小説
- ナノ -


10





そして迎えた結婚式当日、集まった面々にいのは濃いなぁと苦笑いする。
何せ風影の結婚式なのだ。
披露宴自体は必要最低限の人数に絞ったと聞いていたが、予想以上に濃い面々に胃が痛くなりそうだと思う。

「暑いけど日陰だと案外涼しいのね」
「酒も美味いしな」
「別嬪さんも多いようじゃぜ!」

何せ綱手以外の影も揃って出席しており、今日の主役である我愛羅を含めれば五影が揃うことになる。
里のトップ達の中に自分が紛れているのは変な感じだと思いつつ、同じように呼ばれた木の葉のメンバーを見回し肩を落とす。

「なーなー、サクラちゃんどんなドレス着んのかなぁ?可愛い系かなぁ、セクシーかなぁ?」
「サクラさんならどんなドレスでも着こなしてみせますよ、ナルトくん!」
「だー!もうあんた達煩い!ちょっとは静かにしなさいよね!」

はしゃぐナルトと興奮するリー。
それを諌めるテンテンにのほほんと席につくカカシ。
綱手は少々不服気ではあるがキッチリ決めており、シズネは楽しみですねぇと笑っている。
他にも数名自里他里を含め見慣れた顔が揃っており、楽しい式になりそうだと頬を緩める。
だがこのいのの予想を遥かに上回る出来事がこの後待っていた。


ナルトが楽しみにしていたサクラのドレスだが、足元に無数のバラが散りばめられた純白のドレスはシンプルながらも可愛らしく、サクラの華やかな笑顔によく似合っていた。
その姿に何故かサクラの両親だけでなく綱手やカカシまでもが涙ぐむという訳のわからない状態になったが、いのはおおむね予想通りだと無視することにする。

そしてナルトが散々からかった我愛羅のタキシード姿だが、サクラの可愛らしいドレスとは対照的に色気のあるグレーとワインレッドでうまく纏めており、ナルトはちぇっと唇を尖らせた。
これでは生徒達が言っていた“格好いい”も頷けてしまうではないかと。
そんな二人の華やかな式も滞りなく進み、食事を交えつつ雑談を終えお色直しへと消えて行く。
料理も酒も一流で、流石風影といのとテンテンが頷き合っているとナルトがサクラちゃん綺麗だったってばよ…と撃沈する。

「可愛いし綺麗だし…我愛羅が羨ましいってばよー…」
「本当です…我愛羅くんのことを応援してはいるんですけどやっぱり悔しいです…」
「まーだ言ってんのあんたたち?いい加減にしないと本当に見苦しいわよ?」

うっうっ、と嘆く男二人にテンテンが呆れた声を上げれば、横で聞いていたカカシがまぁまぁと二人の背を叩く。

「いいじゃないの。サクラが幸せならそれで」

あの子はあの子なりに沢山辛い思いしてきたんだから。
そう続けたカカシに先生…といのが呟けば、その後ろから綱手がそのとーり!と声を上げる。

「あのこまっしゃくれた若造にサクラをやるのは惜しいがな、まぁアイツもサクラも頑張ってきたんだ。腹立たしいが笑って送り出してやろうではないか」

と言いつつも綱手が一番駄々を捏ねていた気がする。
だがいのは思うだけで心中に留め、そうですねと頷いたところでお色直しが終わったらしくスタッフが駆けて行く。
次はどんなドレスを着てくるのだろうかとテンテンと共に振り向けば、現れたサクラの装いに思わずおぉ、と其処此処で感嘆の息が漏れる。

「め、めっちゃ色っぽいってばよサクラちゃん…!」
「同感です…」

パニエと我愛羅がこだわったサルワールカミーズのドレスは、ベージュとアップルグリーンの裾が二段に分かれ、至る所にあしらわれた華やかな刺繍がキラリと光る。
鮮やかな朱色のドゥパッタはドレスに合わせた金縁の刺繍が細かに施されており、女性陣は素敵…!と手を合わせる。

