short story(うたプリ過去) | ナノ


▼ 私だけではなかったようで

今日も平和な早乙女学園。青い空白い雲。窓の外から見える景色はいつもと変わらないけれど空気が澄んでいる気がする。何気ない放課後だけど作曲活動は怠ってはいけないのでしょうがなくペンを走らせ、青空の下で仲良さげに肩を並べて歩く同級生を睨み付けた。

「名前!大変だ!」
「どうしたのぉ?翔ちゃん」

私の平穏に翔ちゃんが邪魔をしに来た。でも、あの可愛い翔ちゃんが息を切らせて、本当に大変そうに私の所に来たんだから、聞いてあげない訳がない。はぁはぁと肩で息をする彼はいつになく焦っていて私はこんな状況を知っている気がする。というか、翔ちゃんやレンくん、トキヤくんなんかと仲良くなってから緊急事態やら事件やらたくさん起きているから日常茶飯事に近い感覚だった。

「那月が……」
「那月が…?」

あの可愛らしい那月くんがどうしたんだ?急に心配になったじゃないか。私がこんな風に少し適当な部分があるから那月くんは私に世話を焼いてくれるかわいい子。クッキーで殺されかけた事以外はとてもいい子なのだ。

「砂月になった!」
「大変!会いに行かなきゃ!」

待て!という翔ちゃんの制止の声を聞こえなかった振りをして一目散に廊下を走り抜ける。たまにすれ違う生徒の不審そうな表情なんかは典型的すぎた。翔ちゃんから場所は聞いてないけど勘で走る。でも何となくだけどAクラスにいると思ってAクラスのドアを開けると、ノート片手に作曲活動中の砂月くんが先程まで私が見ていた青空をバックに立っていた。

「マイダーリン!」
「うるせぇ」
「ぐはぁ!」
「名前ー!」

私が叫ぶとあからさまに嫌そうな顔をしてこちらを睨み付ける。そんな砂月くんもかっこいい!とりあえずご挨拶にと全力で抱きつこうとすると、私の頭をガシッと鷲掴みにした。その反動で首が捻挫しそうになるが私は諦めない。せっかく久しぶりに会えたのだ、浮かれたっていいじゃない。

「幸せ…」

ふふって笑いが込み上げて来てしまう。那月くんももちろん大好きなんだけど、砂月くんはもっと好き。翔ちゃんはとことん参ってるみたいだけど、砂月くんには砂月くんの良さがある。それはふとしたとき、眉間のシワがなくなったときとか、いい曲が思い付いたときの瞳孔の開きとか、機嫌がいいときの鼻唄とか、私はこの人と一緒だとたくさんのインスピレーションが湧いてくるのだ。

「おい、お前。なんでこいつ連れてきた」
「え"……」

突然標的が翔ちゃんに向いて彼はカエルがつぶれたような声を出した。私は頭を捕まれていて一ミリ足りとも動けないから、翔ちゃんのきっと可愛いであろう表情が見えないのがとても残念だ。あぁ残念だなぁ。そんなかわいそうな彼に変わって私が答えてあげよう。

「そりゃあ、翔ちゃんはちゃんと分かってますからぁ」
「何を」
「私たちがラブラブなのを!」
「…やっぱ死ね」
「キャー!!」

私の頭は小さくなるかもしれないな。でも、やっぱり愛を感じる。だって、手加減してくれてるもん。頭から伝わる砂月くんの温もりさえ愛おしいと思ってしまうほど。

「えへへ、照れてるんだよね、砂月くん」
「お前っ…!」

余計なことを言うなとばかりに翔ちゃんの焦った声が響く。砂月は何か言いたげにこちらを見ると軽くため息をついて手を離してくれた。しかし私自身を離してはくれないようで、胸元のリボンを掴み私はまるで首輪をつけられたペットのよう。

「…おい、お前」
「ひっ!!」
「部屋の外に出てろ」

砂月がそう言うと、翔ちゃんは私に"生きて帰れよ!"と言って去っていった。光の速さで私のことは諦められた。でも実際翔ちゃんは私が砂月くんを大人しくさせていると思っているから、助けを求めるのも私だし、なんだかんだ信用されているからこそ見放されたのかな?本当は大人しくさせられているのは私の方なんてこと知らないんだろうけど。去っていった翔ちゃんを目で追いかけるようにしていたら、ぐいっと砂月くんに掴まれていたリボンが引っ張られた。

「砂月くん?どうし……んっ」

私が砂月くんの方を向いたら、容赦なくキスしてきた。ここが早乙女学園で、まだ教室だというにもかかわらず。

「…お前は分かってないな」
「は?」
「俺達がラブラブだったらあいつ、連れてくんなよ」
「っ…!」
「分かったか?」
「…うん!」

リボンから離された手は私の背中に周り砂月の胸の中に納められた。暖かい、生きてる。身体は那月くんだけど、心は砂月くんなのだ。残された時間は少ないかもしれないけれど、この時間を精一杯楽しまなくちゃ。

「だいすき、だよ」
「あぁ、知ってる」


私だけではなかったようで
(一方的だと思ってたのに)

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