小説
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彼シャツ



結婚後の話。



ちょっと出てくる。
そう言って出かけて行った我愛羅の背を見送った後、サクラは取りこんだ洗濯物を畳んでいく。
初めは自分の服と我愛羅の服が並ぶのが妙に気恥ずかしかったサクラだったが今ではすっかり慣れたもので、今では何の感慨も抱くことなく我愛羅の下着だって干すことも畳むことが出来るのだから時の流れとは偉大である。
そんな自身の成長を感じつつも着々と衣服を畳んでいたサクラであったが、ふと我愛羅のシャツを手に取り思案する。

「…別に彼って特別大きいわけじゃないのよねぇ」

本人も自覚しているようだが、我愛羅は決して体格がいい方ではない。
身長もどちらかと言えば低めで、足のサイズも大きくない。
だからと言って弱々しいことはなく、全身についた筋肉はしなやかでありながらも逞しい。
閨の中で壮絶な色香を放つ体は、蓋を開けてみると存外小柄であった。

(私よりちょっと肩幅が広いぐらいよね。ウエストとか…まさか負けてない…わよね?)

サクラは最近めっきり任務に行くことが減ってきており、鍛錬も以前のように満足には出来ていない。
流石に目に見えて贅肉がついたわけではないが、日々獣のようなしなやかな肢体を目にする身としては僅かばかりの不安がよぎる。

(…誰も、見てないわよね?)

暫く悩んだ後、サクラは辺りを見回しえいとカーテンを閉めてから我愛羅の衣服を手に取る。

普段割とゆるやかな衣服を身に纏うことが多い我愛羅ではあるが、時には体のラインが分かる物を纏う時もある。
大概は育てている植物を弄る時であったり、掃除をする時であったりと作業着代わりになるものが多いが、時折部屋着として纏うこともある。

事実昨日着用していた服はストレートなラインの上着とズボンで、我愛羅の普段は見えない体のラインを露わにしていた。

(正直ちょっと格好いいな、ってときめいたのは不覚だったわ…)

蘇る記憶を頭を振ることで頭の片隅へと追いやり、何となく手に取った衣服に鼻先を寄せすんと匂いを嗅いでみる。
途端鼻腔を抜けたのは洗剤の柔らかな香りと、嗅ぎ慣れた我愛羅自身の匂い。
瞬間僅かばかり落ち着いてしまい再び頭を振る。

(何やってんのよ私!これじゃ変態じゃない!)

誰も見ていないと言うのに一人頬を染め、再度頭を振った後掲げた衣服をじっと見つめる。

(入る、わよね…うん、入る!絶対に入る!)

むしろ入らなきゃやばい!
そんなことを思いつつもう一度周囲を確認してから己の衣服に手をかける。
だがそこではたと手を止める。

(もしこのまま脱いでこの服着たらまた洗濯しないといけないわよね)

折角洗濯したのだ。
別に砂隠は夕方だろうが夜だろうが舞い散る砂さえ気にしなければ割と早い時間で洗濯物は乾く。
だが水も洗剤も無駄にするのはなぁ、と思案する。

(それに自分の服着たままコレ着てピチピチならともかく、服脱いで着てもしアレだったらマジで笑えないし…)

そんなの絶対に嫌!
床に手を突き暫し唸るが、やはり洗濯が面倒だからと衣服を着たまま着ることにする。
断じて服を脱いで着た場合の惨劇を恐れたわけではない。断じてだ。

そんなことを自分自身に言い訳しつつ、恐る恐る上着に頭を突っ込む。

「あ…何だ、割と普通…」

肩幅もちょっと緩いかな?
腹部も二の腕周辺も問題ない。
だが問題は下穿きである。

「…あの人、意外と腰細いしな…」

脂肪ではなくバランスのとれた筋肉で構成された体を思い浮かべつつ、スパッツの上からそーっと足を通していく。

「は、入った…!!」

ふくらはぎはともかく太ももとかお尻とか腰とか色々懸念はあったものの、存外余裕を持って留め具を止めることができたサクラは唯々喜ぶ。
まだまだ捨てたもんじゃないわねと頷きながら、さてもう脱ぐかと服に手をかけたところでもう脱ぐのか?と愉しげな声が背後からかけられ硬直する。