「いいなぁ〜サクラ。すごい愛されてるのが伝わってくる〜!」
「本当よね!流石我愛羅くんって感じ」

はしゃぐ女性陣の隣では、カカシを含めた男共がぽかんと成長したサクラに口を開けている。

「いやぁ…なんていうか…父親の気分…」

泣きそう。
呟くカカシに情けない、と綱手が零すが、その瞳には同じように薄い膜が張っている。
結局二人とも似た者同士だと思いつつ、いのは先程とは真逆の衣装に包む我愛羅にも視線を移す。

「我愛羅くんって暗い色ばっかり着てるから分かんなかったけど、結構明るい色も似合うのね」
「あ、それあたしも思った。やっぱり風の国の衣装だからそう思うのかしらね」

よく似合ってるわ。
笑うテンテンにいのも頷き返し、白地に金と赤の模様が映える衣装を身に纏った我愛羅がサクラの隣に立つ姿は堂々としており、また誇らしげでもある。
本当に幸せそうだと親友の笑顔を見やっていると、気づいたサクラがいのとテンテンに笑みと共に手を振ってくる。

「あー!いいなぁ結婚式!私もしたーい!」

叫ぶテンテンに同感!と笑えば、男たちは此処まで派手にはできねえよ…と心中で呟くのであった。


その後いのも無事スピーチを終え、それぞれの余興も滞りなく進んだ。
と言ってもナルトとリーの出し物は酷い出来で、テンテンが鋭い突っ込みを入れなければまともに見ていられなかっただろう。
だが逆にそれがよかったのか、初めはぽかんとしていた他里の面々もすぐに笑いだし、サクラと我愛羅も軽く頭を抱えたがまぁいいかと頬を緩めた。

「ふふ、何か予想通りと言えば予想通りよねぇ」
「まぁな」

繰り広げられる三人の漫才に笑い転げる面々を眺めながら、我愛羅も穏やかに目を細める。
そして時折派手に繰り出されるツッコミにふと笑みを零す姿にサクラも満足げに頬を緩め、ねぇと囁く。

「楽しいね」
「そうだな」

笑う我愛羅の指先に軽く触れ、握り合えばいい加減にせんかー!とテンテンの鋭いツッコミとハリセンの音が会場に響き渡る。
こんなところに来てもテンテンは忙しいとサクラが笑えば、我愛羅も全くだと笑みを返した。

そんなこんなで式も無事終わったが、二次会のレストランに着いてからが酷かった。
披露宴に足を運べなかった面々が集まっただけでなく、披露宴で出来上がった面々のはしゃぎっぷりで大混乱だったのだ。

自里の忍達から祝辞を受けていた我愛羅にまずナルトが体当たりをかまし、よろけた我愛羅とナルトに覆い被さるようにリーが抱き着く。
流石に男二人は重かったのか我愛羅が地に突っ伏せば、程よく酒が入ったガイが何故かカカシと共に歌いながらげんなりとする我愛羅を助け出し、嫌そうな顔をする我愛羅を引きずりレストラン内を練り歩く。

それに綱手が爆笑し、雷影であるエーと繰り広げられていた腕相撲に負け賭け金を巻き上げられたかと思うと、その腹いせに我愛羅に腕相撲を申し込む。
前門の虎後門の狼。
我愛羅は思いつつも仕方なく腕相撲に付き合うことになり、本気でやってもわざとやってもどうせ負けるだろうと思い手を組むが、チャクラが練られていることに気づき慌てて身を翻す。
案の定手を離した瞬間割れた机に殺す気かと突っ込めば、酔っててなと返され嘘つけと顔を顰める。

一方サクラは女性陣に囲まれかしましくおしゃべりに興じ写真撮影などをしていたが、我愛羅が纏っていた上着を何故かリーが纏い颯爽と女性陣の間に割り込み、どうですかサクラさん!と言われどうもこうもと頬を引きつらせる。
どうやら酒が入っているらしいリーはシャルワニと呼ばれる我愛羅の上着をたなびかせながらレストラン内を叫びながら駆け出し、その姿にナルトが腹を抱えバカだと叫びながら笑っている。
既に出来上がった酔っ払いの相手は面倒だとサクラといのが頭を抱えつつ、そういえば我愛羅は何をしているのかと姿を探せば何故か机の上に乗り上げ綱手と口論していた。

