まるさんかくしかく | ナノ
「好きな人って、」
「…はい」
「私じゃ、ないんですか?」
宮崎さんは、泣きそうなのに怒っているような、なんとも言い難い不思議な瞳で私を見つめる。口元は微かに弧を描いていて、私はそれがとても怖かった。
「ちがいますよね、みょうじさんは私のこと、好きですよね。だって私はこんなにこんなにみょうじさんのことが好きなんですもの」
「…っ宮崎、さん。あの、」
「どうかしましたか?」
「話を、聞いてください。私、」
「…みょうじさんが大好きなんです。本当に」
「…宮崎さん、」
「ただ、それだけなんです」
そう言って宮崎さんは下を向いてしまった。強く握りしめているらしい彼女の小さな手が弱々しく震えている。
もう、どうすれば良いんだろう。伊作先輩とタカ丸さんに視線を向けると、彼らもこっちを見ていたらしく、ぱち、と目があった。かと思うと二人がはっとしたような表情で私の後ろを見る。
「悪いけど、」
「!…っさ、ぶろ?」
「なまえは私のものだ。あんたには勿論、誰にも渡さない」
驚いた。急に、本当に急に三郎の気配がして、次の瞬間には後ろからきれいに引き締まった片腕で抱き締められていた。その行動と言葉に、場違いとはわかっていても私の心臓は高鳴り、頬が朱く染まってしまう。三郎の顔を見ると、いつもの悪戯な表情をしてるくせに、その瞳は真剣で。不覚にもまた心臓がどくり、と大きく脈打った。
「……なんで」
「、え?」
「なんで、なんでなんでなんで?私はこんなにみょうじさんのことが好きなのに。なんで、なんで私のことを見てくれないの?私にはみょうじさんが一番なのに。唯一なのに。みょうじさんがいてくれればいいのに。なんでみょうじさんの一番は私じゃないの?なんで鉢屋くんなの?ねえ、なんで?」
宮崎さんの大きな目から、はらはらと涙が零れる。
「いや、もういや…」
その涙は彼女の頬を伝い、吸い込まれるようにゆっくりと落下して、乾いた地面に小さな染みを作った。
「こんな世界、いらない」
いつもにこにこ笑っていた彼女の泣き顔を、初めて見た気がする。
天女のなみだ
(その涙は無色透明で)(わたしたちと何ら変わりないものでした)