01:初恋
十月四日。
空橋高校一年七組に、天使が舞い降りた。
光のような金髪に、青空のような澄んだ瞳。
それはそれは可憐な少女。
「はじめまして、天野(あまの)ハネです」
その時俺は、
初めての恋をした。
* * * *
突然の転校生。
彼女は俺の左隣に座った。
ラッキー!と心の中で叫びつつ、にやける顔を必死に隠す。きっと、隠しきれてないけれど。
しかしこれだけ彼女は美少女だ。狙う男は多いだろう。せっかく隣の席なのだし、誰よりも早くリードをしよう。きっとこれは運命だ。
そう思ってまずは自己紹介と口を開いた俺だが、その必要はなかった。なぜなら彼女の方から声を掛けてきたから。
「あの、名前、教えてもらっていいですか?」
「え…あ、はい!風雅飛鳥(ふうが あすか)です!」
「飛鳥くんか…素敵な名前。これから宜しくね」
どんな闇も溶かすような清らかな笑顔に、心臓がドキリと弾む。いや待て、俺は乙女か。女っぽいのは名前だけで十二分だ。
そんな風に自己ツッコミをしているうちにも時間はいつも通り過ぎ、授業はやってくる。一時間目は国語。俺の一番嫌いな教科だ。大抵寝て過ごしているため、解らないのが余計解らなくなっている。
だが嫌いなものは仕方ない。今日も俺は夢へ落ちて、テストの前に後悔するんだ。
教科書なんてあっても、もはや無意味。
「ハネちゃん。まだ転校してきたばっかで教科書ないだろ?俺の使っていいよ」
教科書も可哀想だし、アピールのためにもハネちゃんに貸そう。
「で、でも飛鳥くんは?…って、寝ちゃうの!?」
「国語は休憩タイムだからね。んじゃ、おやすみ」
素早く机に伏せた俺に、左から溜め息が聞こえた。
けれどもそれ以上は何も言わず、まるでこうなることは解っていたかのように、「ありがとう」と小さくお礼を言われた。
――俺は今まで恋愛経験がない。
バレンタインでいくつかチョコレートを貰ったことはあるけど、この十六年間彼女がいたことはない。
そもそもあまり興味がなかった。
それなのに何故か、天野ハネに一目惚れをした。
産まれて初めて、女性を美しいと感じた。
同じ人間とは思えないほど、綺麗だと感じた。
"魅せられた。"
その言葉がぴったりかもしれない。
彼女が幸せであってほしい。
彼女が笑顔であってほしい。
彼女にいつまでも隣にいてほしい。
俺はそう望んだ。
だけど、少女は違った。
初めて恋をした記念すべき日。
この時俺はまだ、まだ天野ハネの願いを、知らなかった――
-continue-
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