「第一何だあのドレスは!サクラにはもっと清楚なものの方が似合う!!」
「勿論似合うだろうがあえてのセクシーだ!それが分からんか火影!」
「ドレス似合ってたぞーサクラー」

口論する我愛羅の後ろでのんびり手を振るカカシに手を振り返しつつ、できればあの二人止めてほしいんだけどなぁと思ったが口にしないでいた。
どうせ無理だと答えられるのがオチだからだ。
やんややんやと叫び、暴れ、はしゃぐ面々に呆れつつもまぁ楽しければいいかと思っていたところに、リーがサクラさーん!!と叫びながら戻ってくる。
一体どうしたのかと顔を向ければ、そこで大物捕まえてきました!と何かを引きずって戻ってくる。

「何を捕まえてきたってのよ」

腰に手を当て聞き返すテンテンに、見てください!とリーが突きだしてきた人物にサクラは目を見張る。

「え?!さ、サスケくん?!」

どうして此処に、とサクラが口元に手を当て尋ねれば、サスケは不機嫌そうに視線を逸らしたまま、たまたまだと答える。

「いやいやいや!たまたまでこんな所来ないでしょ?!」

突っ込むテンテンの後ろから、ナルトがあー!と叫ぶ。

「何だよサスケ!やっぱお前来たのかよ!」
「どういうことよ、ナルト」

サスケも呼びたかったサクラではあったが、旅を続けるサスケに文を出すのは至難の業だ。
木の葉に顔を出すのも年に数回だし、砂隠には滅多に来ない。
来てもらうことはできないだろうなぁと諦めていたサクラにナルトは笑みを向けると、実は俺から言ってたんだってばよ!と答える。

「ちょうどこの間の任務でコイツと会ってさ、サクラちゃん結婚すっから式来いよな!って言ってたんだってばよ」
「別に来たわけじゃねえよ!たまたま通りがかっただけだ!」

その言い訳は苦しすぎるだろう。
思いはしたがサクラはただ笑みを浮かべ、ありがとうと言えばサスケはもごもごと口を動かした後におうと頷く。
その頬が若干赤いことに気づいたナルトが茶化せば、すぐさまここでも口論が始まりやれやれとサクラは額を押さえる。

だが一応我愛羅に一言言っておくかと視線を投げたところで、何故か両腕を突き上げ喜ぶ我愛羅の後姿が目に入り暫し瞬く。

「おぉーし!!我愛羅五回戦進出ー!!やるな我愛羅!」
「くっ…勝てると思ったのに…やっぱり風影様は腕相撲もお強いんですね!」
「私との決勝まで勝ち進めよ我愛羅!」
「望むところだ」
「え…?何あれ…」

呆然とするサクラの元に上機嫌に笑うメブキが笑いながら近づいてくる。

「ちょっとサクラ、我愛羅くん結構強いじゃない!」
「え?いや、あの人何やってんの?」

問いかけるサクラにメブキは腕相撲よ!と答える。
腕相撲?!驚くサクラといのにメブキはそうよと頷く。

「盛り上がっててね、うちの人も参加したんだけど一回戦で負けちゃった!あはははは!」
「お父さんまで?!」

笑うメブキに呆れるサクラだが、我愛羅くん頑張れー!と応援するキザシを見つけ頭を抱える。
後ろではナルトとサスケが子供のような言い合いを続け、視線の先では我愛羅と師たちがくだらない勝負を繰り広げている。
平和と言えば平和だが、なんとも疲れる話でもある。

