小説
- ナノ -


あなたに溺れて



アンケートを参考にしつつ途中まで書いてたEROを完成させてみました。

現パロで作家我愛羅くん×記者サクラちゃん。でもあんまり関係ない。(笑)




私と彼が初めて会ったのは授賞式のパーティー会場だった。当時私は某新聞社に勤めていて、彼にインタビューをするために式に訪れていた。

『おめでとうございます、先生。今作でちょうど十作目となりますが…』

元々私は彼のファンだった。初めて彼の小説を手にしたのは大学生の頃。デビュー作にも関わらず大ヒットした彼の作品は映画にもなり、海外にも影響を与えた。
だがデビュー作を当てたからと言って今後の作家人生が安定するわけではない。現に初めだけ売れていつしか消えて行く作家も少なくない。
けれど彼は続けて二作、三作と作品を当てて行き、遂には映画化やドラマ化の常連作家として名を馳せた。その頃には彼の名を知らない人は少なくなり、いたとしても作品の概要を伝えれば誰もがああ、あれね。と返すほどには名の知れた作家である。
とはいえ作家と言うのは大概が気難しい性格をしているもので、現に彼も相当な人間嫌いだと聞いていた。ドラマや映画でも監督と直に会うことはなく、いつもパソコンのメールでやりとりをしていたらしい。
何せ担当の編集者でさえ初めの一年は姿を拝むことが出来なかったのだと言う。そんな彼も二十を過ぎ、三十に突入してからようやく公の場に出ることが増えてきた。

「先生、いらっしゃいますか?」

昔ながらの広い日本家屋の前。懐かしい形の呼び鈴に指を落としてから声をかける。茹だるような暑さの中、蝉の声を聞きつつ流れる汗をハンカチで拭う。
私が彼の家に訪れるのはこれが初めてではなかった。

『入ってきなさい』

懐かしい形の呼び鈴の隣、最新機器のドアフォンから彼のくぐもった声が返ってくる。私はそれに対しはいと返してから鍵のかかっていない引き戸に手をかけた。
彼の家は築五十年という大分古めかしいものだが、その分年季の入った床や柱の放つ光沢は何ともいえず美しい。いつかの取材で訪れた漆塗りの器のようにそれらは艶めかしく光を反射していた。

「先生、春野です」
「ああ、暑い中足を運んでもらってすまないな」

一つの部屋の前、少しばかり日焼けした襖の前に鎮座してから声をかける。夏場にも関わらず少しヒヤリとした床が火照った体に丁度良い。
そして開いた襖の向こう、庭の向こうから聞こえてくる蝉の声の煩わしさも彼を視界に入れた瞬間どうでもよくなった。

「いえ…私こそお時間を頂戴して申し訳ないです」
「構わんさ。丁度原稿も一段落したことだ」

彼の手元にはクリップで止められた白い原稿がある。今の時代こうして紙面に書き起こす作家がどれほどいるのかは分からないが、彼は未だにアナログを突き通している。
黒々とした万年筆のインクが白い紙面を彩る様を視界に入れながら、私は彼の涼しげな浴衣姿に目を奪われた。

「浴衣…お似合いですね」
「そうか。ありがとう」

三十代の男と言うのはどうしてこう若くも渋くも見えるのか。濃紺の浴衣の合間から見える肌は十代の学生に比べればハリや瑞々しさはないが、二十代の若者に比べ色気がある。
見える首筋に流れる汗の雫がまるで極上の甘露のように鎖骨に流れていくのを目で追いながら、私は頭を下げてから立ち上がった。

「今度の作品はどういったお話なんですか?」
「ん?ああ…今回は男女の恋物語だ。二、三年前にそう言った話を続けて出しただろう。あれの評判がよかったらしくてな、編集に頼まれた」

人気作家というものは何も一つの作品に絞って文字を起こしているわけではない。幾つもある文学雑誌等に別々の連載を持つ作家はごまんといる。実際彼もその一人で、今は三社の連載を請け負っていた。

