小説
- ナノ -






食事を終え、明日のことも考慮し早めにお開きになった食事会の帰り、二人は久しぶりに手を繋いで帰路を辿る。
一週間と少ししか立っていないのに、まるで何ヶ月もこうしていなかったような気になる。
不思議ねぇ、と昔は手を繋ぐこともできなかった自分を思い出しつつ感慨深さに吐息を零せば、我愛羅がどうかしたのかと視線を寄越す。
それに対し何でもないわと首を横に振れば、そうかと頷き再び前を向く。

確かにいのの言う通りだなぁと思う。
言葉にせずとも分かる部分が圧倒的に増えてきた。
だがすべて理解できているわけでもない。
現にサイが言っていた女性との密会も知らなかったし、そんな気配も読み取れなかった。
だが浮気でないことだけは確かなようなので、今はそれを信じるしかない。

(アレが演技なら相当な役者だけど、そこまで器用じゃないしねこの人)

ちらりと隣を見やればいつも通りの仏頂面がそこにはある。
大丈夫よね、と少しばかり握る手に力を籠めれば、我愛羅がやはり不安か?と声に出し問うてくる。
いつも視線で語ってくるはずの我愛羅の問いかけに足を止め、一歩先で止まった涼しげな眼差しを受け止める。

「…正直、不安じゃないって言えば嘘になるわ」

一抹の不安はある。
だが妙な胸騒ぎもなく、我愛羅がその密会相手に靡くとも思えなかった。
だからこそ不安定な気持ちのやり場に困る。

口を噤むサクラに何を思ったのか、我愛羅はサクラに向き直ると何故か地面に片膝を付ける。
何をする気なのかと視線を下げれば、翡翠の眼差しがまっすぐとサクラを射抜き、繋いだ手を離すと恭しくその手をもう一度取る。
まさか、とサクラが目を開いたのとほぼ同時に、我愛羅は目を伏せるとその手の甲に口付けを落とした。

思わずぶわりと鳥肌が立ち、驚きと羞恥に叫びそうになるが慌てて口を塞ぐ。
現状誰も人が通っていないとはいえ、道のど真ん中で何をするのかと熱くなる顔で見下ろせば、顔を上げた我愛羅が口を開く。

「サクラ、俺はお前を愛している。お前以外の女など興味もない」
「う、うん?」

唐突な愛の言葉に目を白黒させるが、反射的に頷いてしまう。だが何故こんな状態になるのか。
まるで童話に出てくる王子様のような姿に視線を泳がせれば、再び名前を呼ばれる。

「これから先俺はお前に不安を与えることが多々あるかもしれない。怒らせることも、泣かせることもあるだろう」
「…うん」

戻した視線の先、思った以上に真摯な瞳があり取られた指先が緊張する。
どうにか頷き返せば我愛羅は一度瞼を伏せた後、だが、と言葉を続ける。

「俺は生涯お前だけを愛すると誓う。それだけは、分かってほしい」

そう言って再びサクラの甲に、指先に唇を落とす我愛羅にサクラは反対の手で顔を覆う。
巡る血潮が火のように熱く、駆けだす心音は早馬の足音よりも早い。
赤く染まる視界を一度閉じ、うんと頷けば我愛羅はようやく手を離し立ち上がる。

「サクラ」
「…うん」

火照った顔を見られたくなくて手で覆いながら俯けば、優しく名を呼ばれた後に抱き寄せられる。

「お前が好きだ。誰よりも、愛してる」
「…もう分かったから、それ以上は言わないで」

恥ずかしすぎて死んでしまいそう。
少しばかり緩んだ涙腺をなんとか引き締め、赤い顔を隠したまま上目で見上げれば慈しみの海に抱かれる。
ああもう、結局自分はこの男に弱いのだ。
サクラは一つ吐息を零すと目の前の胸板に額を押し当て、ゆっくりと息を吸う。
肺を満たす匂いと伝わる体温に、吹きすさぶ風の冷たさなど感じる余裕もない。
誓いの言葉がじわじわと波紋を広げ体中に行き渡り、ふわふわとした感覚が足元を襲ってくる。

ああ、もうダメだ。
思った時にはもう遅く、目の前の体にぎゅっと抱き着き目を閉じる。
この男が好きで好きで、大好きで、愛おしくてしょうがない。
どうしようもないなと自身の思いに苦笑いしつつ、顔を上げてから、私もあなたを愛してるわと告げ笑みを浮かべる。
その穏やかな微笑みに我愛羅も目を細め、今一度サクラの体を強く抱きしめ体を離す。

