短編 | ナノ




どうしよう、ごめんなさい
そう繰り返して涙を流すきみが、ただただいとおしかった。



「鉢屋くん、どうしよう。もうどうして良いのかわからないの」
「大丈夫、大丈夫だなまえ」
「ごめんなさい。私、いつも鉢屋くんに甘えてばっかりだ。ごめん、ごめんなさい。もう泣き止むからっ、」

ぎゅ、となまえを抱き締めていた腕に少しだけ力を加える。自分の腕も胸板も残念ながら言うほどたくましくないが、腕の中にいるなまえの体は相変わらず小さくて、私が守ってやらなければ、と強く思った。

「なまえ、謝らなくて良い」
「だって私、いつも鉢屋くんに頼って、・・・こんなんじゃだめって、わかってる。わかってるのに」
「・・・不謹慎かもしれないけど、私はなまえが頼ってくれて嬉しい」
「そんな・・・、うそだ」
「嘘じゃない。だから、いくらでも泣けばいいさ。ちゃんと受け止めるから」
「・・・っ鉢屋くん、鉢屋くん。どうしよう、つらいの。ごめんなさい。お願いだから、傍にいて」
「なまえ。大丈夫、私がついている。私はいつだってなまえの味方だ」

そう言ってなまえのつむじに、前髪に、額に、涙の止まらない瞳を覆う目蓋に、目尻に、赤く染まった頬に、ぐずついた鼻に、嗚咽をもらす柔らかな唇の横に。優しく、ゆっくり、壊れてしまわないように口づけをした。両手でそっと頬を包み、目と目を合わせる。少し虚ろな黒い瞳に、吸い込まれてしまいそうだった。安心させるように微笑みかけると、なまえはまたぽろぽろと涙を流した。その姿が、どうしようもなく私の心を揺さぶる。

それから頭を二三度撫で、そしてまた腕の中に閉じ込めた。優しく、きつく、ふたりの間に隙間が出来ないように。なまえが何処かへ行ってしまわないように。消えてなくならないように。

「なまえが望むならなんだってしてやる」
「はち、や、くん」
「私のすべてをなまえにあげよう」

だから、なまえのすべてを私におくれ。


20130306



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