11.紺屋の明後日よりも不確か




 足元が崩れ落ちる。世界は真っ黒な暗幕を外したかのように移り変わる。

 世界が、煌めき出す。



11.紺屋の明後日よりも不確か



 座り込んでいた場所が崩れ落ちたかと思えばまた創出され、理解が追いつかないままに全てが終わった頃には。

「ーー…は、」

 豪華客船メイジ号は、星の瞬く夜空を泳いでいた。……いや何を言っているのか自分でも分からない。
 あまりのことに空中を見つめていると、薄雲がクジラの形をしていることに気づいた。クジラは群れをなし、星の海を優雅に泳いでいる。それに気づいてあたりを見回してみると、満天の星空には様々な海洋生物が泳ぎ回り、幻想的な水族館になっていた。

「どう?驚いたかい?もぶ山君」
「…………ま、まぐ、ぱい?」

「そうさ!!!俺こそが本物のマグパイッッ!!!!……なぁ〜んてねっ、」

 『夢の中』はどうだったんだい?と彼が微笑んだ。



 私は、夢の中でまた夢を見ていたらしい。

「面白いよね〜、人間の脳みそって。たまに無いかい?夢の中で夢を見た、みたいな感覚。君の身に起こったのは、まさにそれなんだよね」

 1番初めにこの世界に迷い込んで、マグパイと接触するまではちゃんと夢の中でも『起きていた』らしいのだが、その後気を失うように倒れたらしい。その後私が体験していた今までのことは、

「全部、私の妄想ってことですか……」
「いんやぁ?たまに君の夢の中に無理矢理入り込んで様子は見に行ってたし、メッティに頼んでちょくちょく介入はしてた」

 そうマグパイが言うと、夜空を眺めていたらしいかつての宮廷画家ーー…藝魔術を扱う男、メッティ・セントヒルがこちらに近づいてきた。

「あんたの頭の中の夢も、言わば『創作作品』だ。そこに少し介入して、もぶ子の道先案内人を1人送り込んだ」
「……それって」
「そ、LINKWOODくんだね。彼は快く協力してくれたよ」

 そんなことをしてくれていたのか。……私を、助けてくれるために?こんなちっぽけな私を?

「…………なんで」
「?」
「なんで、助けてくれたの…?私、あなた達のこと、頭の中で勝手に都合よく解釈して……」

 それで、不快な思いをさせてしまったかもしれない。言葉が最後まで紡げず、下を向いてしまった私の肩に、暖かい何かが乗る。……マグパイの、手だった。

「……君のね、夢に介入する時……少しだけ君の願う『幸福』を見た」
「私の……幸福?」
「そ。……君の願いは『この世界に来ること』じゃなくて、『大好きなひとといたい』ってことだった」

 もぶ山君、君は俺と一緒に居たかったんだな。

「……そう、です。でも…………」
「うん、その願いは、ありうることのない願いだ。…………君は、自分で自分の思いを乗り越えて、頑張ったんだよ」

 だから、良くやった、偉いぞもぶ山君。

 そうマグパイが言ってからのことは、よく覚えていない。ただ、みっともなく彼にすがりついて、涙が枯れるほど泣いてしまったことだけは覚えている。その間ずっとマグパイは、私に何も言わずに、静かに背中をさすったり頭を撫でてくれたりして、それがあんまりにも優しくて……、気づけば私の記憶は、そこで途切れていた。









「……疲れて寝たみたいだな」
「そりゃそうだろ、彼女は『向こうの世界』の一般人だぜ?それなのに魔術で何度か介入したんだ、夢の中でだって寝ちゃうだろ」
「そうだな」

 さて。マグパイはもぶ子を優しく展望エリアのベンチに横たえると、ぐぅ、と背伸びをした。

「さぁーて、それじゃあ『青い鳥』を取り戻しに行きますかぁ!!!!!!!!」
「お前あの子に嫌われてるけどな」
「そういうこと!!!!!!!!言わないで!!!!!!!!!!!!!!!!」



18,07,21



 

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