁ私は信仰心が薄いほうなので。逆に信仰心が強ければ強いほど水無さんの考え方って『神の意に反する行為』に当たったりしないんですかね?」

 彼女の言葉に主は何も返さない。それが気にならないのか、そもそも気づいていないのか。分からないが、彼女は心底不思議そうに首を傾けながら続ける。

「あとは、多分ですけど、彼らは私たち『人間』に対して『好意』を持ってくれていると思いますよ。私はその気持ちを大事にしたいな。って思うんですけど」

 俺は、主が好きだった。だがその『好き』は人間たちが持つどの感情に値するのか分からない。
 子を成すのに『好き』は必要ない。『卵子』と『子種』さえあればいい。それが昔の『常』だった。そして俺達は『刀』だ。子孫も何もない。だからこの感情は何なのか。そもそも『好き』も『嫌い』も何故生じるのか。俺には分からないことばかりだった。
 そんな俺とは違い、彼女はただ自分の気持ちを偽ることなく声にする。

「彼らが望んでいれば別ですけど、あなたの語る“理想郷”って結局は単なる『押しつけ』になるんじゃないですか? それって何だか……言葉が悪いですけど、あなたが語る『自分勝手な人間』そのものだと思うんですけど」

 素直であることはいいことだ。嘘をつくより何倍も。だが、時にはそれが仇となる。素直すぎるが故に彼女は主の最も弱い部分を踏みぬいた。土足で心の内側に入り込み、そのまま踏み荒らしていったのだ。何だかんだと長く主の傍にいたからそれが分かる。分かってしまう。つけた般若の面の奥で、主がどんな顔をしたのかも。

「お……お前に、お前にィィィイイ!! 何が分かる! 何が分かる!! 何が分かるうううう!!!」
「ぐっ?!」

 主の両手が彼女の首に掴みかかる。彼女はそれをはがそうともがくが、箍の外れた主の力は相当強いらしい。一向に離れる気配がない。

「私は神に仕えているんだ!! 神々の永遠の平和を願って何が悪い! 彼らのためなら私は悪魔にだって魂を売る! 人間だって幾らでも生贄に捧げてやる!! あんな醜い存在の命が神々の役に立てるんだから、むしろ光栄だろうが!」
「そ、んなの……! 絶対、間違ってる……!! オラァア!!」
「うッ!」

 彼女の振り上げた足が主の腹に命中する。思わず息をのんだが、主は軽くよろめいただけで大した威力はなかったらしい。腹を抑えた後、再び襲い掛かってくる。

「そもそも貴様も同類だ!! 神々を誑かし、狂わせる売女め!!」
「誰が売女じゃ!! こちとらまだ処女だっつーの!!」

 やはり正直すぎるのはどうかと思う。
 あまりにもアレな発言に主も虚を突かれたのか、一瞬力が緩む。その隙に彼女は主を押しやり、距離を取った。

「第一私のどこが売女だってんだ!! 言っとくけど未だに誰とも付き合ったことすらない喪女だぞコラァ!!」

 もじょ、というのが何なのかは分からないが、どうやら水野殿は恋愛事の経験がないらしい。今時珍しいものだ。本丸で見ていたテレビではそこら中で男女が恋愛を繰り広げていたというのに。それともドラマ、というやつと現実は違うのだろうか?

「それがどうした!」
「だから! 言葉の使い方間違ってんじゃねーの、って話ですよ!!」
「うるさい! 例え未通であろうと心が違えば売女で十分だ!!」
「うはー! 会話になってる気がしねー!!!」

 わしゃわしゃと髪を掻きむしる水野殿に対し、主も一旦落ち着こうと思ったのだろう。深く深呼吸し、荒れた呼吸を整える。

「私は知っている。貴様が数多の神々を誑かしていることを」
「今度は何の話ですか……」

 げんなりとした様子の水野殿だが、主は構わず政府の役員であった頃の情報をフルに活用するつもりらしかった。

「貴様が自らの本丸に顕現した付喪神たちを手籠めにしていることだ!!」
「果てしない誤解!!! 第一手籠めにするとか無理だわ!! あいつら神様やぞ?! 身分が違いすぎるわ!!!」

 ……多分なんだが。主と水野殿はそこはかとなく似ている気がする。本人たちは水と油みたいな言い争いをしているが。傍から見ればその主張はよく似ている気がした。

「そもそもその情報どっから仕入れた!! どこ情報だ言ってみろコノヤロー!!」
「そんなもの、社内で都度噂になっておったわ!! 他所の本丸の刀たちとも心を通わせているだとか、想いを寄せられているだとか、現に目の当たりにした人だって大勢いるんだぞ!」
「ねーわ! そんなこと一度たりともねーわ!! つーかそれ単なる勘違い!! 私そんなことしてないし! 真実を見ずに憶測だけで話すの良くない!!」
「では演練会場や万屋近辺で別本丸の刀たちと談笑していた、というのはその者たちの捏造、というわけだな?」

