小説
- ナノ -






そんなこんなでドレス選びから式場選び、その他諸々の用意と手順の手続きを終えてから店を出た。

「…何か、すごい二人だったわね…」
「慣れれば何とかなるがな」

ガイ班である程度慣れていたとはいえ、最近では落ち着いた生活を送っていたサクラにパニエとカフスのテンションは久々すぎてもはや衝撃であった。
ドレス選びもあれを着てみろこれはどうだと何着も試着させら、眺めていた我愛羅からは結婚してくれと何故か再度プロポーズされ赤面する羽目になるし、ドレスも結局オーダーメイドになった。
金はあるから気にするなとサクラ以上に素材からデザイン、細かな装飾全てにこだわった我愛羅には軽く呆れたが、パニエからやらせておけばいいのよと笑われそれもそうかと頷いた。

「でもドレスもサルワールカミーズもあんなにお金かけてよかったの?」

他にも式場とか食事とかそういうものにもお金がかかるのにと続けるが、我愛羅は心配するなと返す。

「賭博で儲けた金もそうだが俺自身の蓄えもあるしな。普段使わんのだからこういう時に盛大に使ったほうがためになる」

それに他の奴らに牽制もできるしな。
口の端を上げ悪人面する我愛羅に、そう言えばこの人狸だったわと軽く額を抑える。
だが自分のドレス選びから式のことまでしっかり考えてくれていたのは正直嬉しかったので、繋いだ手を揺らしながら笑みを向ける。

「帰ったら誰を招待するかも決めなきゃね」
「ああ。他里にも知らせを出さなければな」

楽しみだなぁ。
緩む頬をそのままに、我愛羅に案内をされながら風の都を楽しむ。
同じ砂漠の地でありながらもやはり忍とは違う一般人の生活は穏やかで面白味にあふれている。
一体何に使うのかと問いたくなる物から娯楽用品まで、幅広な物品に頬を緩ませていると見慣れた品物が目に入る。

「ねぇ、これって…」

呟きつつ手に取れば、我愛羅はああ、と頷く。

「木の葉からの輸入品だな。結構人気があるらしいぞ」

手に取った陶器は木の葉ではオーソドックスなものだが、やはり他国では珍しい品物らしい。
それに木の葉だけでなく水の国や土の国からの工芸品も多く並んでおり、見慣れないそれらは多種多様で面白い。
我愛羅が言うには交易も上手くいっているらしく、暫くは風も砂も安泰だろうと穏やかに目を伏せる。

国から命ぜられたこととはいえ、それを上手く自里の肥やしにもするあたり伊達に何年も影を勤めていないと普段通りの仏頂面を眺める。
自分より遥か先を歩く男たちの背を見つめ続けた身とすればある程度慣れているとは慣れている。
だがそれでも身分の差と言うものはそれらとは少々違う。

(隣に立つって言ったけど…具体的にどうしていいかまだ分かんないのよね。仕事は頑張るけど、本当にそれだけでいいのかしら…)

精神的に我愛羅を支えていることに自信が持てずぼんやりと品物を眺めていると、突然視界に色が落ちてくる。
一体何なのかと慌てて顔を上げれば、衣装に合わせるかのような薄紅のショールを掛けられており数度瞬く。

「あの、我愛羅くん?」

訳が分からず感情の読み取れない顔を見上げれば、伸びてきた手がぎゅっとサクラの鼻先を抓む。
いひゃい、と零しながら手を叩けばあっさりと指は離され、一体何なのかと見上げれば何を考えていたと無機質な声がかけられる。

「どうせロクなことではないだろうがな」
「…どういう意味よ」

人が真剣に悩んでいるのに。
唇を尖らせつつ問いかければ、今度は手近なパペットを手に取るとそれで額を突いてくる。

「俺はお前以外の女など興味もないし傍に置くつもりもない。人の気持ちを蔑にするなと言ったお前が俺の気持ちを軽んじるのか?」

それは許さんぞ。
サクラの不安の大元を何となく理解しているのだろう。
その諌める言葉に閉口し、唇を噛みしめながらぎゅっと詰まる喉に無理やり唾を流し込む。

「ごめんなさい…」

視線を伏せれば隣から呆れたような吐息が零される。

「俺はお前のことを全て理解してやることはできない」
「うん」

幾ら愛していても、他人は他人だ。
その心の内を全ては理解できないし、しない方がいい。
知らないからこそ上手くいくこともあり、理解できないからこそ面白いとも思っている。
だからそれには同感だと頷けば、それに、と言葉を続けられる。

