小説
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 目の前で散っていく。キラキラ、キラキラと光を反射して。まるで桜吹雪のように、誇り高きあなたが散っていく。伸ばした手に触れるぬくもりはもうなく、私は一人、呆然と三日月宗近が消えた空間を見送った。

「これで終わりですよ!!」

 三日月を折った刃がこちらに向く。“一秒でも長く生きてくれ”。それが三日月の最期の言葉だった。だから私はその言葉を守るためにも、今ここで死んでなんてやれないんだ。

「うおらあああッ!!!」

 私は咄嗟にポケットに入れていたものを相手の顔面に向かって投げつけた。それは先日大倶利伽羅がくれた蝶の形をしたチャームだ。当然顔に物が飛んでくればどんな相手でも一瞬気がそれるだろう。そのおかげで即死せずに済んだ。とはいえ振り下ろされた刀身は確実に私の腕を縦に切り裂いた。これが薙ぎ払いであったならば確実に腕が飛んでいただろう。上段の構えからの振り下ろしで助かった。いや、実際はめっちゃ痛いんだけども。

「いッ……!!!」

 痛みと恐怖で叫びそうになる。だが寸でのところで奥歯を噛みしめ、悲鳴をかみ殺す。ここで泣いてなんかやらない。叫んでなんかやらない。何のために三日月が犠牲になったと思ってるんだ。負けるわけにはいかない。何もできない私だけど、何もできない私だからこそ、心だけは、絶対に負けてなんかいられない!!

「小賢しい真似を……!」

 三日月が折れたということは結界が壊れたということだ。“遡行軍”と戦っている皆が折れていないことを祈る。そして誰か、武田さんか柊さんかが来てくれていたら助かる。そう思いながら傷口を抑えて走っていると、後ろから男が刀を振りかぶってくる。

「逃げられると思うな!」
「うぐッ……!!」

 刀が空を切る音がし、咄嗟に飛ぶが逃れられずにふくらはぎを斬られる。
 痛い痛い痛い痛い痛い!! 冗談じゃないぞこんなの!! というか足をやられてしまえばもう走れない。地面に転がる私に男が嗤う。

「今度こそお終いですよ」
「くそったれー!!!」

 こんなところで死んでたまるかー!! という気持ちだけはあるのに、抗う術がどこにもない。三日月が命を懸けて守ってくれたのに、私は彼の犠牲すら無駄にしてしまうのかと拳を握っていれば、聞きなれぬ銃声が私と男の間に穴を空けた。

「クッ……! 今度は陸奥守か……!!」
「え?」

 顔を向ければ、三日月同様満身創痍の陸奥守がこちらに向かって銃を構えていた。

「おまんの相手はこっちじゃあ!!」
「次から次へと……!」

 もう弾が残っていないのだろう。陸奥守は携えていた刀を引き抜きながらこちらに向かって駆けてくる。その隙に少しでも逃げようと地べたを這えば、振り下ろされた男の刃が間一髪で陸奥守に受け止められた。

「これ以上主を傷つけさせはせん!」
「ほざけ、最高練度に達していない雑魚が……!!」

 拮抗する刃の間、パラパラと破片が落ちてくる。この数分の間で既に目にしたそれは、刀の破片だ。見れば陸奥守の刀装は全て剥がれており、全身は血塗れで折れる寸前だ。私は自分の傷の痛みも忘れて叫ぶ。

「むっちゃんダメだよ! 折れちゃう!!」
「なんちゃあない!!」

 男の一撃を跳ね返し、陸奥守も荒い息を整えながら再び構える。お守りはどうしたのだろう。もう発動してしまったのだろうか。それともまだだろうか。気が気でない私に反し、相手は低く笑う。

「満身創痍でありながらも飛び込んでくるとは……見上げた根性だな、陸奥守吉行」
「おまんに褒められてものぉ……ちっとも嬉しゅうないわ」

 ハッ、と笑い飛ばす陸奥守だが、先程の三日月同様、次の一撃で折れてしまうだろう。私の不安を如実に感じ取ったのか、男が私の代わりに「お守りは持っているのか?」と問いかける。

