quattro


夜中から朝方にかけての任務は物凄く眠いし肌にも悪いからあまり好きじゃないんだけど、暗殺者、しかも女である以上、結構な頻度で起こりうることである。そして今日はよりによって単独任務。疲れた体を引きずりながらメローネのバイクに乗るが、無事で帰れる気がしないと思いつつ、エンジンをかけアジトへの道のりを走り去った。

夜明け前だからなるべく静かにバイクを走らせアジトに駐車する。なんとか事故らずに帰れて安堵したのか睡魔が私を襲い、身体もバキバキだった。キィ…と、みんなを起こさないようにドアを開けると既にそこにはメローネがいた。そうか、今日は非番か。

「そろそろ帰ってくると思ってな」
「毎度毎度飽きないね」

バイクありがと、とキーを返す。その手は1度両手で包まれ、あぁ、と鍵だけが抜き取られる。私が深夜任務の時は、メローネ自身の任務がない限り大概出迎えてくれる。いつか聞いたのだが、私が帰ってくる時間は何となくわかるそうだ。それはメローネに借りたバイクの時も、ギアッチョに借りた車の時も、徒歩の時も。なんとなく目が覚めて、30分後くらいには帰ってくるらしい。本能かな?

一緒にリビングに行くと既にソファにはブランケットが用意してあった。私は当たり前のようにそのブランケットを被り二人がけのソファに腰を沈める。本当にここは安息の地だな、と深いため息をつく。

「なに、さすがに単独任務はきついの?」

そしてまたこの男も当たり前のように隣に座り肩を抱く。まだ朝日も昇り切らないこの時間、微かに窓から光が洩れる。昨夜の任務を思い出しながら今日何回目かの溜息を吐く。

「そりゃきついよ、もうへとへと」
「なにか飲むか?エスプレッソ?」
「そうね、そのまま報告書とか書きたかったけどそんな余裕ないみたい…」

メローネの体重が無くなったソファが揺れる。そそくさと台所に向かったメローネはすでにお湯を沸かしていたらしく、熱くもなく温くもないちょうどいい温度のエスプレッソを作ってくれた。準備がいいにもほどがあるとは思うが、これがほぼ毎回なのだ。慣れというのは恐ろしい。マグカップを机の上に置くと、彼は私の足元に屈む。

「よっぽどお疲れのようだな。どれ、靴を脱いでごらん」

そう言われブーツのジッパーを下ろす。メローネは優しくふくらはぎあたりを触ると、うーんと眉尻を下げた。

「すごく浮腫んでる。あんたは働きすぎだな、美しくないと仕事も捗らないんじゃあないのか?」

私はマグカップに注がれたエスプレッソを啜りながら考える。考えれば考えるほど、任務のために見た目やスタイルに気を使って生きていたはずなのに最近は何も出来てないんじゃないか。疲れが溜まってるのね。

「そりゃそうだけど気を使ってる程の体力が最近はないの」
「少しマッサージをしよう、浮腫くらいは取れるだろ」
「グラッツェ、メローネ」

ソファに横座りさせると慣れた手つきで足の筋肉を揉み解していく。1度や2度じゃないからさすがにマッサージの加減を覚えてきて、しかも上手くなっている。つま先から足の付け根まで、丁寧に、丁寧に。

「これくらい当たり前さ、オレはあんたに尽くすために生まれてきたんだ」

マスクから見える目は本気だった。

「それは大袈裟」

自然と笑みがこぼれた。呆れたような、そんな。本当に愛してくれてるのはわかっている。今までもそうだった。私とメローネが初めて会った日、あの日から彼が私を特別視してるのはわかっていた。ここまで尽くすようになるとは思わなかったけど。私は空になったマグカップをゆっくりと机の上に戻した。

「そんなことはないさ、オレは君を心の底から愛してるからな」

彼の手が私の頬に触れ、親指でゆっくり唇をなぞられる。答えを待つように愛情を含んだ眼と眼が合う。

「私もメローネのことを愛しているわ」

そう言うと安堵した表情でキスをしてきた。唇をすべて食べてしまうんじゃないか、そう思うような熱烈なキス。無理やり口を開けさせられ、メローネの舌が入ってくる。歯列をなぞられ私の舌を追うように、吸うように。

「ちょっ、んっ、待っ」

ここで盛られちゃ困る。しかもこちらは一睡もしてないのだから。

「いくらオレの性欲が有り余っていようが、さすがに今のあんたを抱くわけがないから安心しろ」

嘘つき、隙あらば抱こうとしたくせに。心の中にそんな言葉をしまい、メローネの胸板を押し返す。そうこうしているうちに太陽が登ってきたようだ。早起きプロシュートが起きてきてしまう。

「一息ついたし、寝ようかしら」

未だに距離が近いメローネを退かし立ち上がると、どっと疲れが身体に伝わる。1度背伸びをするとメローネも立ち上がり俺も寝ると言い出した。

「さっきまで寝てたんじゃないの?」
「人肌がある方がよく寝れるんじゃあないのか」

うっ、と痛い所を突かれる。確かに誰かと一緒に寝ない方が珍しいし、寝付きも全然違う。それをわかっててメローネは言ってるのだ。

「それは、そうね」
「じゃあ決まりだ。部屋行くぞ」

ちゃんと掴まれよ、と私を抱き上げる。このチームのだれよりも細いのに私を軽く抱き上げてしまう。

「メローネは私を甘やかしすぎよ」
「だから言ってるだろ、心底惚れてるって」

そう言いながら笑ったメローネはとても幸せそうに頬を緩ませていたから本心なのだろう。私は誰のものにもなれないのに、辛くなるからそんなことを言わないで欲しいな、と少しだけ目に涙を浮かべながらメローネの首に腕を回した。

メローネは私の部屋に行き、ベッドにゆっくり下ろすと自分も横になり素肌に近い胸板に私の顔を押し付けた。ぎゅっと抱き締められ、寂しかったと言わんばかりにすりすりと髪の毛に顔を埋める。実際メローネはみんなの前ではここまで愛情表現をしないのだ。多分、その反動なんだろう。

「すきだ」

確かにそう聞こえたのだが、私は彼の温かさや匂いに安心しきってしまい、眠気に負けてしまった。




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