小説
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そうして何事もなく夏に入り、サクラの単身赴任も終わりを迎えた。

「んー…!案外一年って短いわねぇ」
「お疲れ様ですサクラさん。明日木の葉に一度戻られるんですよね?」

ぐっと伸びをしながら呟くサクラに研究員の一人が話しかければ、仮釈放を受けていた青年がえ?と聞き返す。

「何?あんた達まだ結婚してなかったの?」
「してないわよ。っていうか上司に対して口の利き方がなってないわよ」

諌めるサクラに青年は肩を竦め、じゃあいつ式あげんの?と問えば秋よと返される。

「と言っても一回報告のために里に帰んなきゃいけないんだけどね」
「ふーん。風影も行くの?」

風影様、よ。
ぺちん、と生意気な青年の額を爪弾いた後、サクラはまぁそうなるでしょうねと頷く。

「彼心配性だし」

続けるサクラにはいはいご馳走さんですー、と返し青年は仕上げた書類を揃える。

「これ、今日の分の毒草の成長過程記録票です」
「はい。ご苦労様。今日はもう帰っていいわよ」

受け取った書類に軽く目を通すサクラを見やった後、青年はなぁ、と話しかける。
それに対し何よと顔を上げれば、あんた怒ってねえの?と続ける。

「俺が何したか忘れたわけじゃないだろ」

我愛羅とのわだかまりが解けてもサクラとのことはまだ気にかかっているらしい。
律儀な青年だと思いながらも覚えてるわよと返せば、じゃあ何でと呟く。

「確かにあんたは罪を犯したわ。でもそれ以上に薬学に対する姿勢は素晴らしいものだった。だから評価したのよ」

むしろそれがなかったら今頃忘れてやってるわ。
軽快に笑うサクラに青年は肩を竦めると、あんたもアイツも神経麻痺してるよねと返す。

「どういう意味よ」
「そのまんまだよ」

荷物を纏め帰ろうとする青年の腕を掴み、ちょっと待ちなさいと止める。

「部下の話を聞くのは上司の勤めよ」
「…もう今日の業務は終わっただろ…だったら俺とあんたは赤の他人だよ」

面倒くさそうな顔はシカマルを彷彿とさせ、サクラはその手には乗らないわよといつだって一枚上手な切れ者の男を思い出す。

「じゃあ私を無事家に送り届けるっていう特別任務を課すわ」
「げえ!あんた別にいらねえだろ、強えし」

顔を顰める青年にうっさいと返し、帰り支度を済ませ共に施設を出る。

「それで?神経麻痺してるってどういう意味よ」

何だかんだ言いつつ与えられた任務は遂行する気らしい。
大人しく隣を歩く青年に問いかければそのまんまの意味だよと返される。

「あんたさ、あの人の腹黒さとか性格の悪さとか知ってんだろ?」
「まぁある程度はね」

だが我愛羅が自分の知らぬところで何をしていたか、どんな手を使ったかは知らないと返せば、じゃあ殆ど知らないようなもんじゃんと返される。

「いいのよ知らなくて。知ったところでどうにもならないんだから」
「ふーん。そんなもんっすかねぇ」

俺なら知っておきたいけどなぁ。
ぼやく青年に好きな子でもできたの?と問えば違ぇよとしかめっ面が返ってくる。

「確かに俺たちは忍だけどさ、相手に腹の内も見せれねえのって辛くねえのかなって思っただけ」

どれだけ口が悪かろうと、どれだけ悪態をつこうと根っこの部分は純粋な青年にサクラは頬を緩めると、そのうち分かるわよと言葉を紡ぐ。

「両目を開いて相手を見ることが大事だと思うかもしれないけど、片目を瞑って知らん振りしてる方がいいこともあるのよ」
「…結婚してないのに熟年みたいなこと言うね」

感心したような口ぶりの青年にだってねぇ、とサクラは星が瞬く夜空を見上げる。

「しょうがないじゃない。見ようと思ってもあの人見せてくれないんだから」

だったら言ってくれるのを待つしかないじゃない。
続けられたサクラの言葉に青年は暫し瞬くと、寂しくないの?と問いかける。
だがそれに対しサクラは首を振ると、全然と答えて破顔する。

「私にだって秘密があるんだから、彼にだって秘密があって当然なのよ。あなたが好きな人のことを知りたいって思う気持ちも分かるけど、人には絶対知られたくない事ってあるじゃない?」
「…まぁ」

