小説
- ナノ -






それから我愛羅は青年と別れ、今度は姉妹を呼び出した。
妹の方も木の葉から砂隠に護送されており、二人は我愛羅を見た途端正反対の態度を示した。

「お、おおおま、お前がよび、呼び出してくるとか、ど、どどどういう風の吹き回しだよ…!」

どもりまくる姉に視線を向け、顔が赤いが大丈夫かと問えば赤くねえよ!と返され暫し瞬く。
男に十の悩みがあるなら女には百の悩みがある。そのうちの一つかもしれん。
そう解釈し妹の方へと視線を向ければ、尋常じゃない程の殺気の籠った視線で射抜かれ弱ったなと肩を竦める。

姉はともかく妹は手強そうだ。
だが何はともあれ座ってくれと椅子に促せば、うろうろと視線を彷徨わせた後姉は静かに腰かけ、妹はふんぞり返るようにどすんとその隣に腰かける。

「んで?あたしたちを呼び出した理由は何だよ」

切りだしてきたのは妹で、我愛羅は実はな、と身を乗り出して口を開くが近ぇよ!と姉に怒られ潔く身を引く。

「一度お前たちとちゃんと話しておくべきだと思ってな」

ようやく休みが出来たから足を運んだんだと答えれば、姉は頬を赤らめ妹は怪訝な顔をする。
姉妹だから顔はよく似ているのだが、態度は本当に正反対だなと少々面白く思っていると、妹が青年張りにけっ、と顔を背ける。

「あたしはてめえが言ったことを忘れてないよ」

憎しみの眼差しで見据えられ、我愛羅はだろうなと頷く。
あの瞬間、我愛羅は確かに妹囚人の方に対し憎しみにも似た怒りを覚えていた。
それは幼い日の己に対する嫌悪でもあり、更生できるであろう彼女の未来を敢えて潰す酷い言動だったと今は反省している。
だからこそ我愛羅は素直にすまなかったと頭を下げる。

「お前に言ったことは謝罪したところで消えはせん。だが、それでも頭を下げておくのが礼儀だと思ってな」
「ふん!そんなのてめえの自己満足だ。頭を下げて許してもらえると思ったら大間違いだよ」

頭を下げるということは自分が許されるとどこかで過信しているから出来る行為なんだ。
零される悪態にも似た言葉に、我愛羅はそうかもしれんなと素直に頷く。

「この一回の面談でお前に許されようとは思ってはいないし、生涯お前が俺を許さない可能性があることも分かっている」
「じゃあ尚更頭なんて下げんじゃねえよ。てめえのハゲかけの頭なんて見ても何にも楽しくねえ」

顔を顰める妹に姉はおい、と声をかける。

「お前よく見てみろ。コイツまだハゲてねえぞ」
「そーいう意味じゃねえよ!」

突っ込む妹に何だかテンテンみたいだなと思いつつ、姉の方へと視線を投げかければ徐々に視線が泳ぎだし顔が赤くなっていく。
上がり症なのかもしれんな。
思いつつもじっと見つめていれば、なななななななんだよ、と言われ、ああ、と数度瞬く。

「今思ったんだが、お前結構美人だな」

我愛羅の爆弾発言に姉は机に勢いよく突っ伏し、妹はああん?!とガラス板に額を擦りつけ睨んでくる。

「てんめえ何言ってんだゴルァアア!!!」
「ん?いや客観的意見なんだが…違ったか?」

首を傾ける我愛羅にそうじゃねえよ!と妹が突っ込む。

「姉ちゃんは美人だよ!そりゃあたしも認めてるよ!でも違うだろ?!現状言う言葉としては間違いだろうがよお!!」

てめえの頭どうなってんだ!
怒涛のツッコミに我愛羅は上体を反らしつつ、何かおかしなことを言ったのかと視線を彷徨わせる。
だがよく分からなかったので、素直にすまんと謝る。

