迷子ちゃんとNUFFIくん


 毎日たくさん女の子と話をして、お酒を入れてもらってクラブキノタケでの一夜を終える。その日、珍しく酒を口にしたシュヌッフィ・シュテルンヒェン――…ヌッフィーは早めに勤め先を後にしていた。

 弟の為に、そして自分が楽しむ為に。ホストとして働くのはなかなか向いているんじゃないかなと思うヌッフィーであったが、彼は酒をあまり多く飲むことが出来ない。ホストとして働くことに酒の強さはさほど重要視されないが、やはり売上を上げたいとなると酒は強いに越したことはないだろう。
 「何度も飲めばきっと強くなるのだよ!えいっ!」と、そんな訳で決心して煽ったグラスだったが、そうそう上手くいくこともなく。

「んんん〜〜空が回ってるのだよ〜…」

 煽ったグラスに入っていたのは度数の高い洋酒で、なおかつロック。決心して頼んだはいいが、如何せん度数が高すぎた。ヌッフィーは自室に戻ることなく、酔いを覚ますために風通しの良い展望デッキに向かった。豪華客船メイジ号は眠らぬ不夜城だが、空はまだ暗い。体感的には深夜の3時を回った頃だろうか。腕の中のブルーナも欠伸をこぼしている。
 昼間は日差しが照りつける中で階下のプールで遊ぶ人々が見えるのだが、今は深夜だ。人の気配はなく、それにホッとしてベンチのひとつに座る。
 見上げた空は船とは対照的に静かだ。暫くは酔いを覚まそう、と目を瞑って寝っ転がった。



 服の裾をつんつんと引っ張られる感覚がして、うつらうつらとしていた意識が浮き上がる。引っ張られたその方を見て、ヌッフィーは目を丸くした。

「おにーさん、ここでねてると、かぜひいちゃうよ?」

 年の頃は5、6歳といったところの少女が、ぷぅぷぅと眠るブルーナを胸に抱いてヌッフィーを見つめていたのだった。

「ええっ?!お嬢さんこんなとこになんで1人なのだよ?!」
「おじょうさんじゃないよ!もぶ子だよ!」
「えーっと、じゃあもぶ子ちゃん……?」
「ともだちからはもぶっちってよばれてるよ!」
「……もぶっち……?」

 そう呼ぶと少女――…もぶ子はニッコリと微笑んだ。
 少女が話すところによると、両親と共にホテルに泊まっていたが、こっそり部屋を抜け出して探検していたのだという。深夜に子供ひとりがうろつくのはさすがに危なすぎる。ヌッフィーがそれとなく諭すと、もぶ子は顔を曇らせた。

「パパもママも、わたしがいなくなってこまればいいんだわ……」
「なんでそう思うのだよ?」

 優しく聞いてみると、少女はブルーナを撫でながら小さく呟く。

「…………あのね、ふたりともいもうとにむちゅうなの…」
「……!」
「わたしなんてどうでもよくなっちゃったんだぁ…」

 ぽたり、と涙が零れるその少女の頭を、ヌッフィーは優しく撫でた。

「そんなことないのだよ。もぶっちのパパもママも、君をちゃんと愛しているのだよ」
「……ほんと?」
「うん。……部屋まで送るのだよ。ひとりじゃ危ないし…」

 ヌッフィーはもぶ子と視線を合わせるようにベンチから腰を離し、少女の前にしゃがみこんだ。
 まだ涙の流れる彼女の頬を彼の指が撫でる。

「レディを守るのは、紳士の役目なのだよ」




18,07,11



  
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