- ナノ -

座談会

アスリート引退後、恵くんと同じ会社に就職した猿くんが、恵くんと配信チャンネルで座談会する話。
アホみたいに長いのでお時間がある時にでもよろしくお願いします。




*プロゲーマー恵くんと、アスリート引退後恵くんと同じ団体に所属することになった猿くんとが座談会(?)配信する回。

「おかしいだろこの企画」
「座談会ってなぁ。わざわざしなくても普段からめちゃくちゃ色々喋ってると思うんだけど」
「あとさ、格好がおかしいだろ」
「懐かしいよなぁ。これ高校の時の制服だろ? わざわざ取寄せたの?」
「だよな。俺もう処分したから」
「オレも。あ! だからか! 前回さぁ、配信終わった後に身体測定したじゃん。アレ制服用意するためだったんじゃねえの?」
「あー。あれかー。最初俺も『意味わかんねえな』って思ってたんだよ。でもカメラ回ってないし、普通に会社からの命令だと思ってた」
「実はここに繋がってたのね! なるほどね! ってなんでやねん!!」
「渾身の『なんでやねん』だったな」
「いや、だってよ? この歳になって制服着るとは思わねえじゃん?」
「年齢的に言えばただのコスプレだからな」
「誰だよ。オレたちに学生服着せようなんて言ったやつ」
「まあそれを大人しく着た俺らも俺らなんだけどさ」
「うははは! まあな。お互い『うわっ、懐かしい〜!』とか言いながら着たもんな」
「正直お前との配信で無茶ぶりされることに慣れてきた自分がいる」
「だはははは! まあ、不定期っつっても一月に一回か二回は配信してるからな。そりゃ慣れるわ」
「お前も自分のチャンネル持ってるしな」
「うん。オレはお前らプロ集団と違って下手くそだから、本当、こう、ゲームが苦手な人とか、子供とかが楽しめるような、ライト層向けみたいなやつをやってるからさ。結構ゆる〜くやってるぜ?」
「知ってる。で、何の打ち合わせもなく、突然あそこに案内された時は本当にびっくりした」
「だははは! アレな! いや、オレもあれ聞かされてなかったんだよ。だからオレも『え? 恵がドッキリ仕掛けてきた?』って思ったんだよ」
「単なるスタッフの罠だった、っていう」
「見事に両方ドッキリにはめられたよなぁ。いやぁ、懐かしいわ」
「はい。そんなオープニングから始まった今回の座談会? なんですが……。えーとですね、もう隠す必要も感じないから普通にカンペ読みますけど、今まで来た俺たちに対する質問に答える。っていう企画らしい」
「グダグダになる未来しか見えない」
「俺だけならまだこう、普通の配信、配信? ラジオみたいになると思うんだよな」
「うん。でもオレちゃんがいるからね」
「まともな配信になるわけがない」
「座談会っていうより雑談会だよな。もうな」
「正直普段の配信も半ば素が出てるからな。俺たち」
「まあ元よりオレちゃんは素でやってるとこあるんですけどね」
「俺はお前が来てからどんどん『愉快なキャラ』だと思われるようになってしまった」
「だははは! でもアレじゃん。オレといる時だけじゃん」
「まあな。普段、あっちの(プロ)チームにいる時は必要最低限のことしか喋らないから」
「ああ、そうだ。前にお前んとこのリーダーに言われたぜ? 『お前どうやって恵とあんなに仲良くなれたんだ?』って」
「……八割方お前の暴走じゃね?」
「暴走じゃねえよ?! 愛のアタックだよ!」
「普通に気持ち悪い」
「はいそーゆーとこー。恵くんそーゆーとこよー? もっとあたしを大事にしてー?」
「じゃあ早速質問拾っていきましょう」
「無視するのいくない!」

