まるさんかくしかく | ナノ
午前中最後の授業が終わったので、昼食を食べに食堂に向かう。少し授業が長引いてしまった。みんな先に食べちゃってるかもしれないな…。ま、それはそれでしょうがないか。別にいつも一緒に食べようと約束してるわけでもないし。……あれ?あそこにいるのは、もしかして、いや、もしかしなくても、
「三郎?」
「なまえ、遅い。迎えに来てやったぞ」
そこには呆れたように笑う三郎がいた。三郎が迎えに来てくれるなんて、珍しいこともあるもんだなあ。いや、勿論嬉しいけど。
「ふふ、ありがと」
食堂までの道を二人並んで歩く。三郎の隣はとても心地好い。
「あ、そういえばね、今日初めて宮崎さんと話したの。やっぱり可愛いんだね、あの子」
「あぁ、そう」
「あれ、興味なし?」
「…別に?ほら、あいつらが席取ってるから急ぐぞ」
うーん、三郎絶対食い付いてくると思ったんだけどな。意外な反応。でも、なんだか少しホッとしたのは気のせいではない。
食堂に着き、とりあえず待たせてしまったみんなのところへ向かう。
「あ、なまえ、三郎。やっと来たな」
「早く食べようぜー」
「え、ごめんっ。みんな待っててくれたの?私、すぐご飯もらってくるから先に食べてていいよ!」
「や、なまえの分はもうあるぞ」
「え?」
「はい、B定食。僕は迷ったんだけどね、三郎がBの方がなまえの好きなもの多いからって」
少し驚いて三郎を見てみる。目が合うと三郎はにやり、と意地悪そうに笑った。定食のメニューを確認すると、確かに私の好きなものがたくさんあった。
お腹が空いているだろうに私が来るまで待っててくれたり、私の好きなものをよくわかってくれてたり…やっぱりみんな大好きだ。
「…、ありがとう!」
「おう、じゃあ早く食べようぜ」
「いただきまーす」
「なまえ、冷奴くれ」
「えー、仕方ないなあ。はい、お漬け物と交換ね」
「じゃあ私は唐揚げ」
「え、ちょっと、それはダメ!てか三郎もB定食じゃんか」
「あぁ、迎え代」
「うっわー、ケチー」
「あ、宮崎さんだ」
どきり。心臓が不自然に脈を打った。
「今日もすげー囲まれてるな」
「ほんと。人気者だね。あれ、今こっち見た…?」
「えー、気のせいじゃね?」
みんなの会話に何故か嫌な汗が一筋、背中を走った。
「そういえば…なまえ、学園長先生におつかい頼まれたらしいな」
「へ?なんで知ってるの?」
「私にわからないことはない」
「はは、何それー」
…ほんとになんで知ってるんだろ。相変わらず三郎の情報網は侮れない。どこから仕入れてるんだろ。でも、今はそんなことよりも自然に話題が変えられたことに安堵した。
「おつかい?いつ行くの?」
「あー…うん、えっと、とりあえず明日出発。それで、だいたい一週間くらいで帰ってくる、かな?」
「うわ、大変そうだな」
「や、そんなに大変なやつじゃないみたいだから大丈夫だよ、多分」
「気を付けてなー」
嘘。本当はとっても危険なおつかい…というか、忍務。でも、本当のことを言って心配なんかさせたくないから絶対に言わない。
「帰ったら真っ先にみんなのところに『ただいま』って言いに行くね」
約束、だよ
(だから、そのときは『おかえり』をよろしくね)