小説
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 妙に居心地が悪い本丸で感じた気配。その気配を追って振り向けば――

「だあああああああああああああ?!?!?!?!」

 何と! そこに立っていたのは! 両目がなくなり、ぽっかりとした空洞から血を垂れ流し、首が九十度横に折れ曲がっている今剣さんでした!!


 めっちゃくちゃホラーじゃんけえええええええええええええええ!!!!!! こッッッッッッッわ!!!!!!!!!


 もう心から叫んだよね。叫ぶしかなかったよね。っていうかよく叫べたな? 人間本気で怖い時って声が出ない。って聞いたんだけど。超出たわ。大声大会に出場したら優勝出来そうなレベルの音量だったわ。
 そして同時に走った。もう訳も分からず走り出した。いや、だって普通に考えたら逃げるでしょ?!?! その場で尻もち付かなかったら逃げるでしょ?!?! 腰が抜けなかった自分凄くない?! これも以前の経験が生かされている証拠ですね。って嬉しくねえよ!!!!! とにかく今は逃げなきゃ、って思ったけど一つ気づく。


 今剣って、めっちゃ足速くね?


「うおおおおおおおおおお!!!!! トランザーーーーーーーム!!!!!!」

 説明しよう! 『トランザム』とはガ〇ダムに出てくる用語である! ピンチになった時にパワーアップするための切り札だ! ただしハイリスク・ハイリターンっていう諸刃の剣なんだけどね! つってもアレはあくまで二次元であって三次元では勿論存在しない。でも気持ちは大事だと思うの! 気持ちは!!!

 だが現実とは常に無情なものである。ガッシリと、私の腹の前に細い腕が回される。それに「ヒッ」と声を上げれば、背中からぬるり、とした冷たい感触が這い上がってくる。

 おごおおおおおおお!!!!!! 無理無理無理無理!!! めっちゃ怖い! めっちゃ怖い!!!!!!

 そしてこれが本当の恐怖らしい。遂に声も出てこず、全身が硬直する。
 密着してくる冷たい体は鋼色に染まり、その腕にも血がこびりついている。

 いやいやいや。だから無理だって。ホラー無理なんだって。怖いんだって。
 誰だ! 今回『ホラー要素ないよ』なんて言ったの!! めッちゃめちゃホラーじゃんけ!!!

 なんてメタ発言的なものを脳内で入れて平静を保とうとしていると、その腕の持ち主――首の骨が確実に折れているであろう今剣のような存在が、初めて声を上げた。


「アるジさまヲ、タすけテ、クダサイ」


 と。



 ……………………んえ?


 暫く硬直した後、振り返る勇気はないが、恐る恐る声を出して問いかけてみる。

「あ、あの……あなたは、“百花”さんの、一振り目の今剣さん、で……あってますか……?」

 未だにバクバクと心臓が煩く鳴り響くが、さっきの言葉で少しだけ冷静になれたから分かる。
 ここは私の本丸じゃない。でもどこかは分からない。どこでもあって、どこでもない。そんな感じがする。だけど“呪われた本丸”のように空気が澱んでいるようには思えないし、何より流れている『霊力』が弱すぎる。通常の本丸であれば考えられない、それこそ審神者に就任したばかりの私ぐらいの霊力しか感じられないのだ。
 本丸には多くの刀がいる。彼らは個々で霊力を持っているため、本来ならばここまで微弱な霊力しか流れていないのはおかしいことなのだ。
 でもここが『死者の世界』だとは思いたくない。だって私まだ生きてるし。っていうか『生きてる』って信じたい。実際心臓が煩く鳴り響いていることが感じられるんだ。だから生きている! 生きているぞ、私は!!

