小説
- ナノ -






それから暫く三人で会話を楽しみ、夕暮れが広がり始めたところで茶屋を出る。

「それじゃあまた来ますね」
「ええ、写真楽しみにしてるからね。旦那さんもまたおいでね」

朗らかな笑みに二人揃って頷き返し、頭を下げてから手を取り合い境内を抜ける。

「いい人だったでしょ?」
「ああ。先代とは違って心穏やかに話せてよかった」

ふざける我愛羅にバカねと笑いながら、夕暮れに馴染む朱い鳥居を見下ろす。

「行きはよいよい帰りはこわい。この歌知ってる?」
「ああ。通りゃんせだろう。昔聞いたことがある」

答える我愛羅に頷くと、一人で参拝した時のことを思い出す。

「怖い話がついて回る歌だから、思い出した時怖くなっちゃったんだけど…参拝したら神様がついてくれるって教えてもらって勇気振り絞って帰ったのよね」

番傘を握り締め、振り返ることなく鳥居を抜けた時のことを思い出す。
あれはきっと、ずっといろんなものに守られていた心が剥き出しになっていたから恐ろしく感じたのだろう。

「だが今はもう怖くないだろう」
「まぁね」

だって隣にあなたがいるんだもの。
そう言って笑いかければ、我愛羅も同感だと頷く。

「そう言えば一つ思い出したんだが」

一番初めの鳥居を抜けた時、我愛羅はぽつりと言葉を零す。
それに対しなあにと先を促せば、そういう時はしりとりをするといいぞ、と返される。

「しりとり?」

首を傾けるサクラにああ、と頷く。

「しりとりをすることで言葉で結界を張ることができるらしい。魔除けの一つだと聞いたことがある」
「へぇ〜そうなんだ」

感嘆の声をあげるサクラに、我愛羅はするか?と問いかける。

「そうね。じゃあ、しりとりのり!」

オーソドックスな始め方に口の端を上げると、すぐさま竜胆と返す。

「う、か…ウサギ!」
「ギボウシ」
「何それ?」
「初夏に咲くキク科の花だ」
「へぇ〜…詳しいのね」

そう言えば植物が好きだったな。
そんなことを思い出しつつ、鹿!と答えれば楓と返されちょっと、と唇を尖らせる。

「で、って難しいじゃない」
「頑張れ」
「意地悪!…で…デート!」
「したいのか?」
「バカ」

呆れるサクラに軽く笑い、唐麦と返す。

「また濁点?!」
「頑張れ」
「性格悪っ!ぎ…義理人情!」
「何だそれ」

吹き出す我愛羅にいいのよ、と返せば、ウツギと返されまたぎ?!と叫ぶ。

「ていうかそもそもウツギって何?」
「これも花の名だ。白くて可愛らしいぞ」
「…私より花の名前知ってるって何か悔しいんだけど…」

軽く文句を言いつつも、銀シャリと答えれば飯かと再び笑われる。

「だ、だって思い浮かばないんだもん!」
「お前は昔から変わらないな」

以前も寝言でごはん〜、と零していたことを思い出し笑っていれば、いいから早く続けてよと肩をぶつけられる。

「リコリス」
「す…」
「き?」
「バカ!」

からかう我愛羅を諌めれば、言ってくれないのかと肩を竦められ再度おバカと呟く。

「言わせても楽しくないでしょ?」
「成程、そういうことか」
「そういうことよ。スズキ!」

ほら、私も植物の名前出したわよ。
ふふんと誇らしげな横顔を横目に見ながら、キスと言えば呆れた瞳が我愛羅を写す。

「…あなたって結構子供よね」
「何の事だかさっぱりだな」

ジト目を向けてくるサクラに肩を竦めれば、スイカ!と紡がれカブと返し、また濁点!と怒られる。

「ぶ…豚!」
「タデ」
「また植物!そしてまた濁点!うぎー!!」

デザート!トキソウ。また植物!う、浮き輪!ワタスゲ。何それ。植物。またか!しかもげ?!げ…ゲーム!ムギワラギク。

「植物シリーズ…!!く…釘づけ!」

もうすぐ鳥居も終わるところでふと思いついた言葉を続ければ、我愛羅は暫し瞬いた後に目を細めサクラを見やる。
一体何かと思えば、翡翠の瞳に悪戯心が垣間見え、思わず頬が引きつる。

「…結婚しよう」

最後の一歩を踏み出し、答えは?と問われ思わず唇を尖らせる。
ここで別の単語を言って諌めてやってもいいが、何だか言わないのももったいない気がするのでうん、と頷けば満足げに額に口付られる。