頷く青年に、だからそれを知ろうとするのは失礼なことでしょと答えてやる。

「必要があれば彼は必ず話してくれる。それを信じて待ってればいいのよ」

朗らかに笑うサクラに青年はそうっすか、と返した後、ガリガリと頭を掻く。

「…女心ってわっかんねー…」

ぼやく青年にサクラは声を上げて笑う。

「男なんてそんなもんよ」
「風影様も?」
「あの人は特によ」

流れるような軽口に信頼関係ちゃんとあるんだな、とどうでもいいことを思いつつ青年も空を見上げる。

「…ご結婚、おめでとーございまーす」
「うふふ。ありがとう」

がりがりと照れくさそうに頭を掻く姿は本当に誰かさんそっくりだと思いつつ、サクラは随分穏やかになった青年の顔つきにひっそりと頬を緩めた。

そして無事家に届けてもらったサクラは先に帰宅していた我愛羅に迎え入れられ、青年はそれじゃあと踵を返した。
だが我愛羅は口の端を上げると、お前も飯を食って行けと青年の首根っこを掴み家に引きずり込む。

「だから!アンタたちもっと危機感持てよ!」
「安心しろ。お前に負ける気はせん」
「それはそれで腹立つんですけど?!」

嘆く少年に今日の晩飯は生姜焼きだが食えるか?と問えば有難くいただきます!と投げやりな返事が返ってくる。

「じゃあサラダの用意をしておくからお前らは手を洗ってこい」
「はーい。ほら、行くわよ」
「…もうあんたら本当何なの…」

ぐったりと背を丸める青年にサクラは軽く笑い、新婚さんかしらねーと惚気てやればもう腹いっぱいだってーのと返され再び笑った。


「…今日はごちそうさまでした」

その後しっかり食事をご馳走になった青年は照れくさそうに頭を掻きながら礼を述べ、我愛羅はまた来いと返す。
それに対し本当危機感ねえなと悪態をつきたくなった青年であったが、存外飯が上手かったので黙っておこうと視線を逸らす。

「私明日から木の葉に帰るけど悪戯しちゃダメよ?」
「そこまでガキじゃねえよ。アンタの分までキッチリ働いてやるから気にせず行って来いよ」

どーせすぐ帰ってくるんだろ?
問いかける青年にまぁねと頷き返し、我愛羅は気を付けて帰れよと青年の頭を撫でる。

「だからガキじゃねえって…」

盛大に顔を顰める青年を二人して見送り、それじゃあ明日の準備でもするかと顔を見合わせる。

「それにしてもあの子よく食べたわねー」
「十九になったばかりだろ。まだ食べ盛りなんだろうな」

並んで食器を片づけながら遠慮なしに飯を平らげて行った青年に頬を緩める。

「変わったでしょ、あの子」
「ああ」

まるで親のような気分を味わいながら片付けを終えると、綱手に報告するための書類を作成するべく筆を手に取る。

「悪いけど先にお風呂入ってて」
「分かった。必要なものは用意しておくから、後でチェックしてくれ」
「うん。分かった」

風呂場へと消える我愛羅の背を軽く見やった後、サクラはよしと袖をまくり報告書へと向き直った。

そして翌日サクラは我愛羅と共に木の葉へと戻り、綱手への報告を済ませた。
初めは我愛羅も交えての報告ではあったが、徐々に医学薬品の話になり自分は管轄外だと我愛羅は口を噤む。
そして茶を運びに来たシズネまで交えての討論が始まり、我愛羅は宇宙語を聞いているようだと椅子に腰かけ空を見上げる。

「…だからこの薬が必要だったんです!」
「甘い!この薬を使うぐらいならこっちの薬品とこの薬品でだな…」
「でも綱手様、サクラの作った薬だとこっちにも応用が効きますよ?」

平和だな。
ぎゃんぎゃんと交わされる言葉をBGMに茶を啜っていると、たまたま通りがかったシカマルが何してんすか、と顔を顰める。

「見て分からんか。暇を持て余している」
「あー…そりゃあ退屈っすねぇ」

我愛羅の後ろでかしましく騒ぐ面々を見やり、茶を啜る我愛羅に視線を落とした後シカマルは面倒臭そうに後ろ頭を掻く。
だがすぐさま小脇に抱えていた書類を手に取ると、これどう思います?と我愛羅に渡す。
一体何なのかと受け取った書類に目を通せば、砂隠と木の葉で実践されているアカデミー生の授業内容についての改変書類であった。

