10.黒いカーテンの向こう側
お願い、この世界がいつまでも続いて。それが私の幸せなの。
10.黒いカーテンの向こう側
売店で買い求めたものをガサゴソと音をさせながら、私とマグパイは展望エリアの外までやってきた。……いつの間にこんなに日が傾いていたのだろうか、既に太陽は地平線の彼方へと落ちていっており、海は黄金に輝き痛いほどに煌めいている。
その、光の向こうに。
「………………おんな、のこ…?」
落ちゆく太陽を見つめる少女が1人、そこに佇んでいる。その少女はゆっくりとこちらを向き、私を、見つめた。
少女が1歩、また1歩と私に近づいてくる。彼女の小さな歩幅と全く違うスピードで私に近づいてくる、いや、これは私が近づいていっているのか。
少女は私のすぐ目の前まで、やってきた。
「ここは、ゆめのなか」
「ここではすべて、もぶ子のおもうまま」
「このせかいはあなたのしあわせなんでしょう?」
「ずっとここにいればいい」
「ここならあなたのねがいはけいぞくする」
「あなたのしあわせは、しあわせのままよ」
「あなたののぞむ、『だいすきなひととずっといれる世界』なのよ」
そこで唐突に理解した。彼女こそが、私とマグパイの探していた『青い鳥』なのである、と。
心のどこかで、ずっと願っていた。
この時間が続けばいい、この世界がずっと不変のままでいればいい。それは終わりのないお伽噺。永遠に続く青い鳥を探す、私とだいすきなひととの物語。だってそうでしょう、自分が愛する、けれど言葉を交わすことなどないと思っていたような……キャラクター、が。私の横にいて、私と目が合って、話すのだ。ずっとずっと続けばいいと、思うでしょう?
私の幸せは確かにここにある。でも、違う。
違う。
「ごめんね、」
「?」
私の『青い鳥』が、不思議そうに首を傾げる。これの何が不満なの?だってこれはあなたの幸せなのでしょう?と。
私の幸福は、こんな所にはない。
「現実からは、逃げないよ」
これは、違うのだ。私が愛するあの世界と、あの世界の人々は、私の手の届かぬ場所にいて、それで世界は回っていく。私に介入する隙間などなく、それ故にーー…
「君も、そしてマグパイ、あなたも。本物じゃないんでしょ?」
先程の彼女の発言が正しければ、『この世界』で起きていること全ては私の夢の中という解釈になる。つまり全て私の脳髄が都合よく見せている、幻の世界だというわけだ。……その推測が当たったのだろう、虚構の2人は、気づけば目の前からいなくなった。
太陽は沈み、船の明かりは消える。夢の終わりだ。
ごめんなさい。結局会うことはなかった心から愛するキャラクター。あなたの意にそぐわないような動きを、沢山させてしまったかもしれない。それでも、できることなら許して欲しい。
「……私の夢の中では、思うままに、大好きなひとといたかった…………」
「そんなことないさ、マイ・フェア・レディ!!!君の夢は!!!俺たちを動かした!!!!!
そうだろう?!もぶ山君!!!!!!!!」
世界が、反転する。
18,07,21
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