小説
- ナノ -





サソサクお題『欠けた愛を探してる』

自分の目には、もう真の目は入っていない。瞬く度にカシャカシャと音がする傀儡のこの体には、生身の部分など残っていない。
この体に詰まっていた中身はもうない。あるのはこの体で戦うための道具だけ。血も、涙も、心さえも、捨てた俺の体。器。入れ物。
けれど俺の偽りの目玉でも世界は見える。手の中にあるものも、相手の中身も。男だろうが女だろうが中身は皆同じだ。心の中の薄暗いものも、色艶の違いしかない臓物も。だが結局その程度だ。
全部分かっていた。分かっていると自負していた。けれど小娘はそれを否定した。

『あなたには見えていないものがあるわ。とても大事な、目には見えないものが』

見えないものをどう見ろと言うのだ。小娘の頭がおかしくなったかと初めは笑った。
だがアイツはそんな俺を静かな眼差しで見つめた後“あなたには見えないのね”と言った。笑いも、怒りもしない。静かな瞳だった。
小娘は言った。俺に欠けている物は『愛情』だと。だがそんなもの俺にはいらない。傀儡の俺には必要ない。俺に必要なのは力と、この永遠に続く美しさだけ。
それだけが俺の全てだったのに、嗚呼、何故。小娘の言葉がこうも耳に残るのか。残響のように木霊する『愛』の言葉が消えてくれない。

end



サソサクお題『心の距離』

例えば世界が二つあるとしよう。光の世界と、闇の世界。ありきたりだが、表裏一体の世界。
そこで俺はどちらに傾くかと言えば、確実に闇の世界だろう。光の世界は似合わない。眩しい太陽も、透き通る風も、流れる花の匂いも、俺には不要だ。
かつてこの身に流れていた血のように、真っ黒でドロドロとした、混沌とした世界が俺には似合う。
だがお前はどうだろう。お前はこちらの世界には来たがらないだろう。俺と二人だけの世界ですら、きっとお前は寂しいと言う。
人に囲まれているのが幸せだと言うのなら、お前のために幾万の傀儡を作ろう。そうして生きているのは俺とお前の二人だけ。傀儡はあくまでも傀儡。
永久の美を象るものであり、俺の人生の象徴である。だがお前はそれでも寂しいと言うのだろう。傀儡は生きていないから、ぬくもりがないから寂しいと言うのだろう。
では何故お前は俺と一緒にいる。問いかけたくても何故か怖くて、喉の奥から出てきてくれない。
触れるか触れないか、微妙な距離にいる。お前の心が酷く遠い。

end



サソサクお題『最後の嘘』

「これ以上関わらないでくれ」

耳元で囁かれた睦言のような絶望。思わず顔を上げてあなたの顔を見れば、いつだって憎たらしい笑みを浮かべている表情も凍っている。

「俺がてめえみたいな小娘を本気で相手にするとでも思ったのか?自惚れも甚だしいな」

動かない瞳。歪まない口元。見下ろされる瞳は絶対零度。
けど何故かしら。私にはその全てがあなたの本心に見えないの。

「…本気?」
「ああ、本気さ」

答えてくる声は無機質。なのに私は不思議に思う。どうしてだか、この人の言葉を疑ってしまうの。

「嘘」
「嘘じゃねえよ」

間髪入れずに返ってくる言葉。でも不思議ね。どうしてだが、傀儡のこの人の瞳が悲しみに彩られているように見えるの。

「あんたって、嘘つくの下手よね」
「だから嘘じゃねえって言ってんだろ」

だったらどうして私をまっすぐに見つめるの?まるでこれが最後だからと言わんばかりに、目に焼き付けておこうと言わんばかりに私を見つめるの?

