小説
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 腕に測定機を付けて生活すること三日目。私はとあることに悩まされていた。

「あ゛ー……本当何なの……」

 政府に呼び出されたのが三日前。そこで聞かされた内容を陸奥守には全て話し、皆には一部分伏せて説明した。出陣が出来ないことに太刀の皆は少し残念そうな顔をしたが、それでもすぐに了承してくれた。その分短刀と脇差に負担が行くことにはなったが、今のところ問題なく出陣出来ている。
 そして私は例の測定機をつけて過ごしていた。寝返りを打つ時に邪魔で何度か目が覚めてしまうが、霊力自体に変化は起きていない。相変わらず小さい丸のままだ。本丸に着いた時に大きさが少しだけ変わったが、本丸内では霊力の消費がないためだと説明を受けていたので驚きはしなかった。だから後日武田さんが本丸の点検に来るという事を覗いては至って普通の日々のはずなのだが……。

「おんし、今日も寝不足が?」
「うん……ちょっと夢見が悪くてね……」

 そうなのだ。ここ最近夢見が悪く、どうにも寝た感じがしない。そもそも寝付けなかったり、寝ていても嫌な夢ばかり見るのですぐに目が覚めてしまうのだ。元々悪夢を見ることは多かったので今更怖いとか不安になることはないが、流石に三日も続くと参ってくる。仕事をしていても時々ぼーっとしてしまうし、舟をこいでしまう時もある。困ったなぁ。と目頭を揉んでいると、今日の近侍である陸奥守がぽんぽんと己の膝を叩いた。

「ちっくと休むとえいがよ。ワシの膝貸しちゃるき!」
「え。もー、むっちゃん何言ってんの。そんなこと出来ないよ」

 幾ら陸奥守でも膝を借りるのは恥ずかしい。顔は簾で見えないとはいえ、私にだって照れる時はある。冗談かと思って笑い流そうとするが、陸奥守は本気らしかった。

「何言うが。そがな状態で仕事なんて出来るわけないろう? ええき休み」
「い、いや、でも……」
「早う早う」

 ほれほれ。と手招きされ、私は渋々パソコンをスリープモードにする。途端に陸奥守が私の腕を引き、そのまま自身の膝に頭が乗るよう寝かせてくれた。

「……むっちゃん。これ超恥ずかしいんだけど」
「がははは! おんしは働きすぎやき、ちっくと眠るとええ」

 見上げた先には陸奥守の優しい笑みがある。幾ら彼が刀だと分かっていても、やっぱりイケメンにニコニコされるとドキッとする。純粋な好意によるものだと分かってはいるけれど、彼らのスキンシップは時々私の想像を超える。乱や三日月はしょっちゅう抱き着いてくるし(勿論その都度他の刀に剥がされている)鳴狐のお供や五虎退の虎は膝に乗ってくる。脇差や打刀、三日月を覗く他の太刀は肌にこそ触れないが、見かけると声を掛けてきたり花やお土産をくれたりする。

 あー……うん。何だ。こう見ると結構私は大事にされているのかもしれない。余所がどうかは知らないけど。皆気づかいのできる良い刀ばかりだ。そういえば鶴丸は最初こそ私を驚かせようと色々画策していたが、今では殆どその姿を見ることはない。一期一振の代わりに面倒を見ている短刀たちを驚かせているのは知っているが。
 一期一振が来たら鶴丸はどうするのかなぁ。などと考えていると、陸奥守の指がそっと私の髪に触れてきた。

「んあ? どうしたの?」
「ん? ちっくと触りとうてな。嫌じゃった?」
「いや、全然。でもむっちゃんが触ってくるなんて意外だなー。と思って。むっちゃんこそ大丈夫? 私すぐに頼っちゃうからさ。疲れてたらちゃんと言ってね」

 あまり長くない髪に優しく触れてくる彼に笑いながら伝えれば、陸奥守は「大丈夫じゃ」と笑い返してくる。その顔に嘘をついている感じはなく、私は安心して体の力を抜いた。

「重かったらごめんね。でもなんか……眠くなってきちゃった……」
「ん。大丈夫やき、おやすみ」
「……ん……」

 夜眠れないのであれば、昼に仮眠を取ればいい。考えてみれば分かることなのに、それすらしなかった。事務員として長く務めてきたからなぁ。就業中に転寝なんて言語道断だった。だけど今は多少なら仮眠を取っても許される環境なのだ。近侍である陸奥守もいいと言っているんだし、今は少しだけこの膝を借りよう。
 そう思って目を閉じると、案外あっさりと睡魔はやってきた。陸奥守には悪いが、すぐには起きれそうにない。そう伝えようとしたが口は開かず、私の意識はそのままブラックアウトしていった。



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