「…び、じんとか…言われ慣れってし…別に…うれしいとか思ってねえし…」

ぶつぶつと呟く姉に、何だやっぱり美人なんじゃないかと続ければ、もう止めろ!とストップがかけられる。

「お前なんなの?!結婚するんじゃなかったのかよ?!何で姉ちゃんナンパしてんだよぶっ殺すぞ!!」
「何?ナンパだと?!」

何故か衝撃を受ける我愛羅に姉妹は目を瞬かせる。

「ちょっと待て…一つ確認したいんだが…」

若干顔を青くし片手を上げる我愛羅に、何だよと妹が聞き返せば、今のはナンパなのか…?と不安げな声で問われ目を開く。

「は?え…?お前なに…?今の無意識だったわけ?」
「いや無意識も何もただ事実を述べただけだと思っていたんだが…」

今日はいい天気ですねと同じノリだった。
告げられた言葉に妹は頭を抱え、姉はギャップ萌え…!!と再度机に突っ伏す。

「お前…お前さ、奥さんに怒られたりとかしねえの…?」

先程とは違う、完全に呆れかえった、尚且つ若干引いた眼差しで見つめられ首を傾ける。

「今の所怒られたことはないが…どうだろうな…」

分からん。
呟く我愛羅に妹はお前…と再度頭を抱える。

「マジでバカなの?」
「…お前たち囚人からはしょっちゅう言われるが、俺は別にバカではないぞ」

人間だれしもミスはするだろう。
我愛羅の少々ズレた答えに妹は心中でのみそうじゃねえよと思ったが、突っ込むのも疲れ始めたので言葉にはしないでおいた。

「まぁいいや。つか、あたし呼び出したのは謝りてえからってのは分かったよ。でも何で姉ちゃんまで呼ぶわけ?」

とにかく先に話を進めようとした妹の言葉に我愛羅はああ、と頷く。

「一つ確認したいことがあってだな。妹に聞いたんだがお前初め捕まった時に逃げることも出来たらしいな。何故そうしなかったんだ?」

我愛羅に問いかけられ、机に突っ伏していた姉は顔を上げると妹を怪訝な顔で見やり、はあ?と盛大に零し首を傾ける。

「何言ってんだお前。あの時あたし足やられてたんだから逃げれるわけねえじゃん」
「は?!でも姉ちゃん後で行くからって…!!」

顔を顰める妹に、姉はあー…とバツが悪そうに頭を掻くと、アレはお前を逃がす嘘だよと答える。

「は?嘘?」

鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする妹に、姉は頷く。

「あの時あたしは足やられててな。走るどころか歩くことすらできなかったんだよ。でもお前それだと逃げないだろ?だから後で行くって言ってお前を逃がしたんだよ」

数年前の詳細を聞いた妹は何だよそれ!と声を荒げる。

「じゃあ姉ちゃんコイツに捕まったから素直に豚箱にぶち込まれたわけじゃねえのかよ?!」
「はあぁ?!ざっけんな!つかあたしを捕まえたのはコイツじゃなくて別の男だったよ!」