「帰ろう」
「うん」

差し出された手を握り返し歩き出す。
心の中に燻っていた不安はなく、どうにもできない幸せと気恥ずかしさだけが溢れてくる。
どうしたものかなぁ、と繋いだ手をゆらゆらと揺らせば、我愛羅が軽く吐息だけで笑う。

その穏やかな空気に頬を緩め、ねえと口を開き隣を見上げる。
絡まる翡翠に灯る熱情にぶるりと背を震わせ、もう一度ねえと呟けば軽く唇を塞がれる。

「…お風呂は、」
「朝でいい」

一分一秒でも早く、お前に触れたい。
囁かれる言葉は熱く、サクラの口からも知らず熱い吐息が零れる。
先程まではのんびりと歩んでいた足は今は早く、駆ける想いに比例するように帰路を辿る。

ああ、もう、本当に愛しくて愛しくて、堪らない。

鍵を開け、身を滑り込ませ、閉じた扉に背を押し付け唇を重ね合う。
ちゅ、っと音を立て軽く触れ合わせた後、互いを見つめ引き寄せあい、掻き立てられるように深く口付け貪りあう。

「ん、んんっ…はっ、が、あらくっ…ひゃっ!?」

唇を離した途端抱き上げられ、突然の浮遊感に驚き肩を掴めば、サクラを抱き上げた我愛羅は荒々しく寝室の扉を開け寝台に押し倒す。

「我愛羅く、んっ、」

ギシリ、と軋む寝台の音を背に再び深く唇を重ね、潜り込む舌を重ね合わせ愛撫し合う。
そう言えば最後に体を重ねたのはいつだったか。
思い出そうとするが溶けはじめた脳ではまともに思考が働かない。
けれど互いの服を剥ぐ指先だけは性急に動き、先にサクラの服を肌蹴させた我愛羅の唇が至る所に落ちてくる。

「あっ…ん、んん…」

頭を抱かれながら耳に口付られ、首筋を食まれ、鎖骨から肩にかけて音を立てて口付られる。
その間にも我愛羅の外套を脱がせ、上着のボタンを全て外せば荒々しくそれを脱ぎ捨て裸の腕で背を抱かれる。

「サクラ…好きだ、サクラ…愛してる」
「あっ、ん、んんっ、ぁ…はぁ…」

肌を撫でる掌は熱く、谷間に口付る茜の髪を掻き乱しながら広い背を撫でる。
荒くなる吐息が獣のようで、けれどそれが欲を掻き立てる。
もどかしい口付と愛撫に耐えられず、自らの手でブラのホックを外せば緩んだところから手を滑り込ませ胸を揉み扱かれる。

「ああっ…!」

いつものように服の上から戯れに触るのとは違う、獲物に食らいつくかのような愛撫と指先にぞくぞくと肌が戦慄いていく。
期待する体はすでに熱を帯び、しっとりと濡れた肌が我愛羅の掌に吸い付く。
その感触に熱い吐息を零せば、立ち上がった乳首を口に含まれ背がしなる。

「あ!はぁ…ん、それ、きもちいい…」

ちゅうちゅうと胸に吸い付かれ、舌先で硬く立ち上がった乳首を転がされ、体が悦びに震える。
赤子のように胸に吸いつく茜の髪を掻き抱き、もっとしてと囁けば反対の胸も愛撫される。
その間にも自由な方の手が器用にサクラの下穿きを脱がしにかかるので、腰を浮かしそれを手伝う。

「我愛羅くん、」

名を呼べば顔を上げた我愛羅の頬を掴み口付る。
ショーツ一枚だけになったサクラから我愛羅は体を離すと、軽く髪を掻き上げズボンに手をかける。
前を寛げる我愛羅の膨れた下腹にこくりと喉を鳴らし、舐めていい?と身を起こし尋ねれば、俺もお前に触れたいんだがなと苦笑いされる。
じゃあ私のもしてと笑えば、分かったと頷き下着を脱ぎ去る。
互いに一糸纏わぬ姿になり、抱き合いつつ唇を重ね横になれば、熱く滾った赤黒い欲望に喉が鳴る。