「俺の勝ちだな」
「…バカじゃないの」

まさかこの歳にもなってこんなくだらない遊びをする羽目になるとは。
しかも何回自分にプロポーズするのかと突っ込めば、さあなと機嫌よく笑われる。

「…やっぱりあなたって子供だわ」
「目が離せなくていいだろう」
「よくないわよ、バカ」

叩きあう軽口に結局頬を緩めてしまい、何だかなぁと思いつつも母屋へと戻る。
そうして夕餉の準備をする女将の手伝いをする間、我愛羅は先代相手に将棋を打つ。

「お、腕を上げたね」
「卓球はともかく将棋で負けるのはな」

采配に繋がるのだからこそ負けられん。
真剣な空気の二人に笑みを零し、女将がご飯ですよと紡げば思い出したかのように我愛羅の腹が鳴る。

「お前さん今の方がよっぽと食うんじゃないかい?」
「代謝がいいんだろう」
「でも本当太らないわよねぇ」
「まぁ羨ましい」

四人で下らない話に花を咲かせながらの食事は楽しく、あっという間に夜が更ける。
片付けた食器を拭いていた先代がそうそう、と振り返る。

「今日はどうすんだい?泊まってくのかい?」
「いや。サクラが明日から仕事だから帰る」

手洗いに行ったサクラの代わりに我愛羅が答えれば、忙しいねぇ、とため息を零される。

「しかしまぁ、本当によかったね」

サクラがあんたの嫁さんなら安心だよ。
からかうように投げかけられた言葉に肩を竦め、世話になったなと零せば背を叩かれる。

「たまには顔出しなさいよ」
「安心しろ。子が出来ても年に一度は顔を出す」
「そりゃ嬉しいねぇ」

ばーばと呼ばせようか。
笑う先代に口の端を上げれば、サクラがごめんごめん、と戻ってくる。

「では世話になったな」
「慌ただしくてすみません」

二人して礼を述べれば、先代は今度はゆっくりしておいきと笑い、女将はまた来てくださいねと微笑む。
そうして二人は我愛羅の砂に乗り帰路を辿る。

「あ、そういえば式の事なんだけど」
「何だ?」

不備でもあったか?
首を傾ける我愛羅にそうじゃないんだけど、と言葉を返す。

「友人代表って誰に頼むの?」

まさかナルトじゃないでしょうねと続ければ、我愛羅もそれはないなと首を振る。

「あいつがまともなスピーチが出来るとは思えん」

腕を組み眉間に皺を寄せる我愛羅にほっと息をつく。
もしここでナルトに頼む気だと言われたらどうしようかと思ったが、杞憂だった。
安心するサクラを横目で見やり、我愛羅は山中なら俺は構わんぞと答える。

「え?いいの?」

何故自分の考えがバレタのかと顔を向ければ、分かるに決まっているだろうと呆れられる。

「それに山中なら安心できる」

何時の間にそこまでいのを信頼できるようになったのだろうかと首を傾けるが、冬でのことを思い出しその時に何か納得できるものがあったのだろうと解釈する。

「じゃあいのに手紙出しておくね」
「ああ、構わん」

帰ったら招待する人決めなきゃねー、あと二次会の幹事も。
やることが沢山だと破顔するサクラに我愛羅もそうだなと頷いた。


後日、木の葉ではサクラから手紙が届いたいのがバタバタと里の大通りを走り抜け、テンテーン!!と叫ぶ。
書類整理をしていたテンテンはその声にどうしたのよと顔を出せば、サクラが、サクラが…!!と興奮しながら手紙を広げる。

「サクラの式の日取りが決まったのよ!それで友人代表でスピーチ頼まれちゃって…!!」
「え?!よかったわねぇ〜。いついつ?」

サクラから送られてきた手紙を元に二人がきゃっきゃと楽しげに会話をしていると、生徒を引き連れ任務から戻ってきたナルトがあれ、と首を傾ける。

「お前ら何やってんだ?」

近付いてくるナルト達に、いのがサクラの式の日取りが決まったのよと答える。

「え、そうなの?つか、俺ん所まだ手紙来てないんだけど?!」

いのの手紙を眺めつつ、ガーンと顔を青くするナルトにテンテンがバカねと肩を竦める。

「いのは友人代表のスピーチを頼まれたから先に知らせが来たのよ。私たちには後日招待状を送るってちゃんと書いてるじゃない」
「あ?本当だ。なんだー、よかった〜…」

安堵するナルトに二人がバカねぇ、とため息を零せば、着いてきた生徒もナルト先生バッカで〜と笑う。

「うっせえ!大人をからかうんじゃねーってばよ!」
「だったら先生もっとしっかりしてよね!」
「忍術はすげーけどさぁ…」
「女も頭もからっきしだよな」

酷い言われように女性陣が苦笑いすれば、ナルトはバキバキと腕を鳴らし始める。

「よぅしお前ら…そんなに体力余ってんなら今から第三演習場で体術の授業だってばよ!!」
「えぇ〜!あたしもう無理!」
「できるわけねえじゃん!」
「一人でやってろよー!」

顔を顰める生徒たちに文句が言える元気があるならまだ行けると胸を張る。

「報告は俺がしとくから、お前ら演習場にいなかったら明日の任務に加えて雑用させるからな」
「先生の鬼!鬼畜!人でなしー!!」
「バーカバーカ!」
「一生独身の呪いかけてやる〜!」
「うっせえ!!さっさと行け!」

怒鳴るナルトの声を背に、生徒はうわー!と叫びながら部屋を後にする。
その背にまったく、と重い吐息を吐きだせば、後ろからくすくすと笑う声がする。

「何笑ってんだってばよ」
「いやぁ…ナルトも先生が板についてきたわよね、って思って」
「昔はあんたもあんな感じだったのにねぇ〜」

からかう二人にナルトは顔を顰めると、いつまでも子供じゃいられねえだろと返す。

「それに俺は火影になるって決めてんだからよ」

でもサクラちゃんの結婚式までには火影になりたかったなー。
ぼやくナルトの顔はそれでもどこか誇らしげで、何だかんだ言って大切な二人が幸せであることが嬉しいのだろう。
二人は顔を見合わせると、サクラの式楽しみねと頼もしい背中に投げかけた。




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