cinque


夕方になる前、目が覚めると隣にメローネは居なかった。時計は4時を示していて、流石にこれは寝すぎたか。ベッドに温もりは残っていなかったからやっぱりそこまで眠くなかったんじゃない。でもその優しさは有難く受け取っておく。

自分の部屋からリビングに降りると、ソルベとジェラート、あとギアッチョがいた。おはよー、とジェラートが手を振るから、おはよ、と私も手を振る。

「随分長く寝てたな」
「え、なんでソルベ知ってるの?」

んーっ、と背伸びをする私を横目にジェラートはニヤニヤしながら、ソルベは平然とした顔でこちらを見る。

「メローネが朝言ってたんだよ、サクラが朝帰りで疲れてるから煩くしないようにって」
「あぁ、主にギアッチョに言ってたんだがな」

最初は疲れて寝てるって言ってたから朝から元気だなーって思ったんだけど深夜任務だったんだねー、なんて言ってるジェラートはソルベの膝の上からこちらを見て、明らか楽しんでる。メローネに忠告されていたギアッチョは大人しく雑誌を読んでて、チラッとこっちを見るとまた雑誌に目を落とした。

「ねぇギアッチョ」

ギアッチョの座ってるソファのうしろから彼を呼ぶとあ?ときちんとこちらを向いた。もう既に夕方だけど、どこかに行きたい気分なのだ。昨日の報告書とか、書かなきゃと思うけど今日はリゾットも帰ってこないしちょっとくらいサボってもいいかな。

「ちょっとだけデートしよ」

そう伝えると、一瞬考えて車出せってことか?と聞いてきた。ううん、散歩したいなって。それはデートなのか散歩なのかどっちなんだぁ!?と雑誌をバンっと机に置くが、立ち上がって私の頭を雑に撫でるあたりちょっと嬉しいんだろうし、行く気満々だ。私も用意しよう。

ついでに何か買うものはないかと確認したが、この間イルーゾォと買い物に行った時のものが随分と余っていたからみんな外食してたのか。おい、とこちらを見てるギアッチョのもとに向かい、ソルベとジェラートに手を振る。ドアを開けると夕方前の独特な色合いの空が広がる。

「んで、どこ行くんだ」
「海行こう、海」
「すぐそこじゃねぇか」

私は自然とギアッチョの腕をとり、自身の腕と絡める。アジトからすぐといっても歩くことには結構歩くのだが。アジトのある裏路地から表通りに出ると元気に走り回る子供たちや、仕事終りの大人たち、私たちと同じで散歩であろう老夫婦。道行く人はみんな幸せそう。

他愛のない話をしながら歩いて行くと目的地である海が見えてくる。頻繁に来るわけではないのだが、アジトが今の場所になってからはここはお気に入り。階段を上るとき、さりげなく手を引いてくれるギアッチョにお礼を言うと当たり前だろと。砂浜に降りて、靴を脱ぐ。

「足、怪我すんじゃねぇぞ」
「わかってまーす」

裸足で砂浜をサクサクと歩く。夕方の海は言わずもがな美しい。

「ギアッチョは海好きー?」
「あぁ?好きでも嫌いでもねぇよ」
「そっかー、私は好きだな。綺麗じゃん」

海水に足をつけ、ぴちゃぴちゃと遊ぶ。ギアッチョは濡れないように、といってもホワイト・アルバムで凍らせてしまえば濡れないんだけど私まで凍ってしまうから。

「まぁ確かに綺麗ではあるが、複雑な気持ちになるな」
「なんで?」

振り返ってみると珍しく苦笑いをしてる。

「綺麗なものを見てるとよぉ、自分たちのしてることの汚さが引き立って見えちまうんだ」
「えー、そうかな。私たちのやってることも結局はこの国の平和につながってるんだからしょうがないよねって思って殺してる」
「殺すことに抵抗はねぇけど、ただろくな死に方は死ねぇだろうな」

ナイーブな気分なのかな、こんなこと言うギアッチョは珍しい。まぁ私より年上といっても、このチームは若い方だし、いつもいろいろ考えてる彼のことだから疑問をぶつけることは少なくないけど、仕事について何か言ってるところを見るのは初めてかもしれない。私は海からギアッチョのところに走って戻り、勢いよく抱きついた。

「おま、あぶねぇだろ!」

そう言いながらしっかり正面から抱きしめてくれる。

「大丈夫よ!ろくな死に方もしないし、ましてや天国にも行けないわ。みんな仲良く地獄行き。そこでもきっと仲良しよ」
「…だな」

優しい声で残酷なことを言うが、正直これが現実だ。暗殺者なんてそんなものだとおもってる。ギアッチョの私を抱きしめる腕に力が入ったのがわかった。




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