*「高校生時代のお二人も今みたいな感じだったんですか?」という質問に対して。

「……うん。まあ、あんまり変わってないですね」
「オレはほぼ変わってないけど、恵は変わったよな」
「あー……。まあ、そうだな」

・スタッフ『どんな風に変わったんですか?』

「言いたくはないけど、俺の性格が丸くなった」
「だははは! そうな。丸くなったつーか、デレが増えたな」
「デレって言うな」
「いやでも本当、当時はめちゃくちゃツンケンしてたからな。コイツ」
「うん」
「オレ以外ではあんまり喋ってるやつ見たことないし」
「うん。いなかった」
「あんまり笑ったりとかもしなかったよな」
「そうだな」
「だから今の方が『よく喋ってんなー』って思う」
「否定はしない。でも、お前が来るまではここでもあんまり変わってなかったっていうか、やっぱり喋る機会は少なかったな」
「サブリーダーだもんな。オレも『必要最低限のことしか喋ってねえな』って思ってた」
「うん。特に必要性を感じなかったからな。大体のことはリーダーが伝えてくれてたから」
「じゃあさ、オレとお前がダチだって知られた時すごかったんじゃねえの? 反響っつーかさ」
「あれはもう完全にお前のせいだからな」
「だははは! 悪かったって! いやでも、約束したからさ。メダル取った時『絶対恵に見せよう!』って思ったんだよ」
「……まあ、すげえな。とは思ったけど」
「お前リアルタイムで見てくれてたんだっけ? そっち夜中だったよな?」
「夜中っていうか早朝? お前が出てた時が四時ぐらいだったから……」
「四時?! お前よく見たな!」
「お前が『見ろ』って言ったんじゃねえか」
「言ったけどさ。もしかしたら寝てるかも。って思ってたんだよ」
「寝てねーよ。ちゃんと起きて見たよ」
「ありがとな! テレビに向かって「ガンバレー!」って応援してくれた?」
「してねえ。言わねえ。大体お前が『メダル取る』って言ったんだろうが。お前約束破ったことないから、取るだろうな。って思って応援する必要性を感じなかったんだよ」
「おお……。今すげえ遠回しだけど久しぶりに特大のデレを食らった気分」
「なんでだよ! お前が『メダル取ってくるから待ってろよ!』って言ったんじゃねーか」
「言ったけどさぁ。だってオレが最初に『選手に選ばれたぜ!』って電話した時、オレの電話で起こされたから恵すげー不機嫌だったじゃん」
「不機嫌っつーか、普通に『何言ってんだコイツ』って気持ちだったんだよ」
「ああ、そうそう。そんな感じ。電話して、即報告したら『はあ?』って言われたんだよな。あれがさー、すげえ面白かった」
「だって可笑しいだろ。何で家族より先に俺に報告してんだ」
「いやさー。最初は普通に『母ちゃんに連絡しようかな』って思ったんだよ。でも時間帯的に『仕事中だろうな』と思って。そしたらさ、当時ゲームの大会でアメリカにいた恵の方が起きてるかも。って思って電話したんだよ」
「めちゃくちゃ夜中だったわ」
「だははは! でも出てくれてよかったわ。正直オレもさぁ、オリンピック行きの選手に選ばれた時さ、内心では『コレ夢かな』って思ったもん」
「お前が?」
「うん。で、今だから言えるけど、正直不安もあった」
「へえ」
「だから、恵に開口一番『何言ってんだコイツ』って思ってるのがありありと分かる声で『はあ?』って言われた時、すげえ『恵だ〜〜〜!』って思って、安心した」
「なんだよ、その『恵だ〜!』って。どんな感情だよ」
「なんだろな。なんていうかな、オレの中ではさ、恵ってさ、ダチなんだけど、浮かれそうになるオレをいつも現実に引き戻してくれる存在つーかさ」
「だろうな」
「うん。で、あの時も、オレは正直『嬉しい』っていう感情よりも、なんかちょっと、いまいち信じられねえな。って気持ちが強くてさ。だから、なんつーか、怖がってるみたいなとこもあったんだよ」
「うん」
「でも恵の声聞いて、改めて『オレ選ばれたんだぜ』って言った時、なんつーかな……。こう、夢の中にいた気分だったけど、地に足がついたっていうか」
「実感したわけか」
「うん。それまでは本当、酒飲んだわけでもないのにフワフワっつーかグルグルっつーか、変な感じがしてたからさ。恵と話してるうちに落ち着いたっつーか、『夢じゃねーんだな』って実感したというか」
「あー……。まあ、テンションの上がり下がりが激しかったもんな。あの時のお前」
「うん。だいぶ狂ってたわ。だから家族よりも先に恵に連絡してよかったと思ったし、メダル取った時も真っ先に恵の顔が浮かんだのかな。と思って」
「まあ、確かにだいぶ迷惑かけられたけれども」
「ふふっ」
「お前がちゃんと約束守ってメダル取った時は、正直嬉しかったよ」
「おう。サンキューな」
「でも、ことあるごとに真っ先に俺に報告をするな。せめて家族を優先しろ」
「いやだってもうさー、なんか口癖みたいになっちゃったんだよな。ケーイ! って呼ぶの」
「人の名前を口癖にするんじゃねえよ! 犬か俺は!」
「犬っつーかゴリラだよな」
「ぶっ飛ばすぞクソ猿」
「だははは! まあ、アレだな。今も昔もあんま変わってねえな。オレらな」
「はい。じゃあこの質問に対する答えは『今も昔も変わっていません』ということで」
「じゃあ次の質問は?」