「とはいえ年若い男女の気持ちなど書き起こす気になれなくてな。少しばかり年齢はオーバーさせてもらった」
「あら、先生だってまだお若いのに」
「数字上はな」

彼の作品は多岐に渡る。デビュー作はミステリー・ホラーであったにも関わらず、二作目はハードボイルド、三作目は冒険譚であった。
それ以外にもエッセイやコラム、とある雑誌に載せていた書評を数年分まとめて出版した物も全て好評だった。勿論私はそのどれをも欠かさずに所持している。
発売当日になれば書店に行列が出来る程彼の作品は人気で有名だ。私だって予約は欠かさずいれるし、寝る間も惜しんで読み進める。
彼の文章の作り、選ぶ言葉。作り上げたキャラクターたち。その個性。その全てが魅力的だった。
そんな彼の作品すべてを愛する私ではあるが、何も彼は一つの名前で活動しているわけではない。名前を複数持って活動する作家は多く、彼もまたその一人だ。
そして彼がもう一つの名で活動している分野が、官能小説だった。

「以前は一人の男が何人もの女と寝る話を書いたが…今回は逆でな」
「女性が多くの男性と関係を持つ話ですか?」
「ああ。愛に飢えた女を書いてみた」

彼の描く男女には言いようのない魅力がある。時には不倫であったり、時にはセックスの手引きであったり。男が女を開花させていく話もあれば、女をペットのように扱い没落させていく話もある。
けれどそのどれもが心をくすぐり、官能の波に誘ってくれる。厭らしい写真や映像には負けない艶めかしさが彼の作品には溢れていた。

「物欲しそうな目だな。だがまだ駄目だ。編集にも見せてないからな」

彼は珍しく意地悪そうに口角を上げた後原稿を伏せてしまった。そうして机上に立てていた茶封筒の中から一枚引き取り、そこに仕舞って封をした。

「別に物欲しそうな顔なんて…」
「そうか?では俺の勘違いか。すまなかったな」

揶揄する彼が喉の奥で笑う。けれど本当は何も違わなかった。私は彼の作品を愛している。けれどその作品を通して、私は彼に堪えようのない思いを抱いていた。
女子学生が抱く淡い恋心とは違う、身も心も悶えて震えるような、地獄の業火のような狂おしい熱情だった。

「しかし今日は暑いな…スーツなど、特に暑いだろう」

彼は手にした団扇でハタハタと自身を煽ぎ、それから生温い風を私に送った。それには彼の汗の匂いと体臭が僅かに乗っており、私は思わずごくりと生唾を飲み干した。

「仕事、ですから…」

今私はフリーで動いている。自身で書いた記事を売って生計を立てているのだ。実際彼の記事は高く売れる。滅多に公に出ない人だからほんの少しのインタビューでも価値があるのだ。

「相変わらずお堅いな」

僅かに笑う彼の額から再び汗が滑り落ちる。葉の上に乗った雫がそっと地面に舞い落ちるように、それはするりと頬を滑り首筋へと流れていった。

「だがここには俺しかいないんだ。上着位脱いだらどうだ?別に構うことはないぞ?」

彼は団扇で扇ぎつつ視線を流してきた。私はくらくらと回りそうになる視界を必死に制しながら、お言葉に甘えて、と口上してからスーツの上着に手をかける。
夏の暑さとは違う、別の熱に浮かされ掻いた汗が気持ち悪かった。

「ハンガーはそっちだ。掛けておきなさい」
「はい。ありがとうございます」

畳の上で正座していた足を崩し、立ち上がった途端庭から涼しい風が吹いてきた。それは軒下の風鈴を揺らすには十分で、蝉の声に交じり美しい音色が部屋に木霊する。
彼はその音色を気持ちよさそうに味わった後、上着を脱いだ私の背中に言葉を投げてきた。

「今日は随分と無防備だな。透けてるぞ」

何が、とは聞かなかった。新卒じゃないのだからと特に気にせず着ていた空色のYシャツだが、やはり透けていたらしい。けれど私は隠す気なんてなかった。
だって初めから、私は彼に見てもらいたかった。

「やだ、あまり見ないでください」
「見るなと言われてもな。視界に入るんだ、仕方ないだろう」

それに俺は男だしな。と付け加えられ思わずほくそ笑む。彼に女として見てもらえることが何よりも嬉しかった。

「それにお前の肌は美しい。それは誰より、俺が知っている」

彼の声が背中に降りかかる。蝉の声に交ざって聞こえる風鈴の高い音さえ、頭の中で眩暈を起こすようにぐるりと回って消えた。
私は乾いた唇を潤す様に、紅の乗ったそこを舌で撫でた。