じゃんじゃんじゃんじゃんうっせえやつ!!
姉の言葉でカンクロウか…と我愛羅は目を細め、分かりやすい説明だなと思う。

「じゃあコイツのために死んでもいいってのは…」
「は?誰がそんなこと言ったんだよ。あたし死にたくねえし」

男のために死ぬとか御免だぜ。
はっ!と笑う姉に、妹はなんだよおおおおと突っ伏す。

「じゃああたし凄いバカじゃん!すげえ勘違い野郎じゃん!!」

うわあああと頭を抱える妹に、我愛羅はちょっと待て、と言葉を投げる。

「お前は女だろう。ならば野郎は間違えだ」

その相変わらずのズレた言葉に、妹はそこじゃねえよ!と突っ込む。

「やっぱお前バカだ!絶対バカだ!!」
「だからバカではないと何度言えば分かるんだ。というか何だ、今のは違うのか?」

辞書が手元にないから分からんぞ…
眉間に皺をよせ思案する我愛羅と突っ伏す妹に、姉がおいおいと声をかける。

「風影、あんたの言ってることは正しいよ。女に野郎は間違ってから安心しな」
「そ、そうか」

よかった。
呟く我愛羅に何だよコイツ可愛いところもあるじゃねえかと思いながら、姉は妹に視線を移し、バカたれと頭を小突く。

「お前人を勝手に死にたがりにするんじゃないよ」
「だ、だって…」

額まで赤くして涙目で姉を見上げる妹に、やれやれと肩を竦める。

「あたしは自分の死に場所は自分で決める。男に惚れたから命を投げるなんてそんなバカなことしねえよ」

コイツに助けられた命をみすみす捨てるほどバカじゃない。
暗にそう続けるのが分かった妹は、ぐっと唇を噛みしめると我愛羅へと向き直る。

「風影…あたしが勘違いしてた…」
「いや。俺もお前に酷いことを言った」

怒りに駆られていたとはいえすまなかった。
再度頭を下げる我愛羅に、妹は唇を噛むといいよ、と視線を逸らす。

「あたしも…その、悪かったよ…酷いこと言って…」

あと姉ちゃんもごめん。
続けられた謝罪に姉はふうと息をつくと、わかりゃあいいよと椅子に座りなおす。

「一度きりの人生だ。婆になるまで楽しみてえじゃねえか」

そに惚れた男に助けられた命なんだ。そう簡単に捨ててたまるかよ。
潔く言い切った姉ではあるが、妹は姉ちゃん、とその満足げな横顔に呼びかける。

「あのさ、格好よく決めた所悪いんだけど」
「あんだよ」

本人そこにいるぜ。
妹がさした先、ずっと黙っていた我愛羅はパチパチと瞬きを繰り返し姉の言葉を聞いていた。

「………」

三人の沈黙が降りる中、姉は火山が噴火するかの如く首元から額まで一気に朱に染め上げると、うわあああ!と叫びだす。

「うわあああああ殺せええええ殺してくれええええええ!!!!!」
「ちょ、待て!落ち着けって姉ちゃん!さっき自分で言ったこと思い出せって!!」

赤い顔で暴れまわる姉の姿はまるで昔絵本で読んだ赤鬼そっくりだと思いながらも、女の悩みは尽きんなぁとどうでもいいことも考える。
だがいい加減止めなければ手枷も壊しそうだ。
そう判断すると我愛羅は暴れる姉妹においと声を掛けるが、案の定聞こえていないようで監修も苦労している。
まったく。
我愛羅は軽くため息を零すと、瓢箪の砂をガラス板の隙間から流し込み、あっという間に二人を簡易的に拘束する。

「いいから落ち着け」

がっちり手足を固定された姉を見下ろしながら、妹は荒くなった息を必死に整える。

「しにたい…きかれた…しにたい…」

赤い顔でぶつぶつと負の言葉を吐き続ける姉に、我愛羅は再度おいと声をかける。

「死ぬのは許さん。俺が助けた命なのだろう。ならば生きろ」

また無意識にそんな言葉を…!
妹は拳を握るが、姉は腹筋を使って飛び起きるとバーカ!と叫ぶ。

「う、嘘に決まってんだろ?!誰が死ぬかよバーカ!」

皺くちゃの婆になるまで生きてやるよ!
拘束し床に転がしていたにも関わらず、その強靭な筋肉のバネのみで起き上がった姉に我愛羅は凄い女だなと素直に感心する。
それから拘束していた砂を解くと、話を続けるぞと二人に投げかける。