*「今のオリンピックの流れは本当ですか?」というコメントを拾ったスタッフ

「本当本当。オレマジで決まってすぐ恵に電話したもん」
「あの時俺、アメリカで開催される大会に出場するためにロスのホテルにいたんだけど、夜中の二時ぐらいで」
「マジで?! ごーめん!」
「枕元でスマホが鳴ってビクッ! として起きたらお前だからさぁ。ロクでもねえ内容だったらぶっ飛ばそうと思って出たんだよ」
「そこで無視しないで出てくれる辺りが恵だよな」
「そしたら『オリンピックに出ることになった!』って言われて、心の底から『何言ってんだコイツ』って思ってさ」
「うははは! もうね、その気持ちがね、あの『はあ?』にすーげえ現れてた」
「うん。心の底から気持ちを込めて言ったからな」
「でも、あれのおかげでオレは正気に戻れたっつーか、現実に戻れたし、恵にも堂々と『メダル取ってくるから!』って約束出来たんだよな」
「でまあ、実際にメダルを取って来たから俺も半分は驚いたんですけど……」
「あれ? もう半分は?」
「さっきも言っただろ。お前が約束破るはずねーし、取るって思ってたんだよ」
「……すごいでしょ、コイツのデレ。普段ツンツンしてるから心臓に悪いの」
「じゃあもうずっと冷たくするわ」
「あー! 嘘ですごめんなさい恵様! 優しくして!」
「次! 次の質問行こう!」

*「二人はどんな学生でしたか?」という質問に対して。

「コイツはただのバカ」
「ひっでえ。何の躊躇もなく人をバカ呼ばわりしたよこの人。まあ間違ってないんですけどぉ」
「実際下から数えた方が早かっただろうが」
「でも一番下じゃなかったもんね!」
「当たり前だバカ! 何回教えてやったと思ってんだ!」
「ほぼ毎回ですね! あの時はお世話になりました!」
「ったく……。お前に教えるの本当大変だったんだからな」
「うははは! でも恵だけじゃなくてさ、先生たちも匙を投げずによく教えてくれたなー。って、思う」
「まあ、お前頭の出来は悪いけど態度が悪かったわけじゃないからな。実際可愛がられてたし」
「うん。色んな先生に構ってもらってたなぁ。ジュースおごってもらったりとかしたよ」
「逆に俺はそういうの一切なかったな。必要最低限の話しかしてこなかったから」
「壁作ってたもんな。あの時のお前」
「俺だけじゃないと思うけどな。高校生ってそういう時期だろ」
「まあそうなんですけど」
「それを鑑みると、俺は授業態度は真面目だったけど面白みのない生徒だったし、コイツは頭は悪いけどクラスのムードメーカーって感じでした」
「うん。恵はね、本当に喋んなかったから。オレとこんな感じになったのも二年になってからだし、一年の時はここまで仲良くなかったから」
「……あの時はまだお前のことよく分かってなかったから、警戒してたんだよ」
「うん。それはなんとなく分かってた。でも別に気にしたことなかったからなぁ」
「たまに無視してたのに全然めげないから、諦めたんだよ」
「え。アレ無視してたの?! てっきり聞こえてねえだけだと思ってた」
「どんだけポジティブなんだよ! 普通に無視して目の前通り過ぎたこともあるだろ。あの時は『コイツここまでされてよく平気な顔してられるな』って驚いてたのに、そもそも気付いてなかったとか……」
「いやー、普通に『あー、聞こえなかったのかなぁ。ま、そういう時もあるか』としか思ってなかったわ。あれ無視してたのね」
「……今更だけど悪いことしたな。って思ってるよ」
「別にいいよ。もう何年も前のことだし。つか気にしてたら今もこうしてお前と一緒にいねえって」
「……サンキュ」
「おう」

