小説
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 そして当日。柊さんの第一部隊は山姥切国広を隊長とし、膝丸、髭切、にっかり青江、小烏丸、博多藤四郎の六振りを。私は陸奥守を隊長とし、小夜左文字、薬研藤四郎、堀川国広、宗三左文字、へし切長谷部の六振りを選抜した。本当は陸奥守か小夜を本丸の守りとして置いていきたかったのだが、何故全員から反対された。どうやら本丸よりも私のほうが心配らしい。どこまで過保護なんだろうか、うちの刀たちは。私からしてみれば本丸に何かあった方が困るのだが。それでも三十対一では勝ち目がない。
 因みに今日は出陣はなしだ。何かあっては困るからと、内番と短期の遠征のみになっている。どう考えても心配しすぎなんだけどなぁ。言っても絶対に皆折れないので、こちらが折れるしかない。というわけで、私は皆に見送られながら件の本丸へと足を踏み入れた。

――の、だが。

「……あの、柊さん?」
「はい。何でしょう」
「ここ、本当に本丸ですか? お化け屋敷じゃなくて?」

 以前にも私はとんでもない本丸――『この世とあの世の狭間』と呼ばれる本丸へと足を踏み入れたことがある。あそこもだいぶ酷かったが、ここはもっと酷かった。

「もうこれ完全に呪われてるっていか祟られてるっていうか……明らかに人の手が入っていい場所じゃない気がするんですけど……」

 遠目から見ただけでも異様な状態であることが伺える。入り口には異様な程に術札が張られ、しめ縄は汚れ、謎の赤い文字がビッシリと書き連ねられている。どう考えても呪われてるでしょ此処?!?!
 ドン引きする私に対し、柊さんではなく小烏丸がクスリと笑う。

「そうかそうか。そなたには『真の姿』が見えるのだな?」
「え……? 真の、姿?」

 真も何も、目の前に広がっているじゃないか。
 御簾で見えないことを承知で胡乱げな瞳を向ければ、膝丸と髭切がフォローするように言葉を続ける。

「違うよ。この本丸はね、“視える者”にしか真実の姿が見えないんだ」
「ああ。だから我らの主も、主の仲間も“視る”ことが叶わなかった。だから君が呼ばれたんだ」

 つまり、柊さんの目にはこの本丸は普通の本丸に見えているということか。私は自身の能力を『感知能力』と名付けてはいるが、その実感覚だけが優れているわけではない。こうして『隠された真実の姿』を見ることも出来るのだ。それはあのもう一つの本丸で、敵短刀に見えた前田藤四郎の本来の姿が見えたことからも窺える。どうやらこの力は度重なる怪異に巻き込まれたせいで覚醒した力の一つらしい。
 改めて本丸を見つめる私の元に、陸奥守と小夜が近づいてくる。

「二人にはどんな姿が見える?」
「わしらにもおんしの力が少なからず流れちゅうき、げに不気味な本丸が見えちゅうよ」
「うん……酷い澱みを感じる。主、気を付けて」

 どうやら私の刀たちには霊力を通してこの本丸の『本当の姿』が見えているらしい。だからこの場でそれが見えないのは柊さんだけということになる。

「すみません。私には普通の本丸にしか見えず……」
「いえいえ! そんな、だって仕方ないですよ! 多分、それだけ高度な術で細工している。ってことなんですから」

 そう。鬼崎同様、この本丸の審神者は何かしらの術なり何なりかが使えたのだろう。でなければこんな禍々しい、物騒な本丸になるはずなどない。

「すまないが、君は我らの主と共に進んでくれ。真の姿が見えなければ歩かせるのも大変だ。出来れば手を引いてもらえると助かる」
「はい。それは大丈夫です」

 膝丸の願いの下、柊さんと手を繋ぐ。勿論口でもナビゲーションはするが、いざとなればこの手を引いて逃げなければならない。それが出来るのは私だけなのだ。刀剣男士はあくまでも戦うための存在。彼らを優先して自分たちを疎かにすれば本末転倒だ。そのことを最初に言い聞かせられた。

