小説
- ナノ -


あいらぶゆーはお気のまま





今日はキスの日なんだって。

授業中いのから回ってきた手紙に書かれた内容にへぇー。と感嘆したのが今日の2時限目。
それからいのとヒナタの三人で休息時間中にキスの日を携帯で調べると『キスの格言』というものがヒットした。

「へぇー。こんなのあるんだ」
「誰が考えたんだろうね」
「本当ね」

口々に感想を言い合いながらキスをする個所によって意味が違うと明記された記事を読み、我愛羅くんだったらどこにしてくれるかなぁ、と考える。
彼は結構奥手というか、恥ずかしがりというか、照れ屋さんなのだ。
かくいう私もあけっぴろにそういう行為はしないので似たり寄ったりではあるのだが。

帰り際にちゅーしてみよっかな…
なんてちょっとドキドキするようなことを考えながらその後の授業も受ける。
私は彼に突然キスをするか、それともちゅーしよ?と言ってからしようかと考えていると、いつの間にかお昼になっており、チャイムが鳴ると同時にナルトが購買に向かって走り出す。

今日も元気ねぇ、なんて眺めていると我愛羅くんはナルトが帰ってきた時にすぐ食事につけるよう彼の机を片している。
我愛羅くんに何させてんのよあのバカナルト。
と思わずにはいられないが、彼はナルトだからしょうがないと諦めているらしい。
我愛羅くんはナルトの母親じゃないのに。
だが我愛羅くんに聞いたところによると、ナルトのお母さんから

『我愛羅くん、うちの子よろしく頼むってばね』

と言われているらしい。
面倒見がいいのも困りもんね。
なんて片付ける彼を眺めていると、彼の元にシカマルやチョウジたちが集まってくる。
我愛羅くんも片づけが終わり、各々適当に座り話し出す。どうやら昨日見たテレビの話題で盛り上がっているらしい。

クールに見える彼もこういうところは普通の男の子だなぁ、なんて思っていれば

「サクラ、あんたが彼氏大好きなのはよぉーっく分かったから、いい加減ごはん食べない?」

といのが目の前に立ちはだかり思わずうわぁ、と声をあげる。

「い、いの?!いいい一体いつの間にっ」
「チャイム鳴ってからずっとよ!」

ね、ヒナタ。と続けるいのにヒナタもうん。と苦笑いする。
うわぁ。恥ずかしい。
と私が顔をそむけると、あんた我愛羅くんに似てきたね。と言われてさらに恥ずかしい。
そういえば彼も照れると顔をそむける癖がある。
くそう。いののくせによく見てるじゃない。と文句を言おうと顔を上げれば、ちょうどこちらを見ていたらしい我愛羅くんとばっちり目が合う。
あ、と思ったのもつかの間、彼は少しだけ目を細め柔らかく微笑んでくれる。
けどすぐにチョウジに話しかけられそちらに顔を向けてしまった。

…やっぱりカッコいいな。
思わず頬に手を当てれば少し熱い。顔赤いかな?少し恥ずかしいかも。
と思っていればついにいのから溜息をつかれ、どーもごちそうさまですぅ。
と厭味ったらしく告げられた。
思わず反射的にそうじゃないって!と反論したが、私の言葉は受け入れられず二人にははいはい、と流されてしまった。
その後も二人に執拗にいじられつつ授業を終え、あっという間に放課後を迎える。


「じゃあねー、サクラ」
「また明日ね」

手を振るいのは部活、ヒナタは委員会議と忙しい身分だ。
そんな私は帰宅部なので部活もないし、彼も学級委員だが今日は特に何の仕事もない。
久々に二人で帰れるからと楽しみにしてた私は、だからこそキスの話に乗っかったわけなのだが。

「サクラ、帰るぞ」

先に用意を終えていた我愛羅くんに呼ばれ、私はうん、と答えて慌てて教科書を鞄に詰め込み彼に並ぶ。


「で、いのがさー…」

帰宅時、主に会話をするのは私だ。
彼はあまり会話が得意じゃないというか、無駄なことは喋らないうえ、よく考えてから話をする。
だから私みたいに会話があっちにこっちにと飛んだりはしないし、恋バナとかはもってのほかだ。
でも私の話に頷いたり、相槌を打つ彼の声は穏やかで、こういうところも好きだなぁ、なんて思ったりもする。

さりとて、今日一日考えていたキスの実行だが結局いい案が思い浮かばず放課後を迎えてしまい、さてどうしようかな。
と一旦会話を終え考えていると、彼の足がぴたりと止まる。

どうしたの?と問えば、靴ひもが解けた。と彼はしゃがみこみ崩れた紐に手をかける。
私も彼にならって座り込めば、彼はふと私を見上げた後何だ?と少し笑う。
彼の伏せられた睫毛が綺麗だな、と女として悔しいけれど彼の綺麗な顔を見ながらあのね、と声をかける。
うん。と結び終わった紐から手を離し私をまっすぐ見つめる彼に私は手を伸ばす。

「サク、」

私の名前を呼ぼうとした彼の、まっすぐな瞳に見つめられたままキスをするのは恥ずかしいので、私はぎゅっと目を瞑って勢いに任せてキスをする。

ふにゅ、とした感触はきっと彼の頬。
ちょっとずれちゃったかな。でもいっか。
と顔を離せば、彼はぽかん。とした顔をして固まっており大変珍しい。
思わず写メっちゃおっかな。何て考えているとどうやら状況を理解できたらしく徐々に彼の顔が赤く染まっていく。
久々のトマトくん再来だ。

「さ、さく…」

ぱくぱくと意味なく動く唇に若干泳ぐ視線。
ああ照れてる照れてる。
と微笑ましく彼を眺めていれば、彼はついに手の甲で口元を隠しながらふいと顔をそむけてしまう。彼の癖だ。

「な、何を突然…」

かなり動揺している彼の声は若干上擦っておりそれが何だかとても初心で可愛らしい。
やっぱり女の子ってませてるのね。なんて他人事のように思いながら

何って…ちゅー?
と答えてあげれば彼は首まで真っ赤にして黙ってしまう。
本当に可愛らしい。

いつまでも座り込んでいるのもどうかと思うが、へたり込む彼をおいて立つわけにもいかないし、こういう風に照れる彼を眺めるのも実は嫌いじゃない。
照れてる彼は割とよく見るが、ここまでのは久しぶりだ。

ねーえ?
と声をかければ、彼はちょっと待って。とか細く呟く。
これではどっちが男の子かわかったもんじゃない。
もっと堂々としてもいいのよ。と思うけど、照れる彼を見るのも好きなので黙っておこう。
するとようやく脳内処理が終わったのか、彼は赤い顔はそのままでこちらに向き直ると

「往来でそういうことをするな」

ときっぱりとした強い口調で諌める彼だけど、そんな真っ赤な顔じゃ説得力ないよ。と私は思う。
でも往来じゃなきゃしてもいいということなのだから彼は本当に照れ屋さんだ。

ごめんなさい。
と笑いを堪えて謝罪したものの、彼は本当に反省してないだろう。と私の頬を優しくつねる。
その指先がいつもより熱くて私は嬉しくてしょうがない。

いひひ、と笑えば彼はまったく…と溜息をこぼしてから立ち上がる。

「…帰るぞ」

差し出された彼の手をとれば、やっぱりいつもより熱くて少し汗ばんでる。
ドキドキしてくれたかな?
なんて彼の横顔を眺めれば、また彼は顔をそらす。その顔はまだ赤い。
ねえ我愛羅くん。
握った手をぎゅっと強く握り返し、視線をよこす彼に向かって
今日はキスの日なんだって。
と告げれば彼は視線を彷徨わせた後おバカ。と呟いた。
だから我愛羅くんもあとでちゅーしてね?
とお願いすれば、彼は再びおバカ、と告げた後
…帰ったらな、と小さく続けてくれた。

本当に、彼は照れ屋で可愛らしくてでもやっぱり男の子で。

「うふふふー、私やっぱり我愛羅くんが大好きよ」

ぶんぶんとつないだ手を上下に振りながら先を歩けば、後ろからもうやめてくれ…と蚊の鳴くような小さな声が聞こえた。
彼の手のひらがまた熱くなったことは言うまでもない。


end


prev / next


[ back to top ]