*「猿渡さんメンタル強すぎませんか?」というコメントに対して。

「こいつマジでメンタルオリハルコンだから」
「だから創造上の素材で出来てねえって。オレのハートはよ」
「ただ俺も、お前が凹んでるところは見たことがないから、ずっと気にはなってた」
「え? そうなの?」
「うん。俺はさ、頭に血が上るとこう、言葉が荒くなるから。お前にも結構酷いこと言ったこともあるし」
「あー、うん。ないとは言わねえけど、でもオレお前の言葉に傷ついたことマジで一回もねえからな」
「は? 自分で言うのもアレだけど、結構キツイこと言っただろ」
「うん。そうなんだけどさ。でも恵って冷たいように見えて心のど真ん中はやっぱりあったかいっつーか優しいからさ。自分で言った言葉に自分で傷ついたり、反省したりするじゃん。で、割と言った後すぐに冷静になってそれに気付いて、反省するだろ? だから『悪い奴じゃねえな』っていうのはすぐ分かるし、そういう姿見てたら嫌いにはなれねえよ」
「でも普通は嫌な気持ちになるだろ」
「うーん……。他の人はそうかもしれないけど、オレは別に気にしたことないかな。お前キレた時は大体『ぶっ飛ばすぞ』か『殺すぞ』って言うけど、実際にぶっ飛ばされたことも殺されたこともないじゃん? むしろ『言おうとしてなかったことを言っちゃった時』とかはさ、すぐに自分で言った言葉に恵自身が傷ついて狼狽えたりするじゃん。そういうとこ見てるとさ、やっぱりオレは自分自身よりお前の方が心配になる。一々気にしなくてもいいのに。って思うし」
「……お前、お人よしがすぎるだろ」
「そうでもねえよ? だってオレのこと嫌いな人にわざわざすり寄ったりしないし、お前のこと傷つけようとする人と仲良くしたいとも思わない。オレは単にお前と普通にダチやってたいだけだよ」
「……なんか、お前とはじいさんになっても頻繁に顔合わせそうな気がする」
「だははは! お互い『老けたなぁ』って言い合えるようなジジイになれるといいな!」
「そうだな」

