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オレンジピールの宝石に


甘いものがダメなくせにパティシエな我愛羅くんと常連さん兼恋人のサクラちゃんで甘い話。
ツイッターの再録です。




「んー!おいっしー!!」

頬に手をあて幸せそうに微笑むサクラに我愛羅はふっと目を細める。

「美味いか?」
「うん!これやばいわ!!超美味しい!!」

何個でもいけちゃうー、と心底幸せそうにケーキを頬張るサクラに我愛羅はよかった、と呟く。
我愛羅はパティシエで、自分の店も持っている。
そしてサクラはそこの常連で、それが今では恋人だ。そしてそんな恋人の特権を使いサクラはまだ試作品段階の新作ケーキを我愛羅に食べさせてもらっていた。

「ああ…このオレンジピールのほろ苦くも爽やかな香り…それを包み込むようなビターチョコレートの程よい甘さ…たまらないわー!」

きゃー、とテンション高く感想を告げるサクラに我愛羅は内心安堵する。
今度の新作は少しほろ苦いカカオ多めのビターチョコレートを使った丸型のチョコレートケーキで、そのアクセントとして随所にちりばめられたオレンジピールがまるで星屑のように輝いている。
チョコはミルクチョコでもよかっただろうが、我愛羅の店に来るお客さんは二十代から三十代の女性が多く、美容にうるさい年代だ。
そこでカカオが多分に含まれたビターチョコレートを使用する方がいいだろうということで我愛羅はそれを起用したわけだが、オレンジピールももともと甘いというよりは甘酸っぱいという部類だ。
甘さ控えめとはいっても控えすぎていればあまり手を出してくれない。
そこが不安だった我愛羅だがそれはどうやら杞憂に終わったようで、今は安心して目の前でケーキを頬張る彼女を穏やかな眼差しで眺めている。

「んー…しあわせぇ…」

はにゃーん、と我愛羅の作る極上のスイーツに浸るサクラに思わず苦笑いする。

「そんなに褒めても今はそれしか出ないぞ?」
「別にお世辞じゃないわよ。本心からの感想なんだから!」

それにスイーツを食べてる時の女の子って、イケメンに囲まれてる時と同じ量のフェロモンが出てるっていうのよ。
とサクラは胸を張って告げる。一体どこでそんなことを聞いたのか。と我愛羅が半ば呆れていると、それに気づいたのかサクラはま、テマリさん情報なんだけどね。と悪戯に笑む。
なるほど、姉の入れ知恵か。と我愛羅が額を抑えれば、サクラはんふふと面白そうに笑う。

「ねぇねぇ、これいつ出すの?」
「もう少ししてからだな。まだ造形がいまいちピンと来なくてな…」

不完全なものを店に出す気はない。と暗に告げる我愛羅に腐っても職人ね。とサクラは少し失礼なことを考えてみる。

「ところで我愛羅くんは試食してみたの?」
「…俺にそれを聞くのか?」

少々げんなりしたような体で聞き返す我愛羅の表情は渋い。甘いものが苦手なくせにパティシエの我愛羅。
その矛盾した職業にサクラは初め驚いたものだが、今では我愛羅の面白い部分の一つとして見ている。

「もったいないわね。こんなにおいしいのに」
「別にいいさ。俺が作ったものをお前や、お客さんが美味いと言って食べてくれればそれでいい」

我愛羅は常日頃から自分の作ったものを美味しいと言って食べてもらえるならそれで十分だと言っている。
だから我愛羅は世界大会にも出場しないし、TVや雑誌などのメディア媒体にも顔を出さない。
末永くこの小さな店でやっていきたいと告げる彼の願いはささやかだ。だからこそ、彼のケーキはとても素朴で美味しいのだろうとサクラは思う。

「大丈夫よ。我愛羅くんの作るものはなんだって美味しいもの」

まるで魔法がかかってるみたいにね。と笑うサクラに我愛羅は目を見開いた後照れたように顔を背ける。

「うむ…まぁ…愛情は…こめてるつもりだからな…」

徐々に小さくなる言葉にサクラは柔らかく笑んで、知ってるわ。とこたえる。

「だって我愛羅くんが作ったケーキを食べた後って、絶対幸せな気分になれるんだもの」

我愛羅くんの愛情は深くて優しいのね。
とニコニコと告げるサクラに、とうとう我愛羅は降参だと告げるように机に突っ伏した。
その耳が真っ赤に染まっていることに気づき、サクラはうふふと笑った。



end

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