「じゃあ私からは関わらない」
「…おう」
「だからあなたから私に関わってきてね」
「…は?」

素っ頓狂な声を上げたあなたを見上げ、私はあなたの真似して口元を歪めてみる。

「“さよなら”は好きじゃないの」

嘘をつくならもっとましなものにして、と呆けるあなたの額を爪弾いて、私はのんびりと欠伸をした。

end



サソサクお題『本当は分かっているんでしょう?』

砂隠の夕暮れ時。広大な砂漠の彼方、沈む夕日が辺り一面を真っ赤に染める。紅と呼ぶべきか、橙と呼ぶべきか。あるいはそれらが混ざった色か。
いっそ神秘的と称せるようなその景色の中、サクラは隣に立つ男の気配を感じ取った。

「…何よ」
「別に」

自分の故郷ではない、異国とも呼べるこの土地にサクラは思い入れなどない。だからと言って何も思わないわけでもない。自然が作り出した、神が悪戯に描いたこの赤い世界は、サクラの心を揺さぶるには十分だった。

「センチメンタルなんて似合わねえな、小娘」
「うっさいわね、ほっといてよ」

嘘。本当は放っておいてほしいわけじゃない。けれどそんなことを言えないサクラの口は真逆の言葉を相手に与え、自らの心を傷つけていく。

「相変わらずつれねえ小娘だ」

男の笑う声はくすぐったい。サクラは風に揺れる髪を押さえるふりをして、むず痒い片耳をそっと押さえた。

「…本当は、分かってるんでしょ」

サクラがこの地に何をしに来たか。目の前に佇む墓は、もう誰の魂も眠っていない。

「…さあな」

男の答えは曖昧に、けれどサクラの肩を抱く力は誰よりも強い。

「分からねえよ、お前のことなんか」

サクラの気持ちが分からないと言うだけあって、僅かに強引な仕草のままサクラの体を抱きしめる。冷たい体に響く音は、何もなかった。

end
傀儡の旦那からは心臓の音とかしねえんだろうな。って思ったので。



サソサクお題『冷たいキス』

ひえっ、と零れた声にサクラは肩を跳ねあげ、その勢いを殺さぬまま隣を見上げた。

「随分と可愛い声だすじゃねえ、かっ?!」

ドゴォ、とおおよそ人の腹部から聞こえてくるとは思えない衝撃音を奏でながら男は後方へと吹っ飛び、サクラはフーフーッと猫のように荒くなる吐息を隠さぬまま耳を押さえた。

「誰かに見られたらどうすんのよっ!このド変態!!」

こっそりと男と逢瀬を交わす、朝露に塗れた女の頬はうっすらと色づいていたそうな。
end



サソサクお題『今夜の女王様』

「ほら、自分で脱いで。出来るでしょう?」

そう言って赤く彩った口元を歪め、笑う女にサソリはゾクゾクとした背徳にも似た快楽を覚える。

「ふっ…無茶言うぜ小娘…俺ァてめえに両腕縛られてんだぜ?それでどう脱げって?」
目の前で笑う女の胸元は、いつもと違いギリギリまで肌蹴られている。とはいえ生唾を飲むほどグラマラスな体型とは言えないが、男の熱を煽るには十分な色香を放っていた。
「出来ないの?天才って言われたあんたも結局その程度なのね」
つまんないの。そう言わんばかりの冷たい眼差しを全身に浴びせられながら、男はゴクリと一つ唾を飲み込み、それから口元を歪めた。
「後悔すんなよ、小娘」
天才傀儡師様は両腕が使えなくても出来ることはあるんだよ、と男の囀りに女はただ嗤った。
end


サソサクお題『いつかの夢の続き』

昔から見る夢、記憶にも似た鮮明な夢。だけど単なる夢だと思ってた。だって夢の中の人と実際に会えるなんて思わないじゃない。だから驚いたの。まるで運命にも似たこの出会い。

「ねえ、」

いつかの夢の続きを、始めましょう。

end

強気なサクラちゃん(ry




サソサクお題『おねだりの功名』

「ねえねえ、」

珍しくご機嫌な犬のようにすり寄ってきたと思ったら、耳元で囁かれた願い事に思わず顔を顰めてしまう。

「ねー、いいでしょ?別に減るもんじゃないし」

小首を傾け手を合わせる小娘だが、俺はそれに絆されるほど柔じゃない。減るもんじゃないとお前は言うがな、俺からしてみればいろんなものが擦り減るんだ。
いや、擦り減ると言うか捨てることになると言うか、大事なものが両手から落ちていくと言うか…とにかくそんな感じだ。