「いいか? もう一度言うが、妙なことが起きたら即本丸へと帰還してくれ。無理に手伝おうとしなくていい」
「僕たちが守るべきは君たち審神者だからね。君たちに何かあったら僕たちは肉体を保つことすら出来ないんだ。僕たちを手助けしたいと思うなら、まずは自分の身を一番に考えるんだよ?」
「膝丸と髭切の言う通りじゃ。えいか? 絶対に危ないことはせんでくれ」
「うん。流石にこんな所じゃ、ね」

 柊さんもいることだ。絶対に彼女を無事に帰さなければならない。頷く私に皆も頷き、髭切と膝丸を先頭に、小烏丸を殿とし、本丸に向かって歩き出す。

「それにしても、随分と禍々しい空気に満ち溢れていますねぇ……まるで瘴気ですよ」
「怪物が住んでいる、と言われても信じちまいそうだな」
「おい。あまり無駄口を叩くな」

 わーお。やっぱり刀は審神者に似るらしい。注意事項以外全く喋らない柊さんの刀たちに比べ、こちらは早速お喋りを始めている。
 お前らは修学旅行に来た学生か。いや、気持ちは分からんでもないけど。正直怖さを紛らわせるなら話すしかないよね。分かる分かる。前科持ちここにいるし。もう一つの本丸に初めて行ったとき滅茶苦茶喚いたからね。分かる分かる。

「でも何ていうのかな……澱んでもいるけど、どこかピリピリもしてるよね。トムヤンクン食べた時の舌みたいな」

 あ。今の例え下手くそだ。相変わらずの例え下手に顔を片手で覆えば、何故か柊さんは「成程」と頷いた。

「よく分かりました。それは中々ですね」
「え?! 今ので通じました?! マジで?!?!」

 あの柊さんに通じるとは思わず、彼女なりのジョークなのかと真剣に考えたが、彼女は真顔で頷いた。

「私は辛い物が少々苦手なので。あの手のピリピリ感が苦手なんです」
「あ。でもそれが分かる程度には食べているんですね?」
「春雨スープとか、好きなので……」
「あ。分かります分かります。冬の朝とか、忙しいお昼時とか役立ちますよね〜」
「はい。お昼は特に」

 って、どこのOLじゃいわしらは。自分で自分にツッコミを入れていると、どう見てもお化け屋敷にしか見えない本丸の入口へと辿り着く。

「これってチャイム押しても鳴るのかな?」
「鳴らんじゃろ」
「だよねぇ」

 私のくだらない一言に付き合ってくれたのは陸奥守だ。そしてそんな私の発言を実行してくれるのは、やはり宗三であった。

「では押してみますか?」
「って、聞きながら既に押してるじゃんけ! 危機感どこ行った?!?!」

 ピンポーン。と常ならば聞こえてくるであろう音は、本丸の中からは聞こえてこない。やはり壊れているらしい。ほっとする気持ちもあるが、それ以上に迂闊な行動を取る宗三を睨み上げる。

「ちょっと! 何かあったらどうするのさ!」
「大丈夫でしょう。そも、何か不審な点があればあなたが気付いているでしょう? それがなかったということは、『押しても平気だった』ということです」

 な、何という信頼の重さ……! 嬉しい反面プレッシャーがデカい。地味に冷や汗を掻く私に対し、終始口を噤んでいたにっかり青江が口元を緩める。

「まぁ、それは僕も気づいていたけれど、それでも実行するあたり君たちは豪胆だねぇ」
「これでも織田の刀ですからね。肝が据わっていないとあの方の刀なんて務まりませんよ。ねぇ、長谷部?」
「否定はせんが、もう少し慎重にはなれ。主たちもここにいるんだ。軽率な行動は控えるべきだ」

 豪胆な宗三と慎重な長谷部。どちらかがどちらかのストッパーなり起爆剤になってくれれば、と思って連れてきたが、思ったより宗三がフリーダムだ。何も起きなきゃいいけど。
 ため息を零しそうになった時、とある存在が柱の陰からこちらを見ていることに気付き息が止まる。