「が、我愛羅くん…?」

一体いつから見ていたのかと、部屋の戸口に体を預けニヤニヤと口の端を上げる我愛羅を振り返り問いかける。

「少し歩いたところで財布を忘れたことに気づいてな。戻ってきたらお前が人の服をじろじろと見ていたからここでずっと見てたんだ」

くつくつと喉の奥で笑う我愛羅にサクラは熟れた無花果のように頬を染めながらも、気配を消すことないじゃないかと責めればついなと意地悪い顔で返される。

「しかしお前もなかなか可愛いことをする」

意地悪い表情を続ける我愛羅にサクラは顔を背けもう脱ぐわよ!と着たばかりのシャツに手をかける。
が、すぐさまその腕を取られ一体何なのかと見つめれば、先程とは打って変わって眉間に皺を寄せた我愛羅にだが少しばかり頂けないなと咎められる。

「何故自分の服を着たまま俺の服を着たんだ。これだと不合格だぞ」

至極真面目な表情で告げられた言葉に何だそれはと肩を落とす。

「俺の服を着るのは構わんがもう少し俺の気持ちも考えろ。これでは楽しめんだろう」
「あんたは一体何をする気だ!」

遠回しなセクハラ発言に吠えるが、我愛羅は男心だと端的に返しサクラの体から衣服を剥ぎとる。

「ってコラ!私の服まで脱がすな!!」
「お前の服を脱いでからもう一度トライだ」
「何でよ!」

力の限り抵抗してみるが、あっさり捕まりあっという間に下着姿にさせられる。

「にゃああああ!!我愛羅くんの助平!エッチ!変態!!」

ぎゅっと両腕で体を抱きしめ蹲るサクラに、これはこれでいいなと思案する我愛羅はふむと頷く。

「よし決めた」

一体何を決めたのかと脱がされた衣服を片手に真面目な顔をする我愛羅を見上げれば、すぽんと上着だけを被せられ抱き上げられる。

「こっちの方がそそられる」

大真面目な声音で口の端だけを上げた夫の厭らしい表情にサクラは顔を顰めると、本当にバカじゃないのとその額を爪弾く。

「もう何か怒るだけ疲れてきたわ…」
「今日一日これでもいいぞ」
「それだけは嫌!」

寝室に向かって歩く我愛羅の考えていることなど分かり切っている。
全くこの男は、と押し倒されたベッドから我愛羅の顔を見上げる。

「抵抗しないんだな」
「あなたの顔見てたら何考えてるか分かるもの。それよりいいの?出かけなくて」

首筋に落ちてくる唇を甘受しながら問いかければ、明日の仕事帰りでも構わんさと返ってくる。

「それより今はお前の方が大事だ」
「はいはい。しょうがないから付き合ってあげるわよ」

でも一回だけだからね。
重なる唇の間から吐息交じりに釘を刺せば、俺が一回だなと返ってきて少々呆れる。

「私も一回よ」
「それは無理だろ」

太ももに這わされる熱い掌を感じつつ何でよと返せば、我愛羅は酷く愉しげに顔を歪め、背を抱いていた手でブラの金具に手をかける。

「そんなの俺がお前をドロドロに溶かすのが好きだからに決まっているだろう」

だから覚悟しておくんだな。
そう言うや否やぷつんとホックを外され、背中から移動した掌に乳房を優しく包まれ愛撫される。

「あっ、じゃ、あ、今日は、んっ…!絶対に耐えてやるんだからっ…!」

指先でくすぐるように乳房の淵を撫でられ揺すぶられ、ぞわぞわと体に走る刺激に眉根を寄せつつ宣言すれば、それは楽しみだなと笑われる。

「まぁ、すぐに啼かせてやるがな」

獰猛な肉食獣を髣髴とさせる眼差しを受けながら、サクラは寄せられた深い口付に黙って応えた。
揺れるカーテンの奥から吹き込む柔らかな風がゆらりと二人の髪を揺らしていった。


end



真昼間からなにしとんじゃい、っていう話。



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