「何よー。たまにはお願い聞いてくれたっていいじゃない…ケチっ」

ぷいっ、とそっぽを向く小娘の頬は子供のように膨れている。思わずそれを指で突けば、小娘は益々眉根を寄せて背中を向けてしまった。

「はあ…わーったよ…」

照れ隠しに後頭部を軽く掻いて、むずむずする背中を揺らしつつ唇を開く。皮肉以外口にしたことのないこの唇に乗せるにはあまりにも恥ずかしい愛の詩。
笑うなら笑えと横目で伺った小娘の瞳は、まるで夢見る少女のように輝いていた。

end



サソサクお題『不器用なあなた』

彼との子供が産まれた時、沢山の人から“おめでとう”と言われた。でもそれは、この子の父親が誰だと言わなかったから。誰とも分からない子を身ごもったのかと聞かれればそれは否だけど、周りの人に教えるには憚られる。彼は表に出てはいけない人だから。
でもこの子だけは、この子にだけは“おめでとう”の言葉を聞かせてあげたくて。偽りの父親を夫に見立て、私はこの子を産み落とした。

「…ちっせえな」

夜半、本来なら誰の来訪も受付けていない時間。人目を忍んで病室に足を運んできた彼は、私の腕に抱かれていた小さな命に向かって視線を落とした。

「うん。でもちゃんと生きてるの。抱いてみて」

けれど彼はううんと首を横に振ると、傍の椅子に腰かけ身を乗り出した。

「…こいつは、俺が“父親”だということにいつか不満を持つだろうな」

零されたのは後ろ暗い言葉。いつもは皮肉ばかりの自信家も、我が子の前では形無しのようだ。

「そんなことないわ。だってこの子は沢山の人に“おめでとう”って言って貰えたんだもの。大丈夫。この子は幸せ者よ」

誰にも望まれず生まれたわけじゃない。例え周りの人が事情を知らなくったって、私だけはこの子を心の底から望んでいた。私と彼の、たった一人の宝物。

「例えあなたとこの子、世界で三人だけになったとしても、私きっと幸せよ」

私の言葉に何を思ったのか、彼は幾度か視線を彷徨わせた後に小さな命を抱く私の手に己の手を重ねてきた。

「…ありがとう」

おめでとうとありがとう。こんな素敵な言葉を貰ったこの子はきっと幸せになる。私は不器用な彼の手を握り返しながら、生まれたばかりの我が子に向かって“おめでとう”の言葉を紡いだ。

end



サソサクお題『魔女の誘惑』※現パロ、歳の差(サクラちゃんが上)

モテる男が皆非童貞だと思うなよ。赤砂のサソリは常日頃から思っていた。“モテる男”っていうレッテルを貼られていること自体に文句はない。むしろ光栄なことである。
だがしかし『モテる=経験豊富』というわけではないのだ。実際サソリはモテていても女性と付き合った経験など殆どないし(あってもすぐに別れてる)せいぜいが手繋ぎデートである。それは偏に自分の歪んだ性格のせいでもあるのだが、とかくサソリはこの手の問題について頭を抱えていた。

「んでさ〜、オイラ彼女に迫られたんだけど、旦那どう思う?うん」

目の前にいるちょんまげ男の話が憎い。サソリは惚気顔のまま垂れ流された自慢話にも聞こえる悩み事に舌打ちし、てめえで考えろボケが!!と捨て台詞を吐いて席を立った。とはいえ金のない学生の身である。一体どこで暇を潰そうかと街をぶらぶらしていると、見慣れぬ路地を見つけ興味本位で入ってみた。

