短編 | ナノ




ピンポーン、なんて軽快なチャイムの音が狭い部屋に響いた。普段は気にも留めなかったけれど、訪問者を報せるやけに明るいこの音は、体調不良者には優しくないらしい。重い体を半ば引きずるようにして玄関へと向かい、鍵を開けて外開きの扉をゆっくりと押す。あれ、うちの扉こんなに重かったっけ?おかしいなあ。

「いらっしゃい、雷蔵」
「大丈夫?」
「…だいじょうぶ」
「はは、ひどい顔してるよ」

病人を見て笑うなんて、それこそひどいと思うのだが。ただ、笑いながらも心配してくれているらしいことがわかった。だから特に反論はしないし、たとえ反論したとしても無意味だろう。

「体調悪いのに玄関まで来させてごめんね。つらかったでしょう?」
「ううん、むしろ来てくれありがとう」
「熱はあるの?」
「んー、うん、微妙?」

そう言って歩きながら、片手でふらつく体を支えてくれる。その優しさが嬉しかった。それに、触れている体温が心地良い。ずっと触れていたいと思うのは病で気が弱っているからだろうか。

「はい、横になって」
「ん、」
「うわ。額、こんなに熱いじゃないか。熱、ちゃんと測った?」
「…38度と、ちょっと」

正直に答えると、雷蔵の方が辛そうな顔をした。なんだかこちらが悪いことをしてしまったような気分だ。
額に添えられた手が冷たくて気持ちよかったけれど、そのまま前髪を二、三度撫でてゆっくりと離れていった。




「何が欲しいのかわからなかったから、とりあえずいろいろ買ってきたよ」
「ありがとう。本当、助かります…」
「薬は飲んだ?」
「…うん」
「嘘吐かないの。買ってきたから飲んでね」

頭がぼーっとする。嘘は当然のようにバレた。まあ、一度だって私の嘘が雷蔵に見抜かれなかったことなどないのだけれど。やだなあ、薬。出来ることなら飲みたくない。病院も注射もわりと平気だけど、なぜか薬を飲むことだけは昔から苦手だった。

「薬飲むなら何か食べなきゃ。何なら食べれそう?」
「…ココア」
「なまえ、食べ物って言ったよね?」
「うん、牛乳、たっぷりのやつ」

雷蔵は呆れたように、そして溜息混じりに小さく笑った。(私はこの表情がわりと好きである。)それから、「仕方ないなあ、なまえは」なんて呟きが耳元で聞こえた。雷蔵の大きな手のひらが私の頭を優しく撫でる。

「なまえ」

慈しむように、何度も、何度も。まるで壊れ物を扱うみたいで、なんだかくすぐったかった。

「美味しいお粥、作ってあげるから」
「…」
「少しでもいいから食べて、ちゃんと薬飲んで」
「…うん」
「それで、あったかいココアを飲んだらゆっくり寝ようね」
「雷蔵…」
「わかった?」
「…わかった」
「うん、いい子」

そう言って熱くなっている額に口付けを落とし、私が何か反応するよりも早く、するりと頬を撫でて雷蔵はキッチンへと消えていった。

まだまだ熱は引きそうにない。



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