「はぁ…ん、我愛羅くんの、もうこんなになってる」
「お前こそ相変わらず濡れやすいな」

からかいあいながらも雄の匂いが強く香る欲望に手を伸ばし、そろりと伸ばした舌先を先端に当て、そのままゆっくりと降ろしていく。
途端にびくりと震え強く脈打つそれに目を細め、込み上げてくる愛しさをそのまま舌先に乗せ愛撫していく。

「ん、んんっ…んむっ!」

口に含み数度頭を動かし、全体を濡らせば赤黒い欲望は厭らしく濡れ光る。
じわりと汗が額に浮かぶが、気にする余裕もなくそそり立つ欲望に手を這わせ竿を扱く。
苦い先走りが浮かぶ先端を優しく舐めまわせば、股の間に顔を埋めた我愛羅の舌の動きが止まるがすぐさま愛液を啜るように花弁を嬲られ喉が鳴る。
吐息を当てつつ口で、指で愛撫してやり口付てやれば、お返しと言わんばかりに顔を出した突起を撫でられ思わず口を離してしまう。

「あっ!や、だめっ、まだっ…!」

そこを触られてしまったらまともに愛撫できないと訴えるが、意地悪く口の端を上げた我愛羅は舌なめずりし、体をずらし突起を口に含む。

「ああ!!」

途端に全身を支配する熱にシーツを掴み体を押し付けるが、与えられる刺激は止まらず広げられた舌に包まれ転がされる。

「あああ!!だめ、それ、ああっ!」

首を振るが聞いてもらえず、足を閉じようにも我愛羅の手に掴まれ叶わない。
身悶えるサクラに気をよくしたのか、我愛羅は一度突起から口を離し溢れる愛液を指先で掬うと、糸を引くそれを見せつけてくる。

「ほら」
「っ、我愛羅くんのバカ!意地悪!えっち!!」

カッと頬に朱を走らせ罵るサクラに軽く笑うと、上体を起こし開いた足の間に体を潜り込ませる。

「サクラ、」
「ぅん、」

上体を倒し、口付てくる我愛羅に応え熱い肌を撫でる。
片手で頬や肩を撫でられ、顔中に口付けを落とされ再び唇を合わせあう。
その心地好さに目を閉じ感じ入っていれば、熱い掌が太腿に這わされ指先でくすぐられ、ゆっくりと撫でまわされる。

「んふふ、やだ、くすぐったい」
「そうか?」

笑いながら腰をずらし、撫でまわされた太腿で我愛羅の体を挟んでやる。
何をするのかと視線を寄越してくる我愛羅に頬を緩め、そのまま膝頭で脇腹をくすぐってやればやめろと笑われながら足を叩かれる。

「ほらー、くすぐったいでしょ?」
「お前はわざとだろう」

互いの行為に笑いながら、視線を交わし唇を重ねる。
何度も啄みあいながら、重なり合う肌の心地好さとぬくもりに満たされる。
瞼を開け翡翠の海を見つめれば、ざん、と波打つ潮の音が聞こえてきそうだった。

「…すきよ」

夕暮れに指を伸ばし、通った鼻梁を指先で辿りながらゆっくりと色づいた唇を撫でる。
伸ばされる舌先の愛撫を甘受し、くすぐったさに笑みを零す。
指先を撫でていた舌がそのままゆっくりと口内に導いていき、根元まで飲み込まれ吸い付かれる。
ん、と口内で施される愛撫に息を詰めれば、熱い吐息を零しながら指をしゃぶられ甘噛みされる。

「ん…ふっ…」

手首を掴まれ、指が解放されたかと思えば今度は掌に舌を這わせてくる。
そうして一本一本皺をなぞるように舌先でくすぐられ、指の谷間に舌を這わされ舐められ、気づけば呼吸が浅くなっていく。
じわじわと広がる熱に目を閉じ、震える指先を握りしめれば、生命線を辿るように降ろされた舌先が手首の内側に這わされる。
脈打つそこに音を立てて口付け、広げた舌でゆっくりと円を描くように撫で回され吸い付かれ、思わず背を反らす。

「んん、や、だ…それ、やだっ」

やんわりと肌に歯を立てられ吸い付かれ、いやいやと頭を振ればぺろりと一舐めされた後に解放される。
ほっと息をつく間もなく、そろりと伸ばされた指先が湿った茂みを撫で、濡れそぼった花弁に触れる。

