秋の調
息抜き閑話。
のんびりしてる二人。
鮮やかに燃える緋色に導かれるまま手を伸ばす。
拾った先にも未だ燃える道が続き、カサカサと音を立てながら足元を走っていく。
綺麗。
呟く言葉は宙に霧散し、虫に食われた穴から広がる空を見上げた。
爽やかな秋晴れの下、サクラは宿屋の広縁で紅葉を拾っていた。
秋。
夏も終わり涼しい空気が辺りに漂う中、サクラは一人黙々と庭園に散らばる紅葉を拾っては寝こける我愛羅にかけていく。
緑から黄色に染まったもの。
黄色から緋色に染まったもの。
緋色から茶色に染まったもの。
大人の掌のようなサイズから、赤子の掌のようなものまで無差別に拾ってはかけていく。
ラフな格好をした我愛羅は気の抜けた顔で寝入っており、起きる気配はない。
それをいいことに鼻歌交じりで紅葉を拾っては土を払い、その体に重ねていく。
おかげですっかり部屋には紅葉の絨毯が出来上がっており、そろそろ我愛羅の体には掛布団すらも出来上がりそうだ。
起きることはないだろうと悪戯心で始めてみたが、此処まで来るともはや楽しくてしょうがない。
サクラは鼻歌交じりに紅葉を拾い集めては、部屋に戻り、また庭園に出ては気に入った紅葉を拾い上げた。
カサリ。
風に踊らされ、耳元で揺れる音に我愛羅がううん、と唸る。
そうして寝返りを打つと、途端に紅葉の絨毯が一斉に音を立て慌てて目を覚ます。
「な…んだ…?」
寝ぼける我愛羅の見開かれた眼を見つめながら、サクラは声を上げて笑い紅葉を掲げる。
「我愛羅くんみーつけた」
穴の開いた紅葉から間抜けた顔を見つめれば、途端にその顔は呆れ顔になり音を立てながら再び寝転がる。
「お前は何をやってるんだ…」
「何って紅葉狩りよ。綺麗でしょ?」
あなたにもおすそわけよ。
くすくすと笑いながら広縁に腰かけ広がる紅葉を手に取れば、子供じゃないんだぞと呆れた声が返ってくる。
「いいじゃない別に。四季を楽しむのは大事なことよ」
日頃から忙しいんだから、あなたは特にね。
言いつつ手にした紅葉で鼻先をくすぐれば、我愛羅はくしゅんとくしゃみを零して起き上がる。
「やめろ」
「あはは、怒った?」
むす、と不機嫌そうな顔に微笑みかければ、怒るほどでもないが…と言葉を濁す。
「腑に落ちん」
むうと唇を尖らせる我愛羅に再び笑い、穴の開いた紅葉を両手に取るとそこから覗く。
「ごめーんね?」
うふふと笑いながら見つめれば、呆れた我愛羅は頭を掻いた後服に張り付いた紅葉を手に取りくるくると回す。
「…まぁ、許してやろう」
美しく色づいた緋色に絆されたのか、吐息ひとつ零した後の言葉に頬を緩める。
「あ。今日のご飯は栗ごはんですって。楽しみね」
「お前は此処に来ると飯の話ばかりだな」
まぁ栗ご飯は楽しみだが。
軽口を叩きつつも我愛羅は広がる紅葉の中から気にったものを選ぶと、それを手にサクラの隣に腰かける。
何をするのかと眺めていると、ぶすりとサクラの髪に差してくる。
「やだ、ちょっと何するのよー」
「仕返し」
払おうとしても次々に差され、仕返しに適当に掴んだ紅葉を投げつける。
暫く二人でぎゃあぎゃあ言い合いながら頭から足先まで紅葉まみれにし、その酷い有様に二人して吹き出した。
「あーあ。折角拾ってきたのに」
「それにしてもよくこれだけ集めてきたな」
畳の上に広がる紅葉は入り込む風をパートナーに部屋の中を踊り回る。
くるくると回転したり、広縁の板の上を滑ったり、音を立てて畳の上を走る様は不思議な程に愛らしい。
そんな中我愛羅はサクラの膝元に散った紅葉を手に取ると、そのまま膝の上に頭を乗せごろりと横になる。
「ちょっと」
「起こしたんだから責任を取れ」
ぶーたれるサクラの腰に腕を回し、甘える我愛羅に私を放って寝こけるあなたが悪いのよ、と茜の髪を掻きまわす。
ついでに飾ってやろうと手にしていた紅葉を髪に差してやれば、髪飾りを付けているようで何とも可愛らしい。
そのアンバランスさに吹き出せば、じとりと睨むように見上げられ不服そうな顔をする。
「…お前な…」
「うふふ、いいじゃない別に。このままなら甘やかしてあげてもいいわよ?」
今のあなたは可愛いもの。
笑いつつからかってやれば、ふんと鼻を鳴らした後に目を閉じる。
本当によく寝る人だと思いつつ、穏やかに閉じられた瞼の縁をなぞりながら子守唄代わりに童謡を口ずさむ。
まっかだな
まっかだな
つたの葉っぱがまっかだな
もみじの葉っぱもまっかだな
沈む夕日は目下に広がり、手を伸ばし撫でてやれば気持ちよさそうにすり寄ってくる。
その幼子のような姿に笑みを広げながら、日が落ちるまで甘やかし続けた。
夕暮れに溶けそうな茜を見失わぬよう、柔らかな髪を梳くように何度も撫でながら。
閑話【秋の調】了
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