「…あまり、からかわないでください」
「からかってないさ。事実を述べたまでだ」

スーツの上着は既にハンガーに掛かっている。けれど私は彼に背中を向けたまま振り返れないでいた。汗で張り付くYシャツに、また新たな汗が滲んでいった。

「…サクラ、来なさい」

彼の声が私を呼ぶ。まるで甘い媚薬のようにそれは私の耳殻を優しくなぞり、ふつふつと煮えはじめていた官能の火を煽っていく。

「前を開けて。見せてくれないか?」

彼の視線は静かだ。辺りの喧騒とは違い、山奥にひっそりと佇む泉のように静かだ。けれどその静かな瞳の奥、有無を言わせぬ熱が私を射ぬいて離さない。

「戸…閉めてください…」
「ふっ、恥ずかしがることはない。誰も覗いたりはしないさ」

彼の敷地は広い上に垣根が高い。悪戯な子供たちが覗こうと思っても大きな脚立を持ってこなければ無理だろう。それに庭から家屋までの距離も長い。
視力低下が著しい昨今の若者では眼鏡やコンタクトなしで部屋の中を覗くことは出来ないだろう。

「それに暑いしな。噎せ返るような暑さは嫌いなんだ」

彼はそう言ったきり団扇を煽ぐ手は止めず、けれど視線だけはそのままに口を閉ざしてしまった。
私はその涼しくも熱い眼差しに射抜かれながら、ゆっくりと手を持ち上げ、シャツのボタンに手をかけた。

「はっ…っ…」

一つ、二つ。外していく度汗が滲んでくる。額に、鼻先に。化粧が落ちるかもしれないという懸念もあるにはあったが、それでも彼の言葉には逆らえなかった。
早く。と急かしてこない彼の瞳はそれでも確実に私の指先から離れていくボタンを見つめており、そこから緩んでいくシャツの隙間に視線が移っていく。

(見られてる…)

初めて彼に会った時はこんな関係になるなんて思ってもみなかった。まだ二十代半ばだった私は無鉄砲に彼に突撃し、幾度も辛酸を舐めてきた。
それでも諦めきれなかった。彼の姿を一度でもいいから見たかった。声を聞いてみたかった。あの迸る情熱が溢れんばかりの、二十代の頃描いたデビュー作の随所に盛り込まれた瑞々しい表現を、私は忘れることが出来なかった。

「はぁ…はぁ…」

ただ見られているだけなのに息が上がっていく。彼の視線に炙られているかのように体の内側が熱く燃え、震えていく。

「…全部外したな。ほら、見せてくれ」
「…はい…」

彼のどこまでも優しい、けれど悪魔の囁きのように甘く広がっていく声に促されるように外されたボタンから手を離し前を広げていく。
空色のシャツの下には処女のような純真無垢な白い下着がある。彼はそれを食い入るように見つめた後、私の首筋から流れる汗を視線で追った。

「相変わらず美しい肌だ…実に艶めかしい」

抑えようにも逸る鼓動のせいで間隔の短くなった呼吸に合わせ胸が上下する。決してたわわとは言えない二つの実を、明るい日の下に晒すのはとてつもなく恥ずかしかった。

「暑いのか…照れているのか。白い肌が色づく様を眺められることはいいな。昼間の太陽が徐々に熟れていくように、美しい。血の通った瑞々しい女の肌だ」

私は彼の前で広げたシャツを脱ぐことはせず、ただ顔を背けたまま腕を床に下した。白い下着はきっと目に痛いほどに輝いている。それが分かるからこそ、余計に恥ずかしかった。

「ああ…実にいい。素晴らしい姿だ、サクラ」

彼の高揚した声が耳に届く。それに対し小さくありがとうございますと返す。股の間、女の本能がじゅくじゅくと疼く。彼の視線だけでどうにかなってしまいそうなほど、私の肌を舐める彼の視線は熱かった。

「…サクラ」

幾分か熱っぽくなった彼の声が私を呼ぶ。背けていた顔を上げ視線を向ければ、彼は声の熱っぽさとは裏腹に相変わらず涼しい瞳のまま私の股座を顎で指した。

「どうした。膝を擦り合わせて…正座が辛いなら崩しても構わんぞ」
「ぁ…」

気付けば私は尿意を我慢するように膝をすり合わせていた。そのあまりにもみっともない姿に瞬時に熱が昇る。
けれど彼はそんな私を笑うことなどせず、気楽な格好でいなさいと言う。彼の気遣いに感謝しつつも、私は彼の視線にすっかり逆上せていた。
動こうにもどこか緩慢な動作になってしまい、のろのろと膝を崩した時に股の間が潤っていることに気付いた。ぐちゅり、と濡れた花弁がこすれ合う感触に思わず声を上げそうになるほどには。