*「高校時代、特に記憶に残っている出来事はありますか」という質問に対して。

「あー、色々あるなぁ。恵は何が一番記憶に残ってる?」
「……思い出したくない話と、思い出せるけど話したくない話と、話してもいいけど面白くない話どれがいい?」
「濃い濃い。選択肢が濃い」
「言っとくけど全部にお前が絡んでるからな」
「マジで?! そんなに?! え? オレ何かしたっけ?」
「したのもあるし、間接的に関わってるっていうか、そういう話もある」
「えー……じゃあどれだろ……。じゃあとりあえず最後のから行こうぜ」
「話してもいいけど面白くない話な」
「うん」
「多分、お前も覚えてると思うんだけど、席替えの話です」
「席替え? あー……。あー!! 思い出した! お前のあの、悲劇の席替えな!」
「そう。最初は、俺とお前で前後の席だったんだよ。お前が前で、俺が後ろ」
「そうそう。二年に上がってすぐの席替えで窓際の席になったんだよな」
「で、その後に席替えした時に、俺の席の、前後左右全ての席が女子だったっていう」
「だははは! あったあった! あの時お前すーげえ顔してたもん」
「別にさあ、その、そこの席にいた女子が好きとか嫌いとかじゃなくて、普通に居心地が悪いんだよ。女の子たちの中に男一人って」
「分かる分かる。年頃だしな。特にお前はあの時女子苦手だったから、地獄にいるみたいだっただろ」
「もう居心地悪いどころの話じゃねえんだよ。ずっと息苦しいっていうか、息がしづらい」
「物理的に?!」
「そう。だから、もう本当、常にお前の方見てた」
「だははは! いや、でもオレもずっと気にしてた。恵大丈夫かな〜? って」
「大丈夫ではなかったな。けど周りの奴らに『変わって』って言うのもさ、女の子たちに失礼じゃん」
「ああ、うん。そうな」
「そう。だから、話しかけられることもあんまりなかったけど、何か起きてもすぐにお前にヘルプを求められるようにはしてた」
「うはははは! 覚えてる覚えてる。あの時ばかりは恵がマジで可哀想だと思ったからさ」
「授業が終わるとすぐに席立ってお前のところに行ってたからな。俺」
「うん。でもオレがさ、体育委員とかで呼ばれた時はさ、どうしてたわけ?」
「ずっと単語帳見てた」
「だははは! そうかー。苦労したなぁ、お前も」
「あの時は本当に自分のくじ運のなさにキレそうだった」
「でもその後はよかったよな。オレと、女子一人挟んで隣だったから」
「ああ。で、その後が俺が前に行って、お前がすごい後ろになったんだよな」
「そうそう! あん時の恵全然コッチ見てくれなくてさー。すーげえ寂しかったんだぜ?」
「授業中に意味もなく振り返るわけにはいかないだろ。でも時々は気になってたよ」
「時々かい! でも懐かしいわ。席替えは悲喜こもごも、って感じだったよな」
「うん。お前は誰とでも仲良かったし、女子に囲まれても気にしなかっただろ?」
「流石にちょっとは意識するぜ? でもお前ほど人の視線とかに敏感じゃないから、まあ普通に数日で慣れたな」
「俺には無理だった。今でもキッツイわ」
「あー。じゃあ他に何かある?」
「俺は今一個話しただろ。お前はどうなんだよ」
「オレぇ? オレはねー、やっぱり体育祭かな」
「言うと思ったよ」
「ちなみにお前の中で体育祭はどの位置づけなん?」
「……思い出せるけど話したくない話」
「だははは! 二番目のやつかよ!」
「俗にいう『黒歴史』なんで」
「いやいやいや! オレにとっては最高の思い出ですよ」
「そもそもアレだってお前のせいだからな? 半分は」
「もう半分は?」
「自業自得」
「だはははは! 恵はそういうとこ本当正直っつーか、真面目だよなぁ」
「まあな。担任の注意を無視して話し続けた俺にも非はあるからな」
「偉い偉い。まあそのおかげで借り物競争と女装リレーに出ることになったわけですけれども」
「うん。本当、思い出したくない」
「だはは! なんでだよ。オレは嬉しかったぜ? お前の――」
「言うな言うな!」
「何でだよ。もう時効だろ」
「時効じゃねえよ」
「えー? じゃあオレが出場した女装リレーの話でもする?」
「あれは、めちゃくちゃ面白かった」
「だははは! お前すーげえ笑ってたもんな」
「多分、あの時間だけで一年分ぐらい笑った」
「そんなに?! いやでも、確かにお前めちゃくちゃ笑ってたもんな。そんなに面白かった?」
「面白かったつーか、キモかった」
「うをい!!」
「けど、鳥肌が立つキモさじゃなくて、笑えるキモさだったから」
「何のフォローにもなってませんけど?」
「正直お前の女装リレーがなければ俺にとって体育祭は単なる『黒歴史』だけで終わってた」
「ああ、じゃあ、よかったのかなぁ?」

・スタッフ『女装リレーってなんですか?』

「え? そのままの意味ですよ。女装して普通にリレーすんの」
「ただ、観客席とか、生徒たちに向けて軽くパフォーマンスしなきゃいけなくて」
「そうそう。で、オレは、観客席無視して恵を笑わせに行ったんだよ」
「おかげで自陣から盛大なブーイング喰らってたけどな」
「でもお前を爆笑させることが出来てオレとしては満足だった」
「あれなー、悔しいけど面白かったんだよ」
「お前意外とそういうのに弱いよな」
「面白かったんだからしょうがねえだろ」
「まあ恵が笑ってくれたから、オレとしては全然よかったんですけど」

