小説
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12





「よし!」

干し終えたシーツが風に靡けば、心地好い洗剤の香りが辺りを包む。
今日もいい天気だと空を見上げ伸びをすれば、後ろからバタバタと駆けてくる音がする。

「おかーさまおとーさまおきないの!」
「ぐーぐーしてるの!」
「あら、あの人まだ起きないの?」

二人の子宝に恵まれ、すくすくと健やかに育つ我が子の手を引きながらサクラは寝室の扉を開ける。

「あーあ…まったくもう」

寝こける我愛羅の顔には子供たちから施された落書きが所狭しと描かれており、思わず笑いそうになるが必死に堪えて仁王立ちする。

「我愛羅くん!いい加減に起きなさい!!」

腰に手を当てぴしゃりと言い放てば、びくりと体が揺れた後に眉間に皺を寄せながら目が開いていく。

「…サクラ?」
「そうよ。全く、いつまで寝てるの?今日は買い物に行く日でしょ?」

早く起きなきゃ子供たちにイタズラされるわよ。
と言っても既にイタズラ済みなのだが、敢えて黙っていればぼんやりと起き上がった我愛羅が猫のような欠伸を零す。

「…朝か」
「もう昼よ」

さっさと顔洗ってきなさい。
手にしていたタオルを押し付け腕を取れば、渋々起き上がった我愛羅は再び欠伸を零す。

「あー!おとーさまやっとおきた!」
「おねぼーとーさまちこくんぼ!」

きゃいきゃいとはしゃぐ子供を背中と足にくっつけながら、はいはいと零す我愛羅は洗面所に着いた途端お前たち!と叫ぶ。
それに対し子供たちはきゃー!と叫びながらサクラの元に駆けてくる。

「お父様怒ってた?」
「んーん!わらってた!」

屈託のない笑みを浮かべる我が子にそうと微笑み返せば、子供たちははしゃぎながら洗面所に駆け戻る。

「おとーさまもどる?」
「戻るがお前たちやりすぎだ」

ぐしゃぐしゃと我愛羅の手が子供たちの頭を掻き乱し、複雑な表情のまま洗面所からタオルを片手に戻ってくる。

「お前気づいてたのに黙ってただろう」
「だってお寝坊さんなあなたが悪いんだもの。ねー?」

我が子を味方に付ければ弱いのを知っている。
案の定我愛羅は卑怯だぞと眉間に皺を寄せるが、駆け寄ってきた子供たちを叱る気は無いらしい。
何だかんだ言って親バカなのだ。

「そういえばキーコたちはどうした?」
「子供たち連れてお散歩行ったわよ」

サクラたちが式を挙げた数か月後、キーコは妊娠し子を産んだ。
我愛羅は一体どこの雄猫だとキーコに問い詰めたが、そんなことわかるはずもなくキーコはのんびりと子育てに乗じている。

「さてと、じゃあお父様も起きたことだし買い物行きますか!」

ぱんと手を合わせるサクラに子供たちがはーい!と返事をし、我愛羅はやれやれと頭を掻く。

「今日は何を買うんだ?」
「もうすぐこの子たちも幼稚園行くでしょ?だから諸々の準備が必要かなって」
「成程な」

頷く我愛羅の足元を子供たちがちょろちょろと駆け回り、どうしたと見下ろせばだっこー!と叫ばれ両腕で子供たちを抱え上げる。

「たかーい!」
「たっかーい!!」
「…重くなったな…」

よいしょと抱え上げる我愛羅に本当にね、と笑い返す。

「子供の成長って早いわよねぇ」
「全くだ」

ぐるぐると回転する我愛羅に子供たちがきゃーきゃーと叫び声をあげ、サクラは思わず声を上げて笑う。
何だかんだ言って子育てを楽しむ我愛羅と子供たちを眺めていれば、ドアフォンが鳴り慌てて駆ける。

