小説
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微睡




今日は珍しく我愛羅とサクラは共に休暇だった。常ならば目覚める時間であっても今日は休み。
二人は互いの体を抱き合いながらまどろみ、惰眠を貪っていたがやはり常日頃からキッチリとしている我愛羅は先に覚醒しパチパチと瞬きを繰り返す。

(随分陽が高い…寝すぎたな…)

カーテンの隙間に指を差し込み、軽く外を眺めて手を離す。
んー、とくぐもった声をあげる腕の中のサクラが目覚めぬよう配慮してだ。

(よく寝ている。疲れていたんだな)

互いに忙しい身の上だ。
こういう日は怠惰だと思われようが好きなだけ寝かせてやりたいと思う。
それに日頃見られない彼女の子供のような寝顔を思う存分眺められるのも我愛羅にとっては至福のひと時であった。

(全く…どうしてこんなに愛おしいんだろうな)

眠る彼女の頬にかかる髪をそっと指先で払い、露わになる柔らかな曲線と形のいい耳に思わず見惚れる。
そしてそっと顔を近づけ彼女の少し広い額に口づければ、途端にんん、とむずがゆそうに眉間に皺をよせ頬をむにむにと動かす彼女に思わず我愛羅の口元が緩む。

(本当に可愛い。愛しくて仕方がないとはこういうことなのだろうな)

我愛羅は一人納得し彼女の桃色の髪に指を通す。
薄暗い我愛羅の寝間着に広がる彼女の髪は名前と同じ花の如く美しく幻想的だ。
まるで猫が遊ぶように我愛羅が指先で彼女の髪をいじっていると、彼女の長い睫がピクリとわななきゆっくりと開かれる。
まるで蕾が花開くような緩慢さ。我愛羅は思わずじっと彼女を見つめる。

「我愛羅くん…?」

我愛羅の名を呼ぶ声は少し掠れている。それは朝特有のものというよりかは昨夜致した行為故だろう。
我愛羅は何となくむずがゆい気分になりながらもおはよう、と彼女に笑いかける。

「ん…おはよ…今何時…?」

もぞもぞと身を捩る彼女に我愛羅はさぁ。と答える。

「なによそれぇ…」

未だ眠たげな彼女の声は常になく間延びしており、我愛羅はそれさえも愛おしいと彼女を抱き締める。

「まだこうしていよう」

いつもキッチリカッチリしている我愛羅からの珍しい言葉にサクラは何度か瞬きを繰り返した後、仕方ないわねぇ。と頬を弛め彼の胸に甘えるように額をくっつける。
己の髪を優しく梳き、時折毛先をいじる我愛羅の指使いを心地よく感じながら再び目を閉じる。
鼻から息を吸えば彼の匂いが肺を満たしむふふと頬が緩む。
こういう何気ないことが、波乱の人生を歩んできたサクラにとって幸せなことだった。
サクラにとって我愛羅の傍は心地いい。背伸びすることも、見栄をはることもしなくていい。等身大でいられることがとても幸福だった。
そしてこうして甘やかしてくれるのがサクラにとっては嬉しかった。

「我愛羅くん」
「何だ?」

額にあたる暖かく柔らかな感触と吐息がくすぐったい。
サクラはうふふと笑いながら我愛羅の背に腕を回して抱き締める。

「好きよ」

ぽろりと口から滑り落ちるようにでたサクラの言葉は、我愛羅を甘く溶かし幸福な気持ちにさせる。

「ああ…」

俺もだ。
続きは言葉にせず、我愛羅は彼女の身体を抱き締めることで想いを伝える。
彼の不器用な愛情表現がひどく愛おしいと、サクラはゆるりとほほえんだ。



end


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