小説
- ナノ -




蠍「(…よく寝てんな…)」
桜「(すやすや…)」
蠍「(…触ってみても、体温とか、感触とかわかんねえし…分かんのは心臓の音だけとか…)」
マジ人間じゃねえよな。
って感傷に浸りつつ、ずっとサクラちゃんの髪の毛触るメンタル豆腐な童顔おっさんください。

というわけで上記でサソサク小ネタ。

寝ている小娘の顔は月明かりに照らされ青白く輝いている。流れる雲に覆い隠されつつも、月が顔を出すたびに頬の産毛がガラスの飾りのようにキラリと輝く。

(ああ…生きてる…)

平たい胸の下、面と向かって言えば確実に殴られるが、その薄い胸の下で確かに息づく命の音がする。俺の胸には、もうないものだ。

(…落ち着く…)

何を今更。
人間を辞めたくせにまだ縋っているのか。
触れたところで体温何て感じない。抱きしめたところでぬくもりを伝えあうことができない。
どれだけ求めても、俺だけ変わらず時が過ぎていく。それなのに、俺はこの小娘を求めてる。

「んん…」

呻く声に驚き顔を上げれば、もぞもぞと動いた後小娘は再び眠りに落ちる。穏やかに上下する体はまだあたたかい。

「…お前も傀儡だったら…」

言いかけて辞める。
俺はこんなことが言いたいんじゃない。俺は、

「…サソリ?」
「っ、」

ぼんやりと、緩慢な声が小さな部屋に木霊する。月明かりだけの暗い部屋、それでも俺を見上げるサクラの眼差しはしっかりと俺を捕えてる。

「ねむれないの?」

傀儡の俺に対し何を言っているのか。
鼻で笑おうとして、失敗した。

「いいから横になって目ぇ閉じてなさいよ」
「そんなことして何になる。時間の無駄だ」

もし俺が素直な頃のガキのままだったなら、その言葉に甘えて小娘の隣に寝転んだだろう。けれど今は、そんなことできやしない。

「ぐずぐずうるさいわねぇ…いいから寝ろ!」
「うおっ?!」

見た目を裏切るバカ力に引き寄せられ、勢いよく鼻を打ちつけたベッドの上。横で笑う小娘を睨み上げればにひひとしたり顔で笑われる。

「たまにはいいじゃない。一人で寝るのも寂しいのよ?」

お前が寂しいとか似合わねえ。
そう思いはしたが黙っておいた。
別に殴られるのが怖いわけじゃない。ただ面倒だっただけだ。

「朝になったら起こしてね」
「俺は目覚ましか」

反論する俺に小娘は笑うと、じゃあ素直に一緒に寝ればいいのよと頬に触れてくる。冷たいだけの、体温の通わない人形の肌に。

「あんたはそのままでいいのよ」
「…はあ?」

心臓があれば跳ねていた。けれど何もない胸だから心配はない。はずなのに、確かにどこかで何かが跳ねる音がした。

「おやすみ、サソリ」

勝手に言いたいことだけ言って、勝手に起きて勝手に眠る小娘に俺は結局何も言えぬまま横になる。
久しぶりに見上げた天井は高く、そういえば寝転ぶとこんな感じだったかとぼんやり考えてから目を閉じた。
そんなことをしても意味がない。意味がないと分かっていても、隣で息づくぬくもりに思考が緩慢になってくる。

「…バカみてえ…」

今更何を焦がれるのか。
人間を辞めて人形になったはずの俺が、人間の娘に手を伸ばそうとする。
そのあまりにも滑稽な今の自分に、笑いそうになって失敗した。
上手く笑えない唇をぎゅと噛みしめて、早く明けろと暗い夜空を静かに睨みつけた。

end



サソサクお題『試してみる?』

俺は可愛げのある女が好きだ。いじりがいがあって存外健気で料理が上手くて家庭的で適度に我儘で甘え上手な女が理想だ。ったはずなのに。

「ちょっと、これ邪魔なんだけど」

行儀悪く足先で示された調整道具を見やり、次いで理想とは真逆の女を見上げ嘆息する。

「てめえはもう少し女らしくできねえのかよ小娘…」

短い丈のスカートを履いてるくせにスパッツなんて邪道なもん履きやがって、と膝から下の生足を見つめればゴンと頬を蹴られる。

「いいから片付けてよ」

あと私は十分可愛らしい女ですー、なんて減らず口を叩かれ蹴られた方の頬を歪める。

「全然そう見えねーんですけどぉ」
「ふーん…」

俺を見下ろしてくる視線がすうと細くなると、薄紅の髪を肩から滑らせながら耳元に唇を寄せてくる。

「じゃあ、試してみる?」

囁かれる声音は常よりも遥に艶やかで色っぽく、思わず傀儡なのに鳥肌が立ちそうだった。

「ばっ…!」

年上をからかうんじゃねえよと慌てて睨み上げるが、小娘は生意気にもふふんと口の端を上げてから曲げていた背をただした。

「分かったら早く片付けて」

まるでどこかの女王のように優雅な笑みを讃え、年上の男をもろともせず足で使う様が妙に手馴れている。
これは勝てそうにねえなぁ、と久々に真正面から心を折られた俺はへいへいと気のない返事を返しつつ道具を片付けた。

「どうぞ、お嬢様」

広げた道に絨毯なんぞは敷いてはないが、それでも小娘は満足そうに笑みを広げありがとう、と囁いた。
やっぱり妙に色っぽい、女の声だった。

end





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