「その様子では既に一度発動していそうなものだが……私の部隊は全て最高練度の刀で組んでいるからな。貴様らのような弱者には堪えただろう」
「あの遡行軍はおまんが連れてきた奴らか」
「いや、見た目は遡行軍だが、中身は君らと変わらんよ。私の刀たちだ」

 やっぱりそうか。あの男の本丸で見た『前田藤四郎』は敵短刀と同じ姿をしていた。きっとこの男が姿形を弄っているか、この男が歴史修正主義者の仲間なのか。あるいはそのどちらもなのか。……いや、多分この男は歴史修正主義者とは関係ないだろう。こいつはただ『力』を求めている人間だ。そのために彼らを食い物にしてきたのだ、文字通り。
 陸奥守は何も言わない。その瞳はまっすぐ男を見つめている。だけどその瞳に違和感を覚える。陸奥守がもしこの男が私の以前の担当者だと覚えているのなら、もっと驚いていてもいいはずだ。なのに彼の瞳はちっとも揺らいでいない。むしろこうなることを予期していたかのような落ち着きを見せている。……陸奥守は、何か知っているのだろうか?

「長期戦は嫌なんだがね。次で終わらせよう。どうせお守りは一度発動しているのだろう?」
「おぉ、わしも嘘は好かんきの。正直に答えちゃる。おまんの言う通りじゃ。わしにはもう後がないぜよ」
「!! むっちゃん……」

 三日月だけでなく、陸奥守まで折れてしまうというのか。そんなの絶対に嫌だ! 立ち上がろうとする私に、気づいた陸奥守が声を張り上げる。

「じっとせい! 傷が開く!」
「で、でも、」
「神様の言うことじゃ。聞きとうせ」

 そんなこと言われたらどうしようもない。確かに私は『主』だけど、ただの人だ。どんなに命令しても『神様』である彼らがそれを否定すれば、強硬突破など出来るはずがないのだ。

「男と男の勝負に水を差すもんじゃあないぜよ」
「それもそうだ。では、さっさと終わらせようじゃないか。このくだらない戦いをね」
「ほたえなや!」

 再び私の目の前で白刃戦が繰り広げられる。だけどやっぱり相手の方が強い。もう見たくはないのに、陸奥守の刀身が折られていく。粉々に砕け散った三日月とは違い、陸奥守は刃を受けたところからぽっきりと、真っ二つになった。

「フハハハハ!」
「……わしはここで終わりか……新しい時代……見たかったのぉ…」

 男の笑い声に、陸奥守の聞いたこともない弱々しい声が重なる。だけど私が手を伸ばした先、陸奥守の体が突然光った。

「何?!」
「……なぁんてなぁあ!!」
「ぐぁあ?!」

 折れたはずの陸奥守が、元に戻っている。お守りは一度発動したと言っていた。なのにどうしてまた陸奥守は元に戻ったのか。驚く私の目の前で、全回復した陸奥守がにやりと笑う。

「どうじゃ、驚いたか?」
「な……ど、して……」

 陸奥守の一撃を食らい、男は数歩後ずさる。その手には血が滲み、腕は震えている。だが致命傷というわけにはいかなかったのだろう。すぐさま刀を握りなおし、こちらに向かってくる。

「何故生きている!」
「おまんと違って、わしには仲間がいるからじゃあ!!」
「ぐぅ……!!」

 もしかしたら、男も剣道には疎いのではないだろうか。全快になった陸奥守が全力で打ち込む半面、男は防戦一方だ。強化された三日月宗近のおかげで大したダメージを負わずに済んでいるに過ぎない。踏鞴を踏む男と一度引き下がった陸奥守の元に、軽やかな蹄の音が届く。

「大人しくしろ! この犯罪者めッ!!」
「何?! 膝丸だと?!」

 駆けてきた馬から飛び降り、上段から刀を振り下ろしたのは膝丸だ。しかし彼は私の本丸にはいない。武田さんか柊さんかが駆け付けてくれたのだろう。彼の衣服は砂塵で汚れてはいたが、大した怪我はなさそうだ。やはり練度が高いと強いのだな。そんな当たり前のことを思う。そしてもう一振り、後からやってきた刀がその刃を鞘から引き抜いた。