「先程の言葉には後で返事をする」
「やめろ。答えなんて分かり切ってんだから返事すんな。今度こそ姉ちゃん死んじまう」

冷静な妹の言葉に、返事をもらえない方が辛くないか?と問いかければ姉は別にいいよと返す。

「あんた結婚すんだろ?あの女と」
「貶めるのは許さんぞ」

以前のことを思い出し少々きつく睨んでやれば、もう言わねえよと視線を逸らされる。

「嫉妬なんて楽しくねえし。無駄なことに時間を使いたくねえよ」

そう零す姉の瞳は少々沈んでおり、我愛羅は暫し瞬くと気持ちは有難いがな、と続ける。

「俺は彼女…サクラ以外の女ではダメなんだ」

まっすぐとした瞳に見つめられ、姉は頬を赤くしながらも分かってるよ、と返す。

「…分かってっから、もう言うなよ…」

俯く顔は髪に隠れて見えなくなり、困った我愛羅が妹へと視線を移せば妹は複雑な表情をしている。

「…正直、姉ちゃんが振られて安心したらいいのか腹を立てればいいのか分かんねえよ。悪趣味だってことは分かってんのに」

紡がれる悪態に手厳しいなと肩を竦めれば、だってそうだろ、と返される。

「無意識で女を口説くし手を差し伸べるし、その癖自覚なしに振った女の心を救おうとする。そんな男を悪趣味だと言わずに何だって言うのさ」

投げられた言葉に我愛羅は目を見開くと、再度ちょっと待てと妹に詰め寄る。

「俺はそんなことしていないぞ…?」

その無意識発言に、再び妹が切れる。

「どこがだよ!初めの一言は学んだんだろ?!じゃあ他も分かるだろ!!」
「分からん!」
「威張んな!!」

息を荒げる妹に、ちょっと落ち着こうと零してから話を持ちかける。

「その…少し相談したいことがあるんだが…」
「あんだよ」

深刻な表情をする我愛羅に妹が顔を顰めれば、我愛羅は実はだな、とサイに言われたことを思い出す。

「別に浮気ではなかったんだが妻以外の女と二人で会っていてな。勿論仕事の話だったんだが、妻の友人に浮気と間違われて不誠実だと怒られたんだ」

妻は浮気はしてないと信じてくれたからよかったが、これはダメなことなのだろうか?
本気で分からず首を傾ける我愛羅に、妹はあたりめえだろ!と拳を握る。

「逆に考えてみろよ!奥さんが男と二人きりで会ってたらお前だって浮気か?って疑うだろ!」

妹に問われ腕を組み想像してみるが、よくよく考えてみればサクラの周りには鬱陶しいほどに男ばかりが余っている。
勿論いのやテンテン、ヒナタなどもいるが男性陣に比べれば圧倒的に女性の数が少ない。
ということは常日頃から彼女は誰かしら男と日中を過ごしてきたわけで、だが二十歳まで処女であった。
つまり彼女の周りにいるのはナルトとサスケを除き基本ビジネスパートナーだということに気づき、我愛羅は確信する。

「思わんな。いつも男ばかりしかおらんから浮気とか想像できん」
「いやそれもそれでどうなんだよ?!」

あんたらの価値観どうなってんの?!もうわけわかんねえよ!
突っ込む妹に何故だと首を傾ける。

「何がおかしかったんだ?」
「むしろ何でわかんねえんだよ?!問題山積みじゃねえか!!」

つーか何で男ばっかの職場に奥さんぶち込めるんだよ!やっぱお前バカだろ!!
今日だけで一体何度バカと呼ばれればいいのか。
軽くへこみつつもうーん、と悩む。

「だが忍の男女比率はやはり男の方が多い。仕方ない事ではないか?」
「いやそりゃそうだがよ…何でそう自信満々に浮気してねえって言い切れるんだよ」

お前だって男なら思うとこあるだろ。
促され考えてみれば、確かに以前の自分なら嫉妬をしていただろう。
だがふとサクラが己以外の男に興味など持たないと宣言したことを思い出し、だからだと気づき目を開く。

「妻が俺以外の男に興味ないと言ったからだな!」

拳を握りしめ、自信満々に告げた我愛羅に妹は勢いよく机に突っ伏し重い吐息を吐きだす。

「お前…やっぱバカだろ…」
「む、何故だ。妻の言葉を信じただけだぞ」

相手を信じることは大切なことだろうが。
至極当然なことのように述べる我愛羅に、妹は顔を上げるとお前さぁ、と呟く。

「結局惚気ただけじゃん…」

その言葉に我愛羅は暫し瞬くと、同じく突っ伏したままの姉に目を向け、再度妹に向き直る。

「…これが惚気というものなのか…?」

初めて知った…
呆然とする我愛羅に、妹はやっぱお前バカだろ、と呟いた。




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