「あ、テマリさん!どうしたんです?」

玄関先に立っていたのはテマリで、ナルトから文が届いてたから顔見るついでに持ってきたんだと渡される。

「あ、テマリおばちゃんだ!」
「お姉ちゃんって言いな!」

笑いながら子供たちの頬を突くテマリに目を細め、我愛羅にナルトからよと言えば両腕が塞がってると返される。

「ほら、二人とも着替えてきなさい。お着替え一人で出来るわよね?」

問いかけるサクラに子供たちははーい!と再び手を挙げ、ぱたぱたと駆けて行く。
子供は元気だなぁと思いつつ手紙を我愛羅に渡せば、六代目は真面目に仕事ができているのかとテマリに問われ苦笑いする。

「…今度の会議の話が三割と、愚痴が五割と家族自慢が二割だな」
「殆ど仕事に関係ないじゃないか」

呆れるテマリにまぁ許してやれ、と友の顔を思い浮かべつつ我愛羅が笑みを浮かべれば、お前は甘いねと返される。

「そのうちアイツも嫁に尻を叩かれるだろうよ」

ふん、とふんぞり返るテマリにお前の家みたいにか?と我愛羅が突っ込めばテマリがどういう意味だ?と我愛羅を睨む。

「もしくは我が家か…」

とぼける我愛羅にオイ、と突っ込めば、ほらみろと言われそうじゃない!と返す。

「はいはい。夫婦漫才もいいが早く支度しなくていいのか?あの子たちを待たせることになるぞ?」

テマリに指摘されそうだったと手を合わせる。

「それじゃああたしは仕事に戻るよ。じゃあね我愛羅、サクラ」
「はい、わざわざありがとうございました」
「ああ、気を付けてな」

手を振り去って行くテマリを見送り、二人も着替えようと寝室に行けば揃って頭を抱える。

「…こんの…コラー!勝手に衣装棚いじんないの!!」
「わー!」

見事に夫婦共に衣装棚を開けられ服を引きずり出され、これじゃあ出かける前に片付けだわと頭を抱えれば我愛羅が苦笑いする。

「全く。アイツらの悪戯好きは誰に似たんだろうな」
「さあ?誰かしらね」

からかう我愛羅から顔を背け、先程まで我愛羅が寝こけていた布団に身を隠す子供たちに照準を当てずんずんと近寄っていく。

「悪い子は誰だー!!」
「きゃー!!」
「ごめんなさーい!」

がばっと布団を剥ぎとり現れた子供たちに雷を落とせば、剥ぎとった布団を我愛羅が手に取りそのまま全員を抱きしめてくる。

「ちょっと…!今子供たちのこと叱ってるんだけど!」
「まぁいいだろう。可愛い悪戯だ」

ぎゅうぎゅうと母親ごと父に抱きしめられ、子供たちは嬉しそうに笑い声を上げ我愛羅に抱き着く。
その小さくあたたかな体を抱き上げながら、溢れんばかりの幸せに頬を緩め子供の額に唇を落とす。

「もう…あなたが甘やかして将来子供がぐれても知らないんだからね」
「安心しろ。俺たちの子なんだからそんな愚かな大人にはならんだろう」

はしゃぐ子供たちを甘やかす我愛羅にしょうがないわねと吐息を吐きだし、今日はお父様に免じて許してあげようとサクラも子供たちを抱きしめる。

「おかーさまおひさまのにおいがするー!」
「おとーさまはおふとんのにおいがするー!」

サクラに似てよく笑う我が子にそうかと頷きながら、自分とよく似た茜の髪を撫でてやる。
全く、幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ。
呟く我愛羅にサクラも頬を緩め、同感だわと子供たちを床に下す。