「ん? どうしたんじゃ?」

 隣に立つ陸奥守が不思議そうに尋ねてくる。ギギギ、と油の切れたブリキのおもちゃのような動作で陸奥守を見上げるが、他の刀たちもその存在に気付いている様子はない。

「む、むっちゃん……ア、アレ、見える……?」
「見えるって……何がじゃ?」

 どうやら陸奥守には見えていないらしい。柊さんは勿論のこと、他の刀たちも私の方を不思議そうに見ている。

「主、何がお見えになっているのです?」
「視線が下を向いているということは、主より小さいということですよね?」
「主さん、何が見えるんです?」

 長谷部を始めとし、宗三、堀川が近づいてくる。だけど私がそれに答えるよりも早く、その存在が動いた。

「あなたは、ぼくがみえるんですね?」

 しゃ、喋ったーーーーーーーーーー!!!!!
 半透明どころか七十パーセントぐらい透けている存在、所謂幽霊的な何かに見えるその短刀――今剣がこちらをじっと見つめながら話しかけてくる。

「え……と、あの……はい」

 突然頷く、というより誰かに返事をした私が不思議なのだろう。刀たちはすぐさま警戒し、柄に手をかける。だが今剣はすぐさまどうこうしようという気配はなく、むしろ探るようにこちらを見ている。

「ぼくのこえがきこえますか?」
「はい」
「このほんまるのすがたは?」
「見え、ます。あの、正直言うと、お化け屋敷みたい、です」

 周りから見れば完全に一人でブツブツ言っているヤバイ奴だ。だけど私の視線が一点に集中していることと、今の所危険そうな会話をしているようには感じられないからか、皆それ以上は動かない。

「あの、もしかして、あなたの姿は他人からは見えないのですか?」

 ここには本丸の『真の姿』が見える小烏丸も髭切も膝丸もいるのに、何故か今剣だけは見えていないらしい。半透明だからか? まさか幽霊とか言わないよな? 確認も兼ねて尋ねてみれば、今剣がどこか悲しそうな顔で俯く。

「はい。ぼくはあるじさまにとくべつな術をかけられました。とてもとても、つよい術です。さにわのちからがなければけんげんすることができない、そんなぼくたちには、この術はそうそうみやぶれないのです」
「はあ……そりゃあまた難儀な……いや、凄いと言うべきか。でも、どうしてそんな術をかけられたんです? 何かを守っていらっしゃるのですか?」

 もう一つの本丸でもそうだった。蠱毒の壺や木箱が隠されていた部屋には厳重に札が貼られていた。その部屋に辿りつくまでも巧妙に仕掛けがされた部屋を幾つも通った。つまり、それだけ隠したい『何か』があるということだ。
 今剣はすぐには頷かなかったが、ウロウロと視線を彷徨わせた後コクリと頷く。

「あるじさまはぼくたちを……いちぶのとうけんだんしを、ちかにとじこめています。“れあ”だからいくさばにだしたくないのだと……でも、ほかのみんなはいくさにでました。たくさん、けがをしました。でも、あるじさまはいつからかていれをしてくださらなくなって……ほかにもたくさん、いろいろ、ある、のですけれど、あった、のですけれど、ぼくは……みていることしかできなくて……おとめすることもできなくて……あるじさまは、もう、ずっと、ながいこと、ここに、もどってきておりません」
「……そんな……」

 今にも泣き出してしまいそうな震える声で、沈んだ顔で、ポツポツと話す今剣は酷く痛ましい。
 この本丸の審神者がどんな人なのかはまだ分からない。だけど“レア”と付く刀剣男士に弱いらしい。彼らを地下に幽閉しているのだとすれば、他の皆はどうしたのだろう。同じように幽閉したのか。それとも今剣のように他の人からは見えないように何らかの術を施したのか。どちらにせよ楽観視は出来ない状況である。
 一先ず今剣の言葉を皆に伝えるか。と顔を上げた瞬間、今剣が「あの」と声を出す。

