小説
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パティシェ我愛羅くんと社会人サクラちゃん設定で、まったりした話。ほんのり甘くて優しい時間をご一緒に。


 一組のティーカップ。注がれた紅茶はほんのりと優しく甘い香りを運び、ほっと心を癒す。
 机の中央には可愛らしい、ファンシーな柄がプリントされたペーパーナプキンが顔を覗かせる丸皿があり、そこには色とりどりのクッキーがドミノ倒しのように並べられている。
 プレーン、チョコ、ごま、紅茶、抹茶。他には彼お手製のイチゴのジャムが小さな瓶に詰められ添えられており、甘酸っぱい香りが食欲をくすぐる。

「さて。久しぶりのティータイムといくか」
「うん」

 久しぶりの休日。久しぶりに過ごせるゆっくりとした時間。いつも忙しい彼と、夜勤が続いた私のささやかな幸せを、紅茶に合わせた甘さ控えめのクッキーが優しく彩ってくれる。

「うん! 美味しい!」

 噛めばサクサクと音を立て、ホロホロと口内で崩れて溶けていくクッキーはこの上なく美味しい。あんまりにも美味しいからつい鼻歌でも歌ってしまいそう。そんな私に目の前の彼は優しく目元を和らげる。

「気に入ったか?」
「うん。最高よ」
「そうか。それはよかった」

 甘い物が苦手な彼も、時折こうして甘さ控えめのお菓子を口にする。曰く私につられるのだとか。
 理由は何であれ、彼と一緒に美味しいものを共有できるのは嬉しい。例えそれを作ったのが彼本人なのだとしても。一緒に食べられることが幸せなのだ。

「サクラ」
「うん?」
「春になったら、花見にでも行こうか」
「フフッ。気が早いわねぇ。まだ冬にもなってないのに。でもいいわね。お弁当持って、デザート持って。一緒に出掛けましょう」

 まだ年の暮れまで時間はある。桜が咲くのはもっと先だ。それでももう来年の約束をしてくる彼が愛おしい。
 そんな気持ちを込めて笑顔を向ければ、彼も静かに微笑んだ。

 秋の匂いが紅茶と混ざって漂ってくる。

 ティータイムはまだ始まったばかりだと、私はもう一枚クッキーに手を伸ばした。


end

たまにはこういうささやかな幸せを噛みしめたくなる時がありますよね。そういう話でした。


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