「ハイ。そウでス。ぼクは、アルじサマの、モもカサマの、イまのツルぎ、でス」

 ひび割れたうえ、反響して聞き取りづらい声。それはきっと彼の本体が折れ、欠けているせいだろう。彼は私のお腹に回した腕を解かぬまま、たどたどしい口調で用件を告げる。

「オネがイ、デス。あルじサマ、ヲ、たすけテ、クダさい」

 “主様を助けてください”
 言っていることは分かる。でも、彼女は、百花さんは、もう――。

「イぃエ。アルジサマ、は、マだ、イきて、イます」
「え?」

 でも、彼女は私にこう言ったはずだ。『学校の帰り道車に跳ねられ、そのまま死んだ』と。そして『毎日泣いている母親が心配で、いつも見に行くのだ』と。でも、今剣はそれを否定する。

「チガい、マす。アるじ、サマは、だまサれテ、イるダケでス。マ、だ、シんで、ハ、いマせン」
「じゃ、じゃあ、百花さんはまだ生きているんですね?」

 この話が本当なら、きっと百花さんは“呪術”で『自分は死んでいる』と思わされているということだ。でも、どうして今剣がそれを……?

「ボク、ハ、アるじ、サマの、まもリ、ガたな、デす、カラ」

 ――死して尚、彼女を守っているのか。

 驚くと同時に、空気がざわつくのを感じて落としていた視線を上げる。出所を探すようにして横を向けば、何故か通り過ぎたはずの大広間があった。だが通常とは違う光景がそこには広がっている。
 本来大広間の奥には厨がある。だが大広間の三分の二あたりから暗い靄のようなものが掛かっており、何も見えない。まるでそこから先に洞窟が続いているかのようだ。だけどそこに“何かがいる”と気づいた瞬間、全身が総毛立った。

「な、に……なんの、音……?」


 ――ズル…………ズズッ…………


 音が、聞こえてくる。


 ズルズル、ズルズルと。


 見てもいいのか。見ない方がいいのか。迷っているのに、視線が釘付けになって離せない。そうしてほんの数秒が何十分にも感じられる中、その暗闇の中から“何か”が這いずり出てきた。

「ゥ、あぁァぁァァゥゥ……」

 ひ、ヒィイイィイイィイイイイイイ!!!!!! アカン!!!! 怖い!!!!

 再び全身が硬直する。だけど逃げようにも今剣がガッシリと抱き着いていて動けない。
 いや! 何でそんな小さいのに力だけはあるねん!!! おかしいやろ!!

「ダイ、ジョウぶ、デス。コワがら、ナイで。カレらも、ボクと、オナじ。アルじサマ、ヲ、マモリタイ、ダケ」
「へぇ!?」

 心底恐ろしくはあるが、必死に目を凝らせば確かに見える。彼同様、姿が歪に変わってしまった刀剣男士たちの姿が。

「ボクの、アルジ、を、タスケて。おネ、オネガイ、シマス」
「……燭台、切……?」

 畳に爪を立て、這いずってきたのは『燭台切光忠』だ。ただ、彼の下半身は……どこにも、なかった。

「オレ、オレの、アルジも、タノ、ム……ハヤく、シナイと、アルジ、ガ、あるジ、ガ……!」

 次に出てきたのは『山姥切国広』だ。そして他にも、沢山、次々と、刀たちが出てくる。

「アルジ、アルジ、を」「タスケて、」「おネガイ、しまス」「アルジ、を」「オネがイ」「ボクたちノ、アるジを」「アルジ、を」

 まるで壊れたメリーゴーランドのように、ひび割れ、反響した声がグルグルと辺りを包み込む。
 空はでたらめなぐらい青く清々しいのに、この大広間の奥は闇に覆われている。近づいてきて彼らの腕が、指が、私に縋り付いてくる。でも私の足元に伸びる影は一つだけだ。折れてしまった彼らには、影さえつかない。

「タスケテ、クダサイ。ボクタチノ、アルジヲ」

 震える指でそっと触れる。鋼色に変ってしまった、冷たく、細い手に。

「ふぉ?!」

 瞬間、まるで足場がなくなったかのように重力を失い、勢いよくどこかへと落ちていく。

「おごおおおおおお?!?!?!」

 無理無理無理無理!!! こんなん死んじゃう! 死んじゃうって!!! 落ちたら普通人間は死ぬんですよ知ってました?!?!

