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「なぁサクラ、呑みいかねぇか」

リビングで書類仕事していた私に声をかけたのはホルマジオだった。座っていた椅子の後ろから抱きしめられ、キーボードを叩く作業が中断される。ギアッチョと出かけたのは昨日のことで、この間の報告書は提出してあるものの、パソコン作業が苦手なメンバーが多いこのチームの事務は貯まりに貯まってる。とはいえ今日のノルマは達成しているから、断る理由はあまりないが突然だ。

「どうしたのいきなり、なにかあった?」
「まぁそうだな…、いい店を見つけちまってよぉ」

ゆっくりと顔の輪郭を指でなぞられ、ホルマジオのほうを向かされる。ものすごくいい笑顔だ。よっぽどお気に入りな店なのかな。でも私と行かなくても今日はソルベとジェラート以外はみんなアジトにいるからそっちを誘えばいいのに。

「そういうこと?イルとかプロシュート連れて行けばいいのに」
「バッカ、お前女と行くのがいいんだろうがよぅそういうところは」

そりゃそうだけど、こんなに真面目に事務作業してる私に固執になくても、ホルマジオならそこらへんの女の子ナンパしたらすぐ捕まえられるのに。このチームで一番節操なしなのは彼だ。呑みに行くのだっていつも私を誘わないのにわざわざ私に言うってことはやましいトコロ?

「…まさか“そういうところ”じゃないよね?」
「ちげぇよ普通のバーだ」

普通ならいいか。もうホルマジオは私の両手を拘束し、行かせる気満々だもの。

「よかった、もちろん奢りよね。なら今から準備するわ」
「しょうがねぇなぁ」

私を誘うならそれくらいしてくれないと、そう言って笑い自分の部屋に準備しに行く。階段から彼を見ると苦笑いしていたが、プロシュートやメローネならそんなこと前提よ。

可愛いよりは綺麗に見えるような洋服を選んで、スカートじゃなくてパンツで、あくまでホルマジオの付き添いらしくメイクも施す。準備が終わり部屋を出ると丁度プロシュートと鉢合わせた。

「そんなめかしこんでどこ行くんだ」
「ホルマジオと呑みいくの、奢りだって」

そりゃサクラに金出させる男がここに居るなら今すぐ追い出すぜ俺は、なんて言ってふわりと私を抱きしめると、他の男に捕まるんじゃねぇぞと耳元で囁かれる。もちろん、とキスをして私はホルマジオのところに向かった。



「君は本当に美しいね。今まで君に出会えなかった運命を僕は恨むよ」

捕まるんじゃねぇぞって言われたばっかりなのに。連れてこられたバーはアジト近くの裏路地にある、知る人ぞ知るって感じの雰囲気のいい騒がしい訳ではなく静かすぎる訳でもない新しく出来たお店だった。そしてちょっとホルマジオが席を外した瞬間これだ。

「ありがとう、でも残念。今日は連れがいるわ」
「あそこにいる彼かい?」

彼の指を指す方を見ると、ちょっとお手洗いに行ったはずのホルマジオが既に綺麗な女性に捕まっていた。上手く誘導されて席に座った一連まで見て、ため息をつく。こちらには全然気づいていないようでなんの躊躇いもなく座った辺り、話しかけられた時にはもう私は放置確定だったわけだ。

「そうね、あの連れは私が思っていたよりマンモーニだったみたいだわ」

顔はそこそこかっこいいし、もうこのままこの彼と呑んで全部奢ってもらいましょう。



しこたま呑んで酔いもそこそこにまわった頃、私は自分のスタンドで彼をゆっくりと眠らせそのまま席をあとにした。いい男ではあったけど、身の回りにこれだけかっこいい人がいるとだめよね。そして同じくしてバーを出てきたホルマジオに怪訝な顔を向ける。

「ったく、ホルマジオったら私を放っておくなんてさぞかしいい女がいたのね」

ホルマジオもそこそこ酔いがまわってるようで上機嫌だ。他の女の匂いを纏って私の肩を抱きながら歩く。これだから私は行かなくていいんじゃないかって思ったのよ。

「そんな拗ねるなよガッティーナ」
「拗ねてるんじゃなくて」

私は肩に置かれたホルマジオの手を振り払い、目の前に立ち胸元に指を指す。

「私はホルマジオと居たかったのよ」

そのまま目を見つめて胸元に置かれた指をゆっくり腹まで落とせば、ホルマジオが喉を鳴らす音が聴こえた。

「あぁ、お望みなら朝まで可愛がってやるよ」

冷たい夜風は、酔いを覚ました。



アジトのドアを閉めると共に肩を掴まれ、荒々しく壁に背をつけられた。さすがに午前3時。誰も起きてないとは思うけどこれはやばい。スイッチが入ると止まらないのがホルマジオの悪い癖だ。

「いや待って、せめて部屋行こう」

典型的な追い詰められ方をして私の力ではどうにもできない状態にまでされてしまった。誰かに見られるのだけは避けたい。みんな好き勝手する癖にどうにも独占欲が強い人たちばかりだからあとが怖い。

「あんなカワイイお誘い受けてまだ我慢しろってろってかぁ」
「いやだから部屋にっ、!」

有無を言わさず口をふさがれ、アルコールの味が口いっぱいに広がる。完全にホルマジオは出来上がっていた。このまま身を任せたいのは山々なんだけど頭の中の危険信号が鳴りやまない。

「っホルマジオ、ごめんね」

ちゃんと謝ってから私はスタンドを出した。その瞬間、何か聞こえた気がしたが私だってここで致すのはさすがに抵抗がある。ゆっくり眠りについたホルマジオを抱えてドアの前に座り込む。この巨体を部屋まで持っていく体力も気力もないからもうここで寝てしまおう。

朝になってプロシュートに怒鳴られ、ホルマジオがグレフルの刑にかかるのはまた別の話。




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