「あなたはあるじさまの、いえ……ぼくたちの、てきですか? それとも、みかた、ですか?」

 彼らが真に戦うべき相手は同じ刀剣男士でも、審神者でもない。『歴史修正主義者』と名乗る異形の者たちだ。それを知っているはずなのに、それでも聞かなければいけないのはどんな気持ちなんだろう。『憐れ』と呼ぶのはあまりにもおこがましいけれど、そう思わずにはいられない。

「大丈夫ですよ。私たちは敵ではありません。もし怪我をしている人がいるのであれば、手当をしたいとも思っております」

 出来る限りゆっくりと、穏やかな口調を心掛ける。刀たちも私の独り言にも聞こえる会話を聞いていたためか、柄にかけていた手を下してくれた。今剣は黙って私たちを見つめる。本当かどうか心配なのだろう。こちらも辛抱強く返事を待っていると、やがて小さく頷いてくれた。

「わかりました。では、ぼくがほんまるをごあんないいたします。でも……」
「……でも? 何ですか?」

 俯く今剣の表情は沈鬱としている。よっぽどツライことがあるのか。言いたくないのであれば無理に言わなくてもいいんだけどな。と考えていると、ようやく顔を上げてくれた。

「みんなには、ぼくが、みえないんです。あるじさまと、あなたしか、ぼくのことが、みえないんです。だから……だから……」

 きっと寂しかったのだろう。本丸がこんなにもボロボロになるまで誰にも見つけられず、話すことも出来ず、ずっと一人で消えた主を待ち続けていたのだから。それはツライし、寂しいことだ。
 大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を零す今剣に手を伸ばせば、彼はそれより早く自分の袖でそれを拭った。

「ぼくのかわりに、みんなをたすけてください。ほんとうは、あるじさまがかえってきてくださるとしんじていましたけど……もう、まてません。みんなのきずがしんぱいなのです。おねがいします」

 そう言って頭を下げてきた。本当なら、彼がこんなことしなくてもいいのに。私は改めて今剣に「大丈夫ですよ」と話しかけ、皆を振り仰いだ。

「あの、皆さんには見えていないと思うんですけど、今ここに、この本丸の今剣がいます。彼が本丸内を案内してくれるそうです」
「成程。何かいるなぁ。とは思っていたけれど、今剣だったのか。残念だなぁ。僕たちの目では見ることが出来ないなんて」
「正直、悔やまれるな。すまない。今剣」

 見えないと分かってはいても、今剣がいる場所を悔しそうな顔で見つめる二人。そんな彼らに対し、今剣は首を振る。

「きにしないでください。それよりも、はやくいきましょう。ぼくがせんとうをあるきますので、さわがずについてきてください」

 皆に声を出さないよう指示し、今剣を先頭に、私と柊さんが並んで進む。
 それにしても、流石長年審神者を務め、政府の役員として様々な本丸に足を運んでいるだけある。どこか不安な気持ちを抱く私とは違い、柊さんは凛とした表情を崩すことはない。むしろ「足手まといになるようでしたら先に帰還しますが」とまで言われた。だけど私ではなく陸奥守から「主のストッパーになって欲しいから残ってくれ」と言われ、共に行くことが決まった。ここまで信用がないといっそ笑えるな。うん。それでも言葉にはせず黙々と歩く。
 本丸は見た目もそうだが、中も酷かった。床は一部が抜け落ち、棚には埃が溜まっている。あの本丸に比べればマシだが、所々血痕が残っている。そして奥に進むごとに空気の澱みが増してくる。重く、ねっとりとした空気は肌に圧し掛かり、まとわりついてくるような感じだ。それに匂いもどこか鼻をつく。思わず袖で覆えば、流石に柊さんも何かを感じたのだろう。眉間にしわを寄せ、ハンカチを口に当てる。