「これで二度目だね。その腕、貰った」
「やめッ……!」
「! 見るな!!」

 陸奥守が敵に背を向け、私に向かって駆けてくる。その腕が私の体を抱き、胸に顔を押し当てるよりも早く。私の目の前で、髭切の一撃が男の腕を飛ばすのを目にした。赤い血飛沫が上がる。髭切の白い頬に、衣服に、真っ赤な血が飛ぶ。私が血が苦手だから陸奥守は隠そうとしてくれたんだろうけど、一足遅かった。
 固まる私を陸奥守が強く抱く。全ての景色から、全ての音から私を隠すように。それでも男の悲鳴が聞こえてくる。痛みと、恐れの混じった悲鳴。当然だが人の体が斬り飛ばされるシーンなんて見たことはない。映画でもグロいのがダメだから避けてきたし、実際に目にしたことなんか今の今まで一度もない。だから余計に処理が追い付かず、混乱と恐怖で体が強張る。耳の奥で、頭の中で。心臓がドクドクと忙しなく騒いでいる。呼吸が出来ているかも分からない。ただひたすらに全身が熱く、堪えようもない程に震えていた。

「大丈夫、大丈夫じゃ。おんしは何も見ちょらん。大丈夫じゃ……」

 陸奥守が何度も何度も言い聞かせてくれる。だけど私は今の強烈なワンシーンが頭から離れず、答えることが出来ない。確かに負けたくないと思った。死にたくないと思った。でも、苦手なものはやっぱりあるのだ。だけどそんな恐慌状態に陥った私を現実に戻す声が掛かる。それは私たちを探しに来てくれた加州の声だった。

「主!! 大変だよ、鶴丸たちが……!」
「つるまる……? そうだ、皆は?!」

 体を起こす私を陸奥守が支えてくれる。その瞬間私の頭は完全に切り替わり、腕や足の痛みを全て無視して走りだす。

「主!」

 だけどふくらはぎを斬られたせいか、すぐに体勢を崩してこけそうになる。すぐさま陸奥守が支え、私を背負って走り出す。

「加州! 何があったんじゃ!」
「遡行軍は武田さんの部隊が殲滅してくれたし、俺達はお守りのおかげで大丈夫だったけど、鶴丸たちの体が変なんだ!」

 辿り着いた先、大広間前には倒された遡行軍の残骸と、助けに来てくれたのだろう。武田さんが部隊を引き連れて呆然と立ち尽くしている姿があった。私の刀たちも皆満身創痍だったけど無事なようで、加州と陸奥守が私を背負って来るのを目にすると「主!」と一斉に声を上げた。

「皆、無事だったんだ……!」
「それはこっちの台詞だ! それよりも主、鶴丸たちが……!」

 和泉守が背負われていた私の手を取る。そして地面に降り立ち、皆が道を開けてくれた先。待ち構えていたのは、地面に座り込む鶴丸たちだった。

「……やあ……無事なようだな……安心した……」
「つ、鶴丸……」

 どういうことだろう。これは何かの冗談だろうか。それとも夢を見ているのだろうか。地面に座り込む鶴丸の体は半分以上が氷のような結晶で覆われ、パキパキと音を立てて割れ始めていた。

「主……無事だったのか……よかった……」
「鶯丸さん……どうして……」

 鶯丸は完全に倒れ伏しており、その下半身は殆ど上半身と離れかけている。鶴丸は結晶に覆われているが、鶯丸にはそれがなく、全身にヒビが入り崩れる寸前であった。

「戦いは……終わった……のです、ね……」
「江雪さん……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 江雪は宗三と小夜に抱きかかえられていないと、今にも粉々に砕け散ってしまいそうなほど体が崩れていた。下半身は殆どない。腕も、片腕が完全に落ちていた。

