- ナノ -

あとがき



 本当アホみたいに長い、捏造オンパレードどころか『殆ど一次創作では?』と突っ込まれそうなほどに好き放題書いたお話でしたが、最後までお付き合いくださった皆々様方には本当に、心から感謝申し上げます。

 いやー、長かった。長すぎたね。何だろうね、この文字数ね。
 読み終わるまでものすごくお時間がかかったことだと思います。皆様の貴重なお時間を頂戴してね、申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、それでも少しでも『知ヒロありでは?』と思って頂けたらとてもとても嬉しいです。私の文章力と妄想力では限界があるので、是非皆様も知ヒロ沼に……!
 ゴホン。話が逸れました。
 今回はまあまあ真面目にあとがきを書こうと思います。

 えーとですね、まず物語を締めた直後に云う事ではないのですが、実はヒロちゃん、まだ知くんとの関係に前向きではありません。
 それはもう、最後らへんの鈴ちゃんとの会話でも表してるんですけど、「幸せ?」という問いに「よく分からない」と答えています。はい。これが答えです。
 ヒロちゃんはですね、まだこの時点では『友達以上恋人未満』の気持ちですらないんです。

 え? じゃああの「キスして」云々の流れなんやったん? って感じなんですが、あれは珍しく『雰囲気に流された』『そういう気分になった』だけであって、心底知くんに対して「好き」と思ったわけではないです。
 ただ「今までの彼氏その一、その二よりはマシ」という感じ。

 何でかって言うと、ヒロちゃんの心はまだ全然、一ミリも回復してないからです。
 言ってしまえば今はようやく血が止まった状態になっただけで、止血作業どころか診察さえ受けられていない状況なんですよね。だからまだ感覚が麻痺してるんです。
 今までずっと血をドクドク流してたのがようやく止まった。それだけなので、ヒロちゃんが回復するのはこれからなんですよね。
 知くんも浮かれてはいますが、何となくヒロちゃんの心がまだ自分に向いていないことが分かっています。だからまだまだ「ヒロちゃん、こっち向いて」って言い続けます。言い続ける気でいます。忍耐強い子です。

 そんなヒロちゃんの心を癒すのは、ワンワンセラピー改め知くんです。知くんの献身的な愛――と見せかけた何気ない『日常』や日々の触れ合い、ささやかな会話やしょうもないやりとりとかで、ヒロちゃんは徐々に『そういえば、“普通に生活する”ってこんな感じだったなぁ』と思い出していくんです。
 そこでようやく止血の絆創膏なり包帯なりが巻かれたわけで、そこから更に時間を掛けて受けた傷を癒していくわけです。

 だからそう簡単に『恋』にはならないし、イチャイチャラブラブはしないです。あけすけな言い方をするとヒロちゃんは知くんのことを『珍獣の飼育員』だと思っています。
 こんな自分に興味があるなんて変わったやつ。という視点で見ているので、如何に知くんが「ヒロちゃん大好き!」と言っても動物好きの人が「動物大好き!」と言っているようにしか聞こえないんですよね。
 なんか可哀想になってきたな。知くんが。

 でもこれから少しずつ知くんがまっすぐに、真正面からヒロちゃんに飽きることなく、諦めることなく気持ちを伝えていくことでヒロちゃんは徐々に知くんを『珍獣の飼育員』から『自分を想ってくれる人間』ぐらいの気持ちに変わって行きます。
 で、次第にその気持ちをどう受け取っていいのか分からなくなり、自分の気持ちも分からなくなり、どうすればいいんだろう。と思っている時に知くんと一緒にフランスに行くことになります。
 そこで『世界のアレクサンドル』達と交流し、意見を交わし、フランスの街並みを見て、実際に歩き、知くんがフランス語を流暢に喋ってニコニコしながら案内している姿を見て、ようやく『ああ、この子は本当に、色んな意味で大人なんだな』と実感するというか、悟るのです。

 フランスでのデートはヒロちゃんにとっては色んな意味で衝撃的なんですけど、それはあくまで知くんに対する意識改革というか、意識改変というか、そういうアレで実際フランスに来て「フランス来たぜイヤッホーッ!」みたいなテンションではないです。
 むしろ「世界のアレクサンドルとどう話せと?」という不安と緊張でいっぱいです。社会人だからこそ彼らがどれほどの高みにいるかを改めて実感し、震えている感じ。