 主の言葉に水野殿は喧嘩口調のまま「そうだ――」と言いかけてふと立ち止まり、一言二言「演練会場……? 万屋?」と呟いた後「ああ!」と言って両手を打った。

「ごめん。それは本当」
「貴様ーーーーーーーッ!!!!」

 主の背後で炎が勢いよく燃え立った気がした。
 そんな主に対し、水野殿は「ちょちょ、ストップストップ!!」と待ったをかける。

「違う違う! アレそういうのじゃないし!!」
「では何だ! 何だというのだ!! 説明してみろ!!」
「今からするって! だから落ち着いて聞いて!!」

 怒り心頭な主に、水野殿は「大包平の話がしたかった鶯丸の話を聞いていただけ」という説明を一所懸命行った。鶯丸と言えば確かに事あるごとに「大包平が〜」「大包平なら〜」と口にしていた気がする。主も政府の役員だったためそれなりにそう言った話は耳にしていたはずだ。多少背後に燃え盛っていた炎の勢いが弱まった気がする。

「成程。百歩譲ってそれは良しとしよう。ではその後大倶利伽羅と山姥切国広と手を繋いで歩いていた、というのはどうだ」
「あ。それも事実です」
「貴様ーーーーッ!!!」
「ちが、それもちょっと待って! 上手く説明できないけど、アレ私もよく分かんなかったんだって!!」
「そんなの貴様が誑かしたからに決まっとろーが!!」
「決まってねえよ?! ちゃんと話聞いて?!?!」

 何かだんだん気心知れた同士の喧嘩みたいになってきたぞ。大丈夫なのか、これ。

「それがさー、私もよく分かんないんだよね。あの時は他所の鶯丸から『お茶をしながら大包平の話をしないか』って誘われただけなのに。何でか大倶利伽羅も山姥切も不機嫌になっちゃって。うちの鶯丸とはそんなに仲悪くないはずなんだけど、帰る時も二人でずっとブツブツ言ってて……だから『私にも分かるように話してくれ』って言ったのに、結局二人共何も教えてくれなかったんですよ? 酷くない?」

 ……これは、一体どういう状況なのだろうか。彼女はわざと言っているのだろうか。それとも本当に無意識なのだろうか。分からないが、怒り狂う主の出方を伺えば、何故か主は片手で顔を覆っていた。

「……貴様、本当に分からないのか?」
「え? 何が?」
「そんなもの、貴様を取られたくないからの行動に決まっとろーがッ!!!」
「え?! 嘘ォ?!」

 どうやら水野殿は相当鈍いらしい。主でさえ分かることを、彼女は本気で理解出来ていないようだった。

「そもそもだ!! 貴様が他所の刀を誘惑するから自陣の刀たちが苦労するんだろうが! もっとしっかりしないか!!」
「いや、だってそもそも刀に好意を向けられるって何?! どういう状況?!?!」
「知るかーーーッ!! 貴様が日ごろから誘惑しているからだろうが!!」
「するかーーーッ!! つーか出来るかーーーッ!! 見ろ! この体だぞ?! この顔だぞ?! って、あ。顔は見えねえか。えー、と、とにかく! そんなこと出来ないですって!!」

 全力否定する水野殿だが、主はとっておきの情報があるらしい。昏い笑い声をあげながら水野殿を詰る。

「それに聞いたぞ……貴様、自陣の陸奥守吉行から『告白』されたらしいじゃないか。まさか『応える』つもりじゃないだろうな?」
「そ、それは……ッ!!!」

 どうやらその件に関しては水野殿の中でも答えが出ていないらしい。先程の威勢はどこに行ったのか。途端にあたふたし始める。

「そ、そりゃあ勿論『告白』は嬉しかったですけど、その、私と陸奥守じゃ釣り合わないし……」
「そうだな」
「神様と人間だし……」
「そうだな」
「立場も違いすぎるし……」
「そうだな」
「流れる時間とかも、違うし……」
「そうだな」

 何だこのやり取り。と、突っ込まないだけ俺は優しいのだと思う。唯ひたすら彼女と主の淡々とした、どこか妙なやり取りを聞き続ける。

「でも……その、むっちゃんのこと『嫌い』ではないので……答えに悩んでいるといいますか……」

 恋愛に疎い彼女のことだ。俺と同じか、またそれ以上に『好き』と『嫌い』の扱いに戸惑っているのだろう。だが流石我が主だ。そこはスパっと切り捨てた。

「そんなもん、『断る』の一択に決まっとろーが」
「え゛。そ、その心は?」
「『人間』と『神』が釣り合うわけなかろうが、このボケナスーーーーッ!!!」
「ですよねーーーーッ!!!」

 やっぱりこの二人、どこか似ているのでは? そう考えていた時だった。

「主? 何してるの?」

 ここ一番で最も会いたくない、出てきてほしくなかった男が主の背後から姿を現した。



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