「そんな顔をするな……どうせまた……蔵に戻るだけ、さ……」
「大典太さん……やだ、やだよ……逝かないで……」

 大典太も前田と平野に支えられ、失った半身から血を流している。どうしてこんなことになっているのだろう。どうしてこんな目に合わなければいけないのだろう。皆優しい神様たちなのに。皆私の、大事な刀なのに。

「すまんなぁ……主よ……どうやら俺達は、お前さんにとって、敵だったみたいだ……」
「違う! 敵じゃない! そんなこと言わないでよ!!」

 鶴丸が虚ろな瞳をこちらに向けてくる。だが三日月の時のように触れることは出来ない。触れたらすぐにでも壊れてしまいそうなほど、ボロボロだった。

「主だけじゃない……俺たちは皆、仲間に向かって刃を向けた……これが敵でなく、何と言う……」
「違う……敵じゃない、敵じゃないよ……ただ操られてただけだよ……」

 戦いたくなかったはずだ。皆仲がよかったから。鶴丸も鶯丸も短刀たちの面倒をよく見ていたし、江雪も大典太も内番や出陣を通して皆と打ち解け、一緒にお酒を飲む姿を何度も目にした。そんな彼らが敵だなんて、誰も思っていないし認めない。例え彼らがそう思っていたとしても、それは彼らの意志ではないのだから。彼らだって被害者だ。三日月と同じ、被害者で、そして……悲しいかな、加害者でもある。その事実からは目を背けてはいけない。分かってはいるのに、心が認めたくないと叫ぶ。

「ごめん……ごめんなさい……私がこんなだったから、私のせいで皆を巻き込んだんだ……」

 どうして私は審神者に選ばれてしまったのだろう。あの男に目を付けられてしまったのだろう。戦争も、血も、得意じゃないのに。嫌いなものばかりなのに。それでも皆と一緒だから頑張れてこれた。そんな皆を、私は傷つけてばかりいる。

「弱ったなぁ……きみに泣かれると困るんだ……光坊に叱られるだろ……?」
「もう、鶴さんったら……ダメだよ、主を泣かせちゃ……」
「ははっ、そうだな……それに、光坊も泣き虫だったなぁ。ごめんなぁ」
「うっ……鶴さんのバカ……」

 燭台切の蜂蜜色の瞳から大粒の涙が零れだす。それが皮切りとなったかのように、短刀たちもボロボロと泣き始めた。

「大典太様、大典太様……! せっかくお会いできたのに、どうしてこのような形で別れなければならないのでしょうか……!!」
「そうだな……俺も、もっと皆と一緒にいたかった……」
「鶯丸様……! 僕は、僕は……!!」
「泣くな、平野。藤四郎の名が泣くぞ? それに、これでは主を頼めんではないか……お前ならばきっと、主も喜んでくれる茶を淹れることが出来る。頼んだぞ」
「江雪兄様、お疲れさまでした……僕たちは、兄様の弟であることを誇りに思います」
「嫌だよ……江雪兄様……やっと会えたのに……一緒に主を守ろうって、約束したのに……」
「そうですね……すみません、小夜……宗三、小夜を頼みますよ……」

 皆が思い思いの別れを告げる。皆泣いているけど、別れには慣れているんだ。それが刀の運命だから。悲しくても、皆受け入れることが出来ている。だけど私は、これを受け入れることが出来ない。もしも今ここで『歴史修正主義者にならないか?』と勧誘されたら揺らいでしまうぐらいには受け止めきれない。もしかしたらこういう風に誰かの死が受け入れられなくて、歴史修正主義者になる人がいるのかもしれない。分からないけど、別れは酷く悲しく、辛い。

「……主、後生だ。顔を見せてくれ」

 鶴丸の体が大きく傾く。咄嗟に大倶利伽羅がその体を支えるが、もう殆ど崩れかけている。鶯丸は遂に上半身と下半身が別れたらしく、平野が声を上げて泣いた。

「……私の顔を見て、どうするの……?」

 大して美しくもない顔だ。化粧もしていないし、肌が綺麗なわけでもない。日焼け止めを塗っていなかったから焼けているし、今は涙で顔がぐずぐずになっている違いない。それでも鶴丸は私の顔が見たいと言う。
 武田さんの太郎太刀が大典太を、宗三が江雪を、そして和泉守が鶯丸を抱え、私の前に集めた。