「お前の悩みを俺が解決してやることが出来るかは分からん。だが聞いてやりたいとは思う。夫婦とはそう言うものなのだろう」

喜びは倍に、悲しみは半分に。
そう俺に教えたのもお前だと軽く笑われ、サクラもそうかと頬を緩める。

「ごめんね、ちょっと弱気になってた」
「いや、気にするな。結婚する前の女は皆情緒が不安定だと教わっていたからな」

知らなければ焦っていただろうが。
零される軽口に少しばかり笑い、ありがとうと呟けば頭を撫でられる。
そこでするすると滑る感触を思い出し、そう言えばとかけられたショールを掴む。

「これ何?」
「ああ、それはドゥパッタと言ってな。パンジャビドレスの上から羽織るものだ」

無くても構わんが、肌の露出を抑えたい時や砂がよく飛ぶ時に羽織るといいぞと教えてくれる。

「刺繍がしてるものから無地まで幅広いから好きなのを選べ」
「いいの?」

問えば頷かれ、そうだなぁ、と店に並ぶ様々なドゥパッタを眺める。
だが結局我愛羅が選んだ薄紅の物に決め、タグを取ってもらってから肩に羽織ればよく似合うと褒められ頬が緩む。
何だか今日は我愛羅に甘やかされてばかりだが、悪い気はしない。
いつも甘やかしてるお礼だろうかと上目で隣を見上げれば、腹が減ったなと腹ペコの獣が首を巡らせていたのでやれやれと肩を竦める。
全くタイミングが悪い男である。

「そういえばお昼まだだったね。何処か入ろうか」
「そうだな」

適当に街をぶらつき、気になった店に入る。
そこでメニューを眺めていると、我愛羅がそう言えばと口を開く。

「先代と女将にも報告しに行こうと思うんだが、どうだ?」
「いいんじゃない?私もついて行くわよ」

先に文だけは出しておいたと相変わらず知らぬところで手を回している男に驚きはしたが、まぁそういう人だしなと口を挟まないことにする。
代わりにいつ行こうかと話しながら、ああそうだと声を上げる。

「私向こうに着いたら神社にお参りしたいの」
「初詣はもう行っただろう」

顔を顰める我愛羅にそうじゃなくて、と秋口に先代から聞かされた話を聞かせてやれば我愛羅は成程なと頷く。

「確かに参拝した記憶はあるが…そんな話は聞いてなかったな」
「うん。だからお礼参りしたくて」

あと御前様と朝霧様に報告もしたいしさ。
先代からはお礼参りをすれば鈴を返すことが出来ると聞いていた。
入籍はサクラの仕事が終わるまでしないという約束なので、現状まだ夫婦ではないが、それでもいいだろうと思ったのだ。
我愛羅もそれに反対することは無く、では日取りを決めて二人で参ろうということになった。

「先代から冷やかされなかった?」
「ようやくか、待たせおって。とは来たな」

ついでに孫の顔を見せろと母親面された。
呆れた表情を作る我愛羅に笑みを零すが、すぐさま言われた内容に赤面する。

「…孫って…」

つまりは子供だ。

(そっか…夫婦になるんだから赤ちゃんも…うわあ…何か恥ずかしくなってきた)

既に互いにアレコレしている仲ではあるが、改めてそういう話が出てくると妙な恥ずかしさが湧き上がってくる。
共に暮らす様になってからは営みも充実を極め、回を重ねるごとにサクラの体を知りつくし益々床上手になっていく我愛羅にすっかり虜にされている。

(そういえば年始でバタバタしてたのと月のモノでご無沙汰だったし…今夜あたり誘ってみようかな…)

最近では我愛羅が誘うよりもサクラが誘う方が増えてきた。
少々恥ずかしいが、我愛羅からしてみれば喜ばしいことなので特に問題はない。
うーん、と唸っていれば、どうかしたのかと問われ赤くなる。

「いや…あの…うん…」

どもるサクラに暫し瞬いた後、ピンときた我愛羅は楽しそうに目を細める。

「何だ、言ってみろ」
「やだ!その顔は分かってる時だもん!」

何の事だかわからんな。
とぼける我愛羅にバーカバーカと子供のような罵声を浴びせるがはいはい、と流されそれで?と促されてしまう。

「言葉にせねば分からんと言っただろう。何でも言ってみろ」

我愛羅をよく知らない人間からしてみれば頼もしい言葉ではあるが、親しい人が見れば心底楽しんでいることが分かる程度に表情は崩れている。
何て意地悪な男だと今更ながら我愛羅の子供っぽい男心に唇を噛みしめていると、ほらどうした、と楽しげな顔で促されうー、と唸る。

「…やっぱやだ!」

顔を背ければ我愛羅は喉を鳴らして笑い、お前は本当に可愛い奴だなと揶揄される。

「今すぐ帰るか?」
「バカ!」

俺はいつでも構わんぞ。
口の端を上げる我愛羅に赤い顔で罵ったが、結局飲食店を出るとそのまま手を引かれ馬車に乗り込み、帰宅するや否やベッドに押し倒される。

「夜!するなら夜にしようよまだ明るいよ!」
「安心しろ、そろそろ日が暮れる。夜と大して変わらん」

どうにか逃げようとシーツの上で身を捩るが、上から圧し掛かれ腹に手を回され、項に唇を落とされればビクリと体は反応してしまう。

「ほ、ほら、皆に手紙書かなきゃいけないし、他にも明日の準備とか…!」

食事中、宿に行くのは休みが重なっている明日がいいだろうと決まった。
だから早く急ぎの文を出さなければいけないのではないかと問いかけるが、突然行っても特に問題ないだろうとあっけらかんと返される。

「それに手紙はいつでも書ける。あと晩飯は此処にメインがいるからな」
「私はご飯じゃなーい!」

突っ込んでみるが胸を揉んでくる手は止まらず、落ちてくる口付に抗うこともできない。
その上衣服の理解は我愛羅の方があるため、あっさりズボンを脱がされ靴を放られる。

「ちょ、やっ…!」
「こういうのも厭らしくて燃えるな」
「おバカ!!」

膝下まであるドレスの開いた裾を軽く持ち上げると、我愛羅はにやりと口角を上げて頭を突っ込んでくる。
敢えて脱がさずそのまま行為に及ぶと言うのが楽しいらしい。
サクラはぎゃあああと叫ぶが走り出した我愛羅が止まるはずもなく、そのまま足の付け根やショーツの上から性器に口付られ体が跳ねる。

「我愛羅くんのエッチ!変態助平おたんこなすウスラトンカチイイイイイ!!!」
「はいはい」

抵抗虚しく結局サクラは我愛羅に存分に愛されることになり、夜が更けるまで挑まされることになった。


「ふぁ…はぁ…あ…」

幾度となく高みへ上り詰め、気絶するように寝入ったサクラの額に口付けを一つ落としてから起き上がる。

「さて…」

流れる汗を拭きつつ汚れたシーツを代え、サクラに上掛けをかけてから羽織とシーツを手に寝室を出れば、キィと慣れた声が聞こえると同時に足元に柔らかな感触がすり寄ってくる。

「キーコ。いたのか」

気付かなかったな。
主の言葉にキーコは首を傾け、再び素足に擦りつき我愛羅はくすぐったさに吐息を零す。

「ちょうどいい。文を書く間一人きりだから傍にいてくれ」

サクラの所には行くなよ。
自室の扉を開ければするりと体を滑り込ませる愛猫の背を見送り、洗濯機にシーツを放り込んでから部屋へと戻る。

(さて…先代たちには何と書くか。文はタカ丸で飛ばせば間に合うだろうからそこまで急ぐ必要もないだろう)

うーん、と唸りつつ、とりあえず孫のことは楽しみにしておけと一筆入れておく。
後は他里の影たちに結婚報告と、個人的に世話になっている国のお偉い方にと文を書きだす。

式自体はサクラの単身赴任が終わってからなので秋口に行うことにした。
未だ日差しが強い時期ではあるが、湿気がない分過ごしやすいので特に問題はないだろう。

(火影は怒るだろうが、まぁ取り決めたものはキャンセルできんとでも言っておくか)

それに口出ししないという誓約もあるしな。
口の端を上げつつ、膝の上で丸くなるキーコの体を撫でるとそうだと口を開く。

「お前もいつか嫁に行くのかもしれんが、相手はまともな男を選べよ」
「キィ」

自分のことは棚に上げ、愛猫である雌猫のキーコの喉元をくすぐるがゴロゴロと喉を鳴らすだけで理解している節はない。
妙な雄に捕まらなければいいが。
己のことは棚に上げ愛猫を心配する我愛羅だが、結局子が産まれれば可愛がってしまうのだろうなとも思う。
何にせよ子は可愛いものだ。

「子供、か…欲しいな…」

女の子でも男の子でもいいが、サクラに似ればさぞ可愛いだろう。
妄想する主の照れたような顔を見上げながら、キーコは目を覚まさせるかのごとくペチンと一発その手を叩いた。




prev / next


[ back to top ]