小説
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惚気話


我愛羅くんとサクラちゃん、お互いの『可愛い所』について延々と話すだけ。




サクラは可愛い。
何がどう、と聞かれれば色々あるのだが、最近可愛いと思ったのはつい先日の事だった。
その日は祝日ということもあり俺自身も休みだったので、久方ぶりにデートをしようと出かけた。とはいえ祝日だ。当然皆も外に出ている。
今更冷やかされるなんてことはないが、それでも人目があるなかデートをするのは気が引ける。
なのでオアシスの方へと向かい、そちらでブラブラしていた。
彼女が気になった店に足を運んだり、木陰で涼んだり、家具や食器、日用雑貨を見回っていた。
そんな中、昼時になり飲食店に入ることにした。
しかし祝日と言うこともありどこも列ができており、仕方なく並ぶことにした。とはいえ待ち時間は長い。
その日は日差しが強く、気温も高かった。軒先に屋根があったとはいえ太陽の位置や雲の動きによって全員が陰に入れるわけでもない。
そのため彼女を屋根の下の方に立たせ、自分は日差しにあたっていた。やせ我慢していたわけではないが、正直結構暑かった。
暑い暑いと口にすることはなかったが、それでも付き合いの長い彼女は気づいたのだろう。少しすると彼女がぐいと手を引いてきた。


「?何だ?」
「暑いでしょ?」

そう言ってぎゅうと腕を抱かれ、そのまま引かれる。ともすれば二人の体は密着することになり、俺は日差し地獄から解放された。

「…こっちの方が暑いだろう?」

とはいえそれでも気温は高い。くっついていたら暑いのではないかと首を傾けたが、彼女は少しむくれた顔をして上目で睨んできた。

「こっちがいいの。気づいてよバカ」

そこでようやく俺は彼女の可愛らしい要求に気付き、それに応えるべく腰に手を回し抱き寄せた。

「すまなかった。暑いと言って拒否されるのが怖くてな」
「そんなことしないわよ」

勿論肌を触れ合わせれば暑かったが、気にせず体を触れ合わせた。

「んふふ、あつーい」
「だろう?」

機嫌よさそうに笑う彼女が腕を抱いたまま繋いでいた手に指を絡め、肩に額をあて甘えてくる。
そうして暑いとか我愛羅くんの匂いがする、とか言われたら可愛いと思わずにいられない。
俺は自分の心臓は何とも形容しがたい音を立てて高鳴り、愛しさのあまり往来と言うのも忘れて抱きしめた。
まぁ当然彼女は恥ずかしがったわけだが、デートだということで笑って許してくれた。
その時の笑顔も当然可愛かった。


あとは山中から送られてきたプレゼントの中に入っていた猫耳カチューシャとやらをつけている時だった。
サクラ自身は捨てるつもりだったらしいが、山中に『一度はつけなさいよ』と手紙で釘を刺されていたらしく、一度だけなら、とつけたらしい。
しかしそこで、彼女曰く『運悪く』俺が一度家に戻ってきたのだ。家に持ち帰っていた書が必要になって戻ってきたのだが、その際バッチリと目撃してしまった。
白い猫耳カチューシャをつけたサクラの姿を。

鏡の中でサクラと目が合った瞬間互いに固まったが、すぐにサクラは奇声とも絶叫とも叫び声をあげカチューシャを投げ捨てた。
その時彼女が何かを訴えていたが正直覚えていない。

何せ俺は『もったいないなぁ』とか『どうせなら尻尾もあればよかったのにな』とかそんなことを考えていたからだ。
顔どころか首まで真っ赤に染めた彼女が涙目になって何かを訴えてくるのも可愛かったが、俺が何を言っても彼女は否定的になるだけだ。
なので俺は特に何も言わずその口を自分の唇で塞いだ。
途端に大人しくなった彼女がまた可愛らしかった。


他には一緒に風呂に入っている時、泡が立つという入浴剤を入れている日のことだった。
彼女が湯船に浸かり、俺が髪やら体やらを洗っている時こっそりバストアップの運動とやらをしている時が可愛らしかった。
別に大きさについて文句を言ったことはないのだが、見えないだろうと思って格闘しているのを気付いてしまった。
泡風呂とはいえ体を動かせば波はたつし、泡だって時間が立てば消えて行く。
だから若干透けていたのだが、俺は黙ってそれを見過ごし、彼女の背中側に潜ってから体を抱きしめた。