「なぁに。これだけ頑張ったんだ……せめて褒美の一つでも貰わにゃ、死んでも死にきれんだろう?」
「ははっ……鶴丸の言う通りだな……きみには心配ばかりかけさせられたのだから、俺もご相伴に預かりたいものだ」
「冥途の土産、という奴ですか……欲深いことですね……」
「俺はどちらでもいい……主や皆が無事なら、それ以上のことはない」

 死ぬ寸前でも笑みを見せる鶴丸と鶯丸に対し、江雪と大典太は穏やかな顔をしている。私も彼らの最期をちゃんと看取らねばならないと腹を決め、彼らの前で一度も外したことのない御簾を取り去った。

「大して綺麗な顔じゃないけど、福笑いとでも思って見て、覚えて、そんで墓に持ってけ。バカヤロー」
「ははっ、確かに。美人じゃないが……」
「いいじゃないか。雀のようで愛らしいぞ」
「人の美醜は造形ではなく心で決まるのですよ……主」
「雀は好きだ……お前は、落ちない雀であってくれ」
「……皆、最後まで戦ってくれて本当にありがとう。大好きだよ。……さようなら」

 別れの言葉が、スイッチだったのだろうか。ボロボロだった皆の体が三日月と同じように砕けて地面に落ちる。彼らもきっと、三日月と同じように刀身に術を掛けられていたのだろう。通常こんな風に刀は砕けないはずだ。そう思わずにはいられないほど、粉々に砕けた彼らの姿はポケットの中で潰れたビスケットみたいだった。

 赤い空が徐々に青さを取り戻し、本丸内に正常が戻りつつあることを示している。

 私は朽ちた破片を腕に抱き、堪えきれずに声を上げて泣いた。
 御簾もしていない、腕も足も血だらけの体で、子供みたいに声を上げて泣きじゃくった。沢山の刀の腕が伸びてくる。皆が私を支えるように、守るように触れてくる。だけど、胸を喰う痛みも悲しみも拭い去ることは出来ない。

 私はこの日、多くの刀を失った。三日月、鶴丸、鶯丸、江雪、大典太。最期まで私を守ってくれた刀たちに、私は一体何を返してあげられるのだろうか。涙は拭っても拭っても後から溢れ出てくる。結局この後私は泣き疲れて眠るまでその場で座り込み、斬られた腕や足の治療を施すために現世に運ばれたのは意識を失ってからだった。






【ちょっとした補足】

 呪術に関することとか蟲毒については「夢小説! イッツファンタジー!」と思って適当に受け流してください。

 それではまず三日月について。『記憶を対価に結界を張る』役目として顕現した彼。なので初めて登場させた三話に比べ、最新話になるほど徐々にですが言動や態度が幼くなるよう書いていました。例えば「頭を撫でてもいい」とかそういうアレ。登場話では「触って良し」であったのに対し、最新話では「デレているから」に見せかけた幼さを滲ませるよう意識しました。それでも僅かなもんですが。あんまり露骨だとアレなんでね。やめました。

 あと蜘蛛について。三日月に忍ばせた蜘蛛というのは、彼の体にくっつけていたわけではなく、彼の血肉に混ぜた蜘蛛のことです。なので膝丸や髭切でも見抜けなかったわけです。抱いたとしても違和感程度。兄者に言わせると「あれー? とは思うけど、証拠がないから『犯人はお前だ!』なんて言えないんだよねぇ〜」っていう感じの微々たるもの。そして蜘蛛は沢山います。三日月の血肉に混ぜた蜘蛛と水野を襲った蜘蛛は別物。他にもいます。が、ここでは割愛。

