小説
- ナノ -




診断メーカーで出たとあるお題が可愛かったので書いてみました。


【ごめん。実は知ってた】


 戦争が終わって数年。復興した里は以前よりも活気を増し、他里との交流も増えてきた。おかげで町中だけでなく、学校や職場でも色々な変化が見られる中。風影である我愛羅は一人手の平を見つめていた。

「……ダメなのか」
「はい。ダメです」

 深刻な様子で呟く我愛羅に対し、サクラも神妙な顔をして頷く。部屋の空気はピンと張りつめている。どちらもじっと動かず見詰め合う中、軽快なノック音が部屋に響いた。

「我愛羅、入るじゃん。っと、何だ。サクラもいたのか。……どうした? そんな深刻そうな顔して」

 入室してきたのは我愛羅の兄であるカンクロウだ。彼の手には書類が数枚握られており、普段と違い真剣な顔をした二人を驚いたように見比べた。

「……カンクロウ。実はお前に黙っていたことがある」
「え。何だよ。ヤベエ案件か?」

 我愛羅の、元々乏しい表情が険しく歪める。これは相当ヤバイことなのでは? とカンクロウが身構えれば、我愛羅はある意味とんでもない発言をした。


「サクラ。カンクロウ。俺は錠剤が苦手なんだ」
「…………は?」

 たっぷりと間を置き、気の抜けた声を出したのはカンクロウだけだった。対するサクラは尚も神妙な顔つきのまま頷く。

「ごめん、我愛羅くん。実はもう知ってた」
「何、だと……?」

 深刻な表情をするサクラと驚愕を露わにする我愛羅。茶番としか言いようのない空間にカンクロウは強く「帰りたい」と願う。

「だってあなた、薬を飲むのは基本的には嫌がらないけど、粉薬の時と錠剤の時とじゃタイムラグが違うもの」
「……飲めないわけじゃない。だが飲み込むタイミングがつかめないんだ」
「まぁ……苦手な人は苦手だものね……」

 この二人は一体何をそんなに深刻に話し合っているのだろうか。カンクロウは内容が内容なだけに呆気にとられた顔で二人を見遣る。しかし当の本人たちは至って真面目らしく、その硬い表情が崩れることはない。

「何故錠剤なんだ? 粉ではダメなのか?」
「気持ちは分からなくもないんだけど、その薬、粉にすると匂いとか後味が悪いのよ。だから比較的マシな錠剤にした方が子供たちも飲んでくれるのよね。だから粉では作ってないの」
「そ、そうか……」

 子供のためだと言われたら強くは言えないらしい。風影らしく、未来ある子供には弱い我愛羅は項垂れる。それに対しサクラも非常に辛そうな声で「ごめんね」と謝るが、カンクロウからしてみれば非常に、本当に、心の底からどうでもいいことだった。

「……そんなに錠剤がダメなら、もう砕いて飲めばいいじゃん……」

 心の底から呆れかえっているカンクロウが早くこの状況から脱したいがために呟く。すかさずそれに食いついたのは我愛羅であった。

「そうか。潰せばいいんだな」
「!! 待って待って! ダメよ我愛羅くん! 砂で潰しちゃったら薬と砂が混ざっちゃうじゃない!!」
「あ。そうか」

 近年稀に見るどころか、生まれて初めて見た我愛羅の天然ボケにカンクロウは思わず顔を覆う。ここにテマリがいてくれたらもう少しマシだったのかもしれないが、生憎彼女は木の葉に出張中だ。どんなに早くても戻るのは三日後で、その間カンクロウがこの二人の面倒を見なければならなかった。

「砂がダメならすり鉢ならどうだろう」
「折角錠剤にしたのに……それなら固める前のものを持ってくるわ。匂いも味も酷いけど、我愛羅くんちゃんと飲める?」
「……試してみる価値はあるかと」

 相変わらずの表情で、非常にすっとぼけた内容を深刻に話し合っている。この二人の能力の高さを知っているだけに残念感が増し増しになるが、カンクロウは黙って行く先を見届けることにした。というより、もう首を突っ込みたくなかった。

「じゃあ持ってくるから。砂で潰しちゃダメよ?」
「分かった」

 頷く我愛羅にサクラは「それじゃあちょっと行ってくるね」と言って出ていく。その軽やかな後姿を二人で見送った後、カンクロウは呆れと疲れが入り混じった瞳を我愛羅へと向けた。

「我愛羅……お前錠剤ぐらい飲めるようになっとかねえとそのうち笑われるじゃん……」
「………………善処する」

 まだ薬を飲んですらいないのに苦々しい表情をする我愛羅。それでもカンクロウは「以前よりマシか」とほんの少しだけ肩の力を抜く。
 薬すら飲まなかっ子供時代とは違う。少なからず以前よりは成長している弟に苦笑いを一つ零し、カンクロウは手にしていた書類を提出した。
 これから里を作っていく、風影を支えるために。

「処方される時にどちらか選べるようになればいいんだがな」
「文句言うなじゃん」


end


お題内容は【錠剤が飲めない我サク】でした。でもサクラちゃんより我愛羅くんの方が飲めなさそうだったので、こんな結果に……。(笑)
苦労人なカンクロウさんは書いていてやっぱり楽しかったです。^^




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