まるさんかくしかく | ナノ




「なまえ、なまえ、」

あれから私たちは暫く抱き締め合っていて、三郎が愛おしげに私の名前を呼んでくれていた。今までにない甘い甘い雰囲気に、なんだか急に恥ずかしくなって思わず、がばりと三郎から体を離してしまう。
三郎は一瞬目を丸くして、でも、顔を真っ赤にした私に気付くと、にやり。いつもの、私の大好きな笑みを見せた。



「はは、なまえ、おまえ、本当可愛い」

「…!、うえ…あ、っご、ごめん!またあとで!」

「は?おい、なまえっ」


それに私は余計顔を紅潮させ、三郎の呼びかけを無視して謝罪の言葉と共に、走ってその場から逃げ出してしまった。



















「あ、いた」


三郎と別れて、顔の熱を冷ましつつ、考え事をしてぼーっとしていると(好きとか両思いとか)(なんか、変なかんじ!)、ひょこ、と何処からともなく三之助が現れた。私の方を見て呟かれたその言葉には、なんとなくだけれど安堵の色を含んでいた気がした。何か、あったのかな。


「どうしたの、三之助」

「あー、それが…」


言いにくそうに表情を曇らせる。やはり何かあったらしい。それも、あまりよろしくないだろう何か、が。


「…なまえ先輩、」

「うん?」

「俺、前に言いましたよね。なまえ先輩の味方だって」

「…うん、」


そうだ。おつかいから帰ってきたあの日、三之助はそうはっきりと言ってくれた。あの時はよく意味がわかっていなかったけど、嬉しく感じたのを覚えている。


「それで、…これは俺の勝手な推測なんすけど、善法寺先輩と斉藤先輩もなまえ先輩の味方…っていうか、あの人に好意を持ってないと思うんです」

「……そうだね」


三之助は、ちゃんと周りがみえている。まだ三年生なのに、凄いなあ…。
三之助の言うとおり、伊作先輩ははっきりと彼女に敵意を持っていたし、タカ丸さんは、本人に直接聞いた訳ではないけれど、いつも彼女に群がる他の四年生を冷めた瞳で見ていた。


「それで…さっき、偶然なんすけど、…先輩二人とあの人が一緒に歩いているのを見かけて…」

「……え、」


あの人…つまり宮崎さんと、彼女を良く思ってない二人が一緒に…?それって、


「これをなまえ先輩に言うこと自体間違ってるのかもしれないんすけど、でも、」

「…どこ?」

「…っ、」

「三之助、どこで先輩たちを見かけたの」



あっちです。と、そう言われた方向に私は走り出した。三之助が無自覚の方向音痴だろうが、なんだろうが、今は信じるしかない。


きっと、私と三之助の考えてることは一緒だ。私たちはみんなのように彼女のことを慕っているわけでも、好意を寄せてるわけでも、なんでもない。むしろ、苦手と言った方が正しいと思う。

でも、確かな違和感を感じる。これから起きる、穏やかではないだろう出来事に。何が正しいとか、間違ってるかなんてわからないけれど、それって、何か違う気がする。






「…っ、伊作先輩っ、タカ丸さん…!」


走って、走って、辿り着いた先には、にこにこと笑っている伊作先輩とタカ丸さん、そして、ひどく戸惑ったような表情の宮崎さんがいた。予想はしていたけれど、口角を上げて微笑む伊作先輩とタカ丸先輩の目からは、温かみがこれっぽっちも感じられなくて。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。そう心の中で呟いて、少しだけ悲しくなった。






修正不可能
(ぜんぶぜんぶやり直せたらいいのに)(そうしたら、今とは何か違ったかな)



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