「あっ…」

微弱な刺激に腹筋が戦慄き、ゆっくりと花弁の縁を撫でられ目の前の体に縋りつく。
濡れた音を立てながら小刻みに花弁を撫でられ揺すぶられ、もどかしさに喉を鳴らし体を摺りつければ、噛みつくように口付られ瞳が潤む。
あやすように肩や腕、背を撫でていた掌が胸に這わされ形を辿るように撫でられ包まれる。

「ん…んん、きもちいい…」

指先で立ち上がった乳首を引っ掻かれ、くすぐられ、腰が跳ねては悪戯な指先が花の突起を撫でていく。
もどかしさとはっきりとした刺激が交互に体を襲い、辛抱堪らず喉を反らせば舌を這わされ歯を立てられる。

「ああ…もう、意地悪しないで…!」

早くあなたがほしいのと縋りつきながら耳元に囁けば、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえ、すぐさま濡れた秘所に指が深く入り込み、弱いところを押し上げてくる。

「ああ!」

ようやく与えられた確かな刺激に背を反らせ、自らも腰を揺らし押し付ければ、津波のような悦びが体を押し上げ水面に引き上げてくる。

「あああ!そこ、あ!いやっ、ああ!!」

執拗な程に弱いところを押し上げられ擦られ、溢れる愛液が淫猥な音を立て聴覚を犯していく。
仰け反ったまま震える背を抱かれ揺れる胸に吸い付かれ、谷間を舐められ鎖骨に噛みつかれ、与えられる愛撫と刺激に高みへと登り詰めていく。

「あああ来ちゃう、やだ、もうだめえぇぇ…!!」

反った背を支える腕に必死に縋りつき、そのまま一気に頂へと辿りつけば視界が白く弾け、海底へとゆっくりと沈んでいく。

「はぁ…はぁ…」

登り詰めた体は余韻に震え、徐々に力が抜ければ寝台に押し倒される。
冷たい枕に頬を押し当て、荒い息を整えていれば髪を梳かれ頬に口付られる。

「今日は随分早かったな」
「うるさい…ばか…」

妙に嬉しそうな顔をする男の鼻先をぎゅっと抓めば、途端に目を瞑り眉間に皺を寄せる。
その顔が存外可愛らしくて好きなのだが、今の状態だと随分滑稽だと思い吹き出してしまう。

「もう…あなたって本当可愛いわね」
「…褒められてる気がしないんだが」

不満げな顔をする我愛羅に喉の奥で笑い、頬を撫でてやれば目を細め上体を降ろしてくる。
覆い被さる体を甘受し、熱い肌に目を閉じれば深い愛情を身をもって感じることが出来る。
表情筋が動かない男ではあるが、愛情表現の仕方は多種多様であり、情熱的でもある。
人は見かけによらないものだと茜の髪をゆっくりと梳きつつ頭を撫でれば、心地よさそうに吐息を零し耳の裏や、首筋に口付けを落とされる。

「ねえ?」
「何だ?」

体の奥深くから湧き上がってくる幸福に目を閉じつつ、甘えるような声音を零せば穏やかな声が返ってくる。
そっと胸板を押し返せば体を離す我愛羅に腕を伸ばし、引き寄せてもらいながらそのまま膝の上に乗り上げる。

「んふふ。どうしよっかなぁ」
「何がだ?」

浮かんだ考えに笑みを零せば、瞬く翡翠が疑問を呈してくる。
それに対し深い笑みを浮かべながらあのね、と口を開く。

「さっきの事なんだけど」
「さっき?」

帰る途中、地に片膝をつきサクラに愛を誓ったあの瞬間。
どうにもできないほどの幸福と充足感に満たされたあの瞬間を思い出しながら、ねえと口を開く。


「あれってもしかして、プロポーズ?」

笑いながら問いかければ、翡翠の瞳は暫し瞬いた後にぎょっと開かれ、あわあわと視線が揺れ動く。
そのあまりにも正直な反応に吹き出せば、違う、いや違わないけどそうじゃない、と慌てた声が返ってきて更におかしくなってくる。

「あははは!もう…動揺しすぎよ」

おかしくておかしくて、目に涙を浮かべながら笑い続ければ、拗ねたように口を噤んだ我愛羅に強く体を抱きしめられる。
それが愛おしいのと可愛いのとで、もう本当にどうしようもないと抱き返してやれば、むうと唸る声が聞こえてくる。

