まるさんかくしかく | ナノ




いない、いない、いない。

とても大切なことに気付いた三人は今、必死に走っています。大切な人を探して。手分けして探した方が良いとはわかっていても、あえてそうしませんでした。

学園の敷地内を駆け回って、駆け回って、そしてようやく目的の人物を見つけます。彼らの大切な女の子は、彼女と同様に大切な友人、それから緑の先輩、紫の後輩、そして彼らが恋をした天女さまと呼ばれる人と共にいました。彼らは女の子の名前を呼びます。三人とも、どこか切羽詰まったような声でした。


「なまえ!」


女の子が彼らへとゆっくり、視線を向けます。その顔には驚きの色が含まれていました。


「なまえ」

「なまえ、なあ、その…」

「僕たち、なまえに言わなきゃいけないことがあるんだ」

「あー、えっと…なんて言ったら良いのかわかんねえんだけど…」


言葉を濁していると、女の子は下を向いてしまいました。ああ、どうしよう。彼らは思います。しかし数秒後、彼女はばっと顔を上げて言いました。


「お腹空いちゃった」

「……え?」

「お団子、食べたいな」

「は?えっと…ん?」


彼らは耳を疑います。お腹が空いた?団子?意味がわかりません。女の子は笑っています。そして、続けてこう言いました。


「連れていって!…約束、してたでしょ?」


女の子の笑顔にほんの少し淋しさが浮かんでいます。だめだ。今、ちゃんと言わないと。自分は絶対に後悔する。「なまえ!」もう一度名前を呼ぶと、女の子は「んー?」と呑気に返事をしました。


「ごめん」

「本当にごめん」

「俺たち、なまえのことたくさん傷つけた」

「許して、なんて言わない」

「ただ、また傍にいさせてほしいんだ」

「都合の良いことを言ってるってわかってる」

「それでも、僕たちみんな、なまえのことが大切なんだ」


女の子の目がゆらゆら揺れます。彼らは不安で不安で、心臓をどくどくとうるさく鳴らせました。「あのね、」と女の子の口が動き出すと、その緊張はより一層高まります。


「もやもやしてたけど、…寂しかったけど、こうやってちゃんと戻ってきてくれたから、ね。うん、もういいよ」


その言葉に、表情に、うるさく鳴っていた心臓が今度はぎゅう、と締め付けられる感覚がします。いてもたってもいられなくなった彼らは女の子へと近づき、それぞれ力一杯抱き締めました。


「う、あ…い、痛い痛い、痛いってば!」

「ごめん、今だけ」

「…ふふ、」


すると、それまで女の子のすぐ傍で静かにことを見守っていた彼らの友人が眉をひそめ、無理やり彼らを女の子から引き離しました。


「なに、三郎」

「だめだ。なまえは私のだから」

「さ、三郎…!何言って…!」

「三郎のけち。今くらい良いじゃないか」

「だめなもんはだめ」


友人によって制止された彼らは渋々といった感じに女の子から離れて、今度は天女さまへと向き直ります。


「宮崎さん、」

「俺たち、君のことが好きだったよ」

「ありがとう」


彼女は戸惑いながら「ありがとう」と返しました。その表情は作られたものではないように見えます。


「なまえちゃん」


今度は年上の二人が女の子に声をかけました。


「良かったね、なまえちゃん」

「結局僕らは何も出来なかったけど、なまえちゃんが幸せそうで、本当に良かったよ」

「伊作先輩、タカ丸さん…」


柔らかく微笑んだ表情は、従来の彼らそのもののそれでした。女の子はそれをとても嬉しく感じました。女の子の好きだった笑顔だったからです。


いつになく穏やかな空気の中で、これでまたあの幸せな日常に戻ればいいな、と大切な人たちに囲まれた女の子はそう願いました。




もういいかい
(もういいよ)



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