「…艶っぽい顔をしている。恥ずかしいのか?」
「ぁ…そ、れは…そう、ですが…」

誰だって明るいうちに下着姿を晒すのは恥ずかしいに決まっている。けれど私は下はそのままだし、Yシャツだって脱ぎ捨てたわけじゃない。
ボタンを外して前だけを開いた状態で彼に見られていただけだというのに、私の下腹は熱く疼いてしょうがなかった。

「…もっと近くに来なさい」
「っ、は、い…」

彼は基本的に動かない。机の前に座った状態のまま私を手招きし、私は汗ばんだ手を畳につきながら前進していく。そこは陽に照らされていたせいか酷く熱く、カラカラに渇いていた。
何とか彼の目前まで忍び寄った私に彼は目を細め、私の瞳をじっと覗き込んできた。

「厭らしい眼だ…先程よりずっと物欲しそうに煌めいているぞ」
「だ、って…それは、先生が…」
「俺が?」

焦らすから。
ゴクリと唾と同時に飲みほした言葉を視線の奥から放ちながら、けれど決してその意を読み取ってくれない彼は私の頬へと手を伸ばす。

「女と言うのは不思議な生き物だ…どうして汗の一つでさえこうも美しく見えるのか…」
「ぁ…」

彼の指の腹が、私の汗を辿るように頬を滑っていく。既に汗ばんでいた肌は湿っぽく、そこを撫でる彼の指も汗ばんでいる。もう聞こえる蝉の声も風鈴の音も、全てが遠い世界のようだった。

「ぁ…っ、はっ…んっ…」

必死に吐息を噛み殺し、彼のもどかしい指がゆっくりと肌を撫でるのを耐え抜く。純真無垢な下着の奥底では私の鼓動が煩いほどに鳴り響き、生命を謳歌するように力強く脈打つ。
もしこのまま彼の手に心臓を貫かれでもしたら相当な勢いで血飛沫が飛びだすだろう。そうして彼のこの涼しげな瞳に、顔に、浴衣に、私の全てが飛び散るのだ。その様はきっとおぞましいほどに美しい。

「せ、んせ…」

彼の手が胸の谷間へと落ちてくる。窪んだ鎖骨を通り、慎ましい胸の縁を辿ってから落ちてくる。忙しなく上下する肌を堪能するように、彼はそこに指を当て静止した。

「命の音がする…仔馬のように生き生きとしたいい音だ。愛しい、かけがえのない音だ」
「先生…」

彼の唇が鎖骨へと落ちてくる。窪みに溜まった汗を、彼の舌が舐め取っていく。

「あっ…!あつい…!」

じゅっ、と音を立てて吸われた汗が、彼の唾液と共に彼の喉の奥を通っていく。汗なんて汚いもの飲まないでほしい。そう思うのに、心のどこかで歓喜している自分がいる。

「女の汗と言うのはどうしてこうも甘いのか…うむ…謎だな」

首を傾ける彼の口からとぼけているのか真面目なのか、判断に困る言葉が落ちてくる。けれど私が熱い吐息を漏らしつつ上目で見上げれば、彼は口角を僅かにあげて顔を寄せてきた。

「君の汗は甘いな」
「そう、ですか…」

重なるようで、重ならない。絶妙な距離を保ったまま唇に吐息が触れるのがくすぐったい。どうかこのまま口付て欲しい。赤い紅を落とす様に、貪るように口付て欲しい。
そう思うのに彼はそこから動くことはせず、ただギリギリ視認できる距離で私の唇を吐息で撫でていく。

「香水をつけていないはずなのに髪や肌から香る匂いも甘い。普段気を付けていることはあるのか?」
「そんなこと…」

ある。本当はいつだって、彼に会う前には必ず入浴を済ませ、少し値段が張るボディクリームを肌に滑らせ、滑らかなトリートメントを髪になじませてから家を出る。
例えこの夏場で汗を掻いても嫌がられないように、体のどこを触られてもいいように、いつだって肌の手入れは欠かさない。

「ああ…このじれったい距離もたまらなく魅力的だな。もっと楽しんでいたい」
「もう…あんまり焦らさないでくださいよ…」

私の方は限界だった。早く彼が欲しくて仕方なかった。
初めの頃はこんなにも厭らしくなかった。男性との経験が少ない私を彼は可愛がってくれた。飼い猫を甘やかす様に、優しく、けれど躾けるように、甘やかしてくれた。