「うふふ、ごめんね。からかったわけじゃないのよ?」
「…嘘つけ」

拗ねた声音は子供のようで、本当に格好いいのか可愛いのか判断に困る人だと頬を緩めながら頭を撫でてやる。
すると、もっと撫でろと言わんばかりにぐりぐりと頭を寄せられ更に笑みが零れてくる。

「あなたって本当天然さんね」
「…うるさい」

拗ねた声音に再び笑い、こっち向いてと強請るが嫌だとそっぽを向かれ、もうと頭を抱く。

「ごめんねってば」
「………」
「ね?許して?お願い」

茜の髪に指を馳せつつ頭を抱き、甘えた声音で強請れば小悪魔めと呟かれる。
それに軽く笑みを零した後、ようやく顔を見せた我愛羅の拗ねた表情を見つめる。

「人の誓いを一体何だと」
「うふふ、でも嬉しかったわ」

本当よ、と心からの笑みと共に伝えれば、我愛羅は口を噤んだ後に視線を背ける。

幾ら我愛羅が天然だとは言え、流石にあんな場所で唐突にプロポーズするような男ではない。
それにそこまでせっかちでもないし、準備が整わぬうちに駆けだすほど短慮でもない。
普段キーコと戯れ昼寝に勤しむ姿を思い出していれば自然とそう思えてくる。

黙り続ける我愛羅の頬を撫で、あやすように肌を撫でてやればようやく我愛羅の視線がサクラに戻ってくる。
その視線は物言いたげで、なあに?と問いかければ視線を左右に泳がせた後、いつか、と口を開く。

「…いつか、ちゃんと…言う」

言った途端徐々に頬を赤らめていく男にどうしようもないほどの愛しさが沸き上がり、衝動のまま抱き着けば痛いくらいに体を抱きしめられ肩口に額を当ててくる。

「本当?」
「ああ」

今はまだ出来ないが。
その言葉が暗に聞こえてはきたが、それでも我愛羅はできない約束をする男ではない。
自分たちの未来がようやく明け始めていることを噛みしめつつ、ゆっくりと笑みを広げ、じゃあ、と口を開く。

「いつか私のこと、ちゃんとお嫁さんにしてね」

そう言って背を抱けば、ああと頷かれ、覚悟しておけとまで告げられ肩を震わせ笑いあう。
昔の頃が嘘のように今が幸せでしょうがない。
だからこそ少しの不安も恐怖もあるが、この人がいるなら大丈夫だと思える不思議な力がある。
本当に、分かりやすいくせして分かりにくくて、単純なようで不思議な男にどんどん惹かれていく。
我愛羅は自分のことを魔性の女だ小悪魔だと揶揄してくるが、サクラから見てみれば我愛羅の方が何倍も魅力的で目が離せないのだ。

時に子供で時に大人で、時に紳士で時に獣で。
砂を操る癖して世界は海でできていて、淡白なように見えて実は誰よりも愛情深い。
情熱的で、時に攻撃的で、けれど誰よりもサクラを満たしてくれる男はこの男しかいない。
そうして同じくらいに切なさを覚えるのも、この男にだけだ。

「我愛羅くん、あなたが好きよ。大好き。誰よりも、愛してるわ」
「…ああ、俺もだ」

まっすぐと瞳を交わしあい、頬を撫でて唇を寄せ、愛を紡ぎあっては互いの体を掻き抱く。
絡め合った指は深く互いを結ぶようで、この手をずっと握っていたいと思う。

過ぎた時間は戻ってこない。
約束された一年は後半分しか残っていない。
その残された時間で自分はこの男の隣に立てるよう励まなければいけないのだ。

「サクラ、愛してる。お前だけをずっと、愛してる」

寄せられる眼差しはあたたかく、深い愛情に甘えて目を閉じる。
この先何があっても挫けない。
どんなことがあっても立ち上がって、何度地に這いつくばろうが諦めたりはしない。
どれだけ隣に立つのが相応しくないと言われようが、それを跳ね除ける強さを身に付ければいい。

いつか本当の意味で隣に立ち、我愛羅の女として相応しくあれるように。

(私頑張るからね、我愛羅くん)

穏やかな口付は優しく、ゆっくりと倒された寝台の上で薄紅を広げる。
揺蕩う翡翠の海の中、押し寄せる波に身を任せ、迫る高波に腕を伸ばす。

全身で受け止め、飲み込まれ、そうして泳ぐ海は心地好い。
光る水面を感じながら、愛を誓い合った二人は互いに心行くまで深く愛し合った。




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