まるさんかくしかく | ナノ
「俺、宮崎さんのことが好きなんだ」
「僕も、だよ」
「俺もだ。なんだ、俺たちみんなライバルだったんだな」
いや、ちがう。そんなこと、とうの昔に気付いていた。ここにいる俺たちは勿論、この学園で彼女に思いを寄せている人間はたくさん…むしろそうでない人間の方が圧倒的に少ないだろう。一年の奴らも恋ではないにしろ、彼女を慕っていた。
「俺さ、宮崎さんのことを見ると頭がぼうっとして、ああ、俺はこの人が好きなんだ、俺がこの人を守らなくちゃ、って。そう思うんだ」
「…僕も兵助と同じ。でもね、ふと冷静になると、突然わからなくなるんだ。どうして僕はあの人が好きなんだろう、あの人の何処が、何がこんなに好きなんだろう?って」
「…人を好きになるのに理由なんかいらないんじゃねえの?」
兵助も雷蔵も、何を言っているんだ?話の意図が、まったく掴めない。
誰が何と言おうと、俺はあの人が好きだ。
…本当に?
兵助の言う通りだ。俺は何故、どうして彼女を好いている?見目麗しい容姿?可憐な笑顔?美しい声?天真爛漫な振る舞い?どれも素晴らしい。ただ、それはなまえに比べれば、
「…っ!」
ああ、そうだ。なんてことを忘れていたのだろう。気付けば俺はなまえ、と小さく、半ば無意識にその名を呟いていた。
「……今だから隠さずに言うけどね、僕、ずっとなまえのことが好きだったんだ」
そんなの、そんなの俺だってそうだ。俺だけじゃなくて兵助も、そして三郎も。…不思議だ。さっきから俺はたくさんのことを思い出していく。絶対に忘れてはいけなかった、大切なことを。
「ねえ、このあいだなまえ、おつかいに行ってたよね。一週間も」
「ああ、」
「ちゃんとおかえり、って、お疲れさま、って誰か、誰かなまえに言ってあげた?」
「…っ、あ」
言って、ない。少なくとも俺たち三人は、誰も。
「三郎はきっと、真っ先に言ってあげたよね」
「そう、だな」
俺は宮崎さんのことで頭がいっぱいで、なまえにおかえりを言うどころか、宮崎さんの話しかしなかった。団子屋に行く約束を破ったというのに、謝りもしなかった。なまえが望んだ些細なことを、俺たちはあまりにも簡単に突き放していた。
思い返せば、今ではあんなに仲の良かった俺たち五人が一緒に飯を食べることさえなくなってしまっている。しかし、それもすべては己の愚かさが成したこと。
固かった筈の絆は、自分たちの手によって崩されていたのだ。
降ってきた痛み
(誰にも譲れないと強く思った、大切な存在を)(手にする前に自ら遠ざけていた)(誰より大切だった彼女を手にしたのは)(彼女だけを思い続けた、誰より大切な友人)