short story(うたプリ過去) | ナノ


▼ 触れた指先に

少し曇りがかった空の下、体育の授業のためにSクラスは集められた。綺麗に整列させられて綺麗なジャージを地面で汚す事に。作曲家志望である私に対して体力を求めるのはお門違いだと言いたいが、体力がなきゃ徹夜で作曲なんて出来ないのが現実。なんか日向先生が喋ってるけど、私の耳には一切届かず。早く終わらないかなー。どうにかして、抜け出せないかなー。そんなことを考えてはみるが、後で怒られる方が嫌なので大人しく日向先生の声に耳を傾ける。

「あ」
「どうしたの?」
「いや…、いつも体育の時に使ってるヘアゴムを忘れたみたいで」

私の隣に座ってたレンくんが眉尻を下げながら小声でそう言う。確かにいつも運動するときは髪の毛を縛っていたかも。ふと、自分のポケットをがさがさと漁ると目的のものはやっぱり入っていた。出てきたのはオレンジのヘアゴムで、それをレンくんにちらりと見せる。

「私が特別に貸してあげよう」
「いいのかい?」
「もちろん」
「じゃあ…」
「だけど、私に髪を縛らせてくれたらね」

一瞬だけ驚いた顔をしたが、そのあとは笑顔で承諾してくれた。そしてタイミング良く日向先生は席を外す。レンくんの後ろにまわり、そのサラサラな髪の毛に指を通す。絡まりや痛みなんて縁がないような綺麗なキューティクルが羨ましい。この距離でもシャンプーのいい香りがするのが、本当にレンくんだなぁと思わせてくれる。

「触ってみたかったんだよね、レンくんの髪の毛」
「レディならいつでも大歓迎だよ?」
「他のレディも?」
「いいや、君だけさ」

ちらっとこちらを向きウインクされる。不覚にもドキッとしてしまい、手で顔を覆うとレンくんに笑われた。そういうところよ、本当に。好きにならない訳がないじゃない。顔はまだ赤いままだろうけど、気を取り直して髪の毛を束ねる。

「ハーフアップ?」
「いや、一本縛りでいいよ」
「了解」

サラサラなレンくんの髪の毛を束ねて、縛る。たったそれだけなのに、たまにレンくんの首に触る指先に緊張する。変な風になってないかな、さすがにいくらレンくんの髪の毛が長いといってもポニーテール出来るほどではないから綺麗に結べてる自信はない。でもレンくんならなんでも似合いそうだから大丈夫、だよね。

「できたよー」
「ありがとう」

あ、意外と綺麗に結べてた。えへへ、と自然に笑みがこぼれてしまう。不意にレンくんは私の手を取ると指先にチュッとキスをした。

「髪、縛ってくれたお礼」
「私がやりたかっただけなのに」
「あはは、そうだったね」

そんな私たちを余所に、帰ってきた日向先生が男子に収集をかけてる。レンくんはまた後で、と言うと走ってみんなのもとに向かっていった。私はというと静かにキスされた指先を見つめることしか出来なかった。



触れた指先に
(熱が集まってきた)

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