別に気にしてはいないが、そういう風に努力をする姿は可愛らしい。

まぁついでにお手伝い、と称して後ろから揉んでやったが。


そういえば寝る時もサクラは可愛い。
ベッドに潜り寝心地のいい場所を探した後、隣に潜る俺の方へと顔を向ける瞬間が可愛い。
くるりとした瞳がこちらを向くのだ。その際つい頭を撫でてしまうのだが、何よー。と言いつつ猫のように目を閉じてされるがままになるのが可愛らしい。

怒ると怖いが可愛い所も随分と多い。
そんなサクラに俺は大分骨抜きにされているな、といつも穏やかな寝顔を晒す彼女を見つめていた。


********


我愛羅くんは結構可愛い。
そりゃあ勿論格好いいところも頼りになるところもあるけれど、何かふとした瞬間に「あ、可愛いなぁ…」と思うのだ。
母性本能をくすぐられるとでもいうのだろうか。とかく胸がキュン、と音を立ててしまうことが多々ある。

先日の事なのだが、パトロールも兼ねて彼と一緒に街中を歩いていた。その際商店街のおじさんに捕まって、新商品だというじゃがいものフライを頂いた。
普通のと違って随分カリカリに揚げられたソレは、じゃがいものも甘味と振りかけられた塩のしょっぱさが上手い具合にミックスしてて本当に美味しかった。
それにサクサクカリカリに揚げられていたので食べている時の音もよく、聞いていたら自分も食べたくなるような音だ。
実際彼も気に入ったのだろう。
貰ったフライを一心不乱に食べる姿がハムスターみたいで可愛らしく、膨らんだほっぺたを突いてみたくなった。
ついでに面白半分で一本手にとって、はい。と口元に持って行けばそのままサクサクと齧りだしたので、その時は笑いそうになった。
何と言うか、結構可愛らしいのだ。


あと彼は結構猫っぽいのだけど、時々犬みたいになる。
この間の休日は物凄い猛暑で、流石の彼もバテ気味だった。だからちょっとでも涼を、と思って氷菓を渡したのだが、彼は食べ終わった後でも棒をずっと齧っていた。
誰かに見られていないとはいえ、あまり褒められたものじゃない。
だからいい加減に離しなさい。とアイスの棒を掴んだら、彼はうーっ、と声を上げて更に強く棒に噛みついた。
そんなことしても食べたアイスは戻ってこないわよ、と抗議しつつ引っこ抜こうとしたが、彼はおもちゃを取られまいとする犬みたいにソレに齧りついて離さなかった。

結局諦めて手を離せば、彼は数度瞬いた後にソレを離した。
思わずこの野郎、と無駄な努力をさせたことに睨んだが、彼は珍しく楽しそうに笑ったのだ。

ああもう、構って欲しいなら初めからそう言いなさいよ。
と思いはしたのだけれど、そんなこと言うような人でもない。だから私は本当にしょうがないんだから。と悪態をつきつつ彼の頬を横に伸ばした。
その時に漏れたいててて、という声が可愛くて、私は結局笑って許してしまったのだ。


他には去年の話なのだが、海に遊びに行こう!という話になった時彼にビーチボールを渡した。
彼はキョトンとしていたけれど、空気を入れておいて。と言えば素直に従った。
けれどその時頬を膨らませて空気を入れる姿が珍しくて、大きく息を吸ってビーチボールに空気を入れる彼をじっと眺めていた。
あまり大きくなかったビーチボールはあっという間に膨らみ、彼は銭をして一人で遊び始めた。
ポーンポーンと上に上げて、弾いて。それを繰り返しているうちにバランスを崩し、ボールを顔面で受け取った後ソファーに沈んだ。
その姿があんまりにも間抜けで滑稽で、声を上げて笑えばむくれた顔が私を見ていた。

そんな子供っぽい姿も見せてくれる。
私の前だと格好つけない彼が心底可愛くて愛しくてたまらないのだ。



「…というのをサクラから聞かされてね…」
「ああ…お前もか…俺もじゃん…我愛羅から聞かされてよ…」
「幸せなんだろうなぁ、とは思うが…」
「お裾わけしなくてもいいじゃん…」

休憩室でぐったりと倒れるテマリとカンクロウは互いに空を仰ぎ、今日も平和でよかったなぁ、と執務室から聞こえる楽しげな男女の声に耳を塞いだ。


end



新婚夫婦のとばっちりを受ける姉兄の話。(笑)



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