「何だ、もう欲しくなったのか?堪え性のない子だな」

彼の楽しげな声が肌をなぞる。それだけで私の肌はぶわりと粟立ち、空気を含んだように膨れ上がっていく。
欲しくて欲しくてたまらない体はそれだけで疼いて仕方なく、私はごくりと唾を飲み干してから彼の瞳に訴えかけた。

「先生…私、先生が欲しいです…ください、先生…」

日に当てられた肌より、乾いた口内から強請ることの方がヒリヒリと焼けつくように熱くて痛かった。
けれど彼は私の言葉に楽しそうに目を細めた後、まるで子供騙しみたいな軽い口付を落としてきた。

「やだ、先生もっと…」
「ふっ…せっかちだな。もっと今の状況を楽しみなさい」

笑う彼に思わず視界が滲む。けれど彼は私の頬に指を馳せた後、不意打ちのように耳に口付てきた。

「あっ!」

耳元からダイレクトに聞こえてきた水音に盛大に体が跳ねる。そうして崩れそうになる体を必死に持ちこたえていると、彼の唇が何度も耳たぶを食み、舌先でくすぐってくる。

「んんっ…!ん、っー…」

ブルブルといつしか畳の上についていた腕が震える。それなのに彼は耳を責めることは止めず、指先一つ動かさずに私の体を高ぶらせていく。

「先生、先生っ…!もうダメです、早く、触ってください…!」

私の体は既に彼好みに開発されている。男性経験の少なかった私の肌はもう既に彼の言葉や吐息の一つでさえ反応してしまう。なのにこんなに焦らされて、私の脳みそは暑さと相まって完全に溶けていた。

「やらしいな、サクラは。だがいいだろう。あまり虐めすぎると可哀想だからな」

そう言って笑うやいなや、彼は私のブラの隙間から指を滑り込ませ丸く尖った頂きを指先でぎゅっと抓んできた。

「あうっ!」

ようやく与えられた確かな刺激に背が仰け反る。そうして大きく開いた口で精一杯酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐きだしている間にも絶えず彼の指先が私の小さな実を摘んでいく。

「まだキスもしてないのにこんなに硬く尖らせて…随分と厭らしい女になったものだな、サクラ」
「あ、ああ…やだぁ…」

耳の中に直接吹き込まれる意地悪な声。けれどその中に確かに響く甘い音色に毒され、体から力が抜けていく。

「先生…キスしてください…お願いします、先生…」
「仕方ない奴だな。ほら、舌をだして」

彼に促され素直に舌を差し出せば、口を開いた彼に舌先を吸われ背が震える。そうしてくちゅりと音を立てて舌同士を軽く絡めた後、彼は一気に距離を詰めるようにして後頭部に手を挿し入れ口付てくる。

「んんっ…!んっ…ふぅ…」

重なる唇は唾液だけでなく汗でも湿っている。けれど彼の薄い唇は焼けるように熱く、舌は肉厚で別の生き物のように口内を蹂躙していく。
唇の角度を変え唾液を啜りあう度頭の中で厭らしい水音が木霊し、その度に私は股を摺合せ、震える背中を仰け反らせながら彼の背中を掻き抱く。

「はっ、せんせぇえ…」
「ははっ、もう舌が回ってないのか。可愛い奴だな」

彼の口付で頭までトロトロに溶けてしまった私は無意識に彼の足に自分の股を擦りつけていた。まるで発情した犬のようだったけれど、彼は気にせず私のベルトのバックルに手を伸ばす。

「ああ…すごいな。サクラ、お前の厭らしい露で下着が濡れてしまっているぞ」
「んっ…だってぇ…」

彼の指がするするとズボンを下ろしていく。膝立ちになった太ももの半ばで止まったスーツの裏地は汗で湿っており、シャツの隙間から垣間見える下着は湿った匂いを漂わせていた。

「ほら、後は自分でしなさい。見ててやるから。出来るだろう?」
「はい…」

私は彼に見られることが好きだ。ボタンを外していく過程も、ズボンをおろし濡れた下着を見られるのも。
厭らしい女と詰られることに興奮する。はしたない女だとからかわれると胸が疼く。そうしてそれが如実に表れる濡れた下着を足から抜き取り、疼く花弁を彼の前に晒した。