 そう突っ込もうにも言葉にはならず、そのままドシン! と背中から柔らかい何かの上に落ちる。

「あいッ、たたたたた……えー……もう何なの……」

 いきなり自分の本丸からどこか別の本丸へ引きずり込まれ、今度はどこかに落とされるとか……。あまりにも散々な目に合っている自分になんだか泣けてくる。
 しかしここはどこなんだろう。周囲は薄暗いため全容は分からない。落ちたところ改めて見分しようと床に手をついた瞬間、床とは思えない有様を感じて「ウッ、」と詰まる。

「うっわ……何これ気持ち悪……」

 手を置いた床は生暖かく、グニグニとしている。しかも人間の心臓のようにドクドクと脈動しているのだ。
 一瞬で手を放したが、座っているため尻や足から感触が伝わってくる。うへえ。心底気持ち悪い。それでも一応探ってみれば、特段大きく波打っているわけではないらしい。ただ頑張れば立てるが、気を抜けばバランスを崩して倒れてしまいそうだ。
 ただそうは言っても、いつまでも座っていたくはない。立ち上がって壁に手をつけばそこも床同様脈打っている。

「何ここ……完全にホラゲーの世界やんけ……ええ……嫌なんだけど……」

 めっちゃくちゃ嫌ではあるが、じっとしていても助けが来るとは思えない。ここに落としたであろう折れた今剣を探そうとしてみるが、彼の姿はどこにもない。
 クッソー。没シュートするだけしてとんずらってどういうことやねん。次に会ったらお説教じゃ。
 半ば舌打ちしたい気持ちに駆られながらポケットに入れていたはずの携帯を探す。光がなければ文明の利器を使えばいいだけの話だ。手に取った携帯を起動させれば、電池残量は七十パーセントだ。あまり長時間使用すると電源が落ちるだろう。とりあえず周囲を照らしてみるか。とライトを起動させ、周囲を照らしてみる。
 そこで見えたものは、やはりというか何というか。予想通り生物の体内みたいな場所だった。

「うへぇ……マジで何なのここ……嫌すぎる……」

 こういうの本当に苦手なんだけど……。でも四の五の言っている暇はない。どうにかして出口を探らなければ。
 壁らしきものに手を置いたまま、恐る恐る一歩踏み出してみる。

 うん。特に変化はない。

 私の体重に耐えられる、ということはそこまで重さを感じていないか、あるいは鼓動はしているが“生き物”ではないかのどちらかだろう。
 一旦ライトを落とし、数度深呼吸して意識を落ち着ける。
 となれば、次にするのは“感知”だ。
 ここから感じられる霊力は複雑だ。何と言うか、色んなものが“混ざり合っている”感じがするのだ。例えるなら私と夢前さん、武田さんと柊さん、それぞれの霊力がごちゃ混ぜになった感じだ。だからハッキリと“誰の”というのは分からない。どの霊力も今まで感じたことがないものだから。
 それに清浄であるかどうか、と聞かれたらこれも微妙なところだ。お師匠様の神社で感じるほどの清浄さはなく、けれどあの赤い本丸ほど澱みや穢れを感じない。こうなると判断に悩むんだよなぁ。それなりに警戒はするけど、所詮モブ中のモブ。消火器すらないこの場所で出来ることなど全くと言っていいほどない。武道を習っていたわけでも、スポーツをしていたわけでもない。いざ襲われたらあっという間に殺されてしまうのがオチだ。
 私の刀たちが聞いたら「もっと警戒心を持て」だとか「危機感を持て」とか言われるんだろうけど、そんなもん持ったところでただの人間である私は不条理には勝てないのである。