 だけど知くんが相変わらずのほほんとしたテンションと態度で「アレックス〜! 会いに来たよ〜!」って気軽に挨拶するし、アレックスはアレックスで「よく来たな! 待ってたぜ!」みたいな感じで知くんにハグするし、ヒロちゃんにも「会いたかったんだ、ずっと!」って感じですごい、初っ端から好感度高めで「Why?」ってなるヒロちゃん。
 更にはアレックスの奥さん(日本人)も、その子供や孫までが「キミが“ヒロちゃん”? 会いたかったよ!」みたいなテンションで「マジでどうなってんの?!」ってなってる時に、知くんから「ボクがずっとヒロちゃんの話してたからずーっと会いたがってたんだよね」っていつもの調子でサラッとすごいこと言われて心底「あんたねー!!」ってなるヒロちゃんがいる。

 でもおかげで緊張は少し解けるし、肩書だけ見ればすごい人たちでも、実際に話してみると本当に普通というか、極々一般的な家庭で家族で、愛があってユーモアがあって、美味しい食事と楽しい話題に声を上げて笑う人たちだと知って、ヒロちゃんは「国を超えても、言葉が違っても、人って根本的には同じなのね」ってある意味当たり前のことを今更ながらに実感して、そこで知くんとデートに出るわけですよ。

 意識改革起こるに決まっとるやんけ。と。

 そこでヒロちゃんはようやく知くんのことを『自分の事をずっと好きでいてくれた唯一の“男性”』だと認識するわけです。
 あの子、でもこの子、でもないんですよ。子供扱いしないんです。あのヒロちゃんが。

 作中でも言わせていますが、知くんのことをずっと『お子様』扱いしているのは圧倒的にヒロちゃんです。
 恵くんも鈴ちゃんも知くんのことを『保護対象』だと思っている節はありますが、二人とも『まだ子供』だとは思っていません。
 事実一人でフランスに何度も渡り、著名なデザイナーたちと共に仕事をし、大きな式典やレッドカーペットを歩いている姿を何度も見ているから『お子様』扱いなんて出来ないんです。

 でもヒロちゃんだけは違って、ずっと知くんのことを『大きくなっちゃって。ちびっこだったくせに』って揶揄ってたんですよね。
 大きくなってもまだまだ子供。みたいな目でずっと見てたんです。

 それが! ようやく! 変わるわけで!

 そこでようやくヒロちゃんは知くんと向き合えるというか、向き合おうという気持ちになるというか。
 知くんのことを『昔からよく知ってる知り合いの子供』ではなく、『自分の隣に立とうとしている、向き合おうとしている一人の成人男性』だと認識するわけです。
 何度でも言おう。

 この意識改革は大きい。

 で、ようやく知くんのことを『大人の男』と認識したところで二人の本当の意味での交際がスタートするわけです。

 スタートまでが遠いなぁ。って感じなんですが、正直知ヒロはこのぐらい距離が空いている方が自然というか、ベストだと思っています。
 急速接近というよりは、徐々に徐々に降り積もったものが結果を出したような感じというか。そういうスロースタートが一番美味しい気がします。

 じゃあここからようやく二人の甘い生活が始まるの?! と思うかもしれませんがそれはないです。
 基本的にヒロちゃんがサッパリとした性格の人なので、あまりベタベタイチャイチャはしないと思う。でも知くんとのスキンシップが嫌なわけではないので、向こうから来た分には悪態はついても抵抗もしないし、全力で嫌がることもしないです。
 でも自分からはいかない感じ。ツンデレな猫かな? ぐらいがヒロちゃんだと思っているので、知くんは『そういうところもかわいいな』なんて思ってたら可愛い。

 結論:どっちも可愛い。

 とまぁ、長々と、本当にあとがきでも長々と語ったんですけれど、そもそも何でヒロちゃんこんなにメンタルよわよわにしたん? って思われたと思うんですよ。

 これはね、単なる私の認識というか妄想でしかないんですが、ヒロちゃんみたいなタイプってすごい負けず嫌いだと思うんですよね。で、なまじ優秀だから挫折らしい挫折とか、出る杭は打たれるみたいなのを経験したことが殆どないと思うんですよ。
 そりゃあゼロではないけど、社会人になるまではほぼなかったと見て間違いないかな、と。

 だけど上京して、色んな人と関わって、無能な上司に滅茶苦茶なクライアント、そこに圧し掛かる男運のなさ。で結構なショックを受けると思うんですよね。理想と現実とのギャップに心が追い付かない感じ。
 それでも必死に『自分はこんなことで負けない。負けてたまるか』って意地張っちゃって、今度は逆に休めなくなるんじゃないかな、と。
 無理な残業をするのも、休憩時間削って仕事するのも、結局は『自分なら出来る』っていう無意識の過信・驕りと『同期に負けたくない』『無能な上司に見下されたくない』『見返してやりたい』っていう反骨精神と負けず嫌いが最悪なマッチングをして、結果的に本作のヒロちゃんが出来上がる。と、こんな感じです。

