ギャンブラーとBEKKIさん


 あー…またスった。今日も肩を落としてカジノを出る。元々ギャンブルで生計を立てていた私にとってこの素寒貧の状態は慣れたものだけれど……ココ最近負けてばかりだ。

 私はギャンブラーだ。と、いっても「自称」が頭につくタイプのギャンブラーだけれど。トランプゲームが好きで、勝負が好き。そんなあやふやな理由で私はギャンブルで生計を立てることにした。世界中のカジノを回ってはそこで生活費を稼ぎつつ、でかい金を注ぎ込んで大勝したり、大敗したり。人は私のことを「ハイローラー」と呼ぶ。1度のベットで多額の掛金を入れるからだ。
 そんな私が今訪れているのは豪華客船メイジ号。ローマ・イルマーレのカジノでぼろ儲けしていた時に舞い込んできた豪華客船の中にある高級カジノの話は、私の勝負師魂に火をつけた。

「(…までは良かったんだけどな〜……あの褐色のセクシーなバニーディーラー、ポーカー強すぎでしょ………)」

 イルマーレで稼いだ半分が彼女に持っていかれた。しんどい。
 5連敗してがっくし肩を落としていたところ、そのバニーのディーラー――…フランが私にこう囁いたのだ。

「お客様の傷心を慰めるのにうってつけの場所がございます。私からの紹介ということにして、初回は特別価格に致しましょう」

 お客様にはたくさん勝たせていただきましたので。そう言ってにっこりと微笑む彼女の顔が憎らしい……そう思いつつフランが指差した方向に目をやると、そこはカジノの一角、群青色も鮮やかな天鵞絨に包まれた店。

「……何あそこ?」
「おやもぶ山様は知っていらっしゃらなかったのですね?あそこは高級ホストクラブ・キノタケでございます。今は営業時間ではありませんから閉じておりますが…」
「あそこでまた金をすれって?残念、私はギャンブラー。勝負事以外で金を使うのなんてまっぴらごめんよ」
「まぁまぁそう言わず……」

 しかし先程彼女は初回特別価格と言っていた。……財産の半分を彼女に持っていかれた身としては、無聊の慰めに少しでもなるのではないだろうか。

「…………ほんとに特別価格ゥ?」
「ええ」
「………………なら、行こっかなぁ……」

 そうして私はホストクラブキノタケへと導かれたのだった。



 夜になりクラブキノタケへと行くと、店の前にバニーのディーラー、フランが立っていた。

「いらっしゃいませ、もぶ山様。お待ちしておりました」
「はいはい、で?私ホストクラブとか来たことないんだけどこれどうすればいいの……?」
「初回ですので、まずはこちらのキャスト一覧をご覧になってください。この中から気になった方を言ってくだされば指名という形でもぶ山様のお席に向かわせます」
「ふむふむ……」

 見せられたホストたちをペラペラと見ていると、女性がいることに気づいた。

「女の人もいるの?!」
「ええ」
「ああ〜……じゃあこの人がいいな。ベッキーさん?初っ端から男の人はハードル高いわ」
「BEKKI AKIRAですね。それでは席へどうぞ」

黒服の女性に席まで案内されて、しばらくするとこちらへ指名した女の人が近寄ってきた。

「ご指名ありがとうございます、BEKKI AKIRAと申します」
「こんばんは。まぁ座ってよ。えーっと、ベッキーさん」
「では失礼しますね」

 ベッキーさんは私の隣に座ると、慣れた手つきでお酒を作っていく。グラス2つ分作って1つをそれを私に手渡すと、にこりと微笑んだ。……うわっ、このひと美人だな…。

「あなたと私の出会いに乾杯」
「か、カンパーイ…」

 チン、と軽やかな音を立ててグラスがぶつかる。そろそろとお酒を飲んでいると、ベッキーさんが口を開いた。

「お客様、お名前はなんと?」
「あっごめん、名乗ってなかったね……私はもぶ山もぶ子。ベッキーさんには悪いんだけど、実はここに来たのはさ…」
「ああ、聞いておりますよ。もぶ子さんはギャンブラーですとか…」
「そうそう!あのフランって人とのギャンブラー勝負に負けてさ。お詫びに……つってこのホストクラブに呼んでもらったのよ。だから付き合わせちゃってごめんね…あんまりお金も落とさないかも」
「いいのですよ。あたしはあなたと話がしたいから」

 そう微笑むベッキーさんの瞳が、きゅうっと三日月のようにしなる。抜けるような白い肌とシャンデリアの光に照らされキラキラと光る彼女の髪が、まるでお月様と話しているような錯覚をさせる。
 そのあまりの綺麗さにぽかんとしていると、彼女はぐい、と身を乗り出して私に近づいた。

「もぶ子さん、ギャンブルがお好きなら、私と1つ勝負をしません?」
「へ、え?」

 ベッキーさんはその笑みをさらに深くして、私に囁くように言った。

「あなたと、あたし。あたしがあなたを落とせたら、あたしの勝ち。逆にあなたに私が本気になったら、あなたの勝ち。……どう?」
「……私と勝負事をするの?」



 いいじゃないの、やってやろうじゃない。
 私はギャンブラー、勝負事は大好きよ!



18,07,13



  
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