・スタッフ『ちなみにどんな女装をしたんですか?』

「衣装は、オレの母ちゃんが社交ダンスの大会に出る時に着るキラキラした奴で、化粧は姉ちゃんの見様見真似でやった」
「新手のニューハーフみたいだったよな」
「恵大爆笑してたもんな。オレあんなに笑う恵初めて見たもん」
「うん……。あれはなー、耐えられなかった」
「三年の時もさ、結局オレが女装リレー出ることになったんだけどさ、その時も恵ずっと笑ってたもんな」
「あれも面白かったんだよなー。なんだろうな。他の人の女装見てもなんにも思わないというか、むしろ『気持ち悪っ』で終わるんだけど、お前の女装だけは何故か見てて笑える」
「喜んでいい話なのかもしれないけどあんまり嬉しくねえなー」
「ははは。そうだろうな」
「まあ、でも、楽しい思い出だよ」
「うん」
「じゃあ、最後の思い出したくもない話って言うのは? 概要だけざっくりとかでも無理?」
「んー……。じゃあ、ハンドサイン出すから、それで理解して」
「お? うん」
(ここで無言で何かしらのジェスチャーを取る恵。それを見て「あ」という顔をする猿)
「OK! 分かった! それはな、確かにちょっと言えねえっつーか、言いたくねえっつーか、電波には乗せられねえな」
「うん。だからちょっと、これは無しだな。と思って」
「うん。オレも言わない方がいいと思う」
「じゃあ逆に、お前は何かある?」
「まあ色々あったけどぉ、それこそ女装リレーとか。あとは文化祭かな」
「何年の時の?」
「楽しかったのは二年だけど、思い出に残ってんのは三年かな」
「三年の時って俺ら特に何もしてなくねえか?」
「うん。ただお前と色々見回ってただけだけど、それが楽しかったなー。って」
「あー……。そういやクイズ大会とかにも出たな」
「そうそう。オレが押して、お前が答えるってやつ」
「お前何も分からねえくせに押すから答えるの大変だったんだぞ?!」
「でも大体答えてたじゃん」
「答えるしかなかったから八割は当てずっぽうだったっての」
「でも大体正解してたからやっぱお前すげえわ。あとは普通に屋台回ったよな。楽しかったー」
「お前が焼き鳥のタレを制服に落とした時はどうしようかと思った」
「だははは! アレめっちゃお前にキレられたよな。『今すぐ脱げ!』っつって」
「そう。で、水道までダッシュで行って、水で洗って……って、まあ大変だった」
「おかげでシミにならずにすみました」
「感謝しろよ?」
「ありがとうございます!」
「はい。じゃあ、高校の思い出はこんな感じですね」

*「先程おっしゃっていた身体測定とは何だったんですか?」という質問に対して。

「ああ、あれは、前回のホラーゲーム実況のあとに、隣の部屋で身体測定が行われたんですよ」
「そうそう。あの、身長測るやつとか、体重計とかが用意されててな? そこで久しぶりにやったわけよ」
「で、コイツが俺が体重計に乗ってる時に後ろから乗ってきてさ」
「恵の体重が三桁になるっていう」
「そのあとは身長詐欺に走るしな」
「お前だって背伸びしてたじゃん!」
「お互いどっちが高いか。っていうくだらない遊びを、年甲斐もなくやりました」
「だははは! 結局はオレの方が高かったわけだけどな」
「むかつくよなぁ」
「ははは! あとは視力検査もしたけど、お互い嘘ばっかり教えてな」
「合ってるのに『違う』つってな」
「おかげでお互いの視力0.1以下よ」
「まあ、そのあとちゃんとスタッフと真面目に測定したけどさ」
「怒られたもんな。二人してな。『真面目にしてください』って」
「恥ずかしかったぁ」
「だははは! でも楽しかったよ」
「まあその結果が『コスプレ』なんですが」
「まさかこうなるとは思わなかったよな。つーかよく高校も許可してくれたよな。オレらもう在学生じゃないのに」
「知ってる先生も残ってないだろうにな」
「うん。校章は変わってねえけどさ、ズボンの生地はなんとなく変わった気がする」
「ああ、それは俺も思ってた」
「だよな。いやー、懐かしいわ」
「高校時代を懐かしむ年齢になった。ってことだよな」
「うわ。そう言われるとなんか切なくなるものがあるな」
「大人になったってことだよ」