 続いて鶴丸たち。
 鶴丸たちも三日月同様、犯人の男の本丸で鍛刀されました。だけど受肉する前に強制的に刀に戻されたため顔は見ていません。そして刀身に呪術を施されている時も意識を封じられていたため記憶なし。そして呪術が終わるや否やすぐに炉にポーンと放たれたので、男が本当の主だと知らぬまま折れました。
 ただ掛けられた術が一番強いのは大典太。弱いのが鶴丸です。作中での説明は省きましたが、男はまず自分の所で鍛刀した打刀を先に送り込みます。この刀は特に誰、とは考えていません。男は単に自分の本丸の鍛刀場と、水野の本丸の鍛刀場がしっかりリンクしているかを知りたかったからです。そしてステータスに異常が出ていないか、ということの二点のみ。次に太刀の実験。一番最初に選ばれたのが燭台切です。今度も何の呪術も施していません。受肉する前にリターン IN THE 炉。っていう感じです。それで太刀でも問題なく受肉出来ること、そしてステータスや出陣に何の問題もないことを確認し、鶴丸、江雪、鶯丸、大典太を次々と送り込みます。

 まずは鶴丸。彼の体が水晶に覆われているようになっているのは、もし受肉が成功しても呪術を隠し切れずに暴走した場合のことを考えて、その呪術が外に放たれる前に鶴丸の中で処理されるよう、いわばリターンさせる役目を持ってます。ようは臭い物に蓋をする的なアレ。(酷い)そのため鶴丸だけそのようなことに。

 鶴丸が顕現した時はまだ男が担当者だったので、日々送られてくる報告書などで鶴丸に異常が出ていないことを確認。そして鶴丸に掛けた呪術と同じものをかけた江雪を、今度は隠す術を掛けぬまま水野の本丸へ。そこでも何の異常がないことを報告書で確認し、次に鶯丸。江雪に掛けた術よりも更に強めの呪術を施し、水野の本丸へ。そして最後に大典太。三日月が結界の役目ならば、大典太が本丸内の霊力を馴染ませる役割。男の霊力と水野の霊力を本丸内でかき混ぜるだけでなく、それを馴染ませる役目を知らぬうちに担っていたという感じ。なので彼の感覚は呪術によって若干狂わされています。が、その性能を完全に封じていないため怪異に気づくことが出来ました。多分彼が万全の状態だったら入り込んできた時点で悪即斬です。

 そのため肉体の崩壊も鶴丸が一番綺麗で、大典太が一番むごい描写になるようしています。まぁ、あんまり猟奇的な描写を入れたくなかったので細かく書くのは避けましたが、ざっくり書くと

鶴丸……半分は結晶に覆われているものの、殆ど全身にヒビが入っている程度で原型は留めている。
鶯丸……上半身と下半身がさよならしかけている。流血はないが惨い。
江雪……下半身と片腕がさようなら。鶯丸に比べて術は弱いが、崩壊が早く始まっている。
大典太……半身がさようなら。一番呪術の影響が強いため。

 それでも何故水野が現れるまで肉体を保っていたのか。これも術の影響。男は用心深いため、ある言霊を起爆スイッチにしていた。それが“別れの言葉”。滅びの言葉じゃないよー。作品変わりますからね。某物語が“バ〇ス”だった代わりに、こちらは「さようなら」が鍵。これによって完全に肉体が滅びました。その言葉がない限りはゾンビのように生きることになるので、ある意味では救いの言葉。

 男が刀に施した呪術は相当数あります。そんなもん知ったところで、という感じなので補足はしませんが、まぁありとあらゆる反乱分子は潰しておこう。という感じの男なので、そういう術を施していたもんだと思っていてください。

 因みに小夜は水野を向日葵畑に押し込んだ後遡行軍の短刀に見つかり、そちらと戦闘をせざるを得なくなりました。その隙に男は何食わぬ顔で本丸内を歩き、水野と遭遇した。という感じです。分かりづらくてすみません。

 未だに伏せているところは次回作中などで説明しますが、今回説明を省いたところをここで補足させていただきました。本編含めこちらまで読んでいただいた皆々様には深く感謝いたします。今回はあまり楽しい話ではなかったでしょうが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。m(_ _)m


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