「ぁ…先生…見て…私のやらしい所…我慢できなくて、もうこんなになってるの…」
「ああ…よく見えるぞ。本当にやらしくて、美しい…」

彼の目の前に立って、後ろを向いて足を開く。そうして彼の前に濡れた花弁をありありと晒せば、彼の喉が嚥下するのが確かに見えた。

「何度見てもお前のコレは美しいな…蝶の翅のように艶やかで、美しく、色っぽい…」
「んあっ…ん…」

彼の指が花弁に触れる。溢れる露を擦りこむように、縁をなぞって、撫でてくる。

「もう足の合間を垂れてきたか。早いな」
「んんっ…!」

揶揄しつつも彼の舌が太腿の裏を舐めていく。本当はそんな所に伝ってないだろうに。けれど私はそれすらも嬉しい。

「先生…先生、舐めて…自分で広げるから、いっぱい舐めてぇ…」
「まったく…どんどん厭らしくなっていくな、サクラは」

彼が苦笑いする姿を股の間から見たけど、私は気にすることなく足を更に開き、指先で彼が蝶の翅と例えた花弁を広げた。
そこはすでに朝露で濡れた花とは違い、梅雨の雨に打たれた花のようにどこもかしこも濡れそぼっていた。

「倒れる前にちゃんと言うんだぞ」
「はい…」

彼の舌技は半端ない。何と言うか、本当に私の弱い所を知り尽くしているからすぐに腰砕けになってしまうのだ。それでも出来る限り彼の舌に愛されたくて我慢するが、結局はすぐに膝が折れてしまう。

「先生…!も、だめー…」

ブルブルと足が震え、体を支えていられなくなる。けれど彼は既に見越していたのか、私の腰に手を回すとそのまま股の間に座るよう促してきた。

「まったく…自分から言い出した癖に…困った奴だ」
「あんっ!や、あっ!そこ、そこ撫でちゃっ…!!」

耳元で揶揄されつつ、彼の濡れた指が撫でたのは最も敏感な花芽。そこを指の腹で撫でられるだけで私の体は一気に昂ぶり、体中に汗が吹き出す。

「あああ…!んっ、いっ…!んん〜っ」

唇を噛みしめ、溢れる声を押し殺す。なのに彼はそんな私を嘲笑うかのように指の動きを速め花芽を嬲っていく。

「あっ、だめっ、もうだめっ、イく、イくっ…イくっ…!」
「ん、イっていいぞ」

耳に優しく口付られながら、甘い吐息を送られあっけなく達してしまう。ぴんと張った足はビクビクと何度も震え、濡れた花弁の奥からは厭らしい露が溢れ出す。

「はあー…はーっ…」
「はは、汗と涙で顔がぐちゃぐちゃだな」

笑う彼の指が額や頬に張り付いた髪を払っていく。そうして口の端から流れていたはしたない唾液を指で拭うと、その指をそのまま花弁の奥に挿し入れてきた。

「あうっ…!せんせ、だめっ…!わたし、いま、イったばっかり…!!」
「ん、知ってる。だからだよ」

意地悪な彼に抱き込まれたまま、私の疼く膣の中に彼の指が埋まっていく。そうして根元までしっかり銜え込まされたかと思うと、彼は私の蠢く肉を楽しむように静止した。

「ああ…いいなぁ、この締め付け具合。熱さ、ぬるつき。ずっと包まれていたい」
「はっ…はっ…ぁあ…」

彼の肩に頭を預け、過ぎる余韻に浸っているともう一方の腕が未だ取られていなかったブラジャーへと伸びる。

「サクラ」
「んぅ、は、い…」

彼に促され、私は二の腕の途中で止まっていたシャツを脱ぎ、ブラの金具を外そうとした。けれど力の抜けた指では外すことが出来ず、見かねた彼が片手で器用に外してしまった。

「ここに鏡でもあったらお前の厭らしい姿を見せながらできたのにな」
「やだ…意地悪、しないで…ください…」

とはいえ一度そういうプレイをしたことはある。けれどその時はまだ若く、ここまで開発されてはいなかった。もし今そんなことされたらもっと乱れてしまう自信がある。
私は彼の手で、彼と行為を重ねる度に厭らしくなっていく女だから。

「意地悪とはよく言う。初めは恥ずかしがってたくせにこうして足を惜しげもなく広げ、明るい日の下肌を晒すお前を満足させようとしてるんじゃないか」
「はっ…私、には…先生がいればそれで…」

嘘は言っていない。私は彼の指で、唇で、舌で、ここまで厭らしく変わってしまった。彼に見られるのも焦らされるのも大好きな女になってしまった。はしたないと詰られても股を濡らしてしまう、そんな女に。