「何でしょう……何だか物凄く嫌な感じがします」
「はい。気を付けてくださいね。いざとなったらすぐに逃げましょう」

 小声でやり取りをしながら歩き続けること数分。きっと大広間なのだろう、一際大きな部屋の前へと辿りつく。本来ならばそこは襖だけで仕切られているはずだが、実際には大きなしめ縄と術札が張り巡らされており、何かを封印しているように見えた。

「ぼくがあんないできるのはここまでです。この術をとくすべを、ぼくはもっていません」

 そう言って俯く今剣を責める気はない。誰だってこれを破ることが出来れば苦労しないからだ。それに本丸だってこんな状態になっていないだろう。
 中に一体何を封印しているのか。それとも閉じ込めているのか。陸奥守たちを見上げれば、彼らも睨むようにして見ている。

「うっすらとしか見えんが、こりゃあロクなもんじゃないぜよ」
「父の目にも見えるぞ。コレは一筋縄ではいかぬ。安易に手を出さぬことだ」
「ただ斬ればいい、っていう代物じゃないからね。コレは」
「それにしても、随分と厄介な封印術式を使っているものだ。本当に一人の審神者で成したことなのか? これは」

 刀たちが口々に討論を交わす。彼らが言うようにこの術式はそう簡単には解けないだろう。何かヒントとかないかなぁ。としめ縄や術札を眺めるが、それらしいものは何もない。文字もかなり達筆で、草書体とでも言うのだろうか。ミミズのようで、とてもじゃないが読み取ることが出来ない。きっと小烏丸たちなら読めただろうけど、彼らの目にはそこまで見えないらしい。
 どうしたものか。悩んでも解決策が浮かぶわけでもないので、ダメ元で今剣に話しかけてみる。

「この本丸の主さんはどうやってここを開けていたんです?」
「あるじさまは“かぎ”のようなものをつかっていました。あそこにちいさな“なんきんじょう”があるでしょう?」
「あ。本当だ」

 大きなしめ縄の奥。細めの鎖が幾重にも重なる中、小さめの南京錠が幾つかくっついている。とすると、このしめ縄と術札はもしかしてカモフラージュ? 囮か?

「って、結局鍵がなけりゃあ開けられないじゃん」

 開け方が分かっても開ける方法がないときたもんだ。私は柊さんを堀川とにっかり青江に任せ、南京錠に近づいてみる。

「ちょ、主! そんな不用意に近づいては……!」

 宗三の声がするが、何となく大丈夫そうな気がしたのだ。実際近づく分には何も起きない。それに南京錠に近づきまじまじと眺めれば、そこにも小さな文字がビッシリと刻まれていることに気付く。そして僅かにだが、結界のような薄い膜が張られていることも分かった。

「これ結界が張られてるっぽい」

 困ったな。私は『感知』することは出来ても『解く』ことは出来ない。だけどここで目は見えずとも声は聞こえている、柊さんが「それなら、」と声を上げる。

「どのようなものか、書き写すことは出来ますか? もしかしたらですが、解き方が分かるかもしれません」
「マジっすか!!?」

 そういえば柊さんは占術を得意としていた。実家の書庫には古い書物がいっぱいあると言っていたし、もしかしたらこの文字を読み解くことが出来るのかもしれない。
 柊さんから紙とペンと受け取り、南京錠に刻まれている文字を書き写していく。出来る限り正確に。そして映し終えた紙を見せれば、皆も上から覗き込んできた。そして真っ先に口を開いたのは、一番の古刀である小烏丸だった。

「ほお。これは“呪い”だな。宝を守るために使われる術式の一種だ」
「宝を守るってことは、つまり今でいうところの金庫の役割、ってことですか?」
「そういうことになる」

 成程。じゃあやっぱりあの部屋には幽閉されている刀剣男士たちへと通じる何かがあるのかもしれない。だがもしそうなのだとしたら、今剣が言う「怪我をしている刀剣男士たち」はどこにいるのだろう?
 うーん。と再び首を傾けた瞬間、突然陸奥守から抱き寄せられた。


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