「…あ」

そこで見かけたのは口元に痣を作った見慣れぬ女性。どう声をかけようか。流石に知らぬふりはどうかと思ったサソリの前で、女は突然口元を歪めた。

「ねえ、キミ」
「え…俺?」

うん。そう。キミだよ、キミ。そう言って手招きされ、胡散臭さを感じつつも近づくサソリに他意はない。勿論多少下心はあった。見慣れぬ女とはいえ年上だ。女学生とは違った魅力がある。例えるなら花の匂いに惑わされ、近づく蟲に近かったかもしれない。

「ちょっとお願いがあるんだけどさ」

薄紅の髪を耳にかけ、笑う女は突然纏っていたシャツのボタンを外しだした。

「ちょっ…!」

流石にいたいけな童貞男子である。慌てるサソリの前に女は肌を晒すと、先程とは違った背筋が震えるほど甘い声を出した。

「消して欲しいの、コレ。キミので」

晒された肌には赤い鬱血。薔薇の花弁にも似たそれを、女は指でさしてからふっと笑った。
魔女のような赤い唇は鮮明に、サソリの脳裏に刻まれた。

end



サソサクお題『運命の罠』

もし俺が里抜けをしなかったら、もしお前がこの世に生まれていなかったら。出会うはずなどない俺達の時間が交錯したあの時間。あの刹那。俺は確かに感じたんだ。これが“運命”なのだと。

「だからよぉ、小娘」

運命から逃れることなんて、出来るわけねえよなぁ?

end



サソサクお題『嘘つきの本音』

「嫌い」『好き』
「来ないで」『一人にしないで』
「触らないで」『ドキドキする』

「…こういう感じで合ってるか?」
「合ってないわよ、くたばれ変態」

end
妄想男子サソリくんの日常。(脳内シュミレーション)





サソサクお題『おでこにキスをしよう』

サクラのチャームポイントでありコンプレックスである広い額。昔は髪の色と合わせてからかわれたこの広い額を、サクラは大人になった今でも時折見つめ直す。

(もう少し狭かったら全体的にバランスよかったのにな…)

女の悩みは尽きないもので。今日も今日とて寝癖で跳ねた髪を直しつつ吐息を零せば、ガリガリと後頭部を掻きながら寝起きの男がサクラの後ろに立って欠伸を零した。

「あ、おはよう。サソ、」

リ。と続けるはずの言葉は額に触れた柔らかい感触を感じると同時に喉の奥に引っ込んだ。
男は寝起き特有のぼんやりとした瞳のまま驚くサクラを見つめると、間抜け面だと言って笑った。

end



サソサクお題『「あいして、」』
※『不器用なあなた』の子供の話

ぼくはお父さんの顔をしらない。しってるのは文字だけ。お父さんのかく文字はあんまりじょうずじゃない。でもキタナイわけでもない。いつのまにかポストに入ってる手紙をお母さんはやさしい顔で見つめてる。でもぼくにはそれがよくわからない。

「お父さん、今日も帰ってこないのかな」

つぶやくぼくの頭にお母さんのてのひらがあたる。そうしてクシャクシャとなでられた。
お父さんの顔をしらないぼくには、お母さんしかいなかった。

end
サソリさんに愛してほしいお子さん。ぼくって言ってるけど男の子でもぼくっ娘でもどっちでもいいと思われ。



サソサクお題『笑顔と引き換えに』

一つ得るなら一つ失う。そんな世界に生きる俺たちはいつだって無意識にそれを繰り返している。プラスとマイナスが相殺し合って結局何も得るものがない。そんな世界に立つ俺に、それではと自問自答を繰り返す。
俺は生身の体と引き換えに永久の美を手に入れた。だが捨てた体には血も涙も、ぬくもりも思い出も詰まっていた。それを捨てて得たものは果たして何だったのか?
答えは簡単だ。それは小娘との出会いだ。俺は自分の中の最上のものを捨てて、最高の女と出会うことが出来た。
ではその先は?小娘と出会ったなら、その先は?強請る俺にお前は言う。

「さあ?愛想笑いの一つでも覚えてきたら考えてあげるわ」

つれない女の言葉に口を閉じ、悩む俺の背中に蹴り一つ。笑顔に変わるものが一体何なのか、今の俺にはさっぱり見当がつかない。

end



prev / next


[ back to top ]