「ふっ…可愛いことを言う」
「あぁ!」

甘えるように彼に背を預けていた体が跳ねる。膣に埋め込まれていない指が再び胸の実を抓んでいた。

「そういえばココも随分腫れて大きくなってきたな」
「あーっ!あ、あぁ…んっ、ふっ、う、んーっ」

実りの少ない乳房の先、彼の指先が丸く尖った実を捏ねくり回す。時にはぐりぐりと押し込められ、時にはぐいと引っ張られ。その度に走る快楽に身悶えていると、徐々に股の間に埋まった指のことを意識し始めてしまう。

「せ、せんせ…!指、指ぃ…!」
「ん?抜いてほしいのか?」

開いた足の合間、彼が埋め込んだ指をゆっくりと引き抜いていく。けれど私が首を横に振ればそれは再度押し込められ、ついでとばかりに膨れた花芽を掌で擦られる。

「んああーっ!!」

もう閉じることさえできなくなった口から叫ぶように喘ぎ声が漏れる。けれど彼の敷地は広い。きっと外には大した音量で聞こえてはいないだろう。

「今更だが…このままだと浴衣どころか畳まで濡れてしまいそうだな」
「んあっ…」

耳元で苦笑いした彼が指を引き抜く。途端に私の膣は物欲しげにひくつくが、彼は気にせず立ち上がる。

「バスタオルを取ってくるから、お前は一人でシながら待ってなさい」
「あっ…そんな…」
「ちゃんと出来たらお前の欲しいものをあげるさ」

彼はしたりと笑ってから部屋を出る。私は先程視界に入った彼の猛ったモノを飲み込む姿を想像しつつ、そろそろと股の間に手を伸ばす。

「はっ…先生…せんせ……が、あらせんせ…」

我愛羅、とは彼の本名だ。いつもは先生と呼んでいるが、彼がいない時に彼の名前を呼ぶと酷く興奮した。いけないことをしている自分が、私は好きだった。

「んっ、んー…!」

まだ日が明るいと言うのに私は一糸纏わぬ姿で、畳に胸を擦りつけながら自慰に耽っている。なんて浅ましい姿だろう。そう思うのに、彼の言葉が私の熱を煽っていく。

「おお…好い眺めだな」
「あっ…せんせ…!」

戻ってきた彼は私の雌犬のようなポーズを見て何を思ったのか、楽しげに目を細めてから背後に回る。

「サクラ、もっと腰を上げて」
「あ…はい…」
「そう。いい子だ。それから足をもっと開いて」
「ああ…恥ずかしい…」

けれど私は先程晒したように、再び彼の前で濡れた花弁を晒した。自分の指を深く埋め込んだ、その厭らしい姿を。

「うん。実にいいな。サクラ、続きをしなさい」
「そ、んな…!」
「ほら、早く。いい子だから」
「はうぅ…」

彼にお尻を撫でられ、そのままぐにぐにと揉まれる。それだけで私の肌はピリピリと粟立ち、欲望に耐え切れず指を動かしていく。

「はあ、んぅ、あ、はあっ、あ、あー…っ」

暫く私はそうして一人で、彼に性器を晒しながら自慰に耽った。見られている。彼の熱い視線を感じる度に膣の奥からは絶えず露が溢れ出し、それは彼の用意したバスタオルに吸い込まれ染みになっていく。

「はあ…せんせ、だめ、ですっ、もう、イき、イきますっ…!」
「ああ…いいよ…見せてごらん」

ずっと黙って私の自慰を見ていた彼の掠れた声を耳にし、私は弱い所を存分に虐め、畳に額を押し付けながら果てた。
そうしてがくりと力が抜けた体を畳に伸ばせば、彼の手が私の足を撫でまわしはじめた。

「最高に厭らしい姿だったぞ、サクラ。ビデオに収めておけばよかった」
「ん…そんなの、いやぁ…」

ビデオを見るくらいなら私を呼んで欲しい。そうしたら何度だって目の前でシて見せるのに。
そんな想いが視線から伝わったのか、彼は唇の端をあげると私の片足を担ぎつつ唇に口付てきた。

