小説
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挨拶回りからの帰宅途中、メブキは見慣れた姿を見つけ声をかける。

「テマリちゃん!カンクロウくん!」

中忍試験や度重なる木の葉との合同任務でよく木の葉に来ていた二人をメブキはよく知っていた。
そして二人もメブキの姿を見ると、あけましておめでとうございますと頭を下げる。

「こんな寒い中何してたの?」

首を傾けるメブキに、二人は弟を探してまして、と苦笑いする。
弟?とメブキが首を傾ければ、風影の我愛羅ですとカンクロウが答え、あら!と手を叩く。

「彼ならうちにいるわよ?」
「え?!」

目を見張る二人に、ほら、うちの子と付き合ってるでしょ?だから挨拶に来たのよと笑えば、二人はあんぐりと口を開け瞠目する。

「え…じゃ、じゃあメブキさんって…」
「あら、言ってなかったかしら?春野メブキ、サクラの母親よ」

ニコニコと笑うメブキに、ああだから顔がそっくりなのか、とどうでもいいことを思った後二人は勢いよく頭を下げる。

「うちの愚弟がご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません…!!」
「サクラさんには本当に感謝してます!」
「あらあら」

直角に腰を折る二人にメブキは苦笑いすると、顔をあげなさいと穏やかに言葉を紡ぐ。

「迷惑なんて全然かけてないわよ。ただ風邪引きかけてたから今うちでのんびりさせてるけど」
「え?…本当に申し訳ない…」

頭を抱えるテマリにメブキはからからと笑う。

「何だったら二人もいらっしゃいな。狭い家だけど」
「いえそんな…弟を引き取って帰ります」

新年からお邪魔して本当に申し訳ないと頭を下げる二人に、メブキはいいのよと笑う。

「だってあの子もうちの家族なんだから。新年は家族揃って過ごすものでしょう?」
「家族…?」

キョトンと目を瞬かせる二人に、あの可愛い娘婿の顔にそっくりだとメブキは微笑む。

「あの子のお婿さんなんだから、私にとっても可愛い息子よ。ん?じゃあ二人もうちの家族ねぇ」

やだ一気に大家族になっちゃったわ。
明るく笑うメブキに二人はぽかんと口を開けた後、目を見合わせ口を閉じる。

「じゃあ…我愛羅のこと…」

不安げに問いかけてくるテマリに、メブキはにこりと微笑む。
そのサクラとそっくりな笑みに、二人は弟が認められたことが分かり再び礼を述べ頭を下げる。

「ああもう!お礼なんてそんな水臭いことしなくていいの!ほら、帰るわよ!」

そう言って二人の手を取ると、メブキはずんずんと歩き出す。
その勇ましい後姿も本当にサクラそっくりで、どうして自分たちは今まで気づかなかったのかと二人は苦笑いする。

「ただいま〜…ってあら?妙に静かね」

自宅に戻り声を掛けるが反応がない。
どうしたことかとメブキが居間を覗けば、やれやれと嘆息する。

「ごめんねぇ、テマリちゃん、カンクロウくん」

苦笑いするメブキに続き居間を覗けば、広がる光景に二人は呆れた。

「全く…ご両親のお家で寝るとはどういう神経してんだこの愚弟は…」
「しかもキーコまでいるじゃん…」

申し訳ない、と何度目かになる謝罪と共に頭を下げた後、幸せそうに眠る弟とその想い人を見つめる。

「幸せそうに寝ちゃってまぁ…」
「最近忙しかったしなぁ」

しょーがねえじゃん。
笑いながら我愛羅の頭を優しく撫でるもう一人の弟にテマリも頬を緩めると、メブキに暫くこのままいさせてもらってもいいだろうかと尋ねる。
それに対しメブキは当たり前でしょ、と軽く笑うと今お茶淹れるからねと告げキッチンに消えて行く。

「あ、お構いなく…!」
「いいのよ!あー、座るところないかもしれないけど、炬燵に入ってなさい」

投げられる言葉に二人は顔を見合わせた後、二人並んで空いたスペースに座り爆睡する三人と一匹を見やる。
メブキ同様、度々話したことのあるキザシの寝顔とサクラの寝顔はそっくりで、親子だなぁとテマリは笑う。

「…よかったな」

呟くカンクロウの横顔は穏やかで、なんだかんだ言って我愛羅を大切にしているのがよく分かる。
テマリもそうだなと頷けば、お盆を手にメブキが戻ってくる。

「はい。どうぞ」
「あ、すみません」
「ありがとうございます」

湯呑を受け取れば、ついでにコレも食べな、とみかんを渡され有難く頂戴する。
メブキはキザシの隣に腰を落ち着け、やれやれとその寝顔を眺める。

「本当うちの家族はよく寝る子ばっかりなのよ」
「それはうちも同じですよ」
「特に我愛羅なんて居眠りの申し子みたいなもんですから」

睡眠時間が取れない時などは特に酷いとカンクロウは笑う。
ほんの少しでも時間があると、その間に首を落とし寝入っているのだ。
あの早業は誰にも真似できないと笑えば、メブキも楽しそうに笑う。

