sette


なんとなく街を歩いていたんだ。今日は任務もないし、買い出しも特にない。何気ない一日で、久しぶりに自分のために買い物に行こうとアジトを出たのが一時間前。絡まれる体質ではあると自覚しているし、うまく逃げれる自信もあるんだ。ただ今日はちょっとタイミングも悪ければ、人目を惹く場所で話しかけられたのも厄介だった。

「この間もここでショッピングしてたよね、家が近いの?」
「いいえ、たまにこうしてここまで遠出するのよ」

お昼頃、小腹空いて目に付いた可愛いカフェに入った。テラス席に座って軽食とアイスティーを嗜みながら、先程買った雑誌を読もうとテーブルに広げた時だった。身のこなしのいい男性が話しかけてきたのは。

「君は美人だから良く目につくんだけど、いつも違う男と歩いてないかい?」

話から察するに近くが職場なのだろう。アジトからそう遠くない大通りといえばここくらいだから、イルーゾォとかプロシュートと出掛けてるのを見られていたみたいだな。カラン、とアイスティーの氷が揺れる。

「みんな職場の人間よ」
「本当に?みんな随分と距離が近かったみたいだけど」

まぁそりゃあ道端の老夫婦に相手を旦那だと間違えられるくらいには距離は近いと思うけど、今の彼はもっと図々しいと思うの。そもそも真正面にあった椅子を、わざわざ私の隣に移動させて話しかけてきたのだ。話し相手くらいにはなってあげるけどこのまま着いてこられると正直迷惑なのよね、ヤレるって思われるのも嫌だし。

「距離が近いのは気のせいじゃないかしら。確実に今のあなたのほうが距離的には近いと思うけど、どう思う?」
「あぁ、それはすまない」

私が笑顔で目を見てそう言うと、直ぐに椅子と椅子との距離を開ける。それでも相変わらず話しかけてきて、気がついたら軽食もアイスティーも無くなっていた。それに気づくと同時に、聞きなれたバイクの音が聞こえる。アクセルとかブレーキのタイミングは乗ってる人独特のものだから、わかるのよ。その音の主はやっぱりあの人で、綺麗な長い髪を風に靡かせこちらへ歩み寄ってきた。

「残念だけど、ここでお別れね。迎えが来たみたい」
「いつもの職場の人か?」

雑誌を仕舞い、席を立つ。

「いいえ、恋人よ」

バイバイ、と、手を振りその場から去った。そして見せつけるようにあの人が広げた腕の中に収まる。ぎゅーって、ぎゅーって、ここが外だとか関係なく抱きしめてくれる腕は私の大好きな人。さらりと触れられた髪の毛が擽ったくて顔を上げると、おでこに唇が触れた。

「なんで私がここいるってわかったの?でも、聞くのはやっぱり野暮かしら、メローネ」
「そうだな、君のことは全部わかりたいと思うから、ってことにしておいてくれ」
「それだけで私があのカフェにいるのもわかって、タイミングよく現れてくれるなんてね」

パッと離れて両腕を掴む。メローネにしか分からないなにかがあるのだろう。盗聴器とかその類のものはさすがに私に気づかれないように仕込むのは無理だと思うし、幾度となくこんなことがあるのだ。朝帰りの任務の時のように。メローネの中の本能が何かを察知してるとしか考えられない。

深く追求することは諦め、メローネと腕を組んでその場を離れる。さすがに私と外を歩く時は、あの派手な、露出の高い服ではなく、至って普通の洋服で来てくれるのが有難い。

「あぁそういえば、君がオレのことを“恋人”って言った事が嬉しくて、浮かれて君の前に出てしまったんだ」
「あー、」

しっかりと聞かれていたのね。あの男がキッパリ私を諦めてくれるようにって、つい言ってしまった言葉が。流石に冗談だってわかってるぜ、とメローネが心配そうに顔を覗いてくる。ならいいんだけど、なんていつもの癖で返してしまったけど、本当に良かったのだろうか。少しだけ不安に思ってしまい、メローネの腕を掴む手に力が入る。

「…で、これからどこへ行くんだ。ナンパされにこんなところまできたわけじゃあないんだろ」
「そうね、メローネとデートするのは案外久しぶりかもしれないからとことん付き合ってもらおうかしら」
「いいぜ、気が済むまで連れまわしてくれ」

そのあとは、定番のデートをした。洋服を見に行ったら、私はマネキン人形の様にころころと着せ替えられ、いつの間にか支払いの済んだ紙袋を見せられたり。アクセサリーを見に行けば、お揃いのピアスを買ってみたり。初めて行くオステリアでご飯を食べれば、安いのに料理もお酒もとても美味しくて二人とも気に入ったり。メローネのバイクで、少し遠回りしてアジトまで帰ったり…。

アジトへ帰れば荷物運ぶよ、とメローネは買ったものを持ち、私の部屋に向かう。私もそのまま後ろを付いていき、当たり前のようにドアに鍵をかけると身体に浮遊感。あぁ、久しぶりにメローネに抱かれるのね。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -