小説
- ナノ -




サソサクお題『相合傘』

「濡れるわよ」

傾けられた傘を見上げ、別にいらねえよと短く返す。

「俺は傀儡だ。軟なお前たちと違って風邪なんか引かねえからな」

ふん、と鼻で笑いつつ嫌味の一つを零してやるが、小娘はバカじゃないのと一蹴してから隣に並ぶ。

「私だけ傘さしてると見栄えが悪いのよ。黙って入ってればいいのよ」

ふんぞり返る小娘の態度が軽く鼻についたが、反論する気もなかったのでへえへえと返しながら少しだけ歩幅を緩める。コイツの足は短いからな。

「虹でも出ればテンションあがるのになー」

ぼやく言葉は雨の音にかき消される。
沈黙ばかりが広がる空間の中、広がるその音が有難い。

「有名な傀儡師でも虹は出せないわよね」
「そんなに虹が見てえなら水遊びでもしてろ小娘」

無言で叩いてくる拳はいつもより弱い。揃った歩幅はゆっくりと、けれど確実に前へと進んでいる。

「雨、やまないかなー」

顔を上げれば続く曇天。
暫くは小娘と二人きりかと、狭い傘の中肩を寄せ合い黙って歩いた。
夏が来る前の、梅雨の蒸し暑い日のことだった。

end

サソサクっていうよりサソ+サク。
素直じゃないおっさんとサクラちゃんがお互いとの距離をはかりながらじりじり距離を近づけていく感じの話。
言わなきゃわからん_(:3」∠)_


ナルサクお題『モーニングコール』

「サックラちゃーん!おはようってばよ!」
「…あんた、モーニングコールの意味分かってる?」

直接言いに来たら意味ないじゃない、と誇らしげな笑みを浮かべる鼻先を爪弾いてやった。

end


サソサクお題『ティータイム』※現パロ

「お茶にしましょう」

広げたレポートの前、置かれたマグカップとその先に続く薄紅の髪を見上げ吐息を零す。

「拒否権はなしかよ…」

退けられていく資料と筆箱を眺めながらぼやけば、息抜きも必要よと菓子が真ん中に置かれ小娘との距離が開く。
今日は一体何を淹れたのかとカップを覗けば、澄んだ琥珀色が俺を映し出す。

「アールグレイか」
「うん」

一口飲めばさっぱりとした味が広がる。ああ美味いとコクコクと飲み干していけば、向かいに座った小娘がふふふと笑う。

「…何だ」

不気味な笑い方をするなと続ければ、小娘は目を細める。

「だって随分と素直に飲んでくれたからおかしくて」
「はあ?」

まるで毒でも入れたような物言いに眉根を寄せれば、小娘は穏やかに頬を緩めてから自分の前に置いたマグカップを手に取る。

「それ、毒入りなの」
「…は?」

思わず固まる手にじわりと汗が浮かぶ。
したり顔の小娘の顔を凝視していれば、何を入れたと思う?と聞かれそんなの知るかと返す。

「つまんない人」
「そんなつまんない人にてめーは何を入れたんだよ」

早く教えろ、と逸る鼓動を隠したまま促せば、小娘はマグカップを両手で包みながら血色のいい唇を上下に開く。

「惚れ薬」

うふふと微笑む顔に暫し瞬き、はあと嘆息してから肩を落とす。

「残念ながらその毒は効かねえよ」
「あら、どうして?」

首を傾ける無垢な表情を横目に見つつ、カップに残った最後の一滴まで飲み干してから口の端を上げる。

「もう惚れてっからな」

今更だ。
続けた言葉を理解した途端、小娘は眉根を寄せてバカじゃないのと零す。
俯く頬は僅かに赤い。化粧をしてないくせにおかしなものだとからかえば、煩いバカと菓子を投げられた。
掃除するのは俺だぞバカヤロウ。

end


サソサクへのお題は『いつから嘘だってわかってた?』です。

あの人は嘘をつく時必ず一度視線を逸らす。右に左に、静かな顔して目だけが狼狽える。知らないふりして騙されてあげることもあるけれど、今日ばかりは許さない。

「私のプリン!食べたのあんたでしょ!!」

逸らされる視線と違うと嘯く口の動きのちぐはぐなこと。
あんたの嘘なんかバレバレよと、僅かに居心地が悪そうな鼻の先を摘んでやった。

end


我サク←カンお題『俺のものにしたい、でも、出来ない。』

「それじゃあ行ってきますね!」
「留守を頼む」

久しぶりに弟夫婦の休みが重なり、夕方から任務開始のテマリと俺が留守を預かることになった。久方ぶりのデートだから気合の入った義妹にテマリも任せておけと胸を張り、いつもより少しだけわくわくしている弟に気を付けるじゃんと告げてから二人の背を見送る。
遠くなっていく背をなんとなしに眺めていると、春に訪れた木の葉で見た番の蝶々を思い出す。
くるくると宙を舞いながら、互いに会話を楽しむように羽を広げては畳み、畳んでは広げてとても楽しそうだった。

「いい夫婦になったもんだね」

腰に手を当て誇らしげに呟く姉の言葉に、そうだなと返しながら風に揺れる薄紅を見つめる。

「…本当、羨ましいじゃん」

血が繋がっているからか、弟と同じように目で追ってしまう背中から無理やり視線を引きはがしソファーに沈む。
家を出てから座っていなかった、懐かしいそれは少しばかりくたびれていて、それだけ妙に時の流れを感じさせた。

「カンクロウ。私はお昼寝してる子供たちのところに行くから、お前は好きなことしてていいぞ」

姉の言葉に了承の意を唱え、ひらりと片手を振ってから子供部屋に消える凛とした背を見送る。同じ女の背でも、惚れた女か姉かで全く違う。
本当は自分だって欲しかった女の背は、今は弟の隣に並んでる。

「…あーあ…兄貴は辛いじゃん…」

幼い頃の罪滅ぼしのつもりなのか、それともいつも苦労ばかりの弟を思ってか、結局手を出せなかった自分が臆病なのか。分かりはしないけれど一つだけ確かなことがある。

「…幸せになれよ」

それは自分にも言えることなのだけれど、人よりもずっとずっと辛い思いをしてきた弟と義妹だからこそ、余計にそう思うのだろう。
まったく、自分と我愛羅は似てないと思っていたが、こうした不器用なところをそっくりだと懐かしいソファーに寝転がった。
自分が住んでいた時とは違う、花のような匂いが僅かに香る知らない椅子のようだった。

end



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