 というわけで、とりあえず歩いてみることにした。

 だってウジウジ悩んだところで答えてくれる人はいないし。だったら少しでも前に進むべきだと思うんだよね。いや、実際の所地図がないから進んでいるのかどうかは分かんないんだけど。第一こんな所でじっと出来るか。もっとマシな場所に出られたらラッキー、もっと悪い場所に出たら逃げる。よし。これで行こう。
 楽観的、と言われたら否定できないが、あまり深刻に考えすぎても神経をすり減らしてしまう。出来る限り『いつも通り』を心掛けるのが攻略のポイントなのではないだろうか。と、自分を少しでも正当化しつつ携帯のライトを頼りにグニャグニャした道なき道を進んでいく。これでもし触手とか出たら本当にホラーになるよな。考えたくはないけど。
 時々ライトを消して周囲の気配を探りつつ、歩き始めること十分弱。何だか出入口じみた場所に出る。

「……よしっ」

 ライトは落とし、ほんの少しだけ顔を出してみる。薄暗さは変わらないが、少しだけ目が慣れたのだろう。今まで通った道より少しだけ広い道に繋がっていることが分かる。
 今通ってきた道が『小道』なら『T字路の大通り』に当たる部分だろう。もしかしたら他にも今まで通ったような道があるのかもしれない。
 益々生き物の体内じみた構造に辟易していると、ふと感じたことのある霊力に気付いて顔を引っ込める。

「フン、フン、フフン♪」

 鼻歌交じりに歩いてくる誰か。視覚に頼らなくても分かる。これは“燭台切光忠”の霊力と声だ。息を潜め、出来る限り壁に近づき存在感を無くすよう努力する。
 いやもう本当コレどこのスネ〇クだよ。初代MGS並みに緊張するんだけど。やだなぁ……。私アレ苦手だったんだけど。せめてダンボールくれダンボール。なんて考えている時だった。燭台切の気配が唐突に立ち止まったのは。

「…………?」

 携帯はサイレントマナーにしているから鳴らないはず。そもそもポケットに入れているから光も漏れていない筈なのだが……。もしかして相手も私の霊力が感知出来るとか?! だったら不味いぞ。私は出来る限り息を潜めることは出来ても、自分の霊力を誤魔化せるなんて芸当は出来ない。ここでバレたらまさしく『ジ・エンド』って奴だ。
 ヤダーッ! 死にたくねえよこんな所でー!!! せめてもっとマシな所で殺してくれーッ!!!

 なんて願いが届くわけもなく。先程顔を出したばかりの出入口から燭台切が入ってくる。

「……? 気のせいかな……?」

 やばいやばいやばいやばい。これ見つかるかも。
 燭台切は太刀だ。夜戦には向いておらず、確か『夜目が利かない』と光忠本人がそう言っていた。だからこの薄暗い場所では視力に頼っていないはず。だけど私の存在に気付いている節がある。息を止めて壁にくっついてはいるが、それでも燭台切との距離はさほどない。相手が手を伸ばせばギリギリで届くだろう。どうか探らないでくれ……!!!

 そんな思いが届いたのかどうかは知らないが、燭台切は「ま、いっか」と呟くと先程の大通りへと引き下がる。
 でも油断は出来ないぞ。ホラー映画ならここで油断した瞬間「バア!」ってやるのが鉄板なんだ! 騙されないぞ!

 しかし意気込んでいたものの、燭台切は本当に去って行ったらしい。止めていた息を恐る恐る吐きだしても、壁から背中を引きはがしても、試しにちょっと腕を動かして周囲を探ってみたりしたけど、燭台切が戻ってくることはなかった。いや、でも待てよ。今はまだ私がそこの大通りに出てくるのを今か今かと待っている最中かもしれない。ここは慎重に、慎重に……と出入口から顔を出そうとした時だった。背後から突然口元を覆われ、全身が強張る。

「んッ……!」

 だけど抵抗しようと相手の腕に手を掛けた瞬間、耳元で「静かに」と宥める声がする。その声は“山姥切国広”のものだ。聞き間違えるはずがない。
 彼の腕にかけた手から力を抜くと、相手もそっと手を離す。ゆっくりと息を吐きだしつつ振り返れば、山姥切の白い布らしきものが頬を掠めた。