「一部の教師からこの点が非効率だって指摘が上がってんすよ」
「ふむ…まぁうちでもその話は度々出ていたが、まさか署名を集めてまでの抗議になるとは思わなかったな」

書類に視線を走らせ、内容を把握した我愛羅は確かにこれは面倒だなと腕を組む。

「近年アカデミー生のレベルが上がってきたとはいえまだ不十分だ。授業内容のレベルを上げることには賛成しかねる」
「俺もそう思うんすよね。だからと言って出来る出来ないでクラスを分けちまえば高低の差が開きすぎちまうし、生徒たちの精神的発達の妨げになる」
「同感だ。嫌がらせが起きる可能性もあるが、実力のある者が手を差し伸べるという事は大切だ。このシステムを壊すわけにはいかない」

かと言ってこれだけの署名を蔑にするわけにもいかない。
これは本格的にうちでも調査をするべきだなと我愛羅が思ったところで、綱手がドン!と机を叩き思わず肩が跳ねる。

「しかも結婚とは何だ!また私の知らんところで話を進めおって!!」
「だから師匠にはすぐ報告したじゃないですか!」
「そうですよ!綱手様より数日遅れで私の所に文が届いたんですから、我儘言わないでくださいよ!」

…一体何の話をしているんだ。
眉間に皺をよせ後ろを振り返る我愛羅に、シカマルは数度瞬き変わったなぁと思う。
風影になってから随分穏やかな性格になっていたのは知っていたが、それでも此処まで表情が如実に変わることはなかった。
精々煩いと思っているのが分かる程度の表情しかしなかったのが、今では一体何なんだと呆れている様子まで読み取れる。

(ま、サクラのおかげかもな)

ぎゃんぎゃんと綱手相手に物怖じせず言葉を返す友人の横顔を眺めていれば、我愛羅は重い吐息を零す。

「奈良、あいつらを止めてくれ」
「無理っす。アレを止める労力があるなら仕事に回したいんで」

キッパリと断るシカマルに我愛羅もそれもそうだなと頷くと、この件はうちでも話し合ってから返書しようと立ち上がる。
それに対し礼を述べつつ、一体何をするのかと三人に近付く我愛羅の背を視線で追えば、我愛羅はサクラの肩を掴んだ後綱手に向かって一枚の紙を見せる。

「誓約書。忘れたとは言わせんぞ」

ひらひらと綱手の前で揺れる一枚の用紙に綱手は盛大に顔を顰めると、この狸め!と憎たらしげに吠える。
あーこりゃ我愛羅の勝ちだな。
シカマルは相変わらずの綱手に軽く苦笑いすると、振り返ってきたサクラにようと片手をあげ立ち上がる。

「シカマル、いつからいたの?」
「さっきだよ。我愛羅がうんざりしてたぜ?お前らの話聞いて」

まぁその我愛羅が今綱手様と口論してんだけどよ、と肩を竦めれば成程ねとサクラは苦笑いする。
昔に比べ随分大人びた顔を見下ろしながら、シカマルはあー…と決まりが悪そうに頭を掻いた後サクラの名を呼ぶ。
それに対し何よと顔を上げれば、少しばかり照れくさそうな顔が結婚おめでとさん、と告げてきて暫し瞬く。

「ふふ、ありがとう。まさかシカマルから祝福してもらえるとは思ってもみなかったわ」
「何でだよ。そこまで薄情じゃねえぞ」

名誉棄損だと顔を顰めたところで、綱手がええい!と叫び机を叩く。

「サクラを泣かせたら許さんからな!!」
「ああ。孫の顔でも楽しみにしておけ」

ようやく話がついたのだろう。
悔しげな表情をする綱手を背に我愛羅が終わったぞと振り返る。
やはり我愛羅が勝ったらしい。
それに対しサクラは苦笑いを浮かべ、シカマルは本当に変わったなと僅かに口の端を上げた。

その後二人はシカマルとも別れ火影邸を出たところで、任務帰りのいのとチョウジに出会った。

「サクラ!帰ってたの?!」

驚くいのに頷き返し、単身赴任での報告をしにねと続ければそっか、と笑みを返される。

「やー!なんか益々綺麗になってない?腹立つー!」

茶化すいのに何よと笑っていれば、菓子を頬張るチョウジはやっぱ以外だよねと呟く。

「我愛羅とサクラの組み合わせってさ」

その言葉にいのは本当にね、と笑って二人を見やる。

「で、何?これからデート?」

からかういのにちょっととサクラは顔を顰めるが、我愛羅はいいなと答える。

「思ったより報告が早く終わったんだ。御実家に顔を出すにはまだ時間があるだろう」

我愛羅の問いかけにまぁそうだけど、とサクラが返せば、じゃあデート決行ね!といのが楽しそうに笑う。

「なになになにー?二人って普段どんなこと話してんの?気になるぅー!」
「あーもううっさい!!チョウジなんとかしてよ!」

盛大に茶化してくるいのにサクラが頬を染めつつ拳を握り、怒りの矛先をチョウジへと向ければえぇ、と顔を顰められる。

「無理だよ。言ったところで聞かないし」
「諦めんな!」

吠えるサクラに我愛羅は落ち着け、と頭に手を置く。

「別に何だっていいだろう。会話なんぞ必要に応じて変わってくるし、行く場所もその都度変わる」

何をそう気にすることがある。
いつも通りの仏頂面で紡がれ、いのはもしかして怒ったのかなと少々気まずくなるが、サクラはむー、と唸りつつぐりぐりと頭を撫で続けられている。