「全く…しょうがないわね!」

サクラはドレスの裾を持ち上げ我愛羅に近づくと、即席で作られたトーナメント表を見やる。

「決勝戦相手が師匠か…我愛羅くん腕折れないといいんだけど」
「そう思うなら止めなさいよ」

冷静に呟くサクラにいのが突っ込むが、サクラは無駄よと返す。

「この人やるって決めたら聞かないんだもん」

呆れた吐息を零した途端、我愛羅六回戦進出ー!とガイが叫ぶ。
五回戦目の相手はカカシだったらしく、負けたー!と箒頭を抱えている。

「サクラ!勝ったぞ!」
「あー、うん。よかったわね」
「ぶわははは!まだまだだなカカシ!よぉーし、次の対戦相手は誰だー?!」

子供のような瞳がサクラを写し、呆れつつも笑みを返せば満足げに頷く。
衣装の裾をまくり、額に汗を浮かべる姿を見ればとても結婚式だとは思えない。
だがこれが自分たちらしいと言えばらしいかと、水分補給する我愛羅に近づき肩に手を置く。

「景品って決まってるの?」
「ん?ああ、優勝者には賞金と女将から賜った宿屋の宿泊券だ」

答える我愛羅にそうと頷き、でもあなたはいらないわよねと返せばそうだなと頷く。

「んふふ、じゃああなたが優勝したら特別なプレゼントをあげるわ」
「ほお、何をくれるんだ?」

楽しげな我愛羅に耳打ちすれば、それは負けられんなとにやりと口の端を上げる。

「絶対勝ってよね!」
「ああ、勿論だ」

バキバキと指を鳴らす我愛羅にサクラが笑えば、いのは何やってんのよと呆れかえる。

「えー?だって負けたら何か悔しいじゃない」
「いやまぁそうだけどさぁ…」

結局あんたら似た者同士よね、といのが続けたところで、ナルトが叫びながらカカシに体当たりする。

「はい!はい!!次俺次俺ー!!」
「痛い痛い!ナルト痛いって!」
「お!ナルトにサスケも参戦か!楽しくなってきたなー!!」
「俺はしねえよ!」
「おぉ、サスケ久しぶりだな。来てたのか」
「まぁな…じゃねえよ!!」

他にもっとあるだろ!
叫ぶサスケの声を聞きつつ我愛羅はよし勝負だと机に肘をつく。
人の話を全く聞く気がない我愛羅にナルトは吹き出し、ぜってー負けねえかんな!とその手を取る。

「よし!では飛び入り第六回戦レディー…ファイ!!!」

カーン!
ガイの掛け声に合わせて長十郎がスプーンでグラスを鳴らす。
エーとオオノキは他の席で笑いながら若者の腕相撲を観戦し、メイも楽しげに酒を口にしながら他里の女性陣と言葉を交わしている。
そして我愛羅とナルトはギリギリと拮抗しながらも勝負を繰り広げ、僅かばかり酒が入っていたナルトが負けた。

「だっはー負けたー!!!」
「よっし!!」

椅子から転げ落ち嘆くナルトと立ち上がりガッツポーズをとる我愛羅。
盛り上がる周囲と呆れるサスケ、苦笑いするカカシがナルトに残念だったねぇ、と話しかけている。
顔に血が上り頬を赤くする我愛羅とナルトは互いを称え合いながら笑いあい、肩をぶつける。

「ちくしょー、酒が入ってなかったら俺ぜってー負けてねーもんな!」
「ふん。どうだろうな」
「んだとこのやろー!」

ぎゃんぎゃんと突っかかるナルトの額を軽く弾く我愛羅に、ガイは七回戦はサスケとするかぁ?と尋ねる。
だがそれに反応したのはナルトで、敗者復活戦!と叫ぶ。

「ナルト!敗者復活戦はなしだ!」
「えー!ばあちゃんお願い!」
「ならん!」
「では次は僕と勝負です!!」

程よく酔いが醒めたのか、名乗り上げたリーに臨むところだと我愛羅は椅子に座りなおす。

「ま、しょーがないか」
「うふふ。本当、しょうがないのよ」

呆れるいのとサクラが顔を見合わせ笑いあい、まるで一大イベントのように盛り上がる腕相撲を観戦することにした。

「あー!惜しかったなリー!我愛羅第八回戦進出ー!!」
「うわあああ腕相撲でも負けましたあああああ!!!」
「まだまだだな、ロック・リー」

いい歳した男たちのはしゃぐ姿に笑いながら、サクラは深く幸せをかみしめたのだった。




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