「さー!今から皆でお着替えよ!一番早くお着替えできた人には、お母様からちゅーをプレゼントしてあげます!」

その言葉に子供たちがわーいと声を上げ、我愛羅がよしきたと床に広がる衣装を拾い集める。

「ほら!お父様に負けちゃだめよ!」
「だめー!おとーさまダメなのー!」
「いやしんぼー!」
「コラ、どこでそんな言葉を覚えてきたんだお前は」

呆れる我愛羅にサクラが笑い、子供たちは一生懸命服を着替えだす。

「今日のお洋服はこれかなー?それともこっちがいいかなー?」

ひらひらと服を掲げるサクラにあっちだこっちだと子供が返し、我愛羅はのんびりと引っ張り出された服を畳み衣装棚に戻していく。

「はい!できました!」
「あい!できました!」

着替え終わった子供たちに偉いねー!とサクラが声を上げ、一人でお着替えが出来て凄いなと我愛羅が褒めれば子供たちは満面の笑みを浮かべ二人に抱き着く。

「あ!おとーさまパジャマだー!」
「おそーい!」
「おっとしまった。忘れてた」

子供たちに諌められ肩を竦めれば、サクラがお父様は罰ゲームねと指を立てる。
一体何をさせる気だとサクラを見やれば、全員にちゅーすること!と言われ頬を緩める。

「最高の罰ゲームだな」
「幸せでしょ?」
「全くだ」

おとーさまちゅー!
叫ぶ子供たちの頬に口付てやりながら、いい子いい子と頭を撫でて立ち上がる。

「ほら、ちゅーして?」
「しょうがない母親だなお前は」

足元に抱き着く子供たちの目を二人で塞ぎながら唇を重ね合い、みえなーい!と叫ぶ声に頬を緩めもう一度唇を重ねる。

「はい!じゃあお父様が着替えたらお出かけしましょーね!」
「はーい!おとーさまちゃんとちゅーした?」

問いかけてくる子供にしたよと答えれば、みてなーいと返され秘密と返す。

「きょうはぽかぽかのひなの」
「でもびゅんびゅんするの」

子供たちの天気予報に耳を傾けつつ用意を整え、じゃあ行くかと小さな手を取り歩き出す。

「ぶんぶんぶーん!はちがとぶー」
「あーりさんとあーりさんがごっつんこー!!」

サクラが歌い聞かせた童謡を口ずさみながら、元気に歩く我が子に二人で頬を緩める。
道行く人もその微笑ましい姿に穏やかな笑みを浮かべ、幸せが溢れる家族に声をかけていく。

「でででーん!このはせんぷーです!」
「かげぶんしんのじゅつーだってばよー!」

一体誰の言葉を真似ているのか。
肩を震わせる我愛羅にサクラも苦笑いし、ぐれる心配はなさそうねと続ける。

「ああ。だがあの二人に似ても困るがな」
「そうねぇ。似るなら精々あなたかなぁ」
「おい、どういう意味だそれは」

我愛羅の不服気な言葉にさあ?と首を傾けたところで、物まね大会からおままごとに移っていた子供たちはあなたー!とサクラの口真似をする。

「いちゅまでねてるの!おきなさーい!」
「はーい!」

両手を上げて返事をする子供に思わずサクラが吹き出し、我愛羅も苦笑いする。

「きょうのおとーさまはかっこいいのよ!」
「かっこいいのよ!」
「ちょ、そんなこと言ってない!」

にやける我愛羅にサクラが抗議するが、子供はよく見てるからなぁと零してから子供たちを抱き上げる。

「今のは本当か?」
「ほんとだもーん!」
「うそつかないもーん!」
「にゃああああ言ってなああああい!!」

叫ぶサクラの赤い頬に子供たちがまっか!と茶化しながら、我愛羅は穏やかに笑みを浮かべ柔らかな身体を抱きしめる。

サクラと二人で繋いだ未来が此処にある。
それがいかに幸せなことかを深く噛みしめながら、ぼすぼすと背中を叩いてくるサクラの言葉ない抗議に声を殺し我愛羅は笑った。




第十部【愛】完結




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