「それはそうなんだけど…やっぱちょっとそう言われると意識しちゃって歩きづらいなって思うじゃない」

初めてみるサクラの女らしい表情にチョウジが目を瞬かせ、視線を我愛羅へと移せば気にするな、とこれまた優しい顔をしており更に驚く。

「…ねぇいの」
「何よ」

食べ終わった菓子の袋を近くのゴミ箱に放り込んでから、拗ねたような顔をするサクラを宥める我愛羅を横目で見ながらチョウジは呟く。

「案外あの二人、お似合いかもね」

チョウジの普段通りの表情から告げられた言葉にいのは暫し瞬くと、本当にねと笑い返す。

「分かった!じゃあ今日は私の行きつけのお店を紹介してあげるわ!」
「甘味はごめんだぞ」

どうやらサクラたちも話がついたらしい。
意気込む幼馴染の姿に頬を緩めると、そうだと手を合わす。

「サクラ、我愛羅くん」

呼ばれて二人がいのへと向き直れば、チョウジが二人に向かってはい、と飴玉を渡す。
何これ、とサクラが受け取った飴玉を眺めていると、いの達は視線を合わせ同時に口を開く。

「結婚おめでとう」

告げられた言葉に二人は目を見開き、サクラは嬉しそうに破顔し我愛羅も頬を緩め礼を述べた。
その穏やかな姿にいのは羨ましいわね!と笑みを深め、チョウジは幸せにね、と朗らかに笑った。

その後軽い雑談を交わした後にいの達と別れ、二人はのんびりと木の葉の街を歩く。

「そういえば、こうしてこの道を並んで歩くのって四年ぶりよね」
「ああ。そう言えばそうだな」

四年前の冬の日。
宴会の帰りにこうして並んで歩いたことを思い出し、あの時我愛羅にされたセクハラに驚いたことを笑い交じりに告げれば、セクハラとは失礼なと返ってくる。

「俺がどんな気持ちでお前に会える日を待っていたと思っている」
「ええ?どんな気持ちだったの?」

からかうように問いかけるサクラに、我愛羅はテマリから言われた言葉を思い出す。

「“まるでお預けを喰らっている犬そっくりだ”と言われた」
「ぶふっ!」

思わず吹き出せば、ならばしょうがないだろうと返ってくる。

「餌を前に我慢の限界が来たんだ。もうしょうがない。本能だ」
「開き直るな!」

笑いつつ諌めれば、我愛羅も軽く頬を上げた後するりと肩の傷を撫でるように指先を滑らせる。

「…あの時ほど嫉妬したことはなかったな」

呟く我愛羅に頬を緩め、私もあの時ほどやばいと思った時はなかったわよと笑えば少しは反省しろ、と頬を抓られる。
それに対しいひゃいいひゃいと手を叩いていれば、行きつけの雑貨屋に辿り着き此処よ、と告げる。

「見た目は結構可愛いんだけど、実用的な物も多くて重宝してたの」
「ああ…そういえばお前のアパートで似たようなものを見た覚えがあるな」

買って帰るか?
首を傾ける我愛羅にいいのがあったらね、と返しながら暫く店内を物色していると、視線を感じ振り返る。

「ひっ…!!」
「どうした?」

思わず隣にいる我愛羅の袖を掴めば、振り返った我愛羅は目を開いた後額に手を当てる。

「…ロック・リー…用があるなら声を掛けろ」

カラン、と可愛らしい音を立ててドアを引き店外へと出れば、窓に張り付いていたリーが不服気に我愛羅を見据える。
それに対し一体何なのかと我愛羅が問えば、リーはすかさずずるいです!と叫ぶ。

