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貴族パロで主従関係。
お姫様サクラちゃんと仕立て屋我愛羅くんの我→←←サクちゃん風味。
※悲恋です。
私には専属の仕立て屋がいる。採寸から制作まで、全て自分の手で行う職人気質の気難しい男。
それでも彼は私と大して歳が変わらず、昔は幼馴染のような関係で育ってきた。
「我愛羅くん、いる?」
それでも時がたつにつれ彼は私との身分の差を気にして敬語を使うようになり、昔はサクラちゃん!と呼んでいた名前も“お嬢様”に変わってしまった。
寂しいとは思う。
けど我儘は言えない。国を引き継ぐのはいつか迎え入れる婿養子だと決まっているけれど、私は出来ることなら自分の国を背負いたいと思っていた。
でもお父様もお母様もそれは許してはくれない。女が当主になれないなんて一体誰が決めたかのか。二人だって知らないのに王位につくのは無理だというのだ。
もし私が王女になれば身分も関係なく結婚できるようにするのに。
でもそんな不純な理由じゃ王女にはなれないかと半ば諦めつつ彼の仕事部屋をノックすれば、少し沈黙が返ってきた後ガタガタと椅子をひく音がした。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「うん、ちょっと…ってやだ!あんたまた寝てないでしょ?!鏡見なさいよ鏡!隈凄いことになってるわよ?!」
扉を開けて出てきたのは作業着を着た幼馴染。けれど昔から無茶をする気質がある彼は案の定目の周りに濃い隈を作っており、私は思わず飛び上がった。
「ああ…申し訳ありません。つい夢中になって…」
「もう…ドレスの期日はまだあるんだから、もう少しのんびりしても…」
そう、今彼は今度行われる舞踏会のドレスを作っていた。勿論それは私専用のドレスで、彼はいつも私の衣服を仕立てていた。
ドレスから寝巻まで、下着ですら彼の手で作り上げられる。そこいらの仕立て屋よりも遥かに腕の立つ彼は私より立派に働き、社会に貢献している。
対する私はいつだって着飾られてニコニコしているだけのお人形さん。こんな自分よりも遥かに立派な彼は、それでも私の前に跪き頭を下げるのだ。
「いえ、そういうわけにはいきません。お嬢様には誰よりも美しく、誰よりも素晴らしいドレスをお召しになっていただきたい。これは私の意地のようなものですよ」
答えつつ彼は作業着にくっついていた糸くずを屑籠に入れ、所で何か御用でしたか?と首を傾ける。
私は彼の隈が出来た目元に向かって手を伸ばし、驚き身を引く彼に有無を言わせぬままそこをなぞった。
普段は身に着けている彼が作った手袋は勿論外した。彼に触れる時は、出来る限り生身で触れたかった。
「ちょっと顔が見たくなったの。あなた、すぐ無茶するから」
「そのようなことは…」
「口答えしないで。いいから…ちょっと付き合いなさいよ…」
彼は昔から無茶をする。いつも寝る間も惜しんで私のために服を作る。
いつだって私に“最高の服を着てもらいたい”。たったそれだけの願いで彼は無茶をする。
何日も寝ないなんてザラだ。仕立て屋になると決めた時なんか指にいっぱい絆創膏を貼りつけ、それでも針を握って衣服を縫っていた。
私はそんな彼を尊敬し、尚且つ惹かれていた。
「そういえばもうすぐお嬢様が好きな花が咲く頃ですね」
彼を連れて出てきたのは我が家自慢の庭園だ。
そこには四季折々の草花が所狭しと植えられ、今もあちらこちらで花々が自身の美しさを遺憾なく発揮している。
けれど私が好きな花は未だ蕾で開かない。時期が違うとはいえ、私は早くその蕾が開けばいいと思っている。そうすれば、花見と称して彼ともっと一緒にいられるのに。
「…花、咲いたら報告してよね」
「ええ、勿論ですとも。庭師のカンクロウにも伝えておきましょう」
カンクロウとは彼の兄でありこの家の庭師である。とはいえ年齢的にまだ見習いで、先日ようやく花に触れることを許されたばかりだと言う。
彼も私の前で見せるのは恥ずかしいと言っていたが、土を触り続けてひび割れた指先は働き者の美しい手だった。
二人はいつも私の傷一つない、布巾すら絞ったことのない指を美しいと言う。でも私はこの飾り物のような指が嫌いだった。
私だって彼らのように、生きた、生きている指になりたかった。
「…今日、いい天気よね」
「そうですね」
「お昼寝とか…したくならない?」
「はぁ…まぁ、今眠ったら心地好いでしょうね。何か上掛けでも持ってきましょうか」
キョトンとした後に問いかけてくる鈍感な彼に、私は違うわよ!と叫んで立ち上がる。
ここが広い庭でなければ誰かが私の声に気付いて駆けつけただろう。
けれどここは庭園の中央に位置した小さなガゼボだ。覗きに来なければ声など聞こえない。
「寝なさいって言ってんの!そんな目の周りにお化けみたいな隈作って、恥ずかしいと思わないの?!」
違う。
本当はこんな酷いことが言いたいんじゃない。
けれど私の口は素直な気持ちを言ってはくれず、代わりに彼を酷く傷つける言葉を零してしまった。
「…すみません。お恥ずかしい思いをさせてしまって。表に出ることがないのでつい油断しておりました。お許しを」
そう言って私の前に跪く、幼馴染の赤い髪を見つめるのが寂しくて辛い。
私は違うの違うのと心中で叫びながら、それでも素直になれなくて上げたばかりの腰を下す。
「分かればいいのよ…分かれば…」
どうして私は素直になれないのだろう。立場がそうさせるのか、それとも私の思いがそうさせるのか。
分からないけれどズキズキと痛いほどに疼く胸を服の上から押さえれば、顔を上げた彼がお嬢様、と告げてきた。
一体何かと思い彼を見下ろせば、普段ならあまり見ることのない強い眼差しが私を見抜く。
私と同じはずの翡翠の瞳は、私のものなんかよりずっと生き生きと輝き生命を謳歌している。それが羨ましくて、眩しかった。
「恐れながらもお願いがございます」
「何よ…」
今度行われるパーティーは私の婚約者を世間に公表するためのものだった。
そこで私は初めて相手と言葉を交わす羽目になり、ついでに食事も共にしなければならなかった。
だけど私には分かるのだ。その相手が決して私を愛してはくれないと。地位に目が眩んだ男の妻になるなど、本当は嫌だった。
「差し出がましいとは思いますが…どうか、どうか…」
苦しげに顔を伏せる彼の体から滲み出る、気迫のような懇願に私は驚き、それから唇を噛みしめる。
「………分かったわ。お父様とお母様に、お願いしてみる…」
「ありがとうございます…!」
どこか嬉しそうな彼の声にますます私の小さな胸は締め付けられ目の奥が熱くなる。
彼は残酷だ。
私の思いを知らないからって、そんなお願いしなくてもいいではないか。
でも私だって、彼の仕立てる服以外着るつもりなどない。例えそれが、私の花嫁衣装だったとしても。
「お嬢様にお似合いの美しいドレスを仕立てます。この世で最も美しく、どんな宝石も、どんな花にも劣らない。お嬢様が世界で一番美しく輝けるドレスを、必ず私の手で作り上げます」
そう言ってどこか誇らしげに決意を露わにする彼に私は一度唇を噛みしめた後、それは楽しみね。と無理やり笑って見せた。
それでも疼く胸は痛みを増して、紅茶の用意でもしてきますと告げて席を外した彼にばれぬよう、そっと雫を落とした。
彼が作った衣服は素晴らしく、私の流したソレも吸い込むことなく弾いて地面へと落としてしまう。
どんな美しい宝石も、どんなに綺麗な花もいらない。私が本当に欲しいのはドレスでも花でも地位でも夫でもなく、たった一人の幼馴染なのだと、声にならない声で囁いた。
仕立て屋の彼は決して私を攫ったりはしてくれない。
どこまでも忠実で、純朴な彼は私の王子様にはなってくれなかった。
end
果たして拍手分として相応しいのかどうか悩む産物…(´・ω・`)
でもたまにはこういうのもいいんじゃないかな!とか思って書いてみたり。(笑)
しかし貴族パロディでサクラちゃんの方が立場が上とか…これはこれでうめえ!とか思ったはずなのに自分で書いたら(´・ω・`)っていう感じでした。
残念!!
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