 ヒロちゃんならもっとうまく立ち回れるだろ。と思われるかもしれませんが、人の心って一回壊れて狂いだすともう何が正解で何が正しいのかが分かんなくなっちゃうんですよね。

 それが鬱となって現れるか、ヒロちゃんみたいに体にダメージが言ってぶっ倒れて緊急搬送されるかは別ですが、もうその時点でヒロちゃんの心はズタボロだったし、常に流血状態だったんです。
 だから幾ら恵くんと鈴ちゃんが注意しても心配しても暖簾に腕押しというか。「うんうん。流石に今回は私もヤバイと思ったわ。でも次は気を付けるからさー」みたいなね。狂っちゃってんですよね。感覚がね。
 本当は「倒れるぐらいなら辞めればいい」し、実際ヒロちゃんも「いつでも辞められるわ、こんな仕事」って思ってるんです。でも辞めなかった。辞められなかった。だから壊れてしまった。ヒロちゃんの心が。

 そんなヒロちゃんの、無意識に弱っていた自分を見せまいと囲っていた城壁を地道に取り除き、ヒロちゃんの心のやわらかいところに触れたのが知くんで、それが作中のラブホで髪を乾かしてあげたシーンになります。
 知くんにとっては何でもない(ある意味では特別な意味を持ってはいますが、それはそれ)何の変哲もない些細な動作ではありましたが、人間弱っている時に優しくされると涙が出るものじゃないですか。

 ヒロちゃんもそうなんですよ。

 なんかもう、色々ガッシャーン! って壊れてぐちゃあ、ってなって、泣くしか出来なかったのがあのシーンです。ヒロちゃん本当ごめん。

 でも一度泣いてむき出しの心を抱きしめて貰って、初めて「大丈夫じゃなくていいよ」って言われて、ヒロちゃんは「もう頑張らなくていいんだ」「強がらなくてもいいんだ」「弱い自分がいてもいいんだ」と思えるようになります。

 これもある種の意識改革ですね。

 ずっと鈴(ベル)のサポートをしていたヒロちゃんが、無意識に背負っていた重責を一旦全て下ろした感じ。敏腕マネージャーでも都合のいい女でも、仕事が出来る部下でもなく、たった一人の『別役弘香』になれた瞬間というか。
 …………言わねえとマジで全然分からねえな。って、あとがき書きながら痛感してます……。つらい……。

 ええっと、つまり何が言いたいかというと、私はまだ『知ヒロ』が書きたいねん! と、これだけです。
 更に言っちゃえばこの設定で、この二人の今後というか、最初に長々と話した二人の触れ合いからヒロちゃんが知くんと同じ目線に立って、本当の意味で“パートナー”となるまでが書きたいんです!
 ようは後編ですね! この場合二部、という方が正しいのかな?

 正直「え? まだ書くつもりなん? 正気?」という声も聞こえてくるんですが、それはそれ。もうここまで書いちゃったなら吹っ切れるしかないよね。もうYOU 書いちゃえよ! っていうクソミソな精神で書きたいと思います。
 支部に上げるかどうかは未定ですし、そもそもいつ書き上げられるかも分からないんですが、本編中に入れられなかったデートに行く前の小さな行動だったり、知くんとヒロちゃんの初めての×××の話だったりとかをね、書けたらいいなぁ、と思います。

 あとめちゃくちゃどうでもいいと思うんですけど、知くんが勤めている会社は社長自らが知くんに「うちに来て!」とスカウトしたところです。その際知くんから「アレックスたちと一緒に仕事してもいいなら」という条件で契約を結んでいるので、知くんは普通の社員とはちょっと違う契約内容で業務についています。
 だからアレックスに呼ばれても「OK! 行ってこい! むしろ行ってきて!」となります。(だって世界で一番有名なデザイナーからの仕事蹴るとか無理無理の無理でしょ)周囲もそれを理解していますし、何より知くんがコミュ力お化けなのとゆるふわ癒し系愛され男子なので基本的に著名人たちとの仕事を後押ししています。確定申告とかは大変そうだけど、世界のアレクサンドルとのパイプを持つんだからそりゃ手元に欲しいよね。っていう感じです。

 うん。あとがきと呼ぶにしてはあまりにも長くなりましたが、もしここまでお付き合いくださった方がいらっしゃいましたら、改めてお礼申し上げます。
 本当に本当に、最後までお読みくださりありがとうございました!m(_ _)m




prev back to top next