「あ!ご結婚おめでとうございます!でもずるいです!僕もサクラさんとデートしたかったです!」
「ありがとう。だがサクラはやらん」

噛み合っているのか合っていないのか、微妙なやり取りに苦笑いしていれば他にも視線を感じて振り返り呆れる。

「…何か、めっちゃ見られてるんだけど…」
「ん?」

我愛羅の袖を引き後ろを指せば、こっそり陰から除いてくる目玉がいくつもあり我愛羅は嘆息する。

「お前は本当に面倒な奴ばかりに好かれるな」
「んー…言っておくけどその中にあなたもいると思うのよねぇ」

悩むサクラにバカ言え、と我愛羅が返したところで、やーやーお二人さんと声を掛けられ同時に振り返る。

「久しぶり〜。もしかしてデート中?」
「カカシ先生、デバガメなら帰ってもらっていいですか?」

ニコニコと昔から変わらない笑みを浮かべるカカシにサクラがげんなりとした表情を向ければ、酷いなぁとぼやく。

「可愛い生徒が結婚するからって様子見に来たのに」
「残念でしたー。私たちの間に特に問題はありませんー」

ふーんとそっぽを向くサクラにカカシが笑えば、我愛羅はリーを振り返りだそうだ、と返す。
それに対しリーはお幸せそうで何よりです、と肩を落とし、吹っ切るように顔を上げるとカカシの隣に立つ。

「まぁでも仲がよさそうで安心したよ。遠目から見ても楽しそうなのが分かったしね」

一体いつから見ていたのか。
カカシの発言にサクラは呆れたが、我愛羅は気にした様子もなくそうかと頷く。
そしてリーも結婚式楽しみにしてますね、といつも通りの笑みを浮かべ、サクラさんお幸せに!と叫ぶように告げると嵐のように去って行く。
何と言うかまぁ、本当に此処は変わらない。

懐かしさに目を細めるサクラを横目に、我愛羅がカカシへと向き直ればにっこりと笑みを向けられる。
本当にサクラの周りは男ばかりだ。
妹囚人とのやりとりを思い出しつつ肩を竦めれば、我愛羅くんもお幸せにねと告げられどうもと返す。

「カカシ先生はいい人いないの〜?」

楽しげに見上げるサクラにカカシは秘密と返し目を細め、ぐしゃぐしゃとサクラの頭を撫でると我愛羅へと視線を投げる。

「サクラのこと、よろしくね」
「ああ。任せておけ」

まるでもう一人の父親のようなカカシに頷き返せば、そんじゃあ後ろのデバガメ達引きずって帰りますかとカカシは笑う。

「じゃあねサクラ、我愛羅くん。式楽しみにしてるよ」
「はい。カカシ先生絶対来てくださいね!」

華やかな笑みを浮かべるサクラにカカシも頷くと、じゃあまたね、と手を上げガイやテンテンと言った他のデバガメ達を引きずっていく。
それらを見送りつつ我愛羅を見上げれば、いつも通りの仏頂面が疲れたような吐息を吐きだす。

「これではゆっくり街を歩くことも出来んな」
「じゃあアパート来る?荷物は殆ど実家に送ったから何もないけど」
「構わん」

どうせアパートの契約も今日で切れるのだから、最終日位あの部屋に顔を出すのもいいだろう。
そう思い再び並んで道を歩き出すが、すぐさま出歩いていたメブキに見つかり呼び止められる。

「ちょっとあんた達!帰ってたなら顔出しなさいよ」
「すみません」

頭を下げる我愛羅にまぁいいわとメブキは笑うと、今日も暑いわねぇと蝉の声にうんざりしながら扇子を広げ我愛羅を煽いでやる。

「ところであんた達仕事帰りで疲れてんでしょ?さっさと家に入んなさい!」
「え、ちょっと…!」

二人はメブキに背を押されるまま実家の玄関を潜り、夕方には帰ってくるからね!と告げられ戸を閉められる。
締め切っているせいで蒸し暑い部屋に二人は顔を顰めるが、まぁいいかとサクラは部屋中の戸を開けていく。

「結局こっちに来ちゃったね」
「そうだな」

苦笑いする我愛羅の前に扇風機を置き、生温い風を送りながら木の葉の夏を感じる。

「…しかし木の葉は暑いな…」

湿気のある暑さはやはり慣れないのだろう。
ぐったりとソファーに凭れる我愛羅に苦笑いしつつ、首元開ければ?とボタンを取ってやれば腰を抱かれる。

「ちょっと」
「汗だくになるのもいいな」
「おバカ!」

笑う我愛羅をぴしゃりと諌めつつも、寄せてくる顔に抗いはしない。

「…ここじゃ嫌よ」
「じゃあお前の部屋に行くか」

機嫌よさげな我愛羅にまったく、と思いつつも足元の扇風機の電源を切ってから自室の扉を開ける。
茹だるような暑さの中エアコンのスイッチを入れ、雪崩れこむようにしてベッドにもつれ込んだ。




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