「すまない。来るのが遅くなった」
「い、いえ……あの、あなたは……?」

 いや、彼が“山姥切国広”であることは分かっているんだ。でも私の刀じゃない。柊さんの刀でも、武田さんの刀でもない。知らない“誰か”の霊力。私の知らない誰かの刀。そんな刀が、私の手に触れた。

「さっきはすまなかった。強引に君を連れてきてしまった。許してほしい」

 殊勝な態度で謝罪してくる山姥切。ということは、彼は先程私に助けを求めてきた刀の一振り、ということか? え。じゃあ待てよ? マジでここどこなんだ?
 まさか彼岸――あの世?!

「すみません、ぼくがうっかりてをはなしてしまったから……」
「ヒエっ」

 突如足元から聞こえてきた声に素っ頓狂な声を上げてしまう。この声は“今剣”だ。しかも『うっかり手を離した』ということは……

「もしかして、さっきの……?」

 百花さんの、今剣?

 私の問いかけの意味が正しく伝わったのだろう。姿は相変わらず暗くてよく見えないが、小さな塊が山姥切の足元で蠢く。

「はい。さきほどはすみませんでした。ぼくたちのちからがもたなくて、あしばがくずれてしまったんです」

 ああ、成程。そういうことか。だから私の本丸じゃなかったんだな、あそこ。

「あれは、あなたたちの本丸?」

 本丸の構造は大体一緒だ。場所によっては若干の違いがあるみたいだけど、政府に頼んでリフォームしなければ基本は武家屋敷の構造のままだ。私は自分の本丸と、柊さんと武田さん、新人研修でお世話になった先輩審神者の本丸しかまともに知らないけど、どの本丸も私の本丸と間取りが若干違うだけで殆ど一緒だった。だからぱっと見では違いが分からないのだ。
 だから流れている霊力が誰のものであるかで判断する。あそこに流れていたのは私の霊力ではなかった。他の人たちのものでもなかった。彼らが自分たちの“力”で作り上げたのなら、誰の本丸か分からないのも当然の話だ。そして“折れてしまった”からこそ、感じられる霊力が少なかったのだろう。

「まぁ、落とされたのは仕方ないとして……ここはどこなんです? 随分と不気味なところですけど……」

 正直出来ることなら今すぐにでも帰りたい。でも帰る術はあるのだろうか。もしここがどこかの本丸ならゲートを使えば自分の本丸に戻れるが、全くの別物であったのなら帰る方法を探さなければならない。
 ていうか、ここ本当にどこなんだ? 首を傾けていると、未だ暗くて顔が見えない山姥切が説明してくれる。

「ここは敵にとっての“心臓部”だ。“証拠”が揃っている場所でもある」
「証拠」

 何とも“刑事的”な発言だ。
 本丸にいるはずの田辺さんを思い出していると、小さく冷たい手が私の手に触れてくる。

「山姥切、いそぎましょう。じかんがありません」
「ああ、そうだな。何も説明できなくてすまない。だが今は一刻を争う。俺達に着いてきて欲しい」

 そう言うや否や、今度は大きな手に反対の手を握られる。いや、これもう事実上『逃がさねえからな』っていう体制じゃないですか。拒否権なんてあってないようなものじゃないですか。そりゃずるいですぜ、って旦那方。

「……はあ。分かりました。そもそも帰り方分からないし……。こうなりゃとことん付き合いますよ。神様方」

 帰り方が分からないのも、拒否権がないのも事実だ。となると、もう前に進むしかない。『やけくそ』と言えばそうだ。だって逃げ場がないんだから。彼らの言葉に頷く他ない。
 でも、心のどこかでは『そうしなければならない』という気持ちにも駆られている。何でかは分からないけど、きっと、百花さんが“死んでいない”って話を信じたいんだと思う。
 だって、出来ることなら加州にもう一度彼女と会わせてあげたいから。

「行こう」

 姿は見えないけど、二振りが頷いたような気がした。


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