*「思い出のゲームとかありますか」という質問に対して。

「思い出のゲームか」
「ゲームはまあ……色々プレイしたけど……。あんまりどれが一番、っていうのはないかな」
「あ、そうなの?」
「うん。格ゲーもサバゲ―も色んな特色があるし、面白さも違うから。ああでも、お前とプレイしたあのド鬼畜クソゲーは面白かったな」
「あー! お前のあの『天誅!』ってやつな! オレ何回殺されたよ?!」
「だって面白かったんだもん」
「だもん、なんて可愛く言っても許されねえからな? フレンドリーファイアばっかりしやがって」
「だってお前が敵に殺された方が面倒だしさ。だったら俺が殺してマイナス点稼いで悪落ちルート走った方がシナリオ進むな。って思ったんだよ」
「それで実際魔王ルート開いたから、驚くよりも、お前のこと『マジの悪魔だ』と思った」
「うん。あのゲームにおいては否定しない。二言目が大体『よし。殺そう』だったからな」
「ゲームだからってあんなに人を殺すことに躊躇しねえ奴そうはいねえぞ?」
「ゲームだからこそ躊躇なく殺せるんだよ。アレをリアルにやれって言われたら流石に無理」

・スタッフ『なんていうゲームですか?』

「えーと……確か『獄門寺』だったかな」
「そうそう。役職が色々あってさ、普通の侍とか役人とかあって、コイツ『処刑人』を選びやがったんだよ」
「キルスコアで開けるルートがあると思ったんだよ」
「で、オレは普通に侍にしたんだけど、コイツすぐ人殺すのな」
「キャラの口癖が『天誅!』だったんで。天が許すんだからもう素直に刀を振るしかないだろ」
「そんな開き直りの仕方ある?」
「でも実際楽しかっただろ。俺との追いかけっこ」
「そう。オレがさー、うっかり斬っちゃダメなひと斬っちゃって罪人になったらさぁ、恵がめちゃくちゃ追いかけてきて」
「隙あらば『天誅!』って、コイツのキャラ殺しまくってました」
「酷い男だよまったく」
「でも何だかんだ言ってシナリオクリアまで続けたから、お前も楽しんでたんだろ?」
「まあ面白いとは思ったよ。オレがすぐ殺されること以外は」
「オンラインゲームだから色んな奴らに追われてて、見てる分には面白かったけどな」
「そう。コイツさぁ、オレのこと助ける振りして何度も殺しに来たからね?!」
「そういうお前は罪のないプレイヤーやNPCを囮にしてただろ」
「悪魔から逃げるためにはしょうがなかったんだ。尊い犠牲だったんだ」
「な? こいつも大概なんですよ」

*「途中で辞めたゲームはありますか?」という質問に対して。

「あー、オレは基本的にゲームするより外で遊ぶタイプだったからさ。あんまりガキの頃ゲームしてないんだよね」
「俺はどんなクソゲーでも基本的にはクリアしましたね。なんか、途中で投げ出す方が嫌で」
「じゃあどうしても最後までクリア出来なかった! みたいなゲームはあるの?」
「んー……。流石に全シナリオを出すのは諦めた。っていうゲームなら幾つかある。けど、メインルートって言うか、普通に一回はエンディング見てるから、未クリアっていうゲームはないと思う」
「え。すげえじゃん」
「うん。ただマルチエンディングのゲームだと、何個もルートとエンディングが設定されてたりするから、そういう時はトゥルーエンドとバッドエンド、ノーマルエンドだけは回収したな」
「それでも三回はしてるってことだよな」
「うん。周回プレイはゲームの基本だからな。レベル上げと同じで」
「あ、レベル上げつったらさ、お前はレベル上げ頑張って物理で殴るタイプ? それとも最速クリアタイプ?」
「ゲームにもよるけど、大体適正レベルで挑むな。戦術、戦法、アイテムとか、色々試しながらプレイするのが好きだから。あんまりレベルを上げまくって物理で解決、みたいな戦法は取りたくない。っていうか取らない」
「あー。オレは逆に色々考えるの苦手だから、物理で殴っちゃう方だわ」
「お前はそうかもな。まあ実際そっちの方が早く終わるとは思うよ。俺も場合によってはそうするし」

*「お二人はゲームBGMとか気にする方ですか?」という質問に対して。

「ゲーム音楽は、気にしないです」
「オレもあんまり意識して聞いたことねえなぁ」
「確かに『盛り上がって来たな』とかは思うんですけど、なんかこう……サントラ買うまでには至らないというか」
「うん。日頃生活する中でわざわざ聞くほどハマりはしないかな」
「俺はあくまでクリアするのが好きで、ゲーム音楽を目当てにしているわけじゃないから、音楽を気にする人たちとはだいぶ感性が違うと思います」
「オレもシナリオとかキャラが好きでやってるだけだから、BGMを気にしたことはあんまりないかな」
「勿論いい曲もありますけど」
「うん。そこまで重要視はしてないかな」

*「今後はどんなゲームがしたいですか?」という質問に対して。

「えー……。なんだろう……」
「オレはさぁ、個人的に『ギャルゲー』がすごい興味ある」
「は?! お前が?」
「うん。恵が誰をどんな風に落とすのかがすごい気になる」
「俺かよ!」
「そうそう。だから、お前の隣で、お前が誰を最初に攻略していくのか、どんな子が好きなのかを、知りたいっつーか、見てみたいっつーか」
「お前、ギャルゲーとか一番俺から遠いジャンルじゃねえか」
「だからだよ。気になるじゃん」
「悪いけど、お前が期待した通りにはならないぞ?」
「なんで?」
「基本ああいうのは攻略キャラランダムで決めるから。あとゲームのキャラを本気で好きになるとか絶対にない」
「本気で好きにならなくてもいいんだって。ただ『どういうタイプの子』が気になるのかなぁ〜。どういう選択肢を、どういう理由で選ぶのかなぁ〜。っていうのが知りたいだけ」
「悪趣味なやつだな」
「だははは! 普段やられっぱなしだからな! たまには意趣返ししてーんだよ」
「そういうお前はどうなんだよ。自分がやりたいゲームとかねえの?」
「うーん……。基本的にオレあんまりゲーム得意じゃないし、出来そうなのは個人チャンネルで配信してるから、普通にお前と一緒に楽しめるゲームならなんでもいいよ」
「あっそ。俺はコイツをボコボコに出来るなら何でもいいです」
「ひでえ!!」

・スタッフ『そろそろ終了時間なので、最後に何かあれば』

「金輪際この手の企画はなしの方向でお願いします」
「なー。これ絶対つまんねーだろ」
「俺らがただ普通にしゃべってただけだからな」
「な。次は普通にゲームしようぜ」
「次なんだっけ?」
「前回ホラーしたから、次回は明るい内容だといいな」
「基本的に体験版ばかりやってるからな。久しぶりに有名どころをプレイしたい気持ちもある」
「ああ、そういうのもいいかもな。紹介動画じゃないけど、参考にしてもらえたらいいと思うし」
「うん。じゃあこれで今回は終わりかな?」
「はい! じゃあお疲れさまでした!」
「お疲れさまでした。みんなバイバーイ」
「バイバーイ!!」

 こうして終了した座談会。その後二人は二度と開かれることはないと高をくくっていたのだが……。

「どうしてこうなった」
「まさかの二回目ですよ」
「誰が予想したよ。座談会二回目、って」
「座談会っつーより雑談配信だよな」
「これでお金貰っていいの? マジで?」
「個人情報駄々洩れだからいいんじゃねえの?」
「……そう考えると安く感じてきたな」
「うはははは! 流石になぁ。住所までは言ってないけど、結構素で話してるからな。俺たちな」
「やーべえ。もっと気を付けないと」
「だな」

 という感じでこちらも不定期配信になったらいいな。と思う私なのでした。


 終わり




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