「だが、そうだな。やはりすぐに触れる分生身の方がいいな」
「ぁ…先生…」

彼の首の裏に手を回し、擦れる畳の柔らかな、けれど逆立った感触を味わっていると彼が浴衣の帯を外す。

「ちゃんとしがみついてなさい。少し抱き上げるぞ」
「ん、はい…」

担がれていた足を卸す彼の手が浴衣へとかかる。私は露わになった肌をうっとりと眺めながら両足を腰に回し、彼の首に齧りつく。
そうして浮いた隙間に彼が素早く脱いだ浴衣を敷き、私は再びそこに寝かされた。

「あ…先生の匂いがする…」
「さっきまで着ていたからな」

背中にあたる浴衣は熱く湿っぽい。彼も汗を掻いていたのだと思うとそれだけで私は興奮し、再び下腹が疼きだす。

「先生…」
「こら、まだゴムをつけてないんだ。待ちなさい」

彼の勃ち上がった性器を握りしめ、花弁の奥に押し込もうとした私を彼が苦笑いで制する。思わず唇を尖らせる私に彼は口付た後、手慣れた動作でゴムをつけた。

「全く…男を知らなかったお前は何処に行ったんだろうな」
「ん…先生のせいだもん…先生が私をエッチにしたんだから…」
「それはまぁ…男冥利に尽きる言葉だな」

彼はむずがる私に軽く笑ってから、花弁に性器を押し当て数度往復させる。

「このままでも大丈夫そうにも見えるが…しかし本当によく濡れているな」
「んっ…早くぅ…」

じわじわと、暑さのせいだけでなく汗ばむ体を押し付ける。彼の額から落ちてくる汗を舌を伸ばして受け止め、飲み込むと同時に彼の性器が花弁の中に押し入ってきた。

「あああ…っ!」
「ぐっ…!うっ…」

指で解したとはいえそれでも自分の指とは圧倒的に違う熱量が下腹を押し上げる。けれどそれによって満たされる幸福感にもにた充足感に、私はうっとりと目を細めた。

「あー…先生の…あつぅい…」
「お前のナカの方が、熱いさ…」

そう言って少し笑った彼を見上げつつ、徐々に腰を揺らしていく彼に足を絡める。

「はっ…はぁ…うっ、ああ…イイ、すごく、気持ちいぞ、サクラ…」
「あ…先生、私、もっ、んんっ!気持ちいいっ…!」

彼の熱い吐息が肌に落ちてくる。さっきまであれほど涼しげな水面を想わせていた瞳はすっかりと熱を帯び、流れる汗と香る体臭がいやおうなく色香を放ち私を誘惑してくる。
そうして寄せられた眉間の皺から彼がいかに私の体で快感を得ているかを感じ、それが更に私の体を高めていく。

「先生、ね、先生…気持ちいい、私のナカ、好き?」
「はっ、ナカじゃなくてお前が好きだよ、サクラ」

好き。たった二文字の言葉なのにどうしてこれほどまでに嬉しいのか。先程よりも遥かにずっと奮える心に比例するように下腹がきゅぅうと締まり、それが彼に更なる快楽を与える。

「うっ…!くっ、そ、お前、」
「あっ!ああ!は、はげしっ…!」

うっすらと開かれていた目を一度閉じた彼は、けれどその眼を開くと同時に私の腰を強く掴み力強く楔を打ち付けてくる。

「あっ、あぅ、ん、ぁあ、あーっ、せんせ、せんせっ…!」
「はぁ、サクラ、サクラ…!」

がつがつと腰を押し付けられる度、私の子宮が疼いて彼の楔を締め付ける。もう果てが見えてる私たちの間には互いの名前を呼ぶ意外に意識はなく、全身から汗を流しながらも互いを抱き合い腰を擦りつけ合う。

「もうだめ、だめーっ!先生わたし、イっちゃうのぉお!」
「ああ、俺も、むり、だっ、サクラ…!」

一際強く彼に奥を押し上げられ、痛いほどに抱きしめられながら果てるのは気持ちよかった。
小さな胸の奥でドクドクと鼓動が力強く駆け回り、指の先どころか髪の先まで幸福感が広がっていく。

「せんせい…好き…だいすき…」
「ああ…俺も好きだ…サクラ…」

整わない呼吸の合間、必死に紡いで彼の体に縋りつく。汗でぬるつく指で手繰り寄せた体は燃えるように熱く、寄せられた唇はそれ以上に熱かった。

その後無事発売された彼の官能小説はやはり素晴らしく、私は主人公である女性が幾多の男性に抱かれる度に自身を投影して自慰に耽った。
けれどそれは勿論、彼の目の前で…だったが。

end



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