きになるあのこ | ナノ




「なまえ、聞いてるか?」
「え?」
「……」
「あ、いや、聞いてたよ」
「ほう?」


三郎からの疑いを含んだ視線をへらりと曖昧に笑ってかわす。不満げに口を尖らせた後にまあいいか、と言って空を見上げた三郎は私の発言や態度にあまり納得をしていないようだったけれど、それと同時にどうでも良さそうで。そんな様子の彼にほんの少しだけ苦笑を漏らした。


「…また悪戯したんでしょう?あの子に」
「なんだ、聞いてたのか」
「ふふ、だから聞いてたってば」
「ふうん、それは良かった」
「…ね、楽しい?」
「ん?」
「あの子に悪戯するの」
「ああ、そうなんだ、聞いておくれ」


こうやって三郎とふたりきりで話すのは久しぶりな気がする。いつからだろう、話す機会が減ったのは。…ああ、あの子が来てから、か。

だめだ、また嫉妬。

いつになく意気揚々と、どんな悪戯をしたかだとか、そのときのあの子の反応だとか、たくさん三郎は話してくれた。心なしか今日はいつもより多弁な気がする。それに対して私は自分から問い掛けたというのに「ふうん」だとか「へえ」なんて気のない返事ばかりしていた。三郎は楽しそうに口を動かし続ける。


「なんかちょっと淋しいな」
「……なまえ?」


ふいにぽろりと本音がこぼれ落ちた。

、あれ?どうしよう、こんなことを言うつもりじゃなかったのに。いくら悔やんでも一度言ってしまった言葉をなかったことには出来なくて。三郎は驚いたような目で私を見ると、ぱち、ぱち、と数度ゆっくりまばたきをした。


「はは、なあんてね」


そう言っておどけたように笑ってごまかしながら、慌てて下を向く。こちらに向けられた視線がなんとも耐え難い。意味もなく足下を見つめていると、ちょっとだけ目元があつくなった。

あーあ、何言ってるんだろ、私。こんなこと言って、一体私はどうしたかった?私は三郎にどうしてほしかった?なんて言ってほしかった?わかんないや。自分のことなのに、なあ。


「ばーか」


隣から聞こえたため息混じりの声と、頭に置かれた体温。視線を上げるとそこには、三郎の細い手首。私の頭に置かれたのは彼の手のひらだったということを脳がぼんやりと理解した。

くしゃり、とそれが私の髪を優しく乱すと、えも言われぬ感情が胸いっぱいに広がる。されるがままで何も言えないでいる私に三郎はもう一度ばか、と言葉を投げ捨てて呆れたように笑った。


「相変わらず変なところでばかだな、おまえは」
「…ばかじゃないよ」
「はいはい」
「ちがう。ばかは、三郎だよ」
「…はいはい」



自分でも不思議なくらい胸があつい



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