08.桃源郷にはまだ遠い




 LINKWOODさん……ロマンさんの言葉に首をかしげつつも、確かにお腹は減っていて…。

「遅めのお昼になりますけど……ご飯、食べに行きますか」
「そうだね!俺カツ丼食べたいなぁ」

 そう微笑むマグパイの瞳がどんな感情を浮かべていたのか。私は、知らない。



08.桃源郷にはまだ遠い



「お昼、美味しかったですね…」
「いやぁ〜カツ丼最高だった!!もぶ山くんの食べてたハンバーグ定食も肉汁が溢れ出てきてて美味しそうだったよね〜!!!」
「マグパ……じゃなかった、MAGGYの食べてたカツ丼も、卵とじタイプのとろとろふわふわでしたね」
「めっちゃ美味かった!!!!!」
「いいな〜」

 ただ、レストランにもリスは沢山いた。いたけれど、何故か通常通りの営業をしていた。狐耳の女性ーー…きりさんがくるくると動き回りミニチュアサイズのランチセットをリス客に届けていたが…素早く丁寧、それでいて冷静なウエイトレスだった。

「MAGGY、これからどうします?」
「う〜〜〜んそうだな………」
「私、売店寄りたいです」
「ここから売店はちょっと遠いぞ〜、それでもいい?フロアが一つ下なんだよな確か」
「それでも良いです」
「…うん、なら行こうか。もぶ山くん」

 レストランを出て、売店までの道のりを歩く。このフロアはどうやらショッピングフロアが併設されているようで、たくさんの人で賑わっていた。…リスは相変わらず走り回っているが。

 二人並んで歩いているが、私の中のイメージとは違い、隣のマグパイは静かに前を向いて歩いている。こうやって見ると本当に綺麗な華のある顔だということを再認識した。
 彼もこのフロアをゆっくり歩くのは初めてなのだろうか、たまに私に話しかけるが、「あの店、ブリテンではリーズナブルな方の店なんだぜ」や「べファーラのパターンデザイナーがこのネクタイの柄作ってくれたんだよな」等、あくまで静かな語り口で私に話しかけてくれた。気が向いたことも何一つ言えない、私に。
 キラキラ光るフロアの光よりも、私にとっては眩しいこの魔術師は、私を魅了してやまない。その優しさも、喧しさも、自由な心も何もかも。なんでこんな自分に優しくしてくれるのだろう、きっと何も返せない。……でも。


 今この瞬間がずっと続けばいいのに。
 『青い鳥』なんて、見つからなければいいのに。



「ダメだよ、もぶ山君。君がそれを望んでしまえば、全ては終わる」



 波ひとつ立たない凪を感じさせるような声で、今まで見た中でも1番真剣な、顔で。私を静かに見つめて、マグパイが私に語りかけた。
 私、声に出していなかったはずなのになんで今、それを?そう思って聞こうにも、言葉が出てこない。

「………………え、」
「大丈夫。君はちゃんと選べるはずさ。……さぁもぶ山くん、売店まで走って競走でもするか!!!!!」
「へっ?!」

 一瞬で先程の空気が消え去り、マグパイが遠く彼方へと走っていく。それに慌てて、私は今の言葉を聞く間もなく彼のあとを急いで追いかけていったのだった。



 ゼェゼェと肩で息をしながらやっとこさ売店に着くと、先にマグパイが売店内を物色していた。

「足早くない?!」
「ちっちっち、もぶ山くんが遅いだけだろ〜?っていうかなんでロマンくんの言ってた通りにここに来たの?」
「なんかビスケットとか買って、そこら辺でばらまいてみたら『青い鳥』も来てくれるかなぁ、と……」
「アッハッハッハッハッ!!!!それもいいね!!!!あっついでにおやつも買っちゃおうぜー!!!俺これで!」
「たけのこの里か貴様……」
「おっ、まさか山の民か???」
「私は切り株派だから」
「第3勢力」

 カゴをプラプラさせながら売店を二人で歩いていると、ドリンクコーナーで1人佇む黒髪の青年にでくわした。……この人は。

「くりゃん?。?、?!!?、!」
「は?」
「あっごめん中の人が出てきた」
「メタいなマグパイ」

 まぁたしかに愛称でくりゃんと呼ばれているが……彼もまたBC財団の警備員、誇り高きヘルハウンド、ホストイベントでは男体化での登場となったクロエ・ジェッタ・ブラック……CLOWくんである。
 彼は私たちの視線に気づくと、それを勘違いしたのか、ドリンクコーナーからスッと横に移動した。

「ああ、お構いなく。ここを通ろうとしたらマグパイが暴走しただけなので」
「暴走してないじゃん???」
「してたよ」
「あ、そうなんですか…?」
「はい。大丈夫ですよ。エナジードリンク、お好きなんですか……?」

 彼の持っているカゴの中にはエナジードリンクがどっさり詰まっており、それを聞いてみると困ったように微笑んだ。

「いや……「僕」は、このエナジードリンクがないと仕事も出来ないので……はぁ」
「あ、溜息ダメですよ。幸せ逃げちゃう」

 そう言うとCLOWくんはクスリ、と小さく笑って私に告げる。

「それ、前にも小さい女の子に言われました。それで空中で両手をぱちん、って合わせたかと思ったら、「ためいきで逃げたしあわせ、かえすね」って…」

 それを聞いて一早く反応したのは、私の横にいたマグパイであった。

「その子、名前は?名前はなんて言ってたかい?」

 真剣な声色の彼に驚いた様子のCLOWくんだったが、おずおずとそれに答える。

「たしか、…………トリーと」
「そうかい。ありがとう、教えてくれて」

 そういうや否や、マグパイは私の手を掴んでズンズンとレジの方へと進んでいく。あまりの素早さに目を白黒させていると、彼は私に話しかけてきた。

「『青い鳥』はもうすぐそこだ。行こうか、もぶ山君」



18,07,21



 

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