「聞けば昔は不眠症だったって言うじゃない。寝れるようになって安心したでしょ」

穏やかに上下する体を眺めながら二人は頷く。
だがテマリは同時に肩を竦めると、けどどこでもここでも寝られるのはなぁ、とぼやく。

「正直驚きますよ。この間なんて姿が見えないからどこに行ったのかと思えば、椅子からずり落ちて寝てたんですから」

次から次へと送られてくる書類に嫌気がさしたのか、椅子にもたれていた我愛羅はそのまま眠りに落ち、ずるずると体を下げ机の下に身を滑り込ませ寝入っていたのだ。
見つけた途端安堵はしたが、そのあまりにも無防備な姿にテマリは頭を抱えた。

「今度からちゃんと仮眠室に行くよう伝えておこうと思いました」

苦い顔をするテマリにメブキは腹を抱えて笑う。
本当可愛い子だねぇ、と零しながら浮かんだ涙を拭いていると、その声で目を覚ましたキザシがううん、と唸る。

「あれ…寝てたのか…」

ぼんやりと零される声にメブキがあんたお客さんだよ、と夫の腹を叩く。
それにええ?とのんびりした声を漏らしながらキザシは起き上がり、テマリとカンクロウを見つけるとおや、と目を開く。

「テマリさんとカンクロウくんじゃないか」

どうしたんだい家に来るなんて、と呟けば、メブキが我愛羅くんのお姉さんとお兄さんよと答える。

「え?!あ、ああ!そう言えばそうだったね、いや〜居眠りしてるところなんて見られて恥ずかしいなぁ…」

照れたように頭を掻く姿に二人は頬を緩めると、こちらこそ愚弟がお世話になりまして、と頭を下げる。
それに対しキザシは気にすることはないと首を横に振る。

「正月は家族で過ごすもんなんだから、我愛羅くんも二人もうちの家族だよ。やー…家族が一気に増えちゃって大変だなぁ」

メブキと同じことを呟くキザシに二人は吹き出し、メブキはやーねぇ、もう、と苦笑いする。
その穏やかな空間に二人もあたたかな気持ちを抱く。
我愛羅程ではないが、二人もこうした家族を心のどこかでは欲していた。
その繋がりをもたらしてくれたのがサクラだと思うと、二人は心から感謝の気持ちが浮かんでくる。

「…これからも、愚弟をよろしくお願いします」

頭を下げるテマリにならい、カンクロウも頭を下げればキザシはこちらこそ、と破顔する。

「うちの子ちょっと手が早いから。我愛羅くんがボコボコにされる前に助けてあげてね」
「大丈夫ですよ。その位肝が据わってないと風影の嫁なんて務まりませんから」

強かに笑うテマリにキザシとメブキは笑い、その声に今度はキーコが目を覚ます。

「キィ」
「あら、キーコちゃんも起きちゃった」

欠伸を零し、伸びをした後キーコはテマリとカンクロウの膝の上に乗り上げる。

「キーコ。お前もしかしてこうなることが分かってて我愛羅に着いてきたのかい?」
「マジか。キーコお前すげえじゃん」

姉兄に頭を撫でられ、キーコは目を閉じる。
そのだらりとした体を撫でていれば、メブキも手を伸ばし小さな頭を撫でる。

「可愛いわねぇ。もうすっかりキーコちゃんの虜だわ」

警戒心の強いキーコが触られても逃げない事に二人は驚くが、サクラの両親で、弟の新しい家族だから心を許したのだろうと頬を緩める。
暫く大人しく撫でられていたキーコであったが、もう嫌だと頭を振ると二人の膝の上から起き上がり、我愛羅とサクラの間に潜り込み丸くなる。

「あーあ。逃げられちゃった」

笑うメブキは穏やかに寝入る二人と一匹に頬を緩め、キザシは二人とも疲れてたんだなぁ、と目を細める。
その優しい言葉に姉兄も目を細めると、安心したように寝入る弟を見つめ手を伸ばす。

「よかったな、我愛羅」

茜の髪は触り心地がよく、お前の愛猫そっくりだとテマリは笑う。
その感触に我愛羅の瞼がぴくりと戦慄くが、慣れた気配だと気づいたのかすぐさま穏やかに寝入る。
まだ暫くは寝かせておいてやろうと四人は目を合わせると、穏やかに言葉を交わし始めた。
二人の姉兄にとっても新しくできた家族が心から嬉しく、自然と頬を緩めながら無駄話に花を咲かせた。


「ん…」

柔らかな毛で頬をくすぐられる感触に目を開け、ぼんやりと数度瞬けばキーコの瞳が目に入る。
それを何となしに眺めつつ、サクラの寝顔に視線を移せば聞こえてくる複数の声に意識が向く。
お義父さんとお義母さん以外に誰かいるのだろうかと耳を傾ければ、毎日聞いている声が聞こえ目を開く。

「テマリ…?カンクロウ…?」

体を起こした我愛羅に姉兄は気づき、よく寝てたなと笑いかける。
どうしてここに自分の姉兄がいるのかと我愛羅が目を瞬かせれば、メブキが挨拶の帰りに会ったのよと答える。

「我愛羅くんのこと探してたみたいよ?心配かけちゃダメじゃない」

からかうように笑うメブキにすみません、と返した後、サクラの頭の下からそっと腕を抜き取り起き上がる。
未だどこかぼやける頭で二人を見やれば、顔に痕ついてんぞと笑われ思わず袖で頬を擦る。
その姿にキザシがのほほんと笑い、メブキがしっかり痕ついてるわねぇ、とからかう。
少々気恥ずかしく思いながらも己の身内へと視線を向ければ、甘えすぎだろうと額を小突かれる。

「全く。昨夜出て行ったかと思ったら全然帰って来ないんだから、探したぞ我愛羅」
「幾ら木の葉に慣れてるからって、連絡ぐらいちゃんと寄越すじゃん」

諌める二人にすまんと謝れば、素直でよろしいとメブキに笑われる。

「でも今日の晩御飯どうしようかしら。うちにある食材で足りるかしらねぇ」

悩むメブキにテマリが断りを入れる。

「宿を取っていますので、そちらで厄介になります」
「そう?食べて行っても大丈夫よ?」

首を傾けるメブキに、我愛羅も断りを入れる。

「流石にこれ以上御厄介になるわけにもいきませんので」

それに明日の段取りもありますから、と続ければメブキはそう、と頷く。
何時頃宿に戻ろうかと時計を見上げたところで、ようやくサクラがううん、と唸り始める。

「ようやく起きたのね、うちの子は」

呆れるメブキの声を背に、ゆっくりと瞬くサクラにキーコが近づき頬を舐める。
それに笑みを零しながらもとろりと溶けた瞳が我愛羅に移り、手を伸ばしてくる。

「うーん…寝てたぁ…」
「そうだな」

伸ばされた手を取り起こしてやれば、片手で目を擦り片手にキーコを抱き、その背に顔を押し付けてからうーん、と唸る。
気の抜けた姿はまだテマリとカンクロウに気付いていないようで、二人は口元に手を当て笑いをかみ殺している。
散々いろんな人に撫でまわされて疲れているキーコはサクラの腕の中から逃げ出そうともがいているが、もうちょっと…と抱きすくめられ不機嫌そうに鼻を鳴らす。
その姿についにテマリが耐え切れなくなり吹き出す。

「…え?あれ?テマリさん?何で…ってあれ?カンクロウさんまで…え?何これ」

パチパチと瞬きを繰り返すサクラに全員が吹きだし、メブキがバカだねぇ、とからかいながら腹を抱えて大笑いする。
キザシもこんなんで本当に大丈夫かいと苦笑いし、テマリとカンクロウは肩を震わせ声を殺している。
不機嫌な顔をするキーコに腕を伸ばしサクラの手から救いだせば、途端に逃げていく。

「え?ちょ…いや、何で?え?何で?我愛羅くん何で?」

子供のような問いかけに頬を緩め、何でだろうなと返せばえぇぇ?と顔を顰めメブキの方へと視線を向ける。
その頬についた痕に気づき吹き出せば、何で笑うのよと背を叩かれる。
成程、これほどはっきり痕がついていれば笑ってしまうのも無理はない。
お義母さんにからかわれるのも頷けると机に伏せていると、何なのよもう、と怒る声が聞こえてくる。
広がる談笑に頬を緩め、あたたかな空気に心底感謝する。

顔を上げればテマリと目があい、よかったなと呟かれ頷く。
そうしてカンクロウにガシガシと頭を撫でられ、やめろと手を払えば笑われる。

「ま、何はともあれよかったじゃん。な、我愛羅」

穏やかな眼差しに頷き返し、メブキと軽口を交わすサクラを見やり、のんびりそれを眺めるキザシを眺め頬を緩める。

「…幸せだ」

呟く声にテマリとカンクロウも頷く。
自分たち姉兄に家族が出来